ラストダンジョンのラスボス部屋前で全回復してくれる商人   作:笑嘲嗤

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第1話 ラスボスの部屋の前にいる商人ってなんだよ?

 勇者たちは激しい戦いを繰り広げてきた。時に仲間を失い、家族を失い、それでもここ、魔王城の奥深くまでやってきた。

 

「みんな!あと少しだ!俺たちの最後の戦いだ!世界を必ず救おう!俺たちならできる!!」

 

 勇者のカリスマに溢れる言葉は賢者のフィオレナの心を熱くする。フィオレナはこの勇者パーティーには最後に加入した新参者だったが、それでも滾るものを感じていた。

 

「あれが魔王のいる玉座の間への入り口か!!」

 

 そしていよいよ辿り着いた。この奥に魔王がいる。最後の戦い。人類の存亡かけた一戦がこれから始まる!!

 

「全回復いかがっすか?どうだい!寄ってかないかい!」

 

 何やら街の市場の様な声が聞こえてきた。フィオレナは幻聴だと思って首を振って魔王の玉座への入り口を真剣なまなざしで睨む。

 

「エリクサー、ポーション、聖剣、魔防具、ダメージをHP回復に回すアクセサリーもあるよー。ウルトラポーションがいまなら10個買うとおまけで一本ついてくるよー。アイテム合成も受け付けてるよーいかがっすかー!」

 

 フィオレナは首を振る。絶対に幻聴だ。だけどそれはすぐに崩れ去ることになる。

 

「お!やっぱりいてくれたかー!よ!いつも通り全回復頼むよ」

 

「はいよ!では!ヒールぅ!」

 

 そのコモンスペルは誰だって使えるような低級魔法だった。だがフィオレナを含む全員がそのヒールでHPだけでなくMPや呪い、毒、麻痺、ついでに水虫も治ってしまったのだった。

 

「やっぱりあんたのヒールはボス前にキメるとサイコーだな!」

 

 勇者がそういう。

 

「へへ。毎度。勇者さん、今日はラスボスなんで、いつも以上にすごいトベるバフ魔法もありますけど、いかがっすか?」

 

「えーまじ?!やってくれよ!」

 

「へい!ほぉおおおおお!!ぁあああ!エンチャント!!!」

 

 するとフィオレナを含む全員のステータスが爆上がりした。全属性は耐性どころか吸収であり、辛い旅で乾いた肌も潤いを取り戻していた。

 

「あぁああ!きぃくぅううう!」

 

 勇者は顔を赤らめて悶えていた。

 

「へへへ。まいどあり」

 

 そしてその男は勇者から大金を貰って懐に仕舞った。

 

「すご!この剣!?あの伝説のツルーギの剣じゃないか?!」

 

 パーティーメンバーの剣士がその男の後ろにあるテントとその前に置かれた机の上の剣を見て感心していた。

 

「ええ。手に入れるの大変でしたけど、ラスボス戦に間に合いましたよ。どうです?いいひとふりでしょう?」

 

「この剣!さいこーだぜ!うぉおおお!!」

 

 剣士もツルーギの剣を持って悶えていた。パーティーメンバーたちは机の上に置かれた装備品をぞくぞく買っていき装備していった。

 

「これで後顧の憂いなし!魔王を倒してくるぜ!」

 

「へい。いってらっしゃいませ!世界平和を祈ってますからねぇ!」

 

「いや!?誰だよその人?!」

 

 フィオレナは叫んだ。全員の視線が集まる。

 

「いや。誰って、商人のウェントワースだけど?あ、そっかフィオレナは俺のパーティーに最近はいったばかりだったよな。なら知らないか。いつもこうやってダンジョンのボス部屋の前に俺たちより先に来てくれて、俺たちを全回復してくれてバフもつけてくれて強い装備品も売ってくれるいい奴なんだ!」

 

「ちょっと待って?!何言ってるんですの?!はぁ?!言ってること全然意味わからないんですけども?!」

 

「今ちゃんと説明したじゃないか。ウェントワースはいい奴んだよ。それでいいだろ!」

 

「よくありませんわよ!?なんですか?!わたくしたちここに来るまでにすさまじく大変な思いしましたよね?!」

 

「……ああ。そうだったな。チャールズ、シャルル、シャルレス、みんないい奴らだったなぁ……死んじまったあいつらのためにも魔王は必ず倒す!」

 

「だからよくないんですけども?!なんで勇者パーティーのわたくしたちが滅茶苦茶苦労してボロボロになって辿り着いた魔王の間の前にこの人が先にいるんですか?!どういうことなんですの?!」

 

「えーそんなこと言われてもなー。俺が冒険の旅に出た時からウェントワースはいつもボスの部屋の前で商売してたし」

 

「なんなんですかそれ?!はぁ?!」

 

「町よりちょっと割高だけど、全回復してくれてバフもつけてくれて強い装備品を売ってくれるんだ。ほんとウェントワースがいなきゃ俺の旅はきっと失敗に終わってたはずだ……」

 

「どうしましょう?!言ってることが全然理解したくありませんわ?!」

 

「まあとにかく魔王を倒しに……」

 

 勇者はそう言って魔王の間への入り口を開こうとした。だがフィオレナはそれを止める。

 

「このウェントワースさんはここまで無傷で来れるってことですわよね?だったらこのまま魔王戦にもお付き合いいただければ勝利の確率も高まるのでは?!」

 

「フィオレナ。約束しただろ?お前がいかに一国のお姫様でも、我儘は聞いてやれないってな。ウェントワースはただの商人なんだよ。魔王戦なんて危ないことはさせられない!」

 

「絶対にそれって誤解だと思いますわよ!ここまで来れるんですわよ?!わたくしたちよりさきにです!絶対に強いです!仲間に加えましょう!」

 

「はいはい。じゃあ行くぞ!おらぁ!!」

 

 そのままフィオレナの言うことを無視して勇者は魔王の間への扉を開けて中へと飛び込んでいった。フィオレナは首根っこをつかまえられてそのまま連れて行かれた。フィオレナが閉まる扉の向こうを見るとウェントワースは金勘定をしていた。あの男はいったい?その謎が頭の中をいっぱいにしていくのであった。

 

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