※タイトル通り、前話の閲覧推奨です。そして前話以上に独自解釈が含まれますので、苦手な方はブラウザバックをよろしくお願いします。
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『はい、これでもう大丈夫ですよ』
救助した被災者に、穏やかな声と表情で笑いかける。
焼け落ち、崩れ行く建物をものともせずに突き進む。バリアジャケットの耐熱性を一段と引き上げながら、彼のデバイスが示した生命反応を頼りにして。彼らの迅速な働きもあってか、幸いにも死者は出なかったようだ。
被災者を簡易的な結界に集め、陸士部隊に通達。その後の救助を任せつつ、最後の一人を助け出すまで繰り返す。心底疲弊した、といった表情を浮かべながらも、彼はどこか嬉しそうだった。被災者に語りかけているわけでもないのに、口角が吊り上がっている。きっと、被災者たちの助けになれたことが嬉しいのだろう。そう結論づけた
「うふふ、―――くん、可愛かったなぁ……」
サーチャーからの映像を一通り確認すると、彼女―――"高町なのは"がねっとりと、愛おしいものに向けるように言の葉を紡いだ。その吐息には仄かな甘い熱が感じられる。普段の凛とした彼女を知る者が見れば、目を剥くこと請け合いの光景であっただろう。
今回は別の業務に追われていたこともあり、直接彼と顔を合わせることはできなかったが、彼女はそれでも良いと思っていた。それは、こうして彼の活躍をゆっくりと観察できたから。自分には決して向けられることのない笑顔を切り取って、独り占めにできたから。……焼き増し決定である。哀れ、レイジングハートよ……。
―――あぁ、やっぱりそうだ。彼と私はよく似ている。
自分が苦しくても、誰かのために頑張れる。そして、そのことを嬉しく、誇らしく思える。彼のことが気になりだしたのは、その程度の小さなシンパシーが始まりだった。いつしか彼女は、暇があれば彼を目で追いかけたり、積極的に話しかけるようになった。
しかし、悲しいことに彼からは露骨に距離を取られていた。彼は"高町なのは"のことが嫌いだったから。そして、彼女を妬んでしまう自分自身が、何より嫌いだったからだ。
彼と会話をすれば表立って拒絶こそしないものの、早々に話を切り上げて立ち去られてしまう。彼女は悲しみに暮れた。今までも
それでも彼女は諦められなかった。禁じ手だとはわかっていたが、魔法を用いて彼の動向を探り出したのである。サーチャー―――魔力スフィアを形成し、そこから情報を受け取る魔法―――を活用することで、彼の勤務中の態度はもちろん、プライベートまでも掌握したのだ。
―――彼が私を避けるなら、なにも教えてくれないなら、こちらから近づいて調べてあげる。君を、丸裸にしてあげる。
狂気すら感じる。一体なにが彼女をここまで駆り立てるのだろうか。自分と似ていると思ったからとて、ここまでの執念を見せることがあるだろうか。普段の彼女を知る者ほど、この行為に疑問を抱くだろう。
だが、高町なのはという少女は自分の本心を隠すことが、ひどく上手かった。幼い頃の体験故だろうか、笑顔の仮面を被ることが、痛ましいほどに上手だったのだ。腹の奥に渦巻く熱をひた隠しにし、彼女は何事もなかったように振る舞う。善良に、高潔に、模範的に。
そんな彼女の瞳に淀みが生まれ、吐息に甘い熱が絡まるのは、いつだって彼のことを想っている時だけだ。粘り気のある視線が、サーチャーに映る彼を絡め取った。
☆☆
『すまねぇ、俺を庇ったせいで……!』
『……このくらい大したことはないさ。医療スタッフに診てもらえるんだ、しばらく寝てれば治るよ』
『それでも……!』
『良いんだよ、僕が好きでやったんだから。……申し訳ないと思うなら、僕が抜けた穴をキッチリ埋めてもらおうかな?』
『……おう!任されたっ!』
ある日、彼がひどく負傷する事件が起こった。犯罪者の集団を確保する際に、同僚を庇って右腕と背中に銃撃を受けてしまったのだ。その場の隊員が施した応急処置が適切だったことや、医療スタッフの尽力もあり、一命を取り留めることには成功したが、しばらくの間絶対安静となった。
それでも、彼が笑顔を絶やすことはなかった。同僚を守れて良かったと、本心から思っていることが伺える。時折苦痛に顔を顰めることはあれど、至って穏やかな振る舞いを崩さなかった。……
『―――くん、大丈夫なの!?』
『……えぇ、問題ありませんよ、高町一尉』
高町なのはの前では、彼の笑顔は固く、作られたモノのようになる。心を開かないように、彼女を受けれまいとするかのように。彼女からの悪意が感じられるわけではないが、一方的に
『問題ない、って……撃たれたんでしょ!?』
『えぇ。幸い脊髄や内蔵を負傷していませんからね。傷が塞がれば、現場に復帰できると思います』
『……っ!そういうことじゃ…!』
『……ご心配をおかけして申し訳ありません、高町一尉。ですが、安静にして治療を続ければ、しっかり快復するとのお墨付きをもらっています』
『そんな……そんな無理してる顔してるのに、信じられるわけないよっ!』
『……僕はともかく、医療スタッフの言葉は信じてあげてください。皆最善を尽くしてくれているんですから』
拒絶、ただただ拒絶。凝り固まったかのような笑顔で、彼は彼女を拒み続ける。その頑なさは、
流石にこれ以上話しても無駄だと思ったのか、彼女は唇を噛み、小さく俯きながら病室を去った。……しばらくして、彼が大きく息を吐く。なぜ負傷して苦しい時に、嫌いな奴の顔なんぞ見なけりゃならんのだ、とでも言いたげなため息だった。
鼻を鳴らし、アイマスクを装着。痛み止めの薬を飲むと、彼の意識は淀み、沈んでいく。すると、瞬く間に深い眠りへと落ちていった。さもありなん、取り繕ってはいたが、彼は相当な苦痛に襲われていたのだ。
部屋の主が意識を手放した今、病室には小さく響く彼の寝息と、彼の頭上を照らす桜色の光球だけが残されていた。
「うふふ、眠ってる顔もかわいいなぁ……。アイマスクがなければもっと良いけど、流石にそれは贅沢だよね……」
―――そして、そんな彼をねっとりと
彼が負傷したことに心を痛め、その無鉄砲さを諌めようとしたのは彼女の本心だ。かつての自分のように、大きな負傷をして欲しくはないから。だが、こうして弱った彼の寝顔を見て興奮を覚えるのもまた、彼女の本心だった。
彼は彼女と同じように、無理を押して傷ついて、何でもないと嘯く。心配する人の気持ちも考えないで。そんな彼の姿を見て、彼女が胸を傷めないはずがなかった。
―――昔の私を見ているようで、放っておけないなぁ。……でも、心配してあげてるのを不意にしたのは君だもんね。だから―――
「だから……このくらいの役得は、許されるよね?」
ただ、普段見ることの叶わない彼の弱りきった姿に滾る彼女もいた、というだけなのだ。……またも焼き増し決定である。レイハさんがまったくもって気の毒だ。結局彼が目を覚ますまで、サーチャーによる盗撮は続いた。……それでいいのか、管理局員。
☆☆☆
―――この人、なんか私と似てるなぁ。……うまく言えないけど、根っこのところが。
幼い頃から"良い子でいること"を自らに半ば義務付けていた彼女は、一人の少年と出会った。彼もまた、社会集団から排斥されないよう善人を装っている。僅かな共感から始まった観察の末、自分とよく似ている、と感じた彼への興味を抱くのは、ごく自然なことだった。
―――彼は、他人との衝突を避けようとする。それでも譲れないことがあれば、憮然とした態度を隠そうともせずに突っかかる。
―――彼は、誰かを助けたり、人の役に立ったと思った時に笑顔になる。ほんの少し口の端が上がるくらいだけど、すごくいい笑顔に。
―――彼は、自分から積極的に他人には関わらないけど、相手から来られた分には無下にはしないみたいだ。銃撃から庇った男の子相手だと、特に遠慮がない。……羨ましいなぁ。
―――彼は、誰にでも優しく振る舞うけど、私のことを避けているように思う。……なにか嫌われるようなこと、したかなぁ……?
―――……彼はきっと、本当の自分を押し殺している。普段の彼と、一人になった時の彼。びっくりするくらい雰囲気が違うんだもん。普段は無理をしながら振る舞ってるんだろうね。でも、優しい人だってことに変わりはないって、私にはわかるよ。だって、ずっと見てるんだから。
度重なる観察の末、彼女は彼のことを知り尽くしていた。避けられていることに気づいていても、この気持ちを止めることはできなかった。それに、彼は嫌がりはしても他者を直接拒むことはないと知っているのだから。
鈍感なフリをすれば、ある程度は押し切れる。露骨に落ち込むフリをすれば、バツの悪そうな顔を浮かべて、何かしらの埋め合わせをしてくれる。彼からすれば苦手な相手だろうに、優しさを絶やさずにいてくれる。彼女は、そんな彼へと惹かれていった。
―――彼女の努力が結実した夜、彼の心の仮面は剥がされた。仮面の下に隠された涙が、止め処なく溢れ出る。
「……僕は。いや、
「……誰にでも心から優しくできるところが嫌いだ。魔導師として、恵まれた才能があるところが嫌いだ。」
「なにより……俺自身よりずっと出来の良い自分理想を見せられているような、そんな気分になるところが……大嫌いだ……!」
「どうしてだ!?どうして俺は、君のようになれない!?打算塗れの仮面を被っても、君のように強くなれない!?優しく在れない!?」
―――
彼女は、穏やかな笑みを浮かべていた。彼の本音を聞けたから。心の奥まで自分と同じだったことが、嬉しかったから。
幼い頃の経験から、彼女は"無力な自分自身"が、なにより嫌いだった。だからせめて"良い子"であろうとした。魔法に出会ってから人助けに邁進していたのも、その延長線上だ。
彼女が他者を憂う気持ちは人一倍強い。だが、それと同時に他者の役に立つことで、幼い頃の無力な自分自身を慰めていた。
―――そこに、鏡のような彼が現れた。
幼い頃の自分に、手を差し伸べてくれているような気がした。ただ泣いていただけの自分を慰めることを、肯定してくれているように思えた。
「いいよ。辛くなったら、私が本当の君を受け止めてあげる。慰めてあげる、癒してあげる。だから―――くんも、私のこと、受け止めてね?」
―――彼を癒せるのは、私だけだ。
泣き腫らす彼を抱き留めながら、彼女は昏く微笑んだ。苦悩をぶつけた彼を慈しむように、互いに欠かせない存在だと刻み込むように、彼の心を絡め取るように。"高町なのは"という存在が彼の唯一無二になることを願いながら、眼前の彼を想う。
―――どうか彼の心が癒されますように。私と共に、ずっと歩んでくれますように。
寂しさを抱えた二人の心を、時間と人肌の温かさが埋めてくれることを祈りながら、少しだけ強く抱きしめた。
なのはさんって、きっと"無力な自分"が一番嫌いだと思うんですよね。それかトラウマになってて、無意識下で避けてるとか。
じゃないとあの献身っぷりに説明がつかないと思うんです。そんなお話でした。
……その割になのはさんの荒ぶりがやべーことになってますが、まぁご愛嬌ということでどうか一つ……。
ここまでご拝読ありがとうございました。誤字脱字や設定ミス、解釈が違う点などがありましたら、遠慮なく報告していただけると幸いです。
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