通りすがりの美人に地図を貰った。   作:通りすがりの匿名さん

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とある不良高校生の場合

 あれは俺が高校生の頃だった。

 あの当時はやたらとむしゃくしゃしてて、親や先生に反抗したり物に平気で当たるような不良だった。

 

 

「おらっ、おらぁっ!」

 

 誰も見ていない山の中。山道から外れたところにある、誰かに忘れられた祠を蹴り壊す。

 文句を言うようなやつもいなくて、ストレス発散には丁度良かった。

 

「っへへ」

 

「あーあ、その祠壊しちゃったんだ」

 

 声がした。

 振り返ると、すっげー美人がいた。

 思わず見惚れるほどのすげー美人姉ちゃんだ。

 

「んだよ、祟りがどーとか言うやつか?」

「いや?その祠に祀られてる子は今うちにいるしね」

 

 その美人の姉ちゃんは鞄を漁ると、地図を取り出した。

 

「そんなにエネルギーが有り余ってるならさ、宝探ししてみない?」

「は?」

「見つけたらここに持って行くと良いよ。ここの館長、それなりの金で買い取ってくれるから。はい、あげる」

 

 渡されたのは折りたたみのスコップと、この辺りの地図に赤ペンで丸が書かれたものだった。

 

「じゃ、私は帰るね」

「あっ、おい!」

 

 呼び止める声を無視して、美人の姉ちゃんは山道の方へと歩きせって行った。

 

「……行っちまった」 

 

 残されたのは地図とスコップ。

 どうすっかなぁと考えて、さっき聞いた金になるって話を思い出す。

 

「……行ってみっか」

 

 

ー

 

 

 美人の姉ちゃんから貰った地図とスコップを手に祠のあった道から外れた場所を歩く。

 それらしい場所に着いたけど、そこには一面の落ち葉だけで何も無かった。

 

「なんだよ何もねぇじゃねぇか」

 

 イライラに任せてスコップを地面に突き刺す。

 ガンッと何かに当たって跳ね返った。

 

「あ?」

 

 石か何かでもあったんだろうか。それかこの地図に書かれた何かか。

 とりあえず跳ね返った場所をスコップで掘ってみる。

 すると土の中から黒い木の箱が出て来た。

 ナントカ塗り?のやつ。浦島太郎の玉手箱みたいな見た目をしてる。

 

「埋蔵金とかか?」

 

 期待して持ち上げてみる。思ってたよりも軽かった。

 振ってみるとカサカサ音が鳴るだけで、金は入って無さそうだ。

 明けてみようとしたけど、フタとの境目に何かが塗ってあって開かない。

 

 スコップを差し込んで無理やりこじ開けると、バコッと音を立てて箱が開いた。

 中にあったのは……

 

「紙切れ? 手紙かこれ? うわっ、読めねー」

 

 何の価値も無さそうな古い手紙だった。

 金目のものじゃ無さそうだったし、その場に捨てて帰ろうかと思ったけど、メモにある場所に持って行けば金になるって言ってたのを思い出す。

 

「ま、持って行ってやるか。千円くらいにゃなるだろ」

 

 

ー

 

 

 メモに書いてあった住所に着くとそこは博物館だった。

 箱を持ったままとりあえず正面から入って、真っ先に見つけたここのスタッフらしい白髪のおっさんに声をかける。

 

「◯◯って人、いる?」

「私だが。君は?」

「あー、これ、買ってくれるって聞いて」

「ふむ?」

 

 白髪のおっさんが眼鏡を指でかけ直して俺が渡した箱を見る。

 

「ふむ、む……? 失礼。一緒に来てくれないか」

「ん?おう」

 

 おっさんの雰囲気が一瞬で変わってビビった。

 後ろを付いて行くと関係者以外立ち入り禁止の部屋へと案内された。

 資料室みたいな部屋だった。中心にある大きな机の上に木箱を置かれる。

 白い手袋を付けたおっさんが丁寧な手つきで箱から手紙を出して慎重に開いていく。

 

「これ、いくら?」

「すぐには値を付けられないな」

「ふーん、そんなにレアなやつ? てか何これ」

「これは淀殿が遺した手紙だ」

「淀殿?」

「豊臣秀吉の妻だよ」

 

 豊臣秀吉の奥さんの手紙……?

 

「なんて書いてあんの?」

「ああ、これは淀殿が友人に宛てた手紙のようだね。かぐや……記録にない人だな。

 ……ふむ。熱烈なラブレターだなこれは」

「は?」

「いや、かぐやという友人の無事を祈る内容なんだが、どうやらこの2人は非常に親しい間柄だったようだ。淀殿自身の胸の内すらも書かれている」

「ふぅん……」

「だがこれはかぐやという人には届かなかったようだね」

「……あっ」

 

なんで? とは聞けなかった。これを掘り出したのは俺だ。地面から掘り出したという事は、誰かが埋めたということで……。

 

「箱の境に蝋で封をして、中も幾重に重ねられた油紙で覆われている。水が入り込まないようにしていたんだ。いつか、かぐやという人がこの箱を見つける事を祈って埋めさせたんだろう」

「淀殿って人が埋めたんじゃねーの?」

「大阪夏の陣の最中に書かれたようだからね。戦の只中でわざわざ手紙を埋めに行くなんて出来ないだろう?」

「それもそうか」

 

 それから、色々と話を聞いたけどロクに勉強してないような頭じゃよく分からなかった。

 後で金を払うってことで名前と連絡先を交換して、その日は帰った。

 

 

 

 家に帰って、ベッドに仰向けに寝転がっても、何となくあの手紙の事が心の中に引っかかっていた。

 戦の最中に手紙を出すような相手。それも助けを求めるとか、逃がしてくれって話じゃなくて、かぐやって人の無事を祈る手紙。

 

「…………」

 

 ベッドから起きて、机に向かう。

 落書きだらけの日本史の教科書を開いた。

 

「……は? 淀殿の事こんだけしか書かれてねーの?」

 

 今日聞いた話では、強い人だと思った。友達思いの人だと思った。

 教科書を読むと、攻撃されてビビって講和を言い出した間抜けな人みたいだと思った。

 たぶん、今までの俺だったら「大した事の無いやつ」とか思ってただろう。

 けど、それってなんか違う……よな。

 

「…………勉強すりゃ、なんか分かんのかな」 

 

 

ー

 

 

 あれから月日は経ち、俺は大学生になった。

 あの日を境に、昔の人がどう生きていたか、何を考えていたかを知りたくなって、猛勉強した。

 成績が下から数えた方が早い俺が国立大学に進学出来たのは、あの日の美人の姉さんと出会えたからだ。

 とは言っても、成績は悪いし態度も悪かったから奨学金とかも貰えず、さらに両親もそこまで稼ぎの良いわけでも無かったからバイトを掛け持ちしながら勉強の日々だ。

 あの日話したおじさんは博物館の館長だった。館長は手紙を持ってきてくれたお礼として数百万もの大金を提示してくれたけど、断った。

 あのお金を受け取るべきは地図をくれた美人の姉さんだし、何より淀殿みたいに最後まで自分の力で足掻いてみたくなったからだ。

 その結果が学費と勉強に追われる苦学生なんだが。

 

 あの手紙は、淀殿が自害する前に書いたものだったらしい。

 誰がどうやって手紙を外に持ち出して、あの山に埋めたのかは不明。新たな歴史の謎として研究や議論が進んでいる。

 現代に至るまで土の中に埋もれて、誰にも読まれることの無かった手紙だけど、今は全文がネット上に公開されていて誰でも読める。

 もしかしたら、淀殿の友達にも届いていると良いなと、素直に思う。

 

「おや、また来たのかい」

「館長。どもっす」

「また手紙を見ているのかい?」

「っす。高校の時は一文字も読めなかったんすけど、今はちゃんと読めるようになったんで。バイトまで時間あるんで、また読みに来ました」

「何か分かったかい?」

「いえ……分かんないことが増えた感じっすね。勉強しても勉強しても分かんないことが増える一方っす。高校ん時もっと勉強しときゃ良かった。

 ……そういや館長知ってます?タイムカプセル説」

「ああ。この手紙が未来の“かぐや”に宛てられた手紙だという新しい学説だね」

「『令和の世で逢える事を願う。』この一文で学界が大混乱だったってのも最近知って、でもなんか思うとこがあって」

「ほう。第一発見者としての意見かな?」

「そんな大層なもんじゃ……ただ、死ぬ前に未来の事を考えるって、どんな気持ちなのかなって。もっと勉強したくなったってだけです」

「ふふ、あの時の不良が立派になったもんだ」

「館長と淀殿と、あの日出会った美人の姉さんのおかげっすね。

 ……そういや、なんであの人はあそこに手紙があるって知ってたんだろ」

 

 

 

ー

 

 

 

ツクヨミの天守

 

「────♪」

 

「……今の歌、初めて聴いた。なんて曲?」

「うーん、お返事。かな?

 ありがとね彩葉。茶々のお手紙見つけてくれて」

「見つけたのは私じゃないけどね」

「でも色々調べて場所を絞り込んだのは彩葉じゃん」

「まぁね。……届くといいね。お返事」

「地球から月まで届いたんだもん。ツクヨミからもあの世まで届くよ。きっと」

「そうだね。きっと、届く」

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