紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 無辜の怪物:D++
 人々の誤った認識が座に登録された在り方を大きく歪めた証左となるスキル。
 彼女の場合、世に広まった作品のキャラクター像が彼女への見え方として反映されている。
 そして彼女にとって最も不幸なのは、周囲が女性像のブレを無くした瞬間それが事実として反映される事だろう。
 一言で言えば「周りがこういう女の子だと意見を一致させたら本当にそうなる呪い」。




繋がれた童話

 

 

 人は時にどうしようもなくやらかす事がある。

 そして、気付いた時は大抵手遅れだ。

 

 例えば財布を家に忘れたり、今日出す宿題をやってなかったり、仕事の連絡を入れ忘れてたりな。

 だけどこれはまだマシで、本当にヤバい時っていうのは()()()()()()をしたと気付いた瞬間だったりする。

 

 例えば新人が挙句に…とか、良かれと思って…とか、大したことないと思って…とか。

 そんな時どうするのかといえば、どうしようもないと笑って諦めるか、どうにか頑張って収集をつけるかだ。

 

 

 こんな話は退屈だって? そりゃ失敬。

 俺もそろそろ現実を見なきゃいけないと考えてたとこだ。気が合うね。

 

 

「私の名前はマキリ・ゾォルゲン。

 ‭─‬‭─問おう。お前が私のサーヴァントか」

 

 

 だが…その前に一つ聞かせて欲しい。

 一体どんな罪を犯したのなら、こんな漕ぎ手不在で大海に放り出されるような事態に……。

 

 ロンドンの時計塔に居た頃の、マキリのサーヴァントとして召喚される事態になっちまうんだ?

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 俺は広義の転生者と呼べる者だったと思う。

 コンビニから出たと思ったらいつの間にか訳わからん言葉を並べ立てる連中の前に居て、色々と苦労はしたが老衰で死ねる程度には人生を送った。

 チートもなく言葉も分からない中でそれだけ出来ただけ上等だと思っていたが、どうやら俺が転生した先は型月の世界であったらしい。

 

 それだけなら単なる不運な奴が居たってだけで済んだが、俺は生前ちょっとばかし望郷の念に駆られて…正直に言えば少しでも蛮族の集団での地位を高める為に現代の話を書いた。

 ああ、文字で書いた訳じゃ無い。

 

 翻訳ってのは言葉を覚えるのに役に立つが、生憎蛮族共は文字を持ってなかった。

 しかし情報の価値を知ってる現代人がその程度でへこたれる訳もなく、狩りを手伝いながら大自然から紙を作って、色を見つけて、言葉を学んで、工夫を凝らした20枚で紙芝居を仕上げた。

 

 少ない材料(リソース)で成立するよう短編を。

 子供でも分かるように童話を。

 相手の感性の傾向を分析して西洋寓話風(グリムライク)に。

 雰囲気に呑まれてくれるようにパイン木から貧相でも小さな劇場を。

 素晴らしい物と分かるよう隠し味に十字架を彫って。

 皆さんよってらっしゃいみてらっしゃい。1・2・3で始まり始まり。

 

 どうだ素晴らしいだろ? 不思議だろ? 心がステップを踏んだだろ? 感動で自然と拍手してるだろ?

 だから俺が1番すごいってことでいいな!

 

 そんな訳で一夜で蛮族一の人気者になった俺は死ぬまで語り部という楽なことをして悠々自適に死んだ。狩りをしなくていいってホント素敵よね。どんな冒険で得るお宝より価値があるわ!

 

 

 だがここは型月である。

 

 

 古さは力で、分からないは神秘で、げに恐ろしき夜の怪物と絢爛輝く英雄が闊歩する人外魔境。

 セファール(白くてデカくてキラキラしてる大怪物様)から逃げようとTip Tapと焦ってるのかのんびりしてるのか分からない歩みで人の発展が成される世界。

 

 何が恐ろしいって、勝手に嘘が重なって本当になっちゃう所。

 

 ただの蛮族は古き神秘を宿したブリテンの祖となる民で。

 ただの紙芝居は賢者/神/天使/聖霊/悪魔/旅人がやった御話で。

 ぐうたらする為にやった事が知恵の伝授になって。

 100年も経たずに絶えると思ってた話は国建神話になり、寓話になり、童話になり、子守唄になった。

 そして英霊召喚でポップした俺の脳に溢れ返る‭─‬‭─存在しない記憶(聖杯から与えられた1888年の常識)

 

 笑っちゃうよねー! 何が悪かったか教えてくれよ。

 自己顕示欲出してちょっと盛った自伝の話を作ったことか?

 それともグッズ販売と称して誰でも創れる玩具(おもちゃ)を売ったことか?

 メタフィクションは盛り上がるかなと一回だけ適当な子供1人芝居に参加させた事か?

 

 どこがおかしいんだろう。やっぱり蛮族の家にガラスの窓が無いことかなあ。

 窓がないと家に居ても落ち着かないからなあ、死ぬ直前に粗悪だけどガラス窓作ったのが1番悪かったかもなあ。

 

 

 さて、脱線し切った所で話を冒頭に戻すとしよう。

 そんな訳で俺が生前にやったちょっとした行いは、幻想という最も理解から遠いものに塗り固められ中身が伴わない筋肉マッチョマンな俺を創り上げた。

 ……そう。

 

 ‭─‬‭─ご察しの通り伝間とは裏腹に召喚される俺は雑魚だ。

 

 本っっ当に雑魚だ。呼び出されたのは神秘が少しも宿ってない俺!

 なんかもう申し訳なさすら感じるが、どうやら抑止力も雑魚を噂通りにするリソースを出す気は無いらしい。もしくは登録だけで虚像の俺は力尽きてしまったようだ。なんだこの筋肉スカスカだな。

 

 ……それだけならマキリの旦那が可哀想なだけ済んだ。

 問題は時期である。

 

「……どうした? 召喚に不備は無い筈だが」

 

 ロンドン、若いマキリ、1888年。

 

「ふむ…いや、問題はないな。単に寡黙なのか?」

 

 地下より下の地下、聖杯?…からなんかもう既に溢れてる"泥"と"霧"。

 

「…まあいい。どの道お前にはここで"泥"に侵されて貰う。

 令呪を以って‭─‬‭─」

 

 どう見てもロンドン特異点だしどう考えても何故か俺の立ち位置アルトリア槍オルタだしその前に泥を被せられるって本当罰として重すぎやしません? やめませんか一般人にその泥を被せるのは!

 絶対「この世全ての悪(アンリ・マユ)」由来じゃんねえもうやめましょうよ!

 

 命がも"っだい"な"い"!

 

「‭─‬‭─それはやめておいた方がいいな、若人」

「…なに?」

 

 止まったぁぁああ!!

 なんか色々原作知識と違う気がするけど今は兎に角ベラ回すしかねえ!

 持ってくれよ俺の身体! 思い出せ記憶! ベラ回し3(べえ)だぁぁぁあ!!

 

 ゲーティアの思想に共感してそう! あいつ失敗するからやめた方がいいよ!

 その先の第二部的考えてもさぁ! あそこら辺事情が混み合ってよく分かんないけど結局お前らの本当にやりたいことはもっと細やなものだったのは分かる! ゲームやって見てきたから分かるもん! 嘘じゃ無いもん!

 兎に角俺に泥を被せるのはやめろよ? あーうんうんそれは間が悪いね。 あ、でもこのまま特異点作られないとそれはそれで原作壊れるのかなー?

 まあ座れよ、焚き火(大聖杯?)を囲みながらよぉ!

 

 やったぜ。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 この世全ての人間は更なる進化を果たすべきだ。

 

 それがマキリ・ゾォルゲンの宿願()()()

 

 

 

 時計塔にロシアの血を身に宿す……いいや、これは正しくないか。

 

 時計塔に、蟲の怪物と成り果てた魔術師が居た。

 名をマキリ・ゾォルゲン。300年よりゾォルゲンの当代の席に座り続けてる蟲。

 今となっては成し遂げられぬ夢に消えようとするなれ果てだ。

 

「未来を見せてやる。200年先のお前の末路だ」

 

 ある日のことだ。私はレフ・ライノールと名乗る男と会った。その者は星をより良くしたいと、私と方向性は違えどより素晴らしき未来への大願を胸に宿す男だった。

 意気投合した私は夜通し彼と会話を交わし、その末に彼の"未来を見る"魔術で将来の自分を垣間見る機会を得た。

 

[げっひゃっひゃ! 甘露甘露!]

 

「─‬‭─これが私なのか?」

 

 ……到底、受け入れられるものではなかった。

 私は己に宿っていた血が育める限界を悟り、されど成し遂げられる事があると信じて大願を胸に人の世を生きてきた。

 確かに時には他者を贄に延命する事もあったが、それはいつだって心苦しく、犠牲となるのを受け入れてくれる善人の支えで成り立ってきた。必ず、それに報いると誓い続けてきた。善い未来を想像してきた。

 

[いや! いや! 助けて、おねえ]

[来はせんよ。桜、お前はもう間桐の人間なのだからなあ?]

 

「これが……私の末路なのか?」

 

 だが……彼が映し出した未来は到底、そんなことは成し遂げられて居なかった。

 いや寧ろ…その私は幼い子供を痛ぶり、あまつさえ……!!

 

「どうすれば……"こう"ならない為にはどうすればいい!?

 どうすれば……これまで重ねた罪は赦されるんだ」

 

 幻覚、捏造、偽装、空想。

 全て疑って、我が才覚は確かに未来の、避けられない景色であると証明した。

 確かに未来を予測して…寧ろ…"過去に映像を送っている"とすら言える離れ業だった。

 疑うほどに現実が突き付けられ、目眩がして、現実が揺らぎ、自分が立っているのか座っているかも分からない程、彼の魔術は正確無比だった。

 

「ならば協力しろ」

 

 そして何故私なのかという疑問が湧き上がった。

 この男は何故こんなことを。なぜこんな魔術を使える。なぜ私の前に現れた。

 何故、何故、何故……。

 

「"新たな人類を創造する、我々の計画に"」

 

 宿願だった。

 

「顔をあげたな? 宜しい、協力に感謝する。マキリ・ゾォルゲン」

 

 私は人に更なる進化を齎す為に邁進した。

  /その為に背負いきれぬ死が足枷となった。

 

 私が成し遂げれば全ての罪が赦される。

  /その為ならどんな犠牲も払えた。

 

 私の宿願は彼と出会う為にあったと知った。

  /これまでの歩みを無駄な努力にしたくなかった。

 

 

 だから私は特異点を作る為、ブリテン最古の幻想の世界(テクスチャ)をロンドンに重ねる為、建国神話の冒頭に出る未来を知る預言者が遺した20の絵、その一つをあらゆる犠牲を払って手にし、触媒にして召喚した。

 そこにレフが一度見せた未来の私の映像に、僅かながら映っていた大聖杯の模造品にアンリマユの泥を確定した未来を利用した逆説的な証明で呼び出し、最古の幻想を固定錨(アンカー)にして世界を顕現させ、この時代に固定化した神秘を以って歴史の特異点とする。

 

 それが私が計画した特異点の構図で……。

 

「─‬‭─それはやめておいた方がいいな、若人」

「…なに?」

 

 たった一言、300年生きた私を若者呼ばわりする名も知れぬ賢者の声に、思わず手を緩めた。

 

「確かに、今を否定し都合の良い世界を創るのは楽だろう。

 しかしそれはただの逃避であり、犠牲になった者は救われないんだ」

 

「…っお前に何が分かる!!」

 

 思わず言い返す。

 どれだけ過去の存在であるかは時計塔ですら掴みきれない相手であるとはいえ、そんな過去の存在に何が分かるのか。

 たった数行の文字と一枚の現物の絵だけが辛うじて存在を証明する童話の住民に、何が分かるのか。

 

「分かるさ。全て観てきたのだから」

 

 チャラリと、賢者は首にさげた十字架を手にして微笑む。

 何が言いたいのか。明言をされずとも凍えるような予感として背筋を這った。

 

「全て…"全て"だと?」

「大層な事じゃ無い。千里を渡り見通す眼があれば人の身でも出来る」

「ならば! 何故止めようとする! 本当に全てを知っているならば、何故!」

 

 魔術師としての冷静な部分が警告する。このまま何も聞かずに令呪で命じろと叫ぶ。

 それは恐怖に近かった。予想通りであって欲しく無いという、願いに近かった。

 

 だが……賢者の言葉は、そんな魔術師が考える実利の恐怖よりもずっと私の奥深くを突き刺した。

 

 

「君の最初の望みが人類の発展じゃ無いからだ。

 自分が家系魔術の到達点だと知って、託せる先が無い重責に耐えかねたんだろう?

 根源に辿り着ける気がしなくて、もっと手前の第三魔法に縋ったんだ。これなら自分でも出来るって。

 

 善行と善意は素晴らしいよね。これさえ掲げればどんな逃避も赦された気になれる」

 

 

 ‭─‬‭─心臓の輪郭をなぞられたら、それはきっと今のような感覚なのだろう。

 上辺も、苦心も、そうなるに至った過程が全て飛ばされて、何を言われたのかすら一瞬の理解を拒ませる核心を突かれた。

 未来を見た時と同じように、目眩で手足が震え始めた。

 

「そん…な…うそだ……」

 

「それでも諦めきれなかったんだね。もっと良い自分になりたくてなりたくて仕方なくて。

 理想の自分への嫉妬と魔術師としての矜持に突き動かされた。

 魔術師としての熱意(サガ)?それとも生真面目だからかな。根源の到達が第一だから、そこから外れる行いに罪悪感すら覚えるのは。

 魔術師として随分と高潔なんだね。立派だと思う」

 

「や…やめろ」

 

「まあ、運が無かったよ。産まれるのが一個前か先ならこんな悩みはしなくて良かったのに。

 態々善行のためだと言い訳して対して興味のない他人を殺す必要も、特別さを自分に押し付ける必要だって無かった。

 未来を見て絶望することも、腐った魂を誤魔化すことも、誇り高き家系魔術で根源を目指すのを諦める必要も無かった。

 

 愚直に走り続け、希望を抱いて死ねただろうに」

 

 脳が震えていた。

 もうただただ黙って欲しかった。ただ、願うばかりだった。

 令呪を使う気力も、300年生きた怪物として逆上もせず、私は怯えることしか出来なかった。

 

 

 ふわりと、静かに抱き寄せられる。

 こんこんと脳を震わせる言葉が止んで、穏やかな静寂が私を満たした。

 小鳥が囀るような、心地良い音色が奏でられた。

 

「‭─‬‭─だから、一度君はゆっくり休んだ方がいい。君は今を忘れ、未来を知り、自分が揺らいでいる。それでは本当に選びたかった道を歩み損ねてしまう。

 最初に立ち返るんだ、マキリ,ゾォルゲン。絡まった糸を少しずつ解いていくんだ」

 

「……君は、なんなんだ?」

 

 そして賢者は‭─‬‭─"彼女"はそこで初めて……いや、顔を上げた私は始めて、彼女の顔をはっきりと見た。

 

 見てしまった。

 

「サーヴァント、キャスター。

 君のサーヴァントさ。マスター」

 

 心を奪われる程美しい、ラピスラズリの如く輝く彼女の眼を。

 

 

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