見てるか!直哉!!
呪力は腹で。反転術式は頭で。そして、黒閃はチンチンで回すんだ。
自分でも何言ってるのか分からないぞ!責任とれ、直哉!!
禪院家の廊下は嫌いやった。
無駄に長い。
無駄に静か。
無駄に人を見下しとる。
畳を踏む音ひとつで、「格」が測られる場所や。
歩幅。
姿勢。
視線。
呼吸。
全部見られとる。
せやから俺は、ガキの頃から考えとった。
――どう動けば、一番美しいか。
答えは単純やった。
“最適化”。
人間の動きには無駄が多すぎる。
術師は特にそうや。
感情で動く。
怒りで呪力が乱れる。
恐怖で呼吸が狂う。
アホや。
そんなもん、“揃え”ればええ。
24fps。
1秒を24枚に分割する。
その一枚一枚に、自分の動きを当てはめる。
呼吸を吸う。
止める。
吐く。
瞬きをする。
視線を切る。
重心を移す。
全部、コマ通りに。
最初は遊びやった。
せやけど、途中から気づいた。
これ、術式と噛み合っとる。
俺の投射呪法は、“24fps”で世界を区切る術式や。
なら。
身体そのものも24fpsに合わせたらどうなる?
俺は試し始めた。
歩行。
食事。
戦闘訓練。
風呂入る時までやった。
髪を洗う動作。
湯を流す角度。
タオルを取る速度。
全部、24fps。
最初は酔った。
吐きもした。
24fpsで動くことができずに、1秒のフリーズが数え切れんくらい続いた。
人間の脳は、本来そんな精度で動くよう出来とらん。
けど俺は天才や。
慣れた。
いや、適応した。
その頃にはもう、普通の人間の動きが気持ち悪く見えとった。
ズレとる。
全部ズレとる。
一歩遅い。
一瞬鈍い。
一呼吸余計。
アカンな……そら弱いわ。
ある夜、俺は自室で一人考えとった。
黒閃についてや。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間。
空間は歪み。
呪力は黒く光る。
術師なら誰でも知っとる。
黒閃を出せた術師と、そうでない術師とでは絶対的な壁がある。
呪術師は、出せるもんなら出したいと思うとる。
けど、誰も狙って出されへん。
偶然やから。
……ほんまに?
そんなわけあるか。
偶然で説明できるなら、才能なんてもん存在せえへん。
きっとあるはずや。
再現方法が。
問題は、同期やった。
肉体。
意識。
呪力。
その三つを完全に一致させる。
でも戦闘中はノイズが多すぎる。
殺気。
緊張。
反射。
アホみたいに、余計な情報が入ってくる。
なら。
一番集中できる行為ならどうや?
そう考えた時点で、答えは出とった。
オナニーや。
誰にも邪魔されへん自分だけの空間で発揮するパフォーマンス。
集中せんはずがないわ。
「……理にかなっとるな」
俺は真顔で頷いた。
そうと決まったら、行動は速かった。
近くのGEOへ行って、18禁コーナーの暖簾をくぐり抜けたわ。
もちろん24fpsでやで。
ネットでFANZAのランキング上位のAVでも買わへんのかって?
それは雑魚の発想や。
黒閃には周囲の温度、湿度、風の揺らぎ……いくつもの要因が関係しとる。
なら、俺の息子の状態も関係しとるはずや。
モニターから出力された平面に興奮すんのは、ザコいで。
パッケージを手に取って、息子に聞くのが筋ちゃうか。
----禪院家に帰宅------
レンタルしたDVDをPCに挿入させ、再生させる。
しばらくすると、本編が始まった。
ここからが本番や。
まず呼吸を固定。
四フレームで吸う。
二フレーム止める。
四フレームで吐く。
心拍を合わせる。
視線を落とす角度も一定。
肩の力を抜くタイミング。
指の動き。
全部、24fps。
完璧に。
精密機械みたいに。
ギチギチに制御する。
「……ッ」
集中。
もっとや。
呪力を流す。
一定。
均一。
滑らかに。
肉体とのズレを消す。
脳内で、世界がコマ割りされる。
一枚。
一枚。
一枚。
その瞬間やった。
カチリ、と。
何かが噛み合った。
世界の“位相”が揃う感覚。
肉体と呪力の境界が消える。
遅延ゼロ。
誤差ゼロ。
そして――
バチィッ!!!
射精と同時に、黒い稲妻が爆ぜた。
「は?」
衝撃で壁が吹き飛んだ。
部屋の障子が弾ける。
床板が割れる。
呪力の残滓が黒く散る。
静寂。
俺は固まった。
「…………」
右手を見る。
黒い火花がまだ散っとる。
「…………」
今の。
まさか。
「黒閃?」
沈黙。
数秒後。
「はは」
笑いが漏れた。
「は、ははは……!」
なんやそれ。
なんやねん、それ!!
術師が命懸けで追い求める境地に、俺は今、シコりながら到達したんか?
アホやろ。
けど理解した。
理論は合っとる。
黒閃は偶然やない。
“完全同期”。
それが条件や。
そして俺は、それを再現できる。
24fpsで。
「……なるほどなぁ」
笑いが止まらん。
天才。
そうや。
俺は天才や。
悟くんとは違う。
あいつは生まれながらの完成品。
けど俺は違う。
考えて、
積み上げて、
理屈で怪物になる。
その時。
襖が勢いよく開いた。
「直哉様!! 今の呪力反応――」
入ってきた使用人が固まる。
破壊された部屋。
黒閃の痕。
そして半裸の俺。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙。
俺はゆっくり息を吐いた。
「……誰にも言うなよ」
「え?」
「殺すぞ」
使用人の顔が真っ青になる。
せやけど俺は、妙に晴れやかな気分やった。
世界が変わった気がした。
もっと速くなれる。
もっと強くなれる。
もっと美しく。
もっと完璧に。
24fps。
世界は、その速度で回っとる。
なら俺は、あっち側へ行く。
続くかどうかは、直哉に聞いてみないと分かりません。
直哉ー!!この後、続きいけそうか?
直哉『作者は人の心とかないんか?』