プロフィール4
霊基容量:三騎
クラスカードとして彼女を行使する場合、この英霊は三騎分の枠を使う代わりに術者の負担が極々最小限に抑え込まれる。
それは彼女の本体自体が現代人並みに弱く、しかし神代の霊基なので大量の無駄情報があり、されど周囲からの補正で童話系列の存在が勝手に従う仕組みに宿っているからだ。
単純な個としての戦力で考えた場合無駄は凄まじく多いが、普段使いとして考えた場合は他の追従を許さない。
類似した英霊にイアソンが居るものの……あっちは宝具として英霊を召喚する都合上、召喚システムの都合もあり術者に全ての英霊が
何もせずとも童話に関する者が勝手に従う。
なんなら童話に関する者が勝手に召喚され始める。
それこそがこのクラスカードの真髄である。
人は後から本当にどうしようもないやらかしを知ると、とんでもなく無気力になると今日知った。
だってそうだろ? 最後のマスターの藤丸がちっちゃな子供で、その上夢幻召喚なんて言ってビーストの霊基に変身したんだぜ? しかもなんか杖とエクスカリバーまで持っている!
いやぁ……一発で俺の知ってる世界じゃないって痛感させられたね。
なんでそんな事になったの? いや、今にして思えば変な違和感はあったよ?
でもこれは予想出来る訳ないじゃん。何がどうしたら魔法少女☆藤丸立香が始まるの。
俺か、俺のせいか? 俺が紙芝居したのがこの世界を此処まで歪めたのか?
なんでさ!!!!
「……けど、そういう事ならこの噺は変わるだろうね」
藤丸の方にレフの意識が行って俺を忘れてるこの機会、逃せなくなっちまったな。
幾ら無気力症候群を発病してようが、子供がその小さな身体一つ張って道を切り拓いてるんだ。
だったら大人として、ジジイになるまで生きた奴が頑張らないのはナンセンスというもの。
こんな過酷過ぎる運命を
という訳で。
「来て──私のエリック」
ま、俺に出来る事なんて人を頼る事だけなんだけどね!
恥ずかしい話だが、俺は自分の力も把握してないど底辺英霊だ。
オルタ化しても全然そこは変わらないんだから、これはもう俺という存在の前提ですらある。
「……っキサマ、自我が残って…!?」
「おお──クリスティーヌ。愛しのクリスティーヌ……汝が助けを求めるならば、私は何処までも駆け付けよう」
よし、やっぱり居たか。
英霊には霊体化する能力がある。俺には出来ないものだが、俺をクリスティーヌ認定してるファントムならあの後もずっと近くに居ると思ってたんだよ。
そしたら正しい道順とか、魔神柱が3日掛けて作った魔術工房とか、そんなのは関係なくなる。霊体化してたファントムに気付かなかった方が悪い。
「ッ…! させん!」
「──ヤァア!!!!」
「チッ──邪魔をするなカルデアァァ!!!」
道を拓いて気絶したカルデアのマスターをフランがキャッチし、遅れて俺の不審な動きを止めようとしたレフをマシュが攻撃する。
他の連中は……ああ、俺を止めようとしてるけど、近くの影が邪魔立てしてるな。というか誰君ら。目的を見失った妖精のなれの果て? モースみたい。
だが、そんなことは今はいいんだ。
ここにファントムが居て、ご大層な儀式の核になった俺がいる。
その上白紙の紙に道化師、魔術師、怪物、カルデアの皆様、マキリの旦那入りの大聖杯まで揃ってるとくれば、もうやる事は一つだろう。
みんな一緒に、
「舞台を……開きましょう」
「勿論だ──クリスティーヌ。此処は君の舞台、私の舞台。
後に残るのは万雷の喝采と、栄光だとも」
「……いいえ、いいえエリック。そうではないの。私の舞台は、5人もいればいい、細やかな舞台で良かったの」
慣れた手つきで用意する。魔神柱はヤケに大袈裟な準備をしていたが、俺の紙芝居はそんなもの必要無いんだよな。
そもそも何もかも足りない時代の産物だ。魔力だの神秘だの死ぬまで無縁で過ごした俺は、型月の神代で生てきた割には恐ろしくショボい。
魔神柱はこれでカルデアのマスターを閉じ込めようとしてたけど、俺には絶対無理だと思うんだよな。
「愛しき人達がいればそれで良かった。私の知ってる幸福が、少しでも伝わってくれればそれで良かった」
ある日突然世界が変わった。
アスファルトは冷えた土に、石の建物は大木に。
電波の繋がりは立ち消えて、隣人は獣の皮を着た薄毛の猿になった。
寒空の下で俺は、平凡な未来の代わりに孤独の遭難者になった。
「私の舞台はそれでいいの。エリック、あなたが隣にいて、みんながいれば私は満足なのよ」
猿に混ざって狩りに出かけ、夜は腐木を組み立てた枕を使った。
鳴き声と言語の原型を学び、逆に教え、輝く夜空を天幕に眠りに就いた。
「それはね、私が私である限り変わらない答えよ。どんな私でも、この答えは必ず胸にある。……
毛皮をなめし、木を束ね、石を研ぎ、草花を擦り潰し、火打石を見つけ、家畜となる獣を捕まえ、小麦と大麦を育て、小屋を建て、竃を創り、水車を創り、布を織り、パンを創り、猿にも分かる言葉と文字を創り、数字を教え、童話を広め、法律を創り、尊敬を利用し長になり。
「だからね? 一回私がどんな人か教えようと思うの」
暦を規定し、季節を規定し、時間を規定し、善と悪を規定し、最後に銅、青銅、鉄から続いた鍛治技術の結晶としてガラスを創って人生を終えて────その一つだけ、勝手に動いて此処まで世界を変えたのだから。
無駄に被さった認識は全て引っ剥がす必要があるだろう。俺がどれだけ小さな存在であるか、晒し上げる必要がある。
「だから手伝ってね、エリック。酒場でする様な演奏でいいわ」
「……クリスティーヌが望むならば」
新しい話は……そうだな。
俺の人生、その一端で良いだろう。
これはただの青年が、自分の生活苦をなんとかしていくだけの日常譚だ。
「────"
あ、宝具発動出来た。いつの間にか真名解放してたわ。
え、出来ちゃったんだけど? これどうなるんだい?
……分かんないけど男に二言はない! 話すぞぉ!!
♢
「"昔々、あるところに一人の人間が現れた"」
静寂。
英霊を身に宿し道を拓いて気絶した僕が目を覚ました時、世界が音を忘れてしまったんじゃないかと勘違いしそうになるくらい、世界は静寂に満ちていた。
「"その者は不思議な力は何も持ち得なかったが、現実を前に頑張る気力は人一倍あった"」
見渡して、遅れて気付いた。
"此処に英霊は居ない"。
何となく分かった。
僕を抱えるフランは普通の女の子"だった"し、レフは普通の男性"だった"し、マシュも重たい鎧を着た女の子"だった"し、ジキルとハイドは別れていたし、モードレッドなんて鎧の重さに耐え切れずに倒れていて、魔神柱は自重に耐えられずに無音で潰れていた。
「"人間は頑張りました。狩りの道具を作って、家を作って。猿の集団に物を教えて、人の振る舞いを覚えさせました"」
僕もそうだ。令呪が消えて、カルデアとの繋がりが消えて、魔力も英霊との縁もない。
普通の女の子になっていた。身体の不調もない、普通の女の子"だった"。
夢幻召喚の対価も、ビーストを討伐した時の後遺症もない。
ただ、緩やかな現実だけが側にあった。
「"火を使って鉄の鍋を。ガラスを作って素敵なお家を。頑張って頑張って、気付けば立派な自分のお部屋が、一つ。人間はこの幸せをみんなに教えたいと思いました"」
泥は、ただの泥"だった"。
大聖杯は、ただの巨大な建築物"だった"。
蟲はただの虫だし、魔霧はただの霧"だった"。
全部、僕が……私がよく知る現実の物になっていた。
きっと、それが彼女の宝具"だった"。
みんな、ただの現実に圧倒され、けれど現実を普通に受け入れていた。
なんの変哲もない話を聞いて、聴き入るでもなく、嫌悪する事もなく、聴くに値する普通の話として受け止めていた。
ここでは誰もが今を生きる只人"だった"。
「"そうだ、子供が喜ぶ話にしよう。人間は人間になった猿の子供に童話を教えて、子供達が喜ぶ声に囲まれながら死にました。実に平凡で良い人生でした"」
話が終わる。ページが捲られ、紙芝居が
彼女の昔話は、そんな"普通"のものだった。
「──おしまい」
────ォォ…。
音が返ってくる。
先ほど自重で潰れていた魔神柱の影響で崩れた、洞窟の崩壊を知らせる音だった。
「……あ、マシュ! みんな!?」
遅れてみんなに呼び掛ける。僕たちが儀式を阻止出来たのかどうか分からなかったから、先ずはみんなの意見を仰ごうと思ったからだ。
「……は!? すみません、ボーッとして……あれ、盾が持てません! 先輩!」
ダメだ、マシュは普通の女の子のままだ!
「ふっ…ぬっ…ダメだ! オレは置いていけ! 鎧が重くて立てねェ!」
モードレッドも!
「済まない! なんでハイドが僕の身体から出てるか誰か教えて欲しい!」
「取り敢えず誰かナイフくれよ。いつもの奴がどっかいきやがった」
ジキルとハイドも分離したままだ!?
「──ぷはぁ!? ぺっぺ! 泥が口に……あれ? なんであたし生きてるの?」
ジャック!? 生きてたんだ!?
「うーん…一回みんなでお茶会にしましょ? これ、受肉とも違うみたいだから。過去から変わって、友達を母としたこの時代の人間になってるわ、私達」
ナーサリー・ライム! とんでもない事言ったよね今!?
「うおー! 普通に喋れるー! これが普通の身体かぁー! おー……私は人間だー!」
「……………」
フランは周りも気にせずはしゃいでる! 良かったかどうか分からないぞこれ!
パラケルススは魔術が使えなくなったショックで気絶してるし!
「はっはっは……吾輩、自分の文才が消えた感覚がするのですが」
「気のせいじゃないぞ、全て凡人の範疇に納められている。特徴はあるようだがな。
そうだな……今の俺たちはシェイクスピアでもアンデルセンでもなく、「そっくりさん」といった所か」
「なるほど……失礼、自殺してよいですかな?」
「やってみろ。その天才性への執着も削られた心で飛び立てるならな!」
なるほど! 二人のおかげで大体分かったけどとんでもないや!
「ふざけるな……ふざけるなよ
僕が事情を把握出来た頃にはレフも事態を把握したようで、もどかしそうに苛立った顔で彼女を殴りにかかり……ファントムらしさが消えた普通の青年が前に出た。
「凡人歴なら!」
「エリックパンチ!」
「クハッ!?」
元ファントムが殴る。
「私の方が!!」
「エリックキック!」
「ぶはっ!」
ヤクザキックが入って倒れた所を、彼女が頭部を蹴って。
「長ぁぁい!!!」
土に汚れた靴で踏んづけた。
「確保!」
「カハ──!!」
普通の身体に慣れてないレフよりも、彼女の方が強いらしい。
レフも格闘は習っていたのか綺麗な構えだったけど、それは魔術で肉体を強化する前提の動きだったのか、アッサリと二人に組み敷かれてしまった。
「でも……私は霊基のままだからね。マスターもただの虫になった以上、消滅あるのみさ」
「……見知らぬお方」
「気にしないでエリック。君はやって欲しいことをちゃんとやってくれた」
「いえ……私の方こそありがとうございます。短くも愉快な喜劇でした」
だけど彼女は私達と違って不思議な英霊のままで、消滅光を立ち昇らせていた。
死んだら大聖杯に取り込まれて危ないと思ったけど、そういえば今の大聖杯は只の泥まみれのオブジェ。死んでも何処にもその魂が注がれることはない。
はちゃめちゃなのか穏やかな終わりなのか。
イマイチ掴み切れなかったけど、
「ふむ……」
彼女が何を言うか悩んでる仕草を見て、何か一つだけ聞けそうだと感じた。
だから最期に尋ねてみる。
「あの……最後にお名前を聞かせてくれますか?」
「いいぜ、カルデアのマスター……藤丸立香。
でもそうだなぁ。生前みんなからは「KRMND」……うん、「カルメン」と呼ばれていたから、君もそう呼ぶといい」
そう言って彼女は……カルメンはにこりと笑う。
反射的にそこから細やかな情報を拾おうとするけど……どれもぼんやりとしてて掴み切れなかった。
「ではカルメンさん──助けられなくてごめんなさい。それから、助けてくれてありがとう。
おかげでこの特異点は攻略出来ました。……通信が繋がらないので多分ですけど」
「ははは、こちらこそ色々と迷惑かけてごめんね? 代わりに助言をば……。
多分私が消えたら全部元通りになる。今のうちに泥とか拭いた方がいい。
生前の経験とその後の展開を考えるに、この宝具は「そういうもの」だ。
先送り、後回し、「現代的な現実」への塗り替え。仕組みの知識はないけど、やった感触的にテクスチャの上書きじゃないかな。
つまり藤丸にとっての本番は此処からってワケ」
「分かりました。がんばります」
僕達の後ろで、話を聞いていたジャックが慌てて服を脱いで身体に付いた泥を落とし始めたり、フランがパラケルススを急いで起こし始めたりと、各人が急いで備え始める。
……うん。
存外、まだ話す時間はあるみたい。
それはカルメンも思ったのか、チラリとレフを見た。
「さて、お互い初対面だが遠慮なく言うぜ?
藤丸、あそこでエリックが抑えてるレフだが、今のうちに殺した方がいい。
この宝具は全てを「現実」に上書きする。そこで死ねばそのまま終わりさ。
儀式中に聞いてたがアイツ、ずっと君達にちょっかい掛けたんだろ? 絶好の機会だぜ?」
その答えに悩む必要は無かった。
反射的に言葉にしていたから。
「やだ。
……あ、いや、別にアイツに好感がある訳じゃないけどね!?
……カルデアに貢献したのは事実だし、言ってることが全部間違ってる気もしない…というか。
ほら、アイツはマシュに良くしてたみたいだしさ……ごめんなさい、好きじゃないけど、殺すほど嫌いな訳じゃないかもです。
カルデアの人たちを沢山殺した人だけど、イマイチ私……僕には分からないって言うか。
ええと、すごく悪いんだなぁとは思ってます……はい」
言葉にしながら悩んでいた。
言い訳して、墓穴を掘ってる感じがした。
……久々に答えを間違えた気がする。
きっとカルメンの宝具で「普通」になったからだった。
「……はは、ごめんね。イジワル言っちゃった。
そうだよね。普通、身内の知り合いは殺しにくいか。
うん、それなら存分に悩むといい。絶対に答えを避けられない時までね。
君にはその権利がある……おっと! そろそろ、お別れだ」
「あ……そうみたいですね。ごめんなさい、私なんかに時間をとらせて」
「謝らないでいいよ! 寧ろ最期まで人と話せて……それもこんなに可愛い子が付き合ってくれるなんて、私はとんだ恵まれ者さ!
だから誇れよ、胸張った方が気分が良くなるぜ?」
「そうなんですか?」
「そうなんです!
人は案外振る舞いから変われるもので、辛そうにすれば本当に辛くなるものなのさ!」
「わ〜…偉そうな言葉〜」
「ふっ…流されちまったな? 結構名言だったぜ今の?」
不思議だった。
ただ話してるだけなのに、私の心がポカポカとする。
きっとそういう天性の素質があるのだろう。カルメンはずっと隣に居たくなる英霊だった。
「……えへへ、カルメンさんと話してるとなんだか落ち着くね? 出かける時、私のお家に居てくれると胸張って仕事に行けそう」
「私は君の旦那でも奥様でもないんだがね!? そろそろ消えるって時に話を広げようとするのやめようぜ!?」
「ごめんなさーい、もっと話したくなっちゃって」
「……はぁ。もう」
ため息、苦笑い、それから私の頭をくちゃりと乱す。
撫でられていた。イヤだけど、イヤじゃない気持ちになった。
だから仕方ない人だと許してやった。だからもっと側にいて欲しかった。
いっそのこと、悪と呼ばれようと一緒に……。
ぽんと、撫でる動きが止まって軽く叩かれた。
「おしまいだ。ページが閉じたらそこは現実。辛くても苦しくても、君が眼を向けるべき全てがそこにある。
前を向きなさい、若人。今宵は泡沫の夢。なに、また眠りに就けば会えるだろう。悲しむ必要はない。いつかは会えるんだからね─────それでは、次回に続く」
手が消えて、温もりが消えて、それから魔力と神秘が再び立ち籠め始めた。
「……みんな、準備はいい?」
「はい!」「おう!」「いいよ!」「うん、行ける」「…ャァア」「好きにしろ」[やっと通信が繋がった!]…………。
みんながバラバラに、だけどそこにある意思は一つだった。
「じゃあ……やろうか」
会えた時間はほんの僅かだったけど、カルメンは良い人だった。
迷惑で、口数が多くて、人任せで……だけど、不思議と隣に居たくなる人。
僕からすればそれはマスターとしての在り方として学びの一つになったけど……私からすれば、利害なんて気にせずにずっと一緒に居たくなる毒でもあった。
「────ふん、全滅…いや、死に損ないが一柱か。
流石と言ってやろう。此処まで特異点を攻略し続けたマスターなだけはある」
[あれは──!?]
「……ソロモン。カルデアのデータベースに登録された姿と、同じ…!」
だから僕は前に進む。
毒も学びも全て焚べて、勇気に変えて人類史を救う。
例えそれがソロモンであっても、それ以上であっても変わらない。
絆と力が続く限り、進み続けよう。
※まだ終わりません。エインズワース開催、第六次聖杯戦争の微小特異点で召喚されますので。
……なのですが、ここまでの藤丸の旅が観たいようであれば先にそっちを書きたくもあります。どうします? アンケの期限は2026/6/6になるまでです。
どちらを先に読むか
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ぐだ子リリィの旅 冬木〜ロンドン前まで
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第六次聖杯戦争