新米プロデューサー(最強アイドル)vs初星学園   作:にこやか

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403 Fobidden

 

 第四次アイドルブーム。アイドルという概念が誕生してから長いが、その中で訪れた四度目の波。

 アイドル業界各社がその波に乗らんと凌ぎを削る中、業界大手たる100プロダクションも、また戦っていた。

 

「次は?」

「22時より、IVEX社様との会食となっております」

「遅すぎるだろうに……星南の小言は痛いんだ」

「父親に社長、重責ですな」

「ふん、やり甲斐に満ちてるよ」

 

 100プロダクション社長、十王龍正。当然多忙な彼は、本日も遅めのミーティングを終わらせたところであった。

 ビルのエントランスを歩きながら、秘書と小言を交わす。

 

「正面に車を待たせております」

「よし。……んん?待て、電話だ」

 

 龍正のスマホが揺れた。なんだこんな時間に……と思いながら彼はポケットよりスマホを取り出す。

 画面に表示されていたのは、『商売敵』の文字だった。

 

「……何故、今」

「社長、どうされましたか?」

「何でもない。……電話だ、少し外す」

「承知いたしました」

 

 込み入った話か、時間の無駄。恐らく2択だろうなと彼は思いつつ、エントランスの隅へと動いた。

 普段の彼なら、車の中で折り返しただろう。だが、そうしなかった。

 ガラス張りの壁から外を眺めつつ、彼は電話を取る。

 

『夜分遅くに失礼致します。十王社長のお電話でお間違いございませんか?』

『気色悪いぞ、平』

『つれねぇなぁ、正』

 

気軽く言を交わすのは、龍正としては珍しい事だ。彼の愛する娘でさえ、この様子を見れば驚く程に。

 

『それで、何の用だ』

『アンタらの庭に用があってね』

『初星か』

『あぁ。それも導く方に』

『プロデューサー科か?生憎だが、初星は親父の菜園だぞ』

『知ってるさ。一つ、提案があってね』

 

 龍正は大手たる100プロの社長だ、凡百ならとっくに電話を切られているだろう。胡乱げなやり取りに付き合う趣味も、彼には別にないのだ。

だが、龍正にはこの会話を打ち切らない理由があった。それは、相手が友人だからでは無い。

 

『聞こう。言ってみろ』

『ウチの残った方が、プロデューサーをやる気だ』

『……なんだと!?』

『2年前の神話、忘れてないだろ?』

『自分で言うのか、それを』

『価値は大きく見せるモンだ。403プロの残照、第四次アイドルブームの中心、違うか?』

 

 龍正は思い出していた。第四次アイドルブームの火付け役、僅か5年で神話になったアイドルユニット。

 そして電話先に居るのは、それを送り出した、403プロダクションの社長。汐見、龍平であるという事を。

 

『伊里、可叶がプロデューサーを?』

『そうだ。アイツ、まだ大学行ってねぇんだよ』

『待て。伊里はアイドルとして怪物だが、プロデューサーとしては素人だろう?』

『当たり前だろ。だがよ、アイツはウチの西崎を隣で見てんだぜ?』

『346の重機か……!』

 

 龍正は揺れる。403は、僅か5年で神話になった。東京ドーム55000席、当然チケットは完売。追加枠の5000を入れたとて、チケット当選確率は脅威の5%という有様。

 話題に登った西崎は、403プロのプロデューサーであった。

 元346プロ営業部一課に居たその男。当然、龍正も知っている。何度もコンペで争い、煮え湯を飲まされた相手だ。

 規模の346、そこの営業は並大抵では務まらない。純粋な企画力で勝とうと思えば346の規模に負け、絡め手は西崎の営業力で押し潰される。彼に着いたアダ名は重機。残当である。

 

『どうだ?不足か?』

『何故、俺に話を?初星なら親父だろう』

『分の悪い方に話を持ってくバカが、何処にいるんだよ』

『……まぁ、そうか』

 

 龍正は龍平の理屈を悟った。龍平は元961のアイドル事業部、本部長。管理主義、合理主義的な色が強い。だからこそ、龍正と仲良くなったと言える。

 当然、絆や努力の765的思想を強く持つ現会長、十王邦夫と相性が悪い。

 

『ダメならダメでいいぞ、無理は承知だ』

『……拒否したら、伊里は何処へ?』

『古巣が学園やってるしな。そっちにも掛けてみるかねぇ』

『極月に連れて行くのか?』

『あの人なら取るだろ。間違いなく』

 

 龍平の言う通りであった。961プロの経営する極月学園は初星の同業だが、より合理的な傾向が強い。龍平と961プロ社長との確執があるとは言え、時代を獲ったアイドルを蹴るとは、龍正には考えられなかった。

 当然、龍正は理解している。これは交渉であり揺さぶりだ。お前が蹴れば、商売敵に特大の塩を送ることになるぞ、という話。

 

『相変わらず、嫌な交渉を仕掛けてくる』

『いい夢をアイツには見させて貰ったからな。親心って奴だよ』

『ふん。……親父の判断次第だぞ?』

『お前から言えば通るだろ。あのFulleRだぜ?初星の学生達にも、いい刺激になるさ』

『よく言う。どう考えても劇物だろうに』

 

 403プロ唯一のアイドルユニット、FulleR。亜良美郷、伊里可叶の二人で構成されたそれは、幾つもの大記録を5年で打ち立てた。

 総ナメにした大会やオーディションは数知れず、THE DEBUTに始まり、SIDE、歌姫楽宴、THE LEGEND、HI-FIVE。最終的にはアイドル・アルティメイト、パーフェクト・ヴィーナス、DANCING!!!のアイドル三冠、グランド・スラムを成し遂げている。

 アルバムにも神話は色濃く残り、ダブルミリオン1、ミリオン2。アルバム文化が死滅する中で残された、不滅の大記録である。

 

『劇物とて薬だ。100プロによく効く処方箋って奴さ』

『知った口を聞きやがって』

『欲しいんだろ?突出が』

『…………』

『100プロは育ちが良過ぎる。そんな環境じゃ秀才は安定して生まれるが、天才は生まれんよ』

『今の話、親父に伝えといてやる』

『勘弁してくれ。……で、取ってくれんだな?』

『最終的には親父次第だが……まぁ、取るさ』

『その言葉が欲しかった』

『だが、入った後は知らんぞ?』

『あ?』

『落ちぶれようと、妬まれようと、嫌われようと、そこまで面倒は見れん』

 

 いい様に条件を呑まされた龍正最後の嫌味であったが、それを聞いた龍平は大きく笑った。

 アッハッハ!と品の無い、大きな笑い声が龍正の耳に大音量で届く。龍正の握るスマホに、力が籠る。不愉快であった。

 

『おいおい……。普通の学生だと思ってんのか?』

『神話とて、結局は一人の少女だろうに』

『忘れてねぇか?俺と西崎が人生を賭けるに値すると、ノータイムで感じたんだぜ?』

『だが』

『そして、亜良が相方に選んだ少女だ』

『……余り、調子に乗るなよ』

『じゃ、頼んだぜ。書類の郵送先とかは後で連絡するから、よろしく』

『あぁ、分かった』

 

 決まった瞬間トントン拍子に進むのは業界人の性である。要件は聞き終えた、そう龍正は判断し、電話を切ろうとする。しかし、通話を切ろうとした手が止まる。彼の胸に湧いた、一つの問い。

 

『……おい、平』

『……なんだ?』

『もう、戻らないのか』

『やり切ったよ。終わりが世の中にどう映ろうが、興味は無いね』

『そうか、残念だ』

『……ま、伊里が残ってる内はちょこちょこ何かやるさ。その時は、よろしく頼むよ』

『勿論だ。また、呑みにでも行こう』

『そうだな。セレナーデ、予約しとくぜ』

『はは、頼む』

 

 龍正は同業の相手では無く、一人の友人として言葉を交わした。セレナーデは二人が知り合った頃、よく入り浸っていたバーであった。

 片や夢の途中の人間、片や夢を叶え終わった人間。されど、友人であった。

 今度こそ切れた通話、龍正はぼんやりと黒くなった画面をしばらく見つめていた。

 

「お電話は、終わりましたか?」

「随分時間を取った、すまない」

「いえ、まだ十分間に合いますとも」

 

 タイミングを見計らって声を掛けて来た秘書に言葉を返しつつ、車へと歩いていく。

 停車場に待たせていた車に乗り込みつつ、龍正はまた別へ電話を掛けるのであった。

 

『……親父か?話がある』

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