シャドウとの戦闘を終えた僕はネルに着いて"世界樹教団"という組織の本部へ連れて来られた。
そこに辿り着くまでに交わした話の流れで豪華な服装をした小人がエルフィンと呼ばれ、自分が今居る土地──エルフィンランドの女王であることがわかった。
………………見るからに統治者の器ではないことは言うべきじゃないな。
そう思って踏み止まったが、依然として訝しむ気持ちが止められそうにない。
「……それで、僕がその予言の教主かもってわけ」
教団本部の談話室で、サイズこそ小さいものの高級感溢れる見た目のソファに腰掛けてネルの言葉に耳を傾ける。
ソファが小さ過ぎて二席分占領してしまっているがエルフィンとネルは向かいに座っていて他に誰かが来る気配も無いのでひとまずはどうでもいいこととしよう。
「えぇ、その通りです」
「予言によれば我々が暮らす世界"エーリアス"の危機を救うため、“人間”が降臨すると言われています」
「……人間?」
「この教団には以前にも人間の教主様が居たのですが、あなたと身体的特徴が殆ど一致しているのです」
「……例えば?」
「例えばですか…そうですね、まずはヒョロ長い手足でしょうか」
「あなたも、あの方も、足が私の身長よりやや長く腕も頭から胴体までの長さはあったと思います」
場に飽きたエルフィンが席を立ち、床に寝転がり始めるのを横目にここまでの話を反芻してみる。
まず、予言が正しいとするならば、自分はこの世界の危機に対抗する為呼び出されたかもしれないということ。
そして過去にも人間がこの世界に呼び出されたことがあるということ。
しかし、その人間は今一体どこにいるのだろうか?
影時間が発生するこのエーリアスで、恐らく件の人間にはシャドウに対抗する手段は存在しない。
となると、まさか影人間に………いや、考えたくない。
「このエーリアスは今、滅亡の危機に瀕しています」
「夜中の0時を過ぎると私達のような一部の者を除いた人々が棺桶となり、普段とは比べようもない程に月が肥大化する現象が全土で起きています」
「何より危険なのは、昨日襲ってきたシャドウという我々にも一切を解明できていない未知の怪物が至る所に現れて……」
ネルは深刻な表情を浮かべ、しきりに縋るような視線をこちらに向けてくる。
彼女は目に涙を溜めていて、影時間の存在を知りながら何もできない自分が悔しいのか今にも泣き出しそうだった。
「それで……君達は僕の力を借りたいってことだね、それなら喜んで力になるよ」
助力に関して特に断る理由もなかった。
寧ろ、それまでの全てを鑑みればそれを断ってはいけない気さえしてくる。
影時間を知っていて何もできないネルの辛さも、シャドウに襲われる恐怖も、それを無視してしまえば僕は何のためにここへ来たというのか。
「ほ、本当ですか…!?なってくださるんですね、我々世界樹教団を導く教主様に!」
「…それはどうだろうね…あはは…」
「……でも、絶対に君達を守る」
「それだけは約束する」
「きょ、教主様……!」
頬を赤らめて、嬉しそうに目を見開くネルを見ていると何故だか心が温かくなる。
それから暫くして、ネルに貸してもらった寝室で横になっていると、僕はある失態に気づく。
「……待って、この世界について説明を受けてない」
そう、世界観説明の一切を受けていないのである。
というよりは受ける機会を逃したと言うべきか、雰囲気に呑まれて忘れてしまっていた。
「じゃあ、あたちが教えてあげるね」
「!?」
外から差し始めた陽の光に照らされて、噛んでる途中で飽きられておもちゃにされたガムに小さな胴体をつけたようなシルエットが目に入る。
しかもそれは宙に浮いていて、さながらファンタジー系の創作物に登場する妖精のようだった。
「あたちはブルミ!来るのが遅くなってごめんね、教主ちゃん?」