「あたちはブルミ!来るのが遅くなってごめんね、教主ちゃん?」
「……いや、僕はまだ教主になったわけじゃ…」
突如現れたブルミという小さな存在は僕の周りを飛んで品定めするようにこちらを観察している。
一体何だというのだろうか、ネルといい予言といい世界全体が僕を教主にしようとしているような気がしてくる。
この小さな存在だってそうだ。
「……ちょっと?」
「ふーん、確かにこれなら今のエーリアスもなんとかしてくれそう!親分も中々見る目があるよ」
「あなたの名前は?」
訳もわからないまま勝手に観察され、分析され、認められて困惑していると、突然名前を聞かれた。
名前も知らない相手を救世主と認めたのか、そう思うと色々と心配になる。
「……僕?僕は…えーと…………なんだっけ」
「結…汐……理…さ…」
……まずい、名前が出てこない。
自分の名前を忘れるとは、僕もブルミのことが言えないかもしれない。
必死に過去の記憶を呼び起こす…。
「……キタロー?多分」
かつてそう呼ばれていたような気がする。
ただそんな気がするだけだし、そもそもそれが本名な訳がない。
それでも自分が思い出せる範囲では自分はキタローだった。
「キタローちゃんって言うんだ!よろしくね」
それからブルミは僕にエーリアスのことを事細かに説明してくれた。
どうにもこの世界には"死"という概念が存在しないらしい。
しかし、死が存在しない世界で"死そのもの"が引き起こす現象が発生しているという現状が引っかかる。
それに加えてこの世界で発生する影時間に関する情報も幾つか得られた。
凡そ既に持っている情報ばかりだったが、それは今までのノウハウがこの状況においてそのまま活きることを意味している。
これを知ることができたのはそれなりに大きい。
「影時間ってのが起きるようになって親分、すっごく困ってる…」
「シャドウに襲われた子は親分が嫌いな"死ぬ"ってのと似た状態になっちゃう…」
こちらの影時間で僕が知るものと異なる点、それは無気力症もとい影人間化の症状だ。
僕が知る限りでは影人間になっても自発的に動かすことがないだけで体は動く。
しかしこちらは体が完全に動かなくなって抜け殻のようになるという。
それは確かに"死ぬ"ということに似ているように聞こえた。
「……わかった、僕がなんとかする」
既に決めていた、ネルとも約束していた。
影時間は僕が収束させる。
「本当?ありがとうキタローちゃん!」
「親分も喜ぶよ!」