機動戦士ガンダム ​Vガンダム戦後、15歳になったウッソとシャクティのイチャイチャ深夜ラジオ。なお、裏で冷徹にラブコメのカンペを出している怪しい構成作家は、あの木星帰りの英雄(30代)な模様   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

32 / 35
廃棄区画の愛の断絶と、感情を武器に変えた女帝の系譜

宇宙世紀0155年。

 

ザンスカール帝国との最終決戦から2年が経過した世界。

 

地球連邦政府の形骸化はさらに進み、もはや地球圏全体の統治能力は完全に失われていた。しかし、ザンスカール帝国という巨大な共通の脅威が崩壊したため、地球圏はかつてないほどの静かな停滞期を迎えている。大局的な戦争は終結したものの、各地には未だにザンスカール残党、連邦軍の軍閥、ジャンク屋、小規模な私設武装組織が乱立しており、小競り合いや情報統制、闇ルートでの物資やデータのやり取りが日常化していた。

 

ウッソとシャクティが暮らすカサレリアは、相変わらず宇宙世紀の喧騒から隔絶された、自然豊かな理想郷として描く。戦火の傷跡は自然の生命力によって少しずつ覆い隠され、2年前の戦いが嘘のような静けさを取り戻している。ウッソたちは自給自足に近い生活を送りながら、リガ・ミリティアの残したコンテナを秘密基地のように扱い、このささやかな日常を守るためにラジオ放送を行っている。

 

今夜のカサレリアは、夕方から急変した悪天候により、バケツをひっくり返したような豪雨に見舞われていた。時折激しい落雷が轟き、古いリガ・ミリティアのコンテナハウスをビリビリと大きく揺らしている。

 

ウッソとシャクティは、雨漏りを防ぐためにコンテナの天井近くにある予備バルブを締めようと、不安定に積み上がったジャンクの山の上にいた。

 

「うわっとっと……! シャクティ、そっちのボルトを押さえていて! 雷の振動で床のコンテナブロックが少し浮いてるんだ、足元が危ないから……あっ!」

 

密室ラッキースケベ。

 

次の瞬間、近くの山林に凄まじい落雷が炸裂し、コンテナ全体が大きく傾いた。足場にしていた旧式モビルスーツの装甲板が滑り、ウッソは完全に体勢を崩した。とっさに隣のシャクティを巻き込まないように身を引こうとしたものの、逆に彼女の身体を庇う形になり、2人はそのまま床のマットレス代わりに敷いていた防音シートの上へと転がり落ちた。

 

重なり合うように倒れ込んだ瞬間、ウッソの完全に引き締まった身体が、シャクティの柔らかく成長しつつある身体を真正面からしっかりと押し倒す形になっていた。

 

至近距離で交錯する視線。ウッソの顔のすぐ横には、カサレリアの雨露に濡れた瑞々しい草花のようなシャクティの髪が散らばり、彼女の甘く温かい吐息がダイレクトにウッソの肌を灼いた。15歳になり、身体的には青年へと成長しつつあるウッソにとって、この密室での完全なゼロ距離密着は、モビルスーツのコクピットでの死線など比較にならないほどの極限状態だった。

 

ウッソの心拍数は一瞬で測定不能な限界領域へと跳ね上がり、戦場で数々の修羅場をくぐり抜けてきた最強の戦士としての冷徹な状況把握能力は、一瞬で消滅した。

 

「ひゃ、ひゃああああっ!? し、シャクティ、ご、ごめんなさい! 決して僕の質量移動に不適切な意図があったわけじゃなくて、落雷による衝撃波と非線形な震動が合成された結果として発生した、不可抗力の位置エネルギーの減衰というか……! あわわ、僕の心臓、いまメインジェネレーターの圧力ゲージだったら、リリーフバルブが吹き飛んで冷却水が全損してるよ!!」

 

「ふふ……ウッソったら、そんなに慌てて難しい機械の言葉ばかり並べなくてもいいのに。でも、こんなに激しい雨の音がしているのに、ウッソの心臓の音、私の耳にダイレクトに響いているわよ? ねえ……私の声、ちゃんと届いてる?」

 

シャクティは15歳にしてすべてを受け入れるような圧倒的な包容力を漂わせながらも、ウッソが真っ赤になってパニックを起こしている様子を無自覚に楽しむように、少し大人びた小悪魔的な微笑みを浮かべてウッソの耳元で囁いた。ウッソは完全に言葉を失い、石のように硬直する。

 

その時、コンテナの仕切りガラスの向こう、豪雨のノイズを遮断したサブ(調整室)の暗がりに佇む構成作家のカティス・ロゥが、無言でサングラスをキラリと光らせた。そして、スケッチブックに力強く殴り書きしたカンペをガラスにピシャリと押し付けてきた。

 

『そのままフリーズしろ! 男なら責任を取れ! 日和って離れたら即座に番組の全アーカイブをジャンク屋のネットワークに放流する!』

 

「カ、カティスさん、なんて無慈悲で恐ろしい脅しをかけるんですか!? これ、床に落ちた野外用高感度マイクが完全に生きてて、僕たちの会話もコンテナの揺れる音も全部生放送で流れてますよ! リスナーの皆さん、違うんです! 今のは気象災害に起因する突発的なアクシデントであって、僕がシャクティに対して男らしくリードしようとしているわけでは……!」

 

「ふふ、連邦軍や残党軍のリスナーの皆さん、こんばんは。カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜の配信になります。今夜のウッソは、激しい嵐の重力に魂を引かれて、私の上から動けなくなってしまっているみたいです♪」

 

「シャ、シャクティ、世界中の生き残りの人たちに、取り返しのつかない大誤解を植え付けるようなナレーションをしないでよぉ!!」

 

ウッソは顔から蒸気が出そうなほどの羞恥心に耐えながら、なんとかシャクティを抱き起こして機材の前に座らせ、やけにパルスが激しく異常発熱しているデータ端末へと視線を落とした。

 

「え、ええと! 嵐のノイズをカットして、本編を開始します! 今夜はデータ端末のログが異常な熱を帯びています。地球圏の生き残りリスナーから送られてきた暗号化パケットですが、僕たちがかつてこのラジオで個別に受信した、あの過酷な時代を象徴する『心』と『実験』の系譜が、統合された活動報告データとして網羅されています!」

 

ウッソが端末のログを読み上げる形で、自然にアクセス・キーを口にする。

 

「シャクティ、このデータパケット、以前僕たちが受信した複数のアーカイブが一つにリンクされているよ。発信元のアドレス、アクセス・キーは……

 

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341631&uid=504230

 

だ。このデータを解析すれば、あの宇宙世紀の真実の続きが読めるかもしれない。でも、凄く気になる内容なのに、肝心な結末の手前でデータにプロテクトがかかっている。ずるいよ、これじゃあ今すぐアクセスして確かめたくなるじゃないか!」

 

2人が送信機に接続された、ネオ・ガンダム2号機由来のサイコフレーム結晶にそっと手を重ねる。その瞬間、激しく揺れるコンテナの闇を払うように結晶から深みのある虹色の光が溢れ出し、2人の脳内に公式正史に完全準拠した歴史の裏の真実を、精神感応によって直接流し込んできた。

 

「……っ! シャクティ、この記録は、公式の戦史や公文書が語る表面的な大戦の記録の裏側で進行していた、人間を変えようとした試みが人間そのものを歪め続けた、二つの重大な歴史評伝のデータだ。最初の記録は、連邦軍極秘アーカイブ・コード:HM編番号406691……」

 

『機動戦士ガンダム ムラサメ研究所、廃棄区画(アビス)より愛をこめて』

 

「連邦政府の裏側に存在した強化人間研究施設、すなわち人間の感情や記憶、人格をどこまで操作できるのかという、ニュータイプ思想の最暗部の記録だ……。タイトルにあるアビスが象徴する通り、ここには表舞台に出ることのなかった犠牲と精神の断絶が確かに刻まれている。人間の揺らぎや不完全さを意図的に排除しようとしたこの思想が、宇宙世紀全体を歪めるニュータイプ利用の方向性を決定づけてしまったんだね……」

 

ウッソは精神感応の光の中で、人為的に感情を調整され、兵器として作り替えられていった人々の魂の叫びを追体験し、その冷徹な不条理さに深く胸を痛めた。

 

「ええ、ウッソ、私にも視えるわ……。そして、その人為的なアプローチとは対照的に、後にアクシズの指導者となる少女の、最も人間的で未完成だった時代を追ったもう一つの実録。旧アナハイム社遺品データパケット・識別名410389……」

 

『機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が,、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間』

 

「少女としての純粋さ、個人的な愛情、そして決定的な裏切り。それらの経験を経て、彼女は感情を捨てるのではなく、感情を武器へと変える存在へと変質していくことになる……。彼女は研究所の被験者ではないけれど、感情の断絶、対人関係の破壊、そして自己の再定義というプロセスを経た彼女は、本質において自然発生した強化人間的存在であったと言えるのね……」

 

シャクティの聖母性を帯びた静かな声が、簡易マイクを通じて地球圏の闇へと響いていく。

 

「ムラサメ研究所が人為的に感情を調整された人間を作ろうとしたのに対し、ハマーン・カーンは過酷な現実の経験によって感情を再構築した人間へと至った。人間を兵器にしようとした試みと、感情の破壊によって自ら支配者になった少女の軌跡。この『人間を壊す側』と『壊れた側』の連続性こそが、宇宙世紀の恐るべき構造なんだね!……ああっ、でも激しいパルスの乱れでデータの核心がここで途切れている! ここから先は、このアドレスにアクセスできる環境にいるみんな自身の目で確かめてほしい。正史の隙間に確かに存在した、人間たちの魂の変質の記録を、みんなの心で受け止めてほしいんだ!」

 

サイコフレームの虹色の明かりがゆっくりと収まり、コンテナ内には再び豪雨が天井を叩く激しい音が戻ってきた。人間がどのように壊れ、そしてどのように世界を動かす側に変わっていくのかという歴史の底流に触れ、2人は今自分たちがカサレリアの地で寄り添い、このささやかな日常を守っていることの価値を深く噛み締めていた。

 

ウッソがほっと胸をなでおろした瞬間、隣のシャクティがウッソの顔をじっと見つめ、少し大人びた、かつ可愛い意地悪な微笑みを浮かべた。

 

「人間が壊れて世界を変えていく歴史はとても苦しいけれど、だからこそ、今こうして変わらずにいてくれるウッソの存在が愛おしいのね。……でも、ウッソ。さっき私を押し倒したままフリーズしていたとき、ウッソの目が私のどこを一生懸命凝視していたのか、私はちゃんと気づいていたのよ? さっきの、まだちょっと怒っているんだからね?」

 

「え、えええっ!? シャ、シャクティ、本当に、本当にあの時は落雷の衝撃による視線軸の固定であって、僕の脳内プロセッサーは君のグラフィックデータを邪な目的でレンダリングしていたわけでは……! 信じてよぉ!」

 

15歳特有の、格好つけたいけれどいざとなると手も握れない不器用なウッソが、顔を真っ赤にして必死に手を振って弁明する。その様子を見たシャクティは、クスリと嬉しそうに笑うと、ウッソのパーソナルスペースに自然に侵入し、そっと肩を並べた。

 

「ふふ、冗談よ。ウッソが私のために一生懸命慌ててくれるの、とても安心するわ。ありがとう、ウッソ」

 

「シャ、シャクティ……」

 

二人の間に流れる甘酸っぱくも温かい空気を受け、サブのガラス越しにカティスが「本日の統合完結活動報告URL」をデカデカと書いたカンペをガラスに叩きつけるように掲げ、無言で親指を立ててサングラスを直した。

 

ウッソは少し赤面しながら、マイクに向かってそのアドレスを読み上げる。

 

「リスナーのみんな! 今夜紹介した、人間の魂の変質と宇宙世紀の冷徹な因果を一本の流れとして読み解く統合完結活動報告のURLは、カティスさんが掲げているこちらです!」

 

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341631&uid=504230

 

「人類が理想としたニュータイプが、人為と偶然の歪みによって対立の道具へと扱われていく歴史の深淵を、ぜひ活動報告のページから確かめてみてください! カサレリア・ストレージへのメッセージもお待ちしています!」

 

「それでは、カサレリア・リミテッド・レディオ、今夜の配信はこのへんで。みんな、激しい雨や嵐に気をつけて、温かくして休んでね……」

 

「「おやすみなさい!」」

 

ウッソが飛びつくようにして送信機のメインスイッチをオフにする。しかし、古い機材の残留パルスのせいで、ウッソが「……はぁ、シャクティの髪の匂いがまだ鼻のセンサーに残ってて、頭の回路がショートしそうだよ」と溢した本気の狼狽声と、シャクティの「ふふ、手がとってもあったかいわよ、ウッソ♪」という優しく甘い囁きが、カサレリアの夜空へと数秒間だけ、賑やかに流れ続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。