路地裏にある精神科医院。
まるで眠たそうに背もたれに体を預けながら、静かにタバコを吸っている医師が1人。
----比企谷八幡。
「暇だ」
風だけが吹き抜ける作業室でそう言う。
古びた木製の机には診療記録、調査資料、新聞の切り抜き、それから開きっぱなしの分厚い洋書が無造作に積み上がっている。
その隅では灰皿に吸い殻が何本も押し込まれていた。
1人しかいないディスクに、寂しさを感じているのか時より1枚の写真立を見る。
彼の目には、懐かしさだけが映し出されている。
そんなことを思っていると、鈴の音が鳴る。
扉についている鈴が鳴った。
八幡は、タバコを消すと白衣を来て一階にある診察室に向かう。
するとそこには、制服を着た女子高生がいた。
その目には酷い隈があった。
乾いた唇。
焦点の合いきらない視線。
指先が小さく震えている。
睡眠不足。
それも、一日二日のものではない。
慢性的なものだ。
まともに眠れていないのだろう。
「ここが、比企谷精神科医院でいいんですよね?」
「ああ、問題ない」
ぶっきらぼうに彼はそう言う。
短い返事。
愛想の欠片もない。
少女はわずかに肩を強ばらせた。
やっぱり帰ろうか――そんな迷いが顔に浮かんでいる。
女子高生は、本当に大丈夫なのか不安を覚えるが友達が教えてくれたのだと思い直す。
「友達から勧められてきたんです……最近悪夢が続いてて寝れなくて」
「悪夢…ね」
「あ、私……万津夢と言います」
「万津夢さんね……その寝れなくなったて、いつからだ」
「……一週間くらい前からです」
八幡は視線をカルテへ落としたままペンを走らせる。
紙を擦る音だけが静かな診察室に響いた。
「眠れないってのは、寝つけないのか。それとも途中で起きるのか」
「……途中で、です」
「毎晩か?」
「はい……眠っても、同じ夢を見るんです」
「起きる時間は」
「だいたい夜中の二時とか三時とか……飛び起きて、そのあと眠れなくて」
彼は、万津夢から現状を詳しく聞きながら記録を残す。
「眠れないってのは、寝つけないのか。それとも途中で起きるのか」
「……途中で、です」
「毎晩か?」
「はい……眠っても、同じ夢を見るんです」
「起きる時間は」
「だいたい夜中の二時とか三時とか……飛び起きて、そのあと眠れなくて」
「悪いが、夢の内容を聞いていいか?」
「はい」
曰く、夢の中で遊園地で家族と共に遊んでいるとスライムのような目のが多く触手の生えている化け物が家族を殺すを見る。
曰く、その生物はテケリリと何度も繰り返し私が怯えてるのを見て楽しそうにしている
曰く、それを見始めたのは家族と遊園地に行った日からである。
(テケリリ……)
一度、ペンを動かす腕が止まった。
何度も聞いた事がある笑い声。
何人もの患者から聞いた声。
彼は、心中で吐き捨てる。
(ショゴスか)
彼は、ため息をつく。
彼は、万津夢に薬を出すと定期的に通院する様に言い金はいいから今日は早めに寝る様に指示を出す。
----夜
俺は、パソコンの明かりだけが部屋を照らす。
今日来た女子高生…万津夢。
彼女が見ていた悪夢の根源は、俺がよく知っている存在だった。
何回も聴いたゆえに、俺としてはもうやめて欲しいと思ってる存在。
“奴”曰く本来なら天文学的確率を超えた先の地獄の可能性に、巻き込まれた際知り得る存在と言う話しだ。
「さて、行くか」
俺は、寝衣に着替えて何かを胸に巻きベットにはいる。
それは、明晰夢へ落ちるための道具。
そして、この病院を引き継いだ時にあの人から託された物。
そして、俺が俺である証明。
「End the nightmare」
そうして俺は明晰夢に堕ちていく……。
-----------
目を開けるとそこは、遊園地だった。
鼻を刺す鉄の匂い。
見上げた先では、巨大な観覧車が夜空に沈んでいた。
風に押されるたび、
錆びた骨組みが軋んでいる。
ギィ……ギィ……と、耳障りな音が響く。
人気はない。
だが静かではなかった。
どこからか、止まったはずのメリーゴーランドの音楽だけが流れていた。
途切れながら。
壊れたオルゴールみたいに。
赤い満月がここを照らす唯一の光だった。
そして俺の服装も寝衣から白衣を着た仕事服に変わっていた。
「聞いてたと話が違うな、遊べるそうな場所ではないが」
俺は、崩れた建物に近づく。
そして、そっとしゃがむと建物の破片に何か黒い液体の様な何かが付着している。
ショゴスの細胞だろうと思う。
「随分暴れてやがるな」
そんなことを考えていると悲鳴が聞こえる。
俺は、そちらに走り出す。
さっきの悲鳴は万津夢の悲鳴だろう。
尻餅をつき、逃げ場を失っている。
その前にいたのは、黒く濡れた肉塊。
蠢く。
膨張する。
無数の眼球がこちらを見る。
テケリリ。
テケリリ。
耳障りな声が響いた。
俺は、咄嗟に空間を裂くかの様に腕を振るうと手に一本の剣……ブレイカムゼッツァーを握る。
夢世界ゆえにできる荒技。
そして、刀身を外すと持ち手に向きを変えて付け替える。
『ガンモード』
それは、剣から銃に形を変える。
俺は、ブレイカムゼッツァーを構えて撃つ。
バン!と大きな音が鳴り響き触手が破壊され吹き飛ばされる。
そして、吹き飛ばされた触手はぐにゃぐにゃと動き回る。
「な、なにが!?」
万津夢は、何が起きた分からず辺りを見渡すと俺の姿が見えたのだろう。
俺の姿をみて驚いていた。
何故ここにいるのか?
そして、なんで怪物相手にこんな顔ができるのか?
そんなことを言いたい様な顔で。
俺は、何も言わずに胸にベルト……ゼッツドライバーを胸に巻く。
そして、万津夢の前に立つ。
「先生……?」
俺は、万津夢を一瞥しショゴスに目を向ける。
ショゴスが蠢く。
万津夢の荒い呼吸が背中越しに聞こえる。
恐怖と絶望から来る悪夢。
懐からガチャガチャから排出される様な。赤いカプセルを取り出す。
俺は、赤 カプセル……肉体を司る力。
フィジカムインパクトカプセムをゼッツドライバーに装填し、トリガムを押してカプセムを認証させる。
『インパクト!』
ドライバーが赤く発光する。
『メツァメロ! メツァメロ!』
何かの目覚めを待っているかの様に鳴り響く。
そして、悪夢からの解放を指し示すかの様に。
そして、俺のあり方を変えるように。
「I'm on it……変身」
こめかみのあたりでフィンガースナップをし、左手の親指でドライバーをなぞるようにカプセムを回転させる。
すると、全身が赤黒いもやのように包まれながら真っ黒な強化被膜の素体を形成、続いてゼッツゲイムラインと緑の模様が浮かび上がり、最後に複眼に赤い光が充填されるように色づく。黒と緑の姿に赤いラインが走っている姿。
仮面ライダーゼッツ。
「え?……え?」
万津夢は困惑している。
姿の変化に。
「せ、先生?」
俺は、それに対して答えることなくブレイカムゼッツァーを剣に戻してショゴスに向かって走り出す。
向かってくる触手をブレイカムゼッツァーで斬り落としながら、ショゴスの元に辿り着くとブレイカムゼッツァーを地面に突き刺しそれを軸にしショゴスを蹴り飛ばす。
「万津夢、逃げてろ……患者であるアンタを傷つけるわけには行かないからな」
そんなことを言いながらも、ショゴスからは目を逸らさない。
油断できる存在ではない。
悪夢の根源。
不定形な異形。
「さて、どうするか……」
そんなことを言いながら、最小限の動きで回避しながら触手を斬る。
そして、近づいて殴りそれを防ごうとする触手を貫通し直撃する。
「たく、毎回タフでめんどくさい!」
何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も戦っているがやはりショゴスは死ぬほどめんどくさい。
-----------
「あはは、流石比企谷くん!」
壊れた観覧車の1番上に座っている女性。
その手には、彼が使っていた赤いカプセムと違い紫色が特徴的なカプセムを握っている。
「悪夢は、その人の深層心理……」
悪夢を楽しむかの様に。
そして、それを見て嘲笑うかの様な笑みを浮かべる。
まるで面白いおもちゃを見るかの様に。
「悪夢を楽しもうね、比企谷くん」
-----------
俺は、ショゴスに対してブレイカムゼッツァーで斬りつける。
だが、それと同時に背後に回り込んでいた複数の触手に殴りつけられる。
吹き飛ばされるが、壁にブレイカムゼッツァーを突き立て耐える。
こんな所で負けるなど許されるはずがない。
「悪いな、精神科医舐めんな」
俺は、ドライバーに装填しているカプセムを取り外しブレイカムゼッツァーに装填する。
そして、カプセムを回転させる。
刀身にエネルギーが溜まる。
そして、持ち手の引き金を引く。
『ブレイカムスラッシュ』
そして、俺はフィジカムインパクトカプセムの力で脚力を強化して一気に近づく。
その間向かってくる触手をブレイカムゼッツァーで斬り伏せ近づくとエネルギーを纏った必殺の一撃を繰り出す。
それは、ショゴスを斬り裂く一撃。
その一撃を喰らったショゴスはまるで溶けるように黒い水溜りを作り消滅する。
そして俺は、変身を解きタバコとライターを取り出し紫煙を吹く。
そっとタバコを叩き灰を落としながら俺は、万津夢の方を向く。
そこには、まるでついていけないと言うような顔で建物の影に隠れている万津夢がいた。
「先生、さっきのは一体……それに先生は、一体何者なんです?」
「これで完治したはずだが、通院は続けてもらうぞ?治療経過を確認だけはしないといけないからな……あと、俺はただの精神科の先生だ」
そうして、悪夢から俺と彼女は目を覚ます。
目が覚めると何事もないかの様に。
-----------
私はばっと布団を跳ね除け飛び起きる。
時計を見ると時刻は午前6時42分を指していた。
そこから、太陽の光が入り込む。
「あれ?」
何故飛び起きたか分からない。
嫌な夢を見てたはずのに、救われた気がする。
窓を開ける。
朝の空気が流れ込んでくる。
少し冷たい風が頬を撫でた。
その瞬間だった。
ふわり、と。
鼻先を掠める匂い。
煙。
焦げた葉の香り。
タバコだ。
あり得ない。
父は吸わない。
母も吸わない。
ここは自分の部屋だ。
なのに確かにそこにあった。
昨夜までここになかったはずの匂いが。
私は窓枠に手を置いたまま、しばらく動けなかった。
そして、不意に思い出す。
友達が冗談めかして話していた、
あの病院の噂を。
「目覚めるとタバコの匂いがし、それ以降悪夢を見ることはない……本当にタバコの匂いがした」
これから悪夢を見ることはないのだろう。
だが、一体どういう理屈なのか分からない。
分からない故に気になってしまう。
こうなると悪夢とは別に寝れなくなってくる気がする。
「よし!決めた!」
そして私は………
-----------
夕日が診察室を照らす。
病院も営業終了の時間も近いため、締め作業してる中鈴の音がなる。
チリン。
「どうぞ」
そう言った数秒後。
診察室の扉が勢いよく開いた。
現れたのは万津夢だった。
しかも今日は制服姿ではない。
私服だ。
そしてなぜか、やたら顔が明るい。
嫌な予感がした。
そしてその予感は当たった。
彼女は一歩前に出ると、
両手で一枚の紙を差し出した。
「これは、なんだ?」
「履歴書です!」
「そう見えるな」
「採用してください!」
「意味がわからん」
堂々と笑みを浮かべて言う彼女にこめかみをピクピクしながら苦笑いを浮かべてしまう。
何故履歴書なんかをと言おうと思ったら、彼女の目はとてもキラキラしており懐かしい彼女を思わせる。
一瞬油断した隙に履歴書を握らされてしまう。
「今日からよろしくお願いします!先生!」
「……断る!」
こうして、比企谷精神科医院は今日も経営しております。