機動戦士ガンダム Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0155年。
ザンスカール帝国との最終決戦から2年が経過した世界。
地球連邦政府の形骸化はさらに進み、もはや地球圏全体の統治能力は完全に失われていた。しかし、ザンスカール帝国という巨大な共通の脅威が崩壊したため、地球圏はかつてないほどの静かな停滞期を迎えている。大局的な戦争は終結したものの、各地には未だにザンスカール残党、連邦軍の軍閥、ジャンク屋、小規模な私設武装組織が乱立しており、小競り合いや情報統制、闇ルートでの物資やデータのやり取りが日常化していた。
ウッソとシャクティが暮らすカサレリアは、相変わらず宇宙世紀の喧騒から隔絶された、自然豊かな理想郷である。戦火の傷跡は自然の生命力によって少しずつ覆い隠され、2年前の戦いが嘘のような静けさを取り戻している。ウッソたちは自給自足に近い生活を送りながら、リガ・ミリティアの残したコンテナを秘密基地のように扱い、このささやかな日常を守るためにラジオ放送を行っていた。
今夜の配信は、リガ・ミリティアが遺した壊れかけのハロを修理するため、狭い作業机の下に二人で潜り込むところから始まっていた。
「うーん、この基板のハンダ、完全に浮いちゃってるな。シャクティ、その小型コテを取って……あ、痛っ!」
狭い作業机の下で頭をぶつけたウッソ・エヴィンが慌てて体勢を変えた瞬間、隣でパーツケースを抱えていたシャクティ・カリンとの距離が完全にゼロになった。
暗闇の吐息。
予期せぬ停電や機材の消灯が重なったわけではないが、作業机の下という狭い閉鎖空間は、二人の顔が触れ合うほどの至近距離を作り出していた。15歳になり、一人の女性として明確に意識しているシャクティの吐息がウッソの頬に直接かかり、彼女の髪から漂う甘い香りが狭い空間を満たす。ウッソの心拍数は瞬時に跳ね上がり、モビルスーツ戦闘時のような冷静さは完全に消失した。
「ひゃ、ひゃああああっ!? し、シャクティ!? ご、ごめん、作業スペースの容積見積もりを誤って、僕の頭部構造が机の天板と衝突した結果、不可抗力で君のパーソナルスペースを不法占拠する形に……!」
「ふふ、ウッソったら慌てすぎよ。そんなにバタバタしたら、また頭をぶつけちゃうわ。ほら、動かないで……私の声、ちゃんと届いてる?」
シャクティは周囲を包み込むような圧倒的な包容力を備えつつも、ウッソがパニックを起こしている姿を少し楽しむように、大人びた態度でそっとウッソの顔を覗き込んだ。ウッソの心拍数は音響ミキサーの限界レベルメーターを軽々と振り切り、過呼吸の一歩手前まで追い詰められる。
その時、暗いブースの向こうにあるサブのガラス越しに、構成作家のカティス・ロゥが、手元のスケッチブックに力強い筆跡で書いたカンペを突き出してきた。
『演出効果バツグンだ! その生々しい呼吸音をそのままマイクに乗せろ!』
「カティスさん、何を言ってるんですか!? 机の下に引き回した予備マイクのスイッチ、もう生きてるじゃないですか! リスナーのみんな、違うんだ! 今のは完全に突発的な機材修理中のアクシデントで、僕とシャクティが何か不適切な密着をしていたわけじゃなくて……!」
「ふふ、リスナーの皆さん、こんばんは。カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜の配信になります。今夜のウッソは、狭い作業机の下で、私との距離の近さにジェネレーターがオーバーヒートしそうになっているみたいです♪」
「シャ、シャクティ、電波の向こうのジャンク屋の皆さんに、もの凄く変な誤解を与えるような言い方はやめてよぉ!!」
ウッソは真っ赤になった顔を隠すようにして机の下から這い出し、異常なほど発熱しているデータ端末の前へと滑り込んだ。
「え、ええと! 気を取り直して本編です! 今夜はデータ端末側が暗号パケットの受信過多で異常発熱しているんですが、地球圏の生き残りリスナーから送られてきた暗号化パケットに、かつてこのラジオで受信したあの激動の時代を生きた傑物たちの、内面に迫る全記録が網羅されている統合データが届きました!」
ウッソが端末のログを読み上げる形で、自然にアクセス・キーを口にする。
「発信元のアドレス、アクセス・キーは……
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341326&uid=504230
だ。このデータを解析すれば、あの歴史の裏側の続きが読めるかもしれない。でも、凄く気になる内容なのに、肝心な結末の手前でデータにプロテクトがかかっている。ずるいよ、これじゃあ今すぐアクセスして確かめたくなるじゃないか!」
2人が送信機に接続された、ネオ・ガンダム2号機由来のサイコフレーム結晶にそっと手を重ねる。その瞬間、夜のコンテナを優しく照らすように結晶から深みのある虹色の光が溢れ出し、2人の脳内に公式正史に完全準拠した歴史の裏の真実を、精神感応によって直接流し込んできた。
「……っ! シャクティ、この記録は、後世の歴史研究において議論の的となってきた、宇宙世紀を生きた傑物たちの内面を限界まで掘り下げた二つの歴史評伝のデータだ。最初の記録は、連邦軍極秘アーカイブ・コード:HM編番号409074……」
『機動戦士ガンダム 宇宙世紀正史 バスク・オムは全てを見抜いている むっつり極秘ゴーグルで人類を管理する男の、あまりに孤独な聖戦』
「一見すると過酷な現実が生んだ歪な記述のようだけど、その特異な描写の芯にあるのは、バスク・オムという男の行動原理を一本の揺るぎない軸で描き出すという、冷徹な事実の記録なんだ。ゴーグルの奥に隠された彼の執念と、人類管理というあまりに孤独な聖戦の軌跡は、僕たちが知るティターンズの巨頭の、歴史に埋もれていた真の姿を照射しているよ……」
ウッソは精神感応の光の中で、強権的な支配の裏にあった一人の男の冷徹な執念を追体験し、その孤独の深さに息を呑んだ。
「ええ、ウッソ、私にも視えるわ……。そして、もう一つの記録は、それとは対照的に徹底してシリアスな情緒を追った実録、旧アナハイム社遺品データパケット・識別名410389……」
『機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間』
「アクシデントや戦乱の中でアクシズの若き指導者となったハマーン・カーンが、後の最強の女帝へと変貌を遂げるに至った感情の機微。それは、シャア・アズナブルという男との歪んだ関係性と、そこから生じた深い絶望によって形作られた歴史的事実だったのね。14歳の少女が冷徹な支配者へと覚醒していく4年間の空白が、克明に描き出されているわ……」
シャクティの聖母性を帯びた静かな声が、簡易マイクを通じて地球圏の闇へと響いていく。
「これら二つの文献は、異なる表現形式を取りながらも、宇宙世紀の既存キャラクターの動向から、我々がよく知るあの歴史の姿へと着地させるという、極めて高度な歴史の復元を作業として共有しているんだね。二つの異なるアプローチが交わった時、あの時代を生きた人間たちが抱えた真の孤独と覚悟が、まぎれもない史実として浮かび上がってくる。でも……ああっ、パルスの乱れでデータの核心がここで途切れてる! ここから先は、このアドレスにアクセスできる環境にいるみんな自身の目で確かめてほしい!」
サイコフレームの虹色の明かりがゆっくりと収まり、コンテナ内には静かなカサレリアの夜の静寂が戻ってきた。歴史の闇と光、そしてそこに生きた人々の真の孤独に触れ、2人は今自分たちが手に入れている、この穏やかな日常の尊さを深く噛み締めていた。
ウッソがほっと胸をなでおろした瞬間、隣のシャクティがウッソの手元のパーツケースをそっと覗き込みながら、小さく息を吐いた。
「バスクという方も、ハマーンという方も、歴史の表舞台では恐ろしい指導者として語られているけれど、その根底には誰にも見せられなかった深い孤独があったのね。……ねえ、ウッソ。もし私たちが2年前に違う選択をしていたら、私たちもそんな孤独の中にいたのかしら」
「シャクティ……。そんなことはないよ。僕には君がいてくれたし、君には僕がいた。どんなに過酷な戦場でも、一人じゃなかったから、僕たちはこうしてカサレリアに帰ってこられたんだと思う」
15歳特有の、格格好つけたいけれどいざとなると真面目になってしまうウッソが、少しはにかみながらも真っ直ぐにシャクティの瞳を見つめて答える。その答えを聞いたシャクティは、嬉しそうに目を細めると、ウッソの肩にそっと自分の肩を並べた。
「ええ、そうね、ウッソ。だから、このカサレリアの静けさを、これからも二人でずっと守っていきましょうね」
「うん、そうだね、シャクティ」
二人の間に流れる甘酸っぱくも温かい空気を受け、サブのガラス越しにカティスが「本日の活動報告URL」をデカデカと書いたカンペをガラスに叩きつけるように掲げ、無言でサングラスを直してニヤリと笑った。
ウッソは少し赤面しながら、マイクに向かってそのアドレスを読み上げる。
「リスナーのみんな! 今夜紹介した、宇宙世紀を震わせた傑物たちの内面と執着を限界まで掘り下げた統合活動報告のURLは、カティスさんが掲げているこちらです!」
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341326&uid=504230
「異なる二つのアプローチから編纂された歴史の真実を、ぜひ活動報告のページから双方の視点で確かめてみてください! カサレリア・ストレージへのメッセージもお待ちしています!」
「それでは、カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜の配信はこのへんで。皆さん、静かな夜をお過ごしくださいね」
「「おやすみなさい!」」
ウッソが飛びつくようにして送信機のメインスイッチをオフにする。しかし、古いハロの回路から回り込んだ残留パルスのせいで、ウッソが「……あわわ、肩が触れたままなのはやっぱり緊張するよ」と溢した本気の狼狽声と、シャクティの「ふふ、修理の続きは、また明日ね、ウッソ♪」という優しく甘い囁きが、カサレリアの夜空へと数秒間だけ、賑やかに流れ続けていた。