機動戦士ガンダム Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
カサレリアの朝は早い。小鳥のさえずりが、かつて戦火の拠点となったリガ・ミリティアの通信コンテナへと静かに染み込んでいく。
まだ冷え込みの残る室内で、ウッソ・エヴィンは手作りの木製デスクに座り、古い音響ミキサーのツマミをひとつずつ丁寧に拭いていた。15歳になり、少しだけ大きくなった手が、機械の金属的な質感に馴染んでいる。
ガサリ、とブースの向こうの副調整室(サブ)で音がした。
見上げると、サングラスをかけた構成作家のカティス・ロゥが、すでに椅子に深く腰掛け、怪しい電子タバコをくゆらせている。彼はウッソの視線に気づくと、不敵な笑みを浮かべ、手元のスケッチブックにさらさらと文字を書き殴った。
バッとガラスに貼り付けられたそのカンペには、太い黒マジックでこうあった。
『今日のオープニング、シャクティの首筋に光る汗の雫について、15歳男子の野生を解放した限界ギリギリのパッションポエムで描写すること。詰まったら即座に水着回へ強制移行、拒否権はカサレリアの地層の下に埋めた』
「カ、カティスさん! 朝から何を言ってるんですか! 野生って何ですか、僕は文明人です! 深夜ラジオのノリをカサレリアの清らかな空気に混ぜないでください!」
ウッソは思わず立ち上がり、マイクも入っていないガラスに向かって声を張り上げた。朝の畑仕事を終えて少し息を弾ませたシャクティが、ちょうどコンテナの扉を開けて入ってきたのは、まさにその瞬間のことだった。
「あら、ウッソ、朝からカティスさんと大声で何を戦わせているの? ほら、カサレリアの朝採りトマト、よく冷えてて美味しいわよ?」
彼女の首筋には、カティスの指摘通り、朝の光を浴びてキラキラと輝く小さな汗の雫が浮かんでいた。そこから漂う、もぎたてのトマトと野花の清涼な香りが狭いコンテナの空気に混ざり合い、ウッソの脳内は瞬時に大爆発を起こして完全パニックに切り替わる。
「あ、いや、なんでもないんだ、シャクティ! 機材の、その、熱暴走対策の話をしていて! つまり僕の頭のヒートシンクが限界突破で回路がショートしそうで!」
「ふふ、そう? でも、ウッソの顔、そのトマトよりも真っ赤に熟しきっているわよ?」
シャクティはクスクスと楽しそうに笑いながら、自然な動作でウッソの隣の椅子に腰掛けた。ふわり、と距離が近づく。15歳になった彼女の柔らかな体温と健康的な香りがダイレクトに伝わってくる距離に、ウッソは座ったまま背筋をピンと直立不動のモビルスーツにするしかなかった。
ガラスの向こうで、カティスが『これだから若造は』と言わんばかりに、大袈裟に肩をすくめてカンペをめくった。今度は『本番。全宇宙を黙らせるプロの顔をしろ』という、短い指令が書かれている。
ウッソは小さく息を吐き、パーソナリティとしての意識をかき集めてミキサーのフェーダーを上げた。
レトロなベルの音がチーンと響き、赤い「ON AIR」のインジケーターが点灯する。
手作りのアコースティックギターのジングルが、カサレリアの爽やかな風のように流れた。
「リスナーの皆さん、こんばんは。宇宙世紀0155年、少しずつ戦後の新しい歩みが始まりつつある地球のカサレリアからお送りしています。パーソナリティのウッソ・エヴィンです」
「こんばんは、シャクティ・カリンです。戦後、こうしてカサレリアで迎える朝は本当に穏やかですね。……隣にいるウッソが、さっきから壊れたモーターみたいにガタガタ震えているのを除けば、とっても平和なんですけれど♪」
「シャ、シャクティ、全国ネット(仮)で僕の威厳を削るのやめてよ! ……コホン。さあ、リスナーの皆さん! 本日もカサレリア・ストレージの旧民間公衆データ端末に、全宇宙のジャンク屋経由で鳥肌モノの暗号化パケットが届きました。連邦軍極秘アーカイブ・コードHM404338。記録されている本物の歴史のタイトルは、サイド7の受信機〜アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び〜
https://syosetu.org/novel/404338/
です!」
「あら、今回はあのアムロ・レイさんのお名前が出ているのね。宇宙世紀の始まりとも言える、一年戦争の最初期の記録かしら?」
「それがね、シャクティ! このサイコフレームに手を重ねて視えてくる真実は、あの有名な一年戦争の表舞台の裏側で、僕たちと同じように時代の渦に巻き込まれた、名もなき、だけどあまりにも鮮烈な人々の魂の叫びなんだ! さあ、今日もこの不思議なアンテナに触れて、歴史の裏側をサルベージしてみましょう!」
シャクティが、ウッソの右手に自分の左手をそっと重ねた。
15歳になった二人の、穏やかで成熟しつつある精神波がサイコフレームの結晶へと伝わっていく。金属の塊が、蛍のように淡く、優しい虹色の輝きを放ち始めた。
その瞬間、二人の脳裏に、時の壁を超えた真実の史実がありありと流れ込んできた。
「……う、うわあああっ!? な、なんだこれ! 耳が、頭の奥がジンジンする! モビルスーツの爆音や通信ノイズに混ざって、いろんな人の『声』が一斉に聞こえてくるよ!」
ウッソはサイコフレームから伝わってくるあまりの熱量と感情の波に、マイクの前で思わず身震いした。
「ウッソ、大丈夫よ、私がついているわ。……でも、本当に凄いわね、この記録。宇宙世紀0079年、サイド7でアムロ・レイさんがガンダムに立ち上がったあの瞬間の隣で、私たちが知る歴史には決して乗らなかった、もう二つの戦場が完全にリンクしているわ。中立のサイド6での出来事や、北極の吹雪、そして密林や砂漠の潮風まで……地球と宇宙のあらゆる場所の戦気が、この『受信機』を通じて一本の線に繋がっていく……!」
「そうなんだよシャクティ! もう僕、鳥肌が止まらないよ! 教科書の一年戦争のページを開くと、ホワイトベースがどこどこに鳴り響いて、アムロがシャアと戦った、なーんて綺麗にまとめられているけど、現実はそんな単純なものじゃないんだ! この記録の凄いところは、サイド7の受信機という、一見すると無機質な機械のログを通して、戦場の『隣』にいた人たちの叫びが、ドミノ倒しみたいに次々と連鎖していく構成なんだよ!」
ウッソは15歳のオタク特有の早口になり、身を乗り出してマイクに語りかける。
「僕が一番胸を熱くして、同時にひっくり返りそうになったのは、あのオデッサの激戦や大気圏突入の裏で、フラウ・ボゥさんやキッカちゃんたちの目線から視た『アムロ・レイの隣の景色』だよ! そして、サイド6のリボ・コロニーで軍服を脱ごうとしていたクリスお姉ちゃんという女性の静かな意志や、足を失っても泥にまみれて生きているシローお兄ちゃんたちの声……。連邦軍からも、ジオン軍からも完全に隠蔽された、だけど確かにそこで生きていた人たちの本物の『光』が、強烈なノイズを突き破って頭の中に直接届くんだ!」
ウッソの熱弁は止まらない。ガラスの向こうでは、カティスがサングラスの位置を直して電子タバコを激しく吹き出しながら、満足そうに何度もグッと拳を握りしめていた。彼自身、かつて宇宙の闇で孤独に戦ったレジェンドだからこそ、公式の通信には決して乗らない「泥にまみれた本物の叫び」の尊さが、誰よりも理解できて、胸に刺さって仕方がなかったのだろう。
「ウッソ、あまりの熱量にマイクのレベルメーターがまた限界突破しそうよ。でも確かに、この『サイド7の受信機〜アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び〜』をサルベージしていると、誰が勝ったとか負けたとかいう戦争の結果じゃなくて、ガンダムのセンサーすら捉えられないほど眩しい、人と人との繋がりそのものが宇宙を動かしていたんだって、涙が出そうになるわね」
「うん、その通りだね、シャクティ! 戦火の中で傷つきながらも、お互いの名前を呼び合って生き抜こうとした名もなき英雄たちの物語。具体的なエピソードや彼らが迎える奇跡の結末は、これを受信した僕たちのモラルとして、これ以上のガッツリとしたネタバレは封印する。だけど、このパケットにアクセスすれば、一年戦争という時代に生きた人々の本当の温度に触れて、心が激しく震えること間違いなしだよ!」
ウッソが興奮冷めやらぬ様子で締めくくると、サイコフレームの虹色の光が、ゆっくりと収束していった。頭の中に流れていた、過去の激しい通信ノイズや、悲痛で、だけどどこか温かい人々の叫びが、静かにカサレリアの現実に溶けて消えていく。
コンテナの中に、心地よい朝の静けさが戻ってきた。
するとガラスの向こうで、カティスが待ってましたとばかりに不敵に笑い、素早くスケッチブックをめくった。
そこには『シリアス&お笑いパート完全燃焼。残り1分、全パワーをラブコメに注ぎ込め。朝露に濡れたシャクティをギュッと抱きしめてカサレリアの朝に永久の愛を誓え! じゃないと来週の台本は全部ウッソの幼児退行おねだり音声暴露大会にする』と書かれている。
「カ、カティスさん! 最後になんでそんな恐ろしい脅迫用カンペを出すんですか! 幼児退行音声って何ですか、僕がいつそんなことをしましたか!」
「ふふ。ウッソ、2年前の戦場で、お母さんのことで私の胸の中でワンワン泣いていた可愛いウッソの記録なら、私の記憶のアーカイブにバッチリ残っているわよ?」
「うぎゃあ!? シャ、シャクティ、それだけは電波に乗せないで、本当にお願いだから!」
ウッソが頭を抱えて真っ赤になると、シャクティは本当に愛おしそうな、15歳らしい少し大人びた笑顔を浮かべた。そして、重ねていた手を離さず、今度は指を一本ずつ優しく絡めるようにして、ウッソの手をきゅっと握りしめた。
「ふふ、冗談よ。でもね、ウッソ。過去のそんな命がけで名前を呼び合っていた人たちの、切なくて、だけど強い心の叫びに触れたあとだとね……」
シャクティがさらに距離を詰め、ウッソの腕に自分の身体をぴたりと寄り添わせる。ウッソの左肩に、彼女の朝露を含んだ柔らかな髪がコツンと預けられた。カサレリアの野花と、みずみずしいトマトの甘い香りがウッソの鼻腔をくすぐる。
「こうして、ウッソの温かい大きな手に触れて、ウッソの名前を呼べばすぐに届く今のカサレリアの日常が、どれだけ奇跡で、どれだけ幸せなことか、胸がキュンとして、涙が出ちゃうくらい愛おしく思えるの。……いつも私の隣にいてくれて、ありがとう、ウッソ」
「シャ、シャクティ……。う、うん。僕こそ、シャクティがこうして隣で笑ってくれて、その、生きててよかったなって、すごく思うんだ……」
ウッソは顔から火が出そうなほど茹だり、心臓が爆音のコンバット・モードで鼓動を打っていたが、今度は逃げなかった。握られたシャクティの小さくて温かい手を、少しだけ強い力でしっかりと握り返す。その15歳の少年の精一杯の男らしさに、シャクティは嬉しそうに頬を染めて、さらに優しく目を細めた。
ガラスの向こうで、カティスが『やるじゃねえか若造、ごちそうさまでした!』と言わんばかりに、大爆笑しながら親指をガッと突き出し、完璧なタイミングでフェーダーを下げるジェスチャーを送る。
「……それではリスナーの皆さん、またカサレリアの電波でお会いしましょう。今回紹介した真実の記録、サイド7の受信機〜アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び〜(
https://syosetu.org/novel/404338/
へは、カサレリア・ストレージの暗号化パケットからいつでもアクセス可能です。それでは……」
「「おやすみなさい!」」
マイクの「ON AIR」ランプが消灯し、コンテナ内には、15歳の二人の少し弾んだ息遣いと、カサレリアのどこまでも爽やかで甘酸っぱい風の音だけが、いつまでも優しく響いていた。