通りすがりの美人に地図を貰った。 作:通りすがりの匿名さん
私は竹取物語に魅せられた文系女子大生。
子供の頃に読んだかぐや姫の物語に魅せられてから十数年、大学で竹取物語について研究している。研究テーマは竹取物語がどの時代にどれだけの人を虜にしたか。
そんな私が毎週やってる図書館でのかぐや姫の読み聞かせボランティアをしていると、通りすがりの美人さんが話しかけてきた。
同性の私でも見とれるくらいの美人でドキドキしちゃった。
「竹取物語、好きなの?」
「は、はい。子供の頃から好きで、大学でも竹取物語を題材に研究してて……」
「ふぅん……あれ、名札の名前……もしかして地元って〇〇?」
「えっと、そこはたしか、曾お祖父さんの家があったとこですね」
「そっかぁ。じゃあ機会があったらさ、ここ行ってみて。それでこんな箱があれば、あなたの役に立つかも」
そうしてメモ帳に地図と、箱の特徴を書くと、私に渡した。
「なんですか、これ」
「良いもの。たぶん残ってると思うよ」
「?」
ー
あれから数ヶ月が経ち、大学も夏季休暇に入った。
バイト先も休みになる盆になると暇な時間も出来る。
そこでふと図書館で出会った美人さんから貰った地図を思い出して、捨てずに置いておいたそれを見返す。
「せっかくだし、一夏の冒険なんてしてみようかな」
それからお祖父ちゃんや親戚に連絡を取ってみて地図の場所に心当たりのある人がいないか聞いてみた。
結果、地図の場所は曾祖父さんの家の近くだという事が分かった。
準備を整えてその場所に行ってみる。案内はうちのお祖父ちゃんの兄の息子さんがしてくれる事になった。……一応親戚?だけど全然知らないおじさんだ。
地図の通りに進むと、次第に森の中に入っていく。元々この辺りに村があったらしいけど人がいなくなって木々に飲まれたらしい。おじさんの説明の通り、たまに何かの跡らしき石が積まれたものとかが見える。
けど、それよりも藪蚊が多くて嫌になる。
「あれやないか?」
「……蔵?」
辿り着いた先にあったのは、古い蔵だった。
蔵には当然のように鍵がかかっていた。
地図を再度確認してみると、裏側に「裏手の大きな木」と走り書きがされていた。
もしかしてと思って蔵の裏に回ると、大きな洞が開いた木があった。
木の洞を見てみると、落ち葉の下に鍵があった。錆びてはないし、脆くもなっていない。
「これ、そういうことだよね……」
木の洞から取り出した鍵を蔵の錠に挿す。ガチャンと音を立てて鍵が開いた。
「すぅー、はぁー、お、お邪魔します……」
意を決して蔵の中に入ってみる。
中には何も無かった。
「ここ出る時に中身全部出したんやないか」とおじさんは言う。
苦労した割に何も無くて、狐につままれた気分。あの美人さん、もしかして狐が化けたんじゃないかな。
そんな事を思いながら空っぽの蔵の中を歩いてみる。
ひんやりしていて、外より涼しい。
カツカツと足音が鳴って、少し楽しい。
カツカツ、カツカツ、コン、カツカツ。
「……ん?」
足音が違う箇所がある。
スマホのライトで照らしてよく見ると、床に扉らしき物があった。この蔵には、地下があった。
おじさんに協力してもらって、扉を開ける。鍵はかかってなかったけど、やたらと重かった。
地下へと入ってみると、箱があった。あの美人さんから貰った箱の絵と特徴が一致する。
「……マジであった」
箱は随分と古かった。
恐る恐る蓋を開けてみると、中には大量の糸くずと木片が入っていた。
実はちょっぴり金銀財宝を期待してたけど……なんだゴミか。
スマホのライトで箱の中を照らして、他に何か無いか探してみる。
「……?いや、いやいやいやいや。え、マジで?」
木片じゃない。木簡だこれ。大量の木簡だこれ!?
たぶん、奈良時代くらい……? いや、そんな事より……!
「竹取物語……?」
何度も読んだ物語。何度も読んだ文字たち。色んな時代に書かれた竹取物語を、資料として読んだ私だから分かる。
この木簡に書かれているのは、
「……私の人生、全部、ひっくり返っちゃった……」
ー
それから、色んな人の力を借りて蔵から木箱ごと木簡を移動させて本格的な調査が行われた。
ご丁寧にいつ、誰が書いたかまで記してあり、奈良時代に書かれた竹取物語であることが確定。
この発見で、竹取物語は「平安時代に書かれた日本最古の物語」から、「奈良時代に書かれた日本最古の物語」となった。
さらに、竹取の翁の名前は「いろは」であること、かぐや姫が月に帰った後、「いろは」の詩が月に届いてかぐや姫が「いろは」の元に帰る描写まであり、今まで語り継がれてきた竹取物語のお話そのものが後世で書き換えられた可能性まで出て来た。
「奈良時代から! 平安時代の間に! 何が! あった! 何があって! あの話になった!?」
物語の内容が変わる事はある。だけどそこには何らかの理由があるはずだ。
政治的な理由か、文化的な理由か……絶対、それを解き明かしてやる。
……そういえばあの美人さん、どうしてここにこんなものがあることを知ってたんだろう?
ー
とある研究所。
「おー、やっぱりちゃんと残ってたんだ」
「あれちゃん、必ず後世に残しますって言ってたもんね」
「ねー」
「古事記纏めるのに忙しかっただろうに、よくウミウシだったヤチヨの話も聞いてくれたよ」
「ねぇヤチヨ」
「なんだいなんだい?」
「あれちゃんってやっぱり……稗田阿礼?」
「そうだね」
「稗田阿礼の直筆木簡かぁ……ヤバな。ま、私は無関係なので知ーらないっと」
ーーー
あれから月日は経ち、私は大学で竹取物語についての研究を続けていた。
あの木簡の発見後分かったことだけど、私の曾祖父さんの家系は元々あの箱を守ってきた一族だったらしい。らしいというのは、村を捨てた時に色々と失伝してしまったからだ。
たぶん、代を重ねる事に何を守っているのか、何故守っているのかが失われていったんだと思う。
もう一つ分かったことと言えば、図書館で出会ったあの美人さんのこと。
あの人は、酒寄彩葉という研究者さんだった。
ニュースで新たな脳神経伝達物質を発見して、それを利用した新技術を発表したとかで医療業界にブレイクスルーを起こしているすごい人だった。
それから一度だけ、酒寄先生の講演会に参加して直接会いに行ったことがある。
「酒寄先生!お時間いいですか!」
講演会の会場から出て来たところを狙って直接接触を試みた。
「ん?あー、たしか、前に図書館で会った……」
「その節はどうもありがとうございました。あの、どうしても聞きたい事が……!」
「何のことかな?」
「どうして、あの木簡の存在を知ってたんですか?」
「んー? 見つけたのは貴女でしょ? よっ、大手柄!」
「茶化さないでくださいよ!」
「あははは、ごめんごめん。でも私はあの子の足跡を少し教えただけだよ。
埋もれているそれを掘り起こして、日の当たる場所に戻してくれたのは貴女。ありがとね」
「言ってる意味が分かりませんよ……」
「そこは、ほら、ミステリアスなお姉さんってことにしといて」
それからは何度質問してもちゃんと答えてくれなくて、のらりくらりとかわされ、最後には地図を押し付けて去っていった。