偽悪的な少年が、なのはさんに墜とされるまでのお話

※オリ主がなのはさんを口汚く罵る場面があります。苦手な方はブラウザバックをよろしくお願いします。

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「でも、それ以上に…君を妬んでいる俺自身が、心底嫌いだ」

※オリ主がなのはさんに対して罵声を浴びせるシーンがあります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。


「俺は、"高町なのは"が嫌いだ」

 

 人が社会で生きていくにあたって、大切なものとはなんだろうか。金か?それとも能力?あるいは愛情なんてのもそうかもしれない。だけど、俺はこう考えている。

―――他者から排斥されないこと、だと。

 人は一人では生きられない。飯を食うにも、金を稼ぐにも、どこかで寝るにも。人は、誰かしらと繋がってなきゃいけない。

 だから俺は仮面を被る。他人に拒まれないように、疎まれないように、排斥されないように。

―――そして、そんな理由で醜い自分を隠している、俺自身が嫌いで仕方なかった。

 でも、皆そんなもんなんだろうな。俺なんかが思いつくことだもん、そりゃそうさ。だから、見返りのない優しさなんて、物語の中だけのものなのさ。だから、だから―――。

 

()は…君のことが嫌いだ。高町なのは」

 

 

☆☆

 

 俺に家族と呼べるものはない。物心ついた頃から、一人で生きてきた。物乞いや、盗みだってした。そうしないと生きていけなかったから。その日その日を必死に生きてはいたが、ロクな死に方はしないだろうな、とも感じていた。きっといつかボロが出て、そのまま野垂れ死ぬのだろうと。

 だが、天は俺を見放さなかったらしい。衰弱した俺を、どこかの物好きが拾って管理局に預けてくれたのだ。顔も知らぬ誰かに、そこだけは感謝してもいいと思ってる。生きられるなら、誰だって生きたいからな。

 

「…自分で食い扶持を稼げるのか?」

「そうだ。悪い話ではないだろう?…君のような子どもに対する扱いとしては、些か面白くないというか…申し訳ない話ではあるがね」

「やる。自力で生きられるなら、俺はそうしたい」

 

 幸いにも魔力が高かった俺に、そのまま管理局に魔導師として勤める道が提示された。読み書きもままならない俺に良くしてくれた人たちには、本当に感謝している。

 彼らから悪意が感じられなかったこともあり、熱心に励むことができた。今まではできなかったことができるようになる喜びを、小さく噛み締めながら。短かったが、それまでの人生で最も充実した時間だったと言えるだろう。

 基礎を固め、技を磨き、実力を高める。単調なようで奥深い工程を繰り返し、年齢の割に破格の実力を身につけることができた。

―――9歳の時点で、魔力、魔導師ランクともにAランク。ハッキリ言って並大抵のものではない。

 強くなることだけを考えていたから、これは本当に嬉しかった。これでもっと金を稼げる。自分の力だけで生きていける!まだ幼い俺は、そう思っていた。

 だが、そうは問屋が卸さないらしい。他人と接する機会が絶望的に不足していた俺は、買い物一つロクにできなかったのだ。

 力だけでは解決しないこともある。齢9歳にして思い知らされた現実だった。そして、真の意味で一人では生きていくことはできない、ということも。

 だから、俺は善人の仮面を被ることにした。物腰を柔らかくし、陽気で、親切に振る舞う。それだけで俺の人間関係は驚くほど改善された。元々孤児だということで同情されていたのだろう周囲の目も、明るくなったように見える俺を祝福してくれるものへと変わっていった。

 自分に嘘をついて、善良を装って、周囲を欺いて。そんな生き方をしている俺が嫌いで仕方がない。だが、生きていくためなら仕方がないじゃないか。軋む心に気付かないフリをして、仕事に臨む。そしてしばらく経った頃だ。彼女の―――高町なのはの噂を聞いたのは。

 

 

☆☆☆

 

高町なのは。管理外世界の生まれながら、実力、実績共に非の打ち所のないエースである。

曰く、幼い頃からAAAランクの魔力を秘めていると。

曰く、魔法のセンスもずば抜けており、収束魔法すら自在に操る天才だと。

曰く、極めて善良で情に厚く、優しさと正義感に溢れた模範的な魔導師だと。

 

「―――気に入らねぇな」

 

 低く吐き捨てる。もちろん他に誰もいない空間だ。これまで積み上げたイメージを崩すわけにはいかないからな。自室でソファーに横たわった俺は、そのまま目を閉じて思案した。

 

―――なんで俺は、ああじゃない?

―――なんで俺には、あんな天賦の才能がない?

―――なんで俺は、あんな風に心から他人に優しくできない?

―――なんで俺は、ああじゃない…?なんで、なんでだ…!!

 

 嫉妬の炎が胸の内で燃え上がる。濁流のように淀んだ黒い感情が、心の隅々までを侵していく。あぁ、こんなことなら、高町なのはのことなんて知らなければよかった。

 遠巻きに見る分なら、ただのエース級魔導師の一人という評価で済んだだろう。優しい人だという評価で済んだだろう。しかし、彼女の強烈な輝きは、近くにいる者の目に灼き付いてしまう。どうして彼女と同じ部隊になどなってしまったんだ、俺は。

 

「…仕方がねぇ。高町のことは、なるべく避けるようにしよう」

 

 極めて後ろ向きな決意を固め、明日からの業務に思いを馳せた。願わくば、さっさと配置換えがありますように。なんとも情けない願いを胸に、疲弊した心身はまどろみに落ちていった。

 

 

☆☆☆☆

 

「なぁ、お前さぁ…。なのはさんのこと避けてるってホントか?」

「なんで()にそんなことを聞くのさ…」

「なんでって、そりゃお前…。ちょっとした噂になってんぜ?」

「…まぁ確かに、彼女が苦手なのは認めるけどね。避けているとまで言われるのは心外だな」

 

 同僚の一人から際どい一言をかけられる。時々鋭いんだよなぁ、こいつ。もっとも、外面用の()はこの程度で動じるようなタマじゃないが。

 釈然としていない彼を押しのけ、業務に取り掛かる。有事の際に出動させられるくせに、日頃のデスクワークまでハードなんだからイヤんなるよ、本当に。

 

「あっ、―――くん。ちょっといいかな?」

 

 …イヤなことってのは続くもんだな。高町の出身世界の言葉で、"泣きっ面に蜂"とか"弱り目に祟り目"とか"二度あることは三度ある"とか言うんだっけ?こういうのは。

 …声をかけてきた高町を無視するわけにもいかない。内心の不満を隠しながら、彼女への応対をすることにした。

 

「高町一尉、どうされましたか?」

「あぁ、その…。大事な用事ってほどじゃないんだけどね?次のこの日なんだけど…」

「…申し訳ありません、高町一尉。残念なことに、この日には既に予定を入れておりまして…。失礼ですが、お断りさせていただきます」

 

 手帳を確認するフリをして、断りを入れる。嘘をつくのは心苦しいが、俺は彼女が嫌いなのだ。なにが悲しくて嫌いな相手などと休日を過ごさねばならんのだ、まったく。

 …俺の返事に辛そうな顔をして俯く彼女を見るのは忍びないが、許してほしい。心底残念そうに諦めの言葉を紡がれても困る。罪悪感で潰されそうだよ、まったく。

 

「…高町一尉。その日は無理ですが、その次の休暇なら御一緒できると思います」

「ほ、本当…!?絶対!絶対だよ!?」

「は…はい。他の予定が入っても、先約を優先するということで断るようにしておきますよ」

「うん…!うん、うんっ!!」

 

 …俺のバカ野郎ーッ!!なんで嫌いな相手だっちゅーのに予定組んでんだよーっ!!…くそぅ、我ながら甘すぎるぞ、まったく。しかも、それを見てた同僚から微笑ましい目で見られるし。後で一発小突いてやる。

 でも、本当に自分を抑えられるのだろうか。自室で一人愚痴を吐きまくってる最近の俺が、果たして彼女と一対一で向き合って尚、仮面を被り続けられるのだろうか。不安だ、果てしなく…。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 …あれよあれよと時が過ぎ、約束の日がやって来てしまった。はて、どうしたものか。…今更悩んでも仕方がないよな、取り敢えず待ち合わせの場所へ行こう。

 待ち合わせの場所は、ミッドの中央にある小さな公園だ。お互い管理局の寮住まいなのに、なぜこんな微妙に離れた場所で待ち合わせをするのだろうか?…うぅむ、高町の考えることはよくわからん。約束の時間よりやや早めにたどり着いたこともあり、待つこと数分。そこに、高町が姿を現した。

 

「―――ごめんね、待たせちゃったかな?」

「気になさらないでください、高町一尉。日頃あまり来ない場所なので、中々新鮮で楽しかったですしね」

 

 率直な感想を告げると、彼女は眉間にシワを寄せながら、不満そうに告げてきた。

 

「…今日は、それ禁止」

「…?禁止、とは…」

「その、高町一尉〜っていうの!今日はお休みなんだから、"なのは"って呼んでよ。ねっ?」

「…はぁ、わかりました。"高町さん"」

 

 …だから、なぜそんなに不満そうなんだ、おのれは。頬を膨らませても子供っぽく見えるだけで、威圧の効果は薄いぞ。特に高町はかなり童顔だしな。

 

「だ〜か〜ら〜!"なのは"って呼んでってば!」

「…わかりましたよ、"なのはさん"」

「…まぁいいや。それで許してあげる」

「…僕、なにかご機嫌を損ねるような真似をしましたかね?」

「知らない!」

 

 そっぽを向かれても困る。普段よりも些か遠慮がないというか…子供っぽいというか…。扱いに困るな、これは。彼女を宥め、今日の予定を再確認する。…なになに?公園を出発してショッピングモールに繰り出し、昼食を取る。そこから映画を見て、近くの水族館に向かって、最後に夕食を食べる…。一日付き合うとは言ったけど、相当ハードなスケジュールだなこれは…。億劫になる心をおくびにも出さず、とても楽しみだという風に装う。高町も機嫌を直してくれたことだし、これでいいのだろう、きっと。

 

「ねぇ―――くん!この服どうかな!?」

「えぇ、よくお似合いですよ」

「むぅ〜…。さっきからそればっかりだよぉ…」

「ふむ、そうですか…。強いて挙げるなら…これと、これと…あとこの服が特にお似合いでしたよ」

「そ…そっか!ならこれを…」

「待ってください…。同僚から聞いたことがあります、こういう時は男の甲斐性を見せる時だと。というわけでここは僕が…」

「あ…ありがとう…」

 

「うん、良いですね、このお店。料理も美味しいですし」

「あはは、気に入ってもらえて嬉しいな」

「特にこのシュークリーム…あまり甘味に興味はなかったけど、実に魅力的だ」

「そうなの?実は私の実家が喫茶店でね。シュークリームが大人気なんだぁ」

「なんと、それは知らなかった…。ぜひ一度食べてみたいものですね」

「…今度里帰りした時のお土産、決まりかな」

「? どうしました、なのはさん?」

「あぁ、なんでもないよ!なんでも!!あはは…」

 

「いやぁ、感動したねぇ。まさかあんな結末で終わるなんて…」

「ええ…。正直恋愛モノの映画を観るのは始めてだったんですけど、思いの外楽しめましたよ」

「それは良かったよ…特に、どの辺が?」

「そうですねぇ…。主人公の女の人が相手役の男の人に思いを告げて、男の人がそれに応えてくれるシーンですかね。ベタですけど。…悲恋に終わるかと思ってたから、その…良かったな、と思えたといいますか…」

「そ、そっか…えへへ…」

「…なんでなのはさんが喜んでるんだろうか…」

 

「水族館か…。始めて来ましたけど、これはお客が溢れ返るのも納得ですね。見応え十分だ」

「でしょ〜?いろんなお魚が見られるし、ショーも迫力があるしね」

「…また、来たいですね。ショーの品目と予定日はメモしてきましたから、次はこの日の…」

「わ…私も!私も一緒に行っていいかな!?」

「え…えぇ。もちろん構いませんとも」

「…やったあ!」

「…そんなに楽しかったのか、水族館…」

 

「綺麗な夜景…。私たち、この光景を守るお仕事してるんだよね」

「えぇ、そうですね。特に高町一尉(・・・・)のご活躍は華々しく、大きな物があると思いますよ」

「…お仕事の話を振った私が悪いとは思うけど、今日はそれ禁止だよ?"なのは"って呼んでよ…」

「…失礼しました。なのはさんを筆頭に、皆の尽力でこの街の灯は守られているのだと思いますよ」

「あはは…そう言われると、なんか照れるかも…」

「…事実を述べただけだと思うのですが…。女の人って、難しいなぁ」

 

 …つ、疲れた…!!高町の顔色を窺いながら、俺も楽しんでるアピールを欠かさないのは本当に骨が折れた…。…まぁ、楽しくなかったわけじゃないが。休暇にこれほど予定を詰めるのは初めてだったしな。かつてないほど充実した休暇だったと思うよ、一人だったならな。

 …いや、一人じゃこんなに楽しめなかったか。癪だが、高町と一緒だったからここまで楽しかったのだろう。…嫌ってるはずなのにな、あいつのこと。

 

―――もうやめろ、やめてくれよ。これ以上俺の中で大きくならないでくれ、高町。

―――"高町なのは"という存在が俺の中で大きくなる度、彼女を妬むことしかできない俺が、ひどく惨めに思えてくるんだよ。

―――今日一日を一緒に過ごしてよくわかった。高町は俺なんかとは全然違う、根っからの善人だ。俺なんかとは比べ物にならない、すげぇ良いやつなんだ。

 

 心底情けない。俺ってやつは、なんて器が小さいんだ、まったく。心の底から楽しんでくれてるあいつに比べて、矮小が過ぎるぞ。…本当に、どうして俺はあんな風になれないのかな…。

 

「…今日は、とっても楽しかったよ。…また、一緒に過ごしたいな…」

「…ありがとうございます、なのはさん。そう言ってもらえると、僕も嬉しいですよ」

「…社交辞令なんかじゃないよ。私の、嘘偽りないホントの気持ち。だから、―――くんの本音も、聞かせてほしいな」

 

 呼吸が、止まった。おそらく彼女は、本気で言ってくれている。本気で楽しかったと、俺の本音が聞きたいのだと、そう言ってくれている。この笑顔が嘘だとは、とても思えなかったから。

 だが、良いのか?俺の本音は黒く淀んだ醜いものだ。彼女のように明るい道を突き進む者に、そんな物をぶつけていいのか…?この笑顔を傷つけて、曇らせてしまわないか?

―――思考が奔る。彼女を傷つけず、この場を切り抜けるには―――。

 

「…えぇ。僕の方こそ、とても楽しませてもらいました。また次の機会があれば―――」

「―――それ、嘘だよね」

「…え?」

「―――くん、自分で気付いてないの?君が嘘をつこうとする時は、目線が左に泳いだ後、一息ついてから喋り始めるんだよ?」

「そんなはずは―――」

「―――な〜んてね、嘘だよ。でも…

 ―――やっぱり…嘘、ついてたんだね」

 

 背中が粟立つ。彼女は、俺が嘘をついているという確信を持って、カマをかけてきたということだ。そして、それだけ俺を観察してきたということ。なぜだ…?なんのために…!?

 

「…答えて、くれないんだね」

「…少し、考える時間をください。…あなたを、傷つけたくはない」

「…やっぱり、優しいなぁ。…でも大丈夫だよ。全部、受け止めるから」

 

 …いいのか?本当に?心に躊躇いが生まれ、待ったをかけられる。これまで気に食わないからと散々距離を取ってきた相手に、ハッキリと思いの丈をぶちまけるチャンスだ。そのはずなんだ。…だから俺の心よ、静まってくれ。彼女を傷つけるかもしれないという不安に、どうか負けないでくれ。

 ここまで誠実に向き合ってくれた彼女に、もう嘘はつきたくなかった。例えそれが、彼女に甘えるだけだったとしても。…彼女を、深く傷つけてしまうとしても。

 

「…わかり、ました。でも、耐えられないと思ったら、すぐに言ってくださいね。黙りますから」

「…うん」

「…僕は。いや、()は…君のことが嫌いだ。高町なのは」

 

「…誰にでも心から優しくできるところが嫌いだ。魔導師として、恵まれた才能があるところが嫌いだ。」

 

―――やめろ。

 

「なにより…俺自身よりずっと出来の良い自分(理想)を見せられているような、そんな気分になるところが…大嫌いだ…!」

 

―――もうやめてくれ。

 

「どうしてだ!?どうして俺は、君のようになれない!?打算塗れの仮面を被っても、君のように強くなれない!?優しく在れない!?」

 

―――彼女に当たり散らしても、なんにもならないじゃないか。

 

 冷静に自身の言動を批難する内心を押しのけ、俺は力の限り彼女を罵倒した。そうだ、これが俺さ。狭量で、他責的で、感情的に喚くことしかできない。そんなやつなのさ。だから、だから―――。

―――そんな嬉しそうな顔をしないでくれよ、高町なのは。

 

「―――そっか、ありがとうね。ホントの気持ち、教えてくれて…」

「…そこだ!そういうところだ!なんで俺を責めない、恨まない!?…君を傷つけたのは俺だ。勝手に自分と重ねて、勝手に嫉妬したのは俺じゃないか!怒れよ、罵れよ!君はなにも悪くないじゃないか!」

「―――ううん、そんなことないよ。君が私のことを避けてるのは、なんとなく気付いてたし。…それでも君に近付いたのは、私が選んだことだから」

「そんなの、おかしいだろ…!どうして避けられてるとわかってる相手に、自分から近寄るんだ…!」

「…わからない?」

 

「それはね、私が…―――くんのことが、好きだからだよ」

 

 脳が、理解を拒んでいる。俺が、好かれている?高町に?一体何の冗談だろうか。露骨に避けられている相手に好感を抱けるか?一方的に罵声を投げかけてきた相手に、好感を抱けるか!?

 ふつふつと、腹の底から怒りが込み上げてくる。人には本音を話せといったくせに、自分は適当な嘘をついてお茶を濁そうとでも言うつもりなのだろうか。俺が、勇気を振り絞って放った言葉を踏みにじるつもりなのだろうか。

 …どこか冷静な俺の内心が、逆恨みだろうと冷たく嘲る。だが、このまま流すことなど、今の俺にはできそうもなかった。

 

「…なんの冗談だ?人には本音で話せと言っておきながら、自分は嘘をつくのか?」

「ううん、本当だよ。私の、嘘偽りないホントの気持ち」

「そんなはずあるかよ!俺は、君を傷つけたんだぞ!?これまで散々ひどいこともした!今だって、君を罵ってるんだぞ!?」

「―――いつも、挨拶をちゃんとしてるよね」

「…はぁ?」

 

 彼女の予想外の言葉に、戸惑いの文句がこぼれる。あぁ確かに、挨拶ぐらいちゃんとするさ。俺自身が困らないよう、周りと円滑な関係を築くためにな。…で、そんなことがなんになる?そんな当たり前のことが、この場においてなんになるというんだ!?

 

「それに、困ってる同僚のフォローも積極的だし、局の内外を問わず親切に振る舞ってるよね」

「…さっきから、なにが言いたいんだ?そんな当たり前のこと(・・・・・・・)が、一体なんになるっていうんだよ…!」

「―――それだよ。それを当たり前だ、って思える君が、すごく素敵に思えるから好きなんだよ」

 

 …そうか、彼女はきっと思い違いをしているんだな。俺は君のように、純粋な善意からそんなことをしているわけじゃないんだよ。自分の保身のため、排斥されないためにやってるだけだ。ハッキリ言って俺のためだけにやってるのさ。君が思ってるような善良な()とは、決定的に違うんだよ。その旨を伝えると、彼女は困ったような、少し怒ったような顔で言葉を紡ぎ出した。

 

「…あんまり自分のことを悪く言うのは感心しないよ。内心はどうあれ、人に優しくしてるなら、それはそれでいいじゃない」

「よくない…!いいか?俺のやってることはな、汚いことなんだよ!人の善意に都合よく乗っかるために、自分を取り繕ってるだけだ!君のように、善意を振りまく人をカモにしてるだけなんだ!」

「―――それでも、私はいいよ」

「なに、を…」

「君と居られるなら、それでいい」

 

 真っ直ぐな瞳に射抜かれ、思わず後ずさる。一体何が、彼女を突き動かす…!?なぜ、俺なんかにここまで良くしてくれる…!?

 

「―――くんは、自分のことが嫌いなんだね…」

「…あぁ、そうさ。醜い本音を隠して、嘘をつきながら生きてる。…そんな俺自身が、大嫌いだよ」

「ふふ、実は私もそうなんだ。だから、君の分まで私が―――くんのことを好きになってあげる」

 

 耳を疑うとは、まさにこのことだろう。彼女が自己嫌悪を覚えていると言ったのだから。正直なところ信じられない。俺と違って、彼女は日の当たる道を真っ直ぐに駆け抜けてきた人間だ。それなのに、自分のことを嫌いになることなど、あり得るのだろうか。

 

「…ホントかよ。エースオブエース様が自分のこと嫌いだとは、とても思えないけどな」

「ふふ、悪ぶってる時は、口調がちょっと変わるよね」

「…そうかい」

「私もね、"良い子でいなきゃいけない"ってずっと思ってたの。だから人に親切に、迷惑をかけないようにしてきた…」

 

 そこからは、俺の知らない彼女の姿があった。

幼い頃、家族に迷惑をかけないために不満を押し殺しながら笑顔で振る舞っていたこと。

何の変哲もない子どもだったのに、故郷を巻き込みかねないロストロギア事件に立ち向かう羽目になったこと。

リンカーコアを狙われ、闇の書の守護騎士(ヴォルケンリッター)と戦ったり、ついには闇の書の闇(ナハトヴァール)をも打倒したこと。

過労が祟り、重症を負ってしまったこと。

そのリハビリが、死にたくなるほど辛く厳しいものだったこと。

そして、再び羽ばたけるようになったこと。

 俺の知っている彼女のイメージが、音を立てて崩れていくようだった。なんてことはない、彼女は間違いなく優秀かつ善良ではあるが、どこまでも"普通の人"だったのだ。

 

「…君のこれまでのことは、お陰でよくわかったよ。だが、それがなんで俺を好きになることに繋がるんだ?」

「初めて会った時からずっと、君から目が離せなかったから。他人のような気がしないっていうのかな…」

「…何度も言ったけど、俺はそんなに凄いやつじゃない」

「それを決めるのは周りの人だよ。少なくとも私は、君の親切や優しさに救われてる」

「…外面に騙されてるだけかもしれないぞ」

「ううん、違うよ。君は他人を利用するために優しく振る舞うような人じゃないもん」

 

 知ったような口を聞くな、もう喋るな。これ以上本当の俺を認められたら、立ち直れなくなる。

―――彼女なくして、生きられなくなってしまう。

 

「ずっと見てたよ。君が、誰かの助けになって、笑顔になってるところ」

「…嘘だ、そんなはずがない。俺がそんな、誰かのために動けるはずが…」

「―――写真、あるけど?」

 

 言葉に窮する。まさか証拠品まであろうとは…。でも、それが本当なら、俺は少しは彼女に近づけているということだろうか。"高町なのは(俺の憧れ)"に、近づけているということなのだろうか。

 

「なぁ、高町(・・)…。俺は、このままでいいのかな…?自分に嘘をついたままでいて、いいのかな…」

「いいよ。辛くなったら、私が本当の君を受け止めてあげる。慰めてあげる、癒してあげる。だから―――くんも、私のこと、受け止めてね?」

「―――おおおっ…!」

 

 彼女に抱擁されるまま、嗚咽を漏らす。嘘つきの仮面を剥いで、溜まった涙が溢れ出ていった。

 今まで苦しんでいた小さな自分を慰め、新たな自分で明日に進めるような気がする。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 俺は、高町なのはのことが嫌いだった(・・・)。誰にでも分け隔てなく優しくて、魔導師としても極めて優秀で、俺なんかとは月とスッポンの存在だと決めつけていたから。

 だけど、弱音をぶつけて、本音を受け止めた今なら。これまでより、彼女のことを少しだけ好きになれそうな気がする。




別に読まなくてもOKなキャラ解説など

オリ主:
・仮称、ネイ・ノーム(ノーネイムのアナグラム。要は名無しです。好きなお名前を当てはめてやってください)。
・コンセプトは「善人を装っている善人」。身の上が孤独なことと、なまじ頭が良かったがために"他人に受け入れられるため"に善人を装うようになる。
・しかしこの男、根っこの部分ですでに善良なのである。他人を害するのは嫌いだし、できれば嘘なんて付きたくない。
・自身では嫌いだと思っていたなのはさんに対しても、実際のところ"自分と似ているのに、ずっと優秀な彼女"ではなく、"それを妬んでいる自分"が嫌いだという具合。
・自分では本性を取り繕っているつもりだが、表面的な態度以外あまり変わらないので、周囲からはバレバレだったりする。本人はクソ真面目だし、偽悪的な節があるので、かなりの違いがあると思い込んでいますが。それに嫌悪感を覚えるレベルだしね。損な生き方ですなぁ。
・あと実はなのはさんとのデートはマジで楽しんでました。嫌い(だと思い込んでる)な相手とのデートを楽しめるわけないだろ、という無駄に常識的な一面から認めてないだけで。多分2回目であっさり陥落するんじゃないかな。
・ウダウダ文句を垂れて最終的に決壊するキャラなので、好みが分かれるとは思いますが、生暖かく見守ってやってください。

高町なのは:
・我らが原作主人公。今作においても"為せば成る、為さねば成らぬ何事も"を地で行っております。うーん、女傑だ。
・出会ってすぐオリ主にシンパシーを感じ、観察開始。善良さの仮面を被っている時も、割と素が出ている時でも観察していた。…というわけで、オリ主のキレパートも微笑ましく思っていたみたいです。こりゃひどいね。
・でも、流石に面と向かって嫌いと言われたことには傷ついた模様。あとで慰めてもらう気満々である。あ…あざとい…っ!
・実はオリ主を観察する傍らレイジングハートとサーチャーを用いて盗撮まがいのことをしていたりして。
「写真、あるけど?」
はハッタリじゃないっす。求められればマジで何枚かお出ししてました。怖いよなのはさん。
・なのはさんも大概自己嫌悪の念が強いタイプなので、オリ主の考えてることは読まれてると思います。
・理想的な自分でありたい、というオリ主の叫びを受け止めつつ、しれっと自身の受け皿になることを要求してるあたりマジ策士。お互いの弱みを見せ合える関係っていいよね…。
・描写外でもオリ主にモーションを掛けていたが、避けられていた模様。今回の一発目のように撃沈したパターンもあったようですが、甘ちゃんのオリ主がその都度埋め合わせをしていたのでご満悦だったようです。デートに発展したのは初めてですけどね。
・多分数年後にはオリ主かなのはさんの名字が変わってると思います。

オリ主の同僚:
・なのはさんがオリ主に惹かれてることは部隊で周知の事実なので、はよくっつけと思ってたり。
・オリ主に対して外面はともかく、内面は面白いやつだと思ってます。クソ真面目だから弄りがいがあるんですね。

デートパートについて:
・地の文は勘弁してください。妄想だけで補うには限界があるんだッ!!!

ここまでご拝読ありがとうございました。誤字脱字や設定ミス、解釈が違う点などがありましたら、遠慮なく報告していただけると幸いです。
感想や評価、お気に入り等、大変励みになります。暇がある時にでも寄越してくださると泣いて喜びます。

それでは、また。

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