機動戦士ガンダム Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0155年。
ザンスカール帝国との最終決戦から2年が経過した世界。
地球連邦政府の形骸化はさらに進み、もはや地球圏全体の統治能力は完全に失われていた。しかし、ザンスカール帝国という巨大な共通の脅威が崩壊したため、地球圏はかつてないほどの静かな停滞期(エアポケット)を迎えている。大局的な戦争は終結したものの、各地には未だにザンスカール残党、連邦軍の軍閥、ジャンク屋、小規模な私設武装組織が乱立しており、小競り合いや情報統制、闇ルートでの物資やデータのやり取りが日常化していた。
ウッソとシャクティが暮らすカサレリアは、相変わらず宇宙世紀の喧騒から隔絶された、自然豊かな理想郷として描く。戦火の傷跡は自然の生命力によって少しずつ覆い隠され、2年前の戦いが嘘のような静けさを取り戻していた。ウッソたちは自給自足に近い生活を送りながら、リガ・ミリティアの残したコンテナを秘密基地のように扱い、このささやかな日常を守るためにラジオ放送を行っている。
今夜のカサレリアは穏やかな気候に恵まれ、ウッソの発案でリガ・ミリティアの遺品から引っ張り出してきたポータブル送信機と簡易野外マイクを使い、心地よい丘の上からの野外配信を試みていた。
夜の丘の上は、満天の星々が広がり、心地よい微風が草木を揺らす最高のロケーションになるはずだった。しかし、山背から吹き降ろした突風が、二人の足元を激しく掠めていった。
風の悪戯。
「あ、ウッソ、簡易スタンドが……っ!」
「わわわっ!? ちょっと待って、急に風の流速が上がったよ! 機材の防塵カバーが吹き飛ばされちゃう!」
ウッソ・エヴィンが慌てて手を伸ばした瞬間、突風はシャクティ・カリンが夜露を凌ぐために羽織っていた薄手のオーバーシャツをも激しく巻き上げた。衣服の隙間から露わになった彼女のしなやかな体躯が、月光の下で至近距離に浮かび上がる。15歳になり、一人の女性として明確に意識し始めている彼女の姿は、あまりにも刺激が強すぎた。
ウッソは一瞬で顔面を真っ赤に染め上げ、完全に過呼吸のようになってその場にへたり込んだ。
「し、シャクティ、ごめん! 違うんだ、僕、見ようとして見たわけじゃなくて、山間部の急速な気圧変動に誘発された局地風のせいで、空気の流体力学的エネルギーが君の服のボタンを……! あわわ、僕の心拍数が、送信機の排熱ファンを最大出力で回さなきゃいけないくらい上がってるよ!!」
「ふふ♪ ウッソったら、そんなに息を荒くして、お目目を手で隠さなくてもいいのに。15歳になって随分と男の子らしくなったと思ったけれど、こういうハプニングには相変わらず弱いのね」
シャクティは周囲を包み込むような圧倒的な包容力を湛えつつも、ウッソが完全に翻弄されている様子を少し楽しむように、大人びた小悪魔的な微笑みを浮かべてそっとウッソの顔を覗き込んだ。
その時、丘のふもとに停めたコンテナ車の影から、色付きメガネを光らせた構成作家のカティス・ロゥが、暗闇の中で無言のままグッと親指を立てた。そして、手元のスケッチブックに殴り書きしたカンペを突き出してきた。
『その生々しい呼吸音をそのままマイクに乗せろ! 演出効果バツグンだ! 狼狽を隠さずそのまま番組を開始しろ!』
「カティスさん、何を出してきてるんですか!? これ、もうポータブル送信機の音声チャンネルが完全に『ON AIR』になってるじゃないですか! リスナーの皆さん、こんばんは! 今のはちょっと、突発的な大気の対流によるアクシデントであって、僕が不純な視線を送っていたわけでは……!」
「ふふ、リスナーの皆さん、こんばんは。カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜の配信になります。今夜のウッソは、カサレリアの夜風よりもずっと激しく胸のジェネレーターを震わせているみたいです♪」
「シャ、シャクティ、電波の向こうのジャンク屋の皆さんに、もの凄く語弊のある言い方をするのはやめてよぉ!!」
ウッソは慌ててポータブルデータ端末のパルスノイズを調整し、自身の動揺を隠すようにマイクにしがみついた。
「え、ええと、気を取り直して! 今夜はデータ端末側が暗号パケットの受信過多で異常発熱しています。地球圏の生き残りリスナーから送られてきた暗号化パケットですが、僕たちがかつてバラバラに受信した、あの宇宙世紀を駆け抜けた人々や、その意志の残響に関する全記録が、統合された活動報告データとして網羅されています!」
ウッソが端末のログを必死に読み上げる形で、自然にアクセス・キーを口にする。
「シャクティ、このデータパケット、以前僕たちが受信した複数のアーカイブが一つにリンクされているよ。発信元のアドレス、アクセス・キーは……『https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341480&uid=504230』だ! このデータを解析すれば、あの歴史の裏側の続きが読めるかもしれない。でも、凄く気になる内容なのに、肝心な結末の手前でデータにプロテクトがかかっている。ずるいよ、これじゃあ今すぐアクセスして確かめたくなるじゃないか!」
2人が送信機に接続された、ネオ・ガンダム2号機由来のサイコフレーム結晶にそっと手を重ねる。その瞬間、夜の丘を照らすように淡い虹色の光のパルスが噴き出し、2人の脳内に公式正史に完全準拠した歴史の裏の真実を、精神感応によって直接流し込んできた。
「……っ! シャクティ、この記録は、後世の歴史研究において、公式の戦史や公文書の余白に沿って拾い上げられた、二つの決定的な歴史評伝のデータだ。最初の記録は、連邦軍極秘アーカイブ・コード:HM編番号411737……」
『機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 宇宙世紀0088 最強のニュータイプは妹達を救うため、指先一つで宇宙世紀の歴史を貫く』
「宇宙世紀0088年、アクシズという閉鎖空間の中で、ニュータイプや強化人間という力が、まだ生身の少女たちの痛みと日常に直結していた時代の記録だ。エルピー・プルたちは兵器として管理され、使い潰される側に置かれながらも、日常を守るために踏みとどまろうとした……。人が人を理解し、繋がり得るかもしれないという未完成な可能性が、そこにはまだ残されていたんだね……」
ウッソは精神感応の光の中で、自分たちと同じような年齢で戦わされていた子どもたちの尊厳のための戦いを追体験し、静かに目を伏せた。
「ええ、ウッソ、私にも視えるわ……。数字や記号だけで片付けられてしまいそうだった命が、必死に日常を守ろうとしていた。でも、そこにあった技術や精神感応の思想は、歴史の底に沈んで形を変えて、後の時代の歪みになっていくのね。もう一つの記録は、それから時が流れた宇宙世紀0120年代の、旧アナハイム社遺品データパケット・識別名409267……」
『機動戦士ガンダム ジオンの残響 ―シャアもミネバもいない火星で、亡霊たちは「ザク」の皮を被った怪物を造り上げた―』
「かつてのニュータイプの奇跡が、温かい体温ではなく、過去の英雄たちが遺した神話やシステムとして搾取され始めた、火星の記録……。そこにいたのは希望に胸を焦がす若者ではなく、過去を捨てられずに取り憑かれたボッシュさんたち、大人の亡霊だった。前者では子どもたちが尊厳のために戦い、後者では大人がその残骸を兵器に変えてしまう……。未来の可能性だったものが、歴史に取り残された執念へと変わっていく、長い変質の流れが地続きになっているのね……」
シャクティの聖母性を帯びた静かな声が、簡易マイクを通じて地球圏の闇へと響いていく。
「大きな勝者の物語の裏側にたまっていく、回収されない感情や置き去りにされた執念の側にこそ、宇宙世紀の本当の重みが沈殿しているんだね。でも、前作で日常を守ろうとしたことが救いになり、後作では亡霊の物語が終わった先で、ベルフという次の世代へ機体と意志が受け継がれている。宇宙世紀は過酷だけど、絶望を継承しながらも次の世代に何かを託そうとするしぶとさがあるんだ。……ああっ、でもパルスの乱れでデータの核心がここで途切れてる! ここから先は、このアドレスにアクセスできる環境にいるみんな自身の目で確かめてほしい!」
サイコフレームの虹色の明かりがゆっくりと収まり、夜の丘には再び穏やかな虫の音と風の音が戻ってきた。希望が傷に変わり、傷が残響になり、それでもなお次の世代へと何かが渡されていく長い宇宙世紀の連なりに触れ、2人は今自分たちがカサレリアの地でラジオを流し、このささやかな日常を守っていることの価値を深く噛み締めていた。
ウッソがほっと胸をなでおろした瞬間、隣のシャクティがウッソの顔をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「ウッソ、さっきの火星のお話、切なかったけれど……最後に次の世代へ意志が受け継がれていくところは、とても温かかったわね。どんなに過酷な歴史の残響があっても、それを受け取って前へ進む人がいるなら、その歩みは決して無駄にはならないのね」
「うん、そうだね、シャクティ。僕たちも、たくさんの人たちの意志や、託された想いを受け取ってここまで走ってきたんだ。だからこそ、今あるカサレリアのこの静けさを、次の世代へしっかり繋げていかなくちゃいけないんだと思う」
15歳特有の、格好つけたいけれどいざとなると真面目になってしまうウッソが、少しはにかみながらも真っ直ぐにシャクティの瞳を見つめて答える。その答えを聞いたシャクティは、嬉しそうに目を細めると、ウッソの肩にそっと自分の肩を並べた。
「ええ、そうね、ウッソ。だから、このカサレリアの静けさを、これからも二人でずっと守っていきましょうね」
「うん、そうだね、シャクティ」
二人の間に流れる甘酸っぱくも温かい空気を受け、丘のふもとのコンテナ車の影から、カティスが「本日の活動報告URL」をデカデカと白マジックで書いたスケッチブックを掲げ、無言でサングラスを直してニヤリと笑った。
ウッソは少し赤面しながら、マイクに向かってそのアドレスを読み上げる。
「リスナーのみんな! 今夜紹介した、可能性の時代から残響の時代へと至る、百年の時を繋ぐ人間たちの意志を記した統合活動報告のURLは、カティスさんが掲げているこちらです!」
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341480&uid=504230
「英雄譚の外側にあった、回収されない感情や置き去りにされた執念の重みを、ぜひ活動報告のページから双方の記録で確かめてみてください! カサレリア・ストレージへのメッセージもお待ちしています!」
「それでは、カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜は星空の丘の上からお届けしました。みんな、夜風で冷えないように気をつけてね……」
「「おやすみなさい!」」
ウッソが飛びつくようにしてポータブル送信機のメインスイッチをオフにする。しかし、簡易送信機の回路に残った最後のパルスのせいで、ウッソが「……はぁ、肩が触れたままなのはやっぱり緊張するよ」と溢した本気の狼狽声と、シャクティの「ふふ、手がとってもあったかいわよ、ウッソ♪」という優しく甘い囁きが、カサレリアの夜空へと数秒間だけ、賑やかに流れ続けていた。