機動戦士ガンダム ​Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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木星の深淵と鉄の仮面――第20回、豪雨に揺れる狂気の系譜

ピカッと、カサレリアの夜空を紫色の禍々しい稲光が引き裂いた。

 

それから一秒と置かずに、リガ・ミリティアの残した無線コンテナの金属壁を激しく打ち付ける、文字通りの豪雨と凄まじい落雷の爆音が轟く。バリバリと空気が震え、老朽化したコンテナハウスの床が物理的にガタガタと細かく振動していた。

 

「うわっちゃちゃちゃ!? ひゃああっ!?」

 

コンテナの最深部、足の踏み場もないほどにうず高く積まれたジャンクパーツの山の影から、情けない悲鳴が上がった。ウッソ・エヴィンは、浸水に備えて古いサナリィ製の電子基板を上の棚へ退避させようとした瞬間、激しい落雷の振動に足元をすくわれたのだ。

 

完全に体勢を崩したウッソは、重力に従って仰向けにひっくり返る。

 

「きゃっ!?」

 

運悪く、その真後ろで古いお便りログの入ったコンテナボックスを整理していたシャクティ・カリンの細い体に、ウッソの15歳になり筋肉のつき始めた硬い身体がまともに激突した。二人はもつれ合うようにして、ジャンクの山の隙間に敷かれた古い毛布の上へと転がり込む。

 

ドサリ、という重い音。

 

「う、うう……痛たた。あ、あれ? 痛くない……?」

 

「……もう、ウッソ。痛くないのは、あなたが私のことを完全に押し倒して、クッション代わりにしているからよ?」

 

「え……?」

 

ウッソがハッと目を開けると、そこは至近距離の暗闇だった。落雷のせいでメイン電源が落ち、コンテナ内は非常用の薄暗い赤いインジケーターの光だけが灯っている。その妖しい赤に照らされたシャクティの顔が、ウッソの鼻先、わずか数センチのところにあった。

 

密室ラッキースケベ。

 

これ以上ないほどに完全な密着状態だった。ウッソの胸はシャクティの柔らかな胸元にぴったりと押し当てられ、彼の右腕は彼女の細い腰を無自覚にがっちりと抱きすくめており、さらに彼の左手は、パニックのあまり何かを掴もうとした結果、シャクティの太ももの柔らかい肉を思いきり握りしめていた。

 

「ひゃ、ひゃああああっ!? し、シャクティ!? ご、ごめん、わざとじゃないんだ! 違うんだ、これは落雷のG(重力)のせいで、僕の慣性移動が制御できなくて、それで君のその、すごく柔らかい場所に僕の手が着陸しちゃって……!」

 

「ふふ……いいのよ、ウッソ。でも、そんなに慌てて手を動かしたら、余計にその……変な感じがしちゃうわよ? ほら、ウッソの心臓の音、私の胸にドクドクって直接響いてきて、まるで壊れかけのモビルスーツのジェネレーターみたいに激しいわ」

 

シャクティは15歳らしい包容力を湛えた瞳でウッソを見つめながら、逃げようとする彼の首筋にそっと両手を回し、無自覚にその距離をゼロにする。彼女の吐息がウッソの耳元に当たり、ウッソは文字通り過呼吸になりかけた。

 

その時、カチリと乾いた音がして、ブースの向こうのサブ(副調整室)の自家発電ミキサーに明かりが灯った。

 

ガラスの向こうで、色付きメガネを光らせた構成作家のカティス・ロゥが、抱腹絶倒、腹を抱えて大爆笑しながら、手元のスケッチブックにマジックペンで殴り書きしたカンペをバババッとガラスに叩きつけた。

 

『その生々しい呼吸音と密着音をそのままマイクに乗せろ! 演出効果バツグンだ! 今夜は第20回の記念放送だぞ、そのままホールドして強引に番組本編へ突入しろ!』

 

「カ、カティスさん!? 何を録音してるんですか! マイク! 予備のポータブルマイクが生きてるじゃないですか! うわああ、リスナーのみんな、違うんだ! 今のは事故で、僕とシャクティは決してやましいことをしているわけじゃなくて……!」

 

「ふふ、リスナーの皆さん、こんばんは。カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜のウッソは、いつもよりずっと情熱的に私を抱きしめてくれています♪」

 

「シャ、シャクティ、電波の向こうの何万人ものジャンク屋に変な誤解を与えるような言い方はやめてよぉ!!」

 

豪雨の音が響く中、ウッソは真っ赤になった顔を隠すようにして、なんとかシャクティの体から飛び退き、異常なほど発熱しているポータブルデータ端末の前に滑り込んだ。

 

「え、ええと! 気がつけばこのゲリララジオも第20回です! 今夜は落雷のパルスが激しくて、データ端末側が異常発熱しているんですが、地球圏の元兵士のリスナーから、とんでもない暗号化データパケットが届いています! このパケット、なんと僕たちがかつてこのラジオで受信した、あの奇跡の戦いたちの全記録が、統合データとして網羅されているみたいなんだ」

 

ウッソが熱い端末のログを必死に読み上げながら、マイクに向かってアクセス・キーを早口で告知する。

 

「発信元のアドレス、アクセス・キーは……『https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=340154&uid=504230』だ! このデータを解析すれば、僕たちが過去に触れたあの真実の、恐ろしい続きが読めるかもしれない。でも、凄く気になる内容なのに、肝心な結末の手前でデータにプロテクトがかかっている。ずるいよ、これじゃあ今すぐアクセスして確かめたくなるじゃないか!」

 

ウッソとシャクティが、ポータブル端末に繋がれたネオ・ガンダム2号機由来のサイコフレーム結晶に同時に手を重ねる。次の瞬間、落雷のエネルギーと連動したかのように、結晶から未だかつてないほど強烈な虹色の光が奔流となって溢れ出し、2人の脳内に公式正史に準拠した過去の記憶をダイレクトに流し込んできた。

 

「……っ! シャクティ、これは……! 以前、僕たちが受信したあのフロンティアⅣでのカロッゾ・ロナの『情動の切除』と、殺人兵器バグによる人類粛清の記録……」

 

『機動戦士ガンダム クロスボーン外伝 ~腐敗した宇宙を焼き尽くす者~』

 

「あのときカロッゾが遺した技術的な狂気のデータが、なんと時を超えて、遠く離れた別の海へ流れていく映像が視えるよ!」

 

ウッソは精神感応の中で、巨大なモビルアーマー・ラフレシアの不気味な駆動音と、それに連なる思想の影を追体験し、あまりの恐ろしさに身震いした。

 

「ええ、ウッソ、私にも視えるわ……。そのカロッゾの狂気の思想の断片が、遠く離れた木星圏……重力の地獄へとバトンタッチされていく。地球そのものを焼き尽くそうとするクラックス・ドゥガチの怨嗟の炎に変わって、別の子供たちを翻弄していく物語……」

 

『機動戦士ガンダム 木星の深淵 シロッコの亡霊とジュドー・アーシタ 王女ベルナデットの木星戦記』

 

「あのお話の完結報告パケットなのね。この二つの記録は、コスモ・バビロニア建国から木星帝国の勃興に至る、正史の裏側にあった『思想の連鎖』として完全に一つに繋がっていたんだわ……!」

 

2人はサイコフレームを通じて、強烈なワンシーンを脳内で追体験する。フロンティアⅣで宿命の嵐に立ち向かうベラ・ロナの毅然とした瞳、そして木星の深淵で過酷な運命を背負わされた少女ベルナデットの涙。大きな歴史の激流に呑まれた二人の少女が、それぞれの地獄で何を見つめ、どのような未来を選んだのか、その感情の爆発が2人のニュータイプ能力を激しく揺さぶった。

 

「凄いよ……! F91の時代からクロスボーン・ガンダムの時代へと至る、宇宙世紀の深淵が、この二つの視点を併読することで立体的につながるんだ。でも……ああ、データパケットが激しいパルスのせいでここで途切れてる! 彼女たちが歴史の激流の果てにどんな結末を迎えたのか、ここから先は、このアドレスにアクセスできる環境にいるみんな自身の目で確かめてほしい! 宇宙世紀を生きる人類として、見届けなきゃいけない真実がそこにあるはずだから!」

 

サイコフレームの虹色の明かりがゆっくりと収まり、コンテナ内には再び豪雨の音と、非常用の赤い光だけが残された。歴史の激流に呑まれた者たちの思想の連鎖に触れ、ブース内にはしんみりとした重い空気が流れかける。

 

しかし、ウッソがふぅと溜息をついた瞬間、隣のシャクティがじっと彼を見つめていることに気がついた。彼女は少し大人びた表情で、ぷくっと頬を膨らませている。

 

「……ウッソ」

 

「は、はい!? 何かな、シャクティ」

 

「さっきのジャンクの山でのアクシデント……私、まだ怒ってるんだからね?」

 

「ええっ!? だって、あれは落雷の振動で足元が滑って、不可抗力っていうか……!」

 

「不可抗力でも、私の太ももをあんなに強くギュッて握りしめたのはウッソの手でしょう? 15歳になって男の子らしくなったのはいいけれど、あんな風に乱暴に押し倒されるなんて、私、心の準備ができていなかったわ。……お詫びに、次の休日は一日中、私の畑仕事を手伝って、美味しいお料理を私のためだけに作ってくれるって約束してくれないと、許してあげない」

 

少し意地悪に、だけど最高に可愛い小悪魔的な微笑みを浮かべて、シャクティがウッソの顔を覗き込む。

 

「う、うう……。わかったよ、シャクティの言う通りにするよ。手伝うし、お料理もなんでも作るから、そんな風にジッと見つめないでよ……。機材の心拍メーターがまたレッドゾーンに入っちゃうから……」

 

ウッソが完全に降伏して赤面する姿を見て、ガラスの向こうのサブでは、カティスが「ひゅうひゅう!」とでも言いたげに無言でサングラスをキラリと光らせた。そして、今回の統合アーカイブのURLをデカデカとマジックで書いた新しいカンペを、ガラスにバチン! と叩きつけた。

 

「あ、カティスさんから最後の指示です! リスナーのみんな、今夜紹介した、フロンティアⅣから木星圏へと至る二つの狂気の終着点を描いた統合完結データパケットのURLは、カティスさんが今カンペで掲げているこちらです!」

 

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=340154&uid=504230

 

「もしどちらか片方の物語しか読んでいない方がいれば、ぜひもう一方の視点からも、宇宙世紀の変遷を辿ってみてください! カサレリア・ストレージへのメッセージもお待ちしています!」

 

「それでは、第20回のカサレリア・リミテッド・レディオ、今夜はこのへんで。皆さん、激しい嵐には気をつけてお過ごしくださいね」

 

「「おやすみなさい!」」

 

ウッソが慌てて予備マイクのスイッチをオフにする。しかし、自家発電の残響パルスのせいで、ウッソが「……はぁ、本当に心臓が止まるかと思った」と溢した安堵の吐息と、シャクティの「ふふ、お疲れ様、私の可愛い戦士さん♪」という甘い囁きが、豪雨の夜空へと数秒間だけ、賑やかに流れ続けていた。

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