新米プロデューサー(最強アイドル)vs初星学園   作:にこやか

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既知との遭遇

 100プロダクションの"庭"。そう業界人には語られる、初星学園。学園の理事長室に、彼女は居た。

 マスクを耳に掛け、部屋の奥にある窓から外を見ている。異常なほど、完成された顔。スーツ姿のシルエットは、モデル体型の究極。鋭い顔立ちが、物憂げにしている。

 曰く、シャープ顔の完成形。女性が見て、憧れるタイプのシルエット。腰まで届く黒髪が、頭が揺れると共に揺れている。

 扉が開く、入って来たのはダンディな老人。背筋は伸びきり、カイゼル髭を撫でている。

 

「待たせたかね?」

「いえ、然程」

「それはよかったの。……いい、景色じゃろう」

「はい」

 

 うむうむ……と満足そうにしながら、皮張りの椅子へと座る老人。そのまま、椅子を回して彼女の方を向く。彼女は、変わらず外を見ていた。

 

「さて、面談を始めようかの」

「……よろしくお願いします」

「いい挨拶じゃ。プロデューサー科の選抜で、ワシが面談をするのは珍しいんじゃぞ?」

「そうなんですか」

「そうじゃよ」

 

 独特な空気感を纏う、彼女。百戦錬磨の老練を醸し出す、老人。この部屋は今、常人なら耐えられぬ空気に満ちていた。重くはない、緊張感がある訳ではない。ただ、存在が強いのだ。

 老人は机の上に置いてあった資料を手に取り、一枚捲る。ペラッ、と鳴った音に呼応して、彼女は老人の方を向いた。

 

「では、名前から聞こうかの?」

「伊里、可叶です」

「ま、知っとるがのう。君も、ワシの事を知っとるだろう?」

「十王邦夫、学園長ですね。……お久しぶりです」

「うむうむ、久しいの」

 

 窓辺に立つ、可叶。椅子に座り、口元を曲げる邦夫。明かされた名前は、共に日本芸能界に燦然と輝く人物である。そも、お互い同業であった。

 そう、この部屋に居るのは、日本アイドルの元頂点と、一代で日本有数のプロダクションを立ち上げた実業家である。

 

「そして、プロデューサー科志望とな?」

「はい」

「何故じゃ?」

「一人では叶えられない夢を、形にする手伝いがしたいから」

「詳しく聞かせい」

 

 可叶の青い瞳が、邦夫を射貫く。凪いだ水面のように、静かな瞳。邦夫は、その内に宿る決意を感じ取った。だが、これは面談である。

 

「私には才能があった。でも、それだけだと、あそこまで行けなかった」

「ふむ」

「ドラゴン社長、ブルドーザー、バカ、千手姉。403の皆がいたから、私たちは東京ドームに立てた」

「……」

「頂点は獲った。なら、あとは後輩のお手伝い」

「そうか」

「うん」

 

 生半可な答えであれば、幾ら息子の願い、合理的な選択だとしても邦夫は落とすつもりであった。だが、可叶の答えは邦夫にとって満足できるものだった。

 実績の無い者が言えば平凡な解答だろう。されど、可叶はアイドルの頂点を獲っている。その上で、出てきた解答がそうであるのなら、説得力を持ってそうなのだろう。少なくとも邦夫は、満足してしまった。

 

「才あるものは、斯くあるべし」

「……斯くあった結果がこれ。事務所、大爆散」

「ガッハッハ!違いないわい!」

「でも、後悔はない。無限に広がり、ビッグバン」

「そうじゃのう!ともすれば伊里君はアレかね!」

「そう、私は宇宙」

「ガハハハッ!」

 

 真顔で冗談を連発する可叶に、笑い殺されそうになる邦夫。しばらく笑い、肩で息をしながら可叶を見据える邦夫。猛獣の笑みを見せながら、彼は一言。

 

「うむ!合格じゃ!」

「やった」

「よいプロデューサーになるじゃろう!ワシのお墨付きじゃあ!」

「わーい」

 

 面談は終わり、と言わんばかりに資料を机に投げる邦夫。可叶は薄く笑っている。シュールな絵面であった。

 

「この後、暇かの?」

「うん」

「聞きたい事が山ほどあるんじゃ、いいかの?」

「いいよ」

 

 邦夫も当然、可叶の事が気になって仕方ない。邦夫は芸能界に名を残す傑物だが、可叶は教科書に乗るレベルの偉人なのだ。同業として、一人の人間としての質問が尽きる訳がない。

 よって、可叶はプロデューサー科の入学を認められたのだ。余談だが、彼女は筆記も当然通過している。コネだけで入った訳では無い。順位は合格者中央値の少し下である。高卒アイドルには高めのハードルであった。

 

「満員の東京ドームはどうじゃった!?」

「光の海だった。でも、一番熱さを感じたのは、暗闇」

「ほう!どうしてじゃ?」

「暗闇に、皆の目がある。視線に焼き殺されそうになったのは、アレが始めて」

「12万の瞳が、二人に向いておったからか」

「最初から緊張の向こう側。でも、楽しかった」

 

 来場者6万人を記録した東京ドーム、目的はたった二人の歌と踊りにパフォーマンス。立った者にしか語れぬ、そして何人が立ったことがあるのか。何とも言えない表情で可叶はいう。

 邦夫もまた、焦がれる者。100プロはまだ、東京ドームを知らない。いや、東京ドームを知るプロダクションが幾つあるのか。見栄で語るのではなく、正真正銘の満員。邦夫が興奮するのも無理のない話である。

 

「グランドスラムの瞬間はどうかの?」

「結果発表が大変だった。美郷のバカが、最初の『DANCING!!!』で一本指を立てやがったせいで、全部獲れなきゃダサになるのが確定した」

「アレは最初から意図しておらんかったのか!?」

「うん。後でプロデューサーが頭抱えてて、社長が爆笑してた。だから、一冠目は私やってない」

「なるほどのう……」

「『アイドル・アルティメイト』だけ、本当に発表まで結果を知らなかったから、あの瞬間も緊張した」

「じゃろうな」

「まぁ、勝ったから笑い話。美郷は後でシバいた」

 

 ニヤリと三本指を立て、笑う可叶。邦夫はホクホク顔である。こんなに軽い感じで話しているが、『DANCING!!!』は国内最高と言われるダンスの祭典。『アイドル・アルティメイト』に関しては、オーディション路線のプロアイドルが最後に目指す頂点である。語られていない最後の一冠『パーフェクト・ヴィーナス』については、現役のモデルや女優が挑んで負ける、ヴィジュアルの魔境である。

 そして、この三つを同年に制覇する偉業がグランド・スラム。本当に、こんな軽さで語るものではないのだ。トップアイドルと呼ばれる者でさえ、この話を聞いていれば一生モノの経験になるレベルである。

 

「『アイドル・アルティメイト』結果発表の瞬間、どういう気持ちじゃった?」

「どう考えても勝ってる。美郷も同じだったと思う」

「なぜ、そう思えた?」

「私の頭と心の全てが、他のアイドルに勝ってるって判断してた。それを信じないで、アイドルなんてやれない」

「剛毅じゃのう!」

 

 ガッハッハ!とまた笑う邦夫。可叶は真面目な顔をしていた。可叶は正に傲慢であるだろう。されど、それを語ってなお謙虚と取れる程の実績があるのだ。

 

「……結構、時間が経ったかも」

「おぉ、すまんの!つい面白くてのう」

「また話す機会はある。学園長が作れば」

「確かに!君は春から、本学の生徒じゃ。それなら、幾らでも呼べるのう?」

「プロデュース活動の支障にならない程度で、お願い」

「当たり前じゃ!」

「ならよかった」

 

 うんうん、と可叶は頷いて、部屋から出ようと扉へ向かう。扉のドアノブに可叶が手を掛けた時。

 

「期待しておるぞ、伊里君」

 

 邦夫が一言、可叶の背中に声を掛けた。可叶は手を止め、振り返らず返した。

 

「やるだけやる。いつも通り」

 

 元アイドル、伊里可叶。初星学園プロデューサー科、入学。アイドルの卵達の中に入った、本物。彼女は初星学園へ、どのような影響を齎すのか。

 

───今はまだ、誰も知らない。

 

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