紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 ペーパーイリヤ
 衛宮美遊の魔の手によりイリヤの姿になった。「語った自作のキャラの中で一番理想的な姿に見える」無辜の呪いのお陰で本体までは変わってないものの、姿が固定されたので「全員の見え方が統一された時に本当にその姿となる」呪いの魔の手が迫っている。
 クラスはアーチャー/キャスター。イリヤに押し込められた際に二重(ダブル)になった。その為ロンドンの時よりはマシな実力になり、半端にある力によって暴走している。




五分咲き

 

 

「27ってどのくらいなの? それとペーパーの上にある120ってイリヤ度?」

「えーと……次の次の赤点ライン上げで脱落しちゃう……かな。このままだと2日後に脱落しちゃう。うん、頭の上の数字はそうだよ。美遊の影響下に入ったら見えるの」

「今の足切りラインは?」

「言い方!?……20だよ。私を120%に置いた場合のそっくり度だから。立香ちゃんだとこれまでの経歴も含めた最低保証がそのくらいって感じ」

「なんで120?」

「本当は100なんだけど、脱落させたくないから特別に120なんだって」

「プログラムに参照させない為に範囲外に置いてる気配がします!」

「内面が査定に入るかで難易度変わるなぁ…これ」

 

 そんな訳で僕……私達カルデアは本来の目的より前にイリヤ狂……美遊の目的を打破する為に冬木を探索する事になった。

 なにをするにもイリヤ度を上げるには先ずは見た目から。と言う訳で魔術で髪色や眼の色を変え、彼女が通っていたという小学校に向かう事に決定。

 

「ヒャッハー! 私がイリヤだ!(24)」

「「「「ヒャッハー!!!(21)」」」」

 

「狂った世界に耐え切れず発狂した暴徒です! マスター、命令を!」

「薙ぎ払え」

 

「「「「「ほえー! ほえー!(31)」」」」」

 

「コカトリスです! イリヤさんのカツラも被っています!」

「……焼き鳥にしてやるんだから!」

 

「なんで僕が女装なんか……くそがーー!!!(37/57)」

 

「冬木でも見たアサシンの人形(ドール)です! 結構お似合いだと思います!」

「殺してあげて。彼の尊厳の為にも」

 

 途中様子のおかしい連中が居たが、彼らを薙ぎ倒して分かったのはイリヤ度数を持った者同士だと相手のイリヤ度が分かる事の追証。そして変身という過程を通せば20%は上がるということである。

 うん、最悪夢幻召喚(インストール)して凌ごう。ちゃんとメイクを施せば男でも30%は変えられるみたいだし、同じ女の子なのに27は低い気がしてきた。

 イリヤになるつもりはないけど、この評価は女の子の意地に関わる。

 

「どうですか? マスター」

「……うん、サイズはこれがピッタリだね。イリヤ度も42%……元々の持ち主には悪いけど、解決するまで借りていこう」

「終わったら返してあげてね? 万が一だけど、みんなが復活した時に服がないのは可哀想だから」

「……私のこの体操服を置いていこう。うん、念の為」

 

 髪色と眼の色を変えたのもあり、だいぶ見た目はイリヤに近くなったと思う。

 これで数日は冬木を調べる時間が出来た。本格的な調査を始めるとしよう。

 

「でも何処にいるのかな、美遊って」

「最後に見たのはエインズワースの監獄室だったよ。今は何処にいるのかさっぱり分かんないかな。怪しい所を順番に訪ねて行けばいいんじゃない?」

「うーん……それしかないか」

 

 そういうことになった。

 という訳で一番目に付く異常、ビーチに変わり果てた港の方へ向かうと、そこにはイリヤ?が居た。

 白銀の髪、夕焼け色の眼、天真爛漫な雰囲気、頭上の数値は30(+970/3d)……。

 見た目も雰囲気も同じだけど、なんとなく違和感のあるイリヤ……ああそうか、こんな状況なのに切羽詰まってないからか。

 

 つまりは、変身した英霊である。奇妙な数字も相まって消去法だった。

 

「……! カルデアのマスターさん! 漸く来てくれたんですね!」

「イリヤさん……ええと、誰ですか? イリヤさんにしか見えませんが、念の為聞かせてください」

「ほえ? もう、私はイリヤだよ! イリヤスフィール・アインツベルン!」

「そ…そうですよね! 失礼しました!」

 

燕青(えんせい)、マシュを揶揄うのはそのくらいで。久しぶり、新宿以来じゃない?」

 

 そう言うと、燕青は暫く眼をパチクリとした後、見た目相応の柔らかな顔は悪人顔に、好漢らしい笑い方で呵呵と笑った。

 

「藤ま…イリヤには敵わねぇなぁ!

 応! 久しぶり! あん時は随分と迷惑かけてすまんかったな!」

 

「あはは……それはもう別れの時に許したよ。それで、その様子だと今回は味方?」

 

「味方も味方さ。あん時と違って人理に召喚されてる訳だからな」

 

「それじゃあ、今回はよろしくね。あんまり変身させるつもりは無いけど、その時が来たら頼りにさせて貰うから」

 

「遠慮すんなって。これはあの時の詫びでもあるからな。どしどし頼ってってくれ!」

 

 マシュの唖然とした表情を背景に契約まで話を進め、カルデアとの魔力パスを繋げる。

 マシュが再起動した頃には、既にこの砂浜には何も無いと聞いた後になった。

 

「……は! 燕青さんでしたか!」

「こんにちは! 燕青さん、まだ自分を見失ってなかったんだ!」

「よっ紙のイリヤ。そりゃあずっと砂浜で遊んでりゃな。人と関わらなきゃ変わるものも変わらんのよ」

「ずっと砂浜で…?」

「あー…ここはイリヤスポット(試験会場)の一つでな。ここでイリヤっぽく振る舞えば期限ありのポイントがボーナスで出るんだ。で、俺はここを調査しつつ荒稼ぎしてたってワケ」

「イリヤスポット(試験会場)…?」

 

 なんでも昼も夜もずっとゲームのNPCの如くそうしていたらしい。

 お陰で今日から3日間はどう振舞っても無敵なんだとか。

 これまでと違いトンチキな用語が自然と飛び交うのに慣れてないのか、マシュは少し反応が遅れていた。

 仕方ない、そんな日もある。

 

「ま、逆にここでイリヤっぽく振る舞えてなきゃ期限付きのペナルティだ。自信がなきゃこういうスポットには近付くのはよしといた方がいいぜ?」

 

 なるほど、道理で先程から燕青の数値が勢い良く減っていく訳だ。

 

「なら砂浜から一旦離れないと! みんなついて来て!」

「はい! マスターが着々とイリヤの演技にこなれてるのに不安に駆られますが、マシュ、ついて行きます!」

「レッツゴー!」

 

 燕青がスッとイリヤの振る舞いに戻って片手を突き出すのを横目に、私達は砂浜から離れた……離れたのでした。

 よし、そろそろ内面の演技にも取り掛かろっか。イリヤは一度夢幻召喚(インストール)したことあるからその時の感覚でやればいい。

 

「スポットは大きく分けて5つある。さっきの砂浜、学校、住宅地にある一部の家、山奥の教会に森。小さいのだと温泉宿とかデパートの一部だ。この街で普通の生き残りに会いたいならその辺りを探せばいい。徘徊してるのは自暴自棄になったか、よっぽどのイリヤ度を持ってる奴だけだ」

 

「なるほど! そこに行けばサーヴァントの仲間も得られそうですね!

 あ、でも小学校は誰も居ませんでしたね。空振りも視野に入れておきましょう」

 

「あー…学校で一人でやれる演技は難しいからな。ま、既に大抵の一般人が脱落してる都合上、スポットにいる生き残りは情報も握ってるもんだ。百聞は一見に如かずってね。他のとこを一回行ってみれば分かると思うぜ」

 

 そして私達は森の方へと向かいました。

 夏を知らせる蝉の鳴き声にじんわりとした暑さ、木陰が大変ありがたいと思います。

 だけど……少ないけれど雪が積もっているのは私でも不思議に思える光景で、風が妙に冷たい理由を担っているのです。

 

「無理矢理夏にしてるのかなぁ。じゃないと雪が積もってるのは不自然だよね?」

「良い勘だね? そうだよ、私はずっと布団に挟まってたけど……この舞台はきっと、美遊が私に語らせたくて取り寄せたものだろうから」

 

 それを口に出してみれば、今まで静かにしていたペーパーイリヤちゃんがロシア風の服に変わった状態で、私達の前を踊るように歩き始めました。

 それは彼女の身が紙なのもあり、まるで本当に紙芝居の中にいる気がして……。

 

「さっきは燕青が居たから我慢してたけど……ここには誰も居ないから。

 さっきの答え、ここの木は常緑針葉樹、簡単に言うとロシアの木。きっと魔術師の工房が転移したのね。エインズワースとはまた別の。例えばそう‭─‬‭─"アインツベルン"とか!!」

 

 魔力反応、既視感、反応はバーサーカー……ヘラクレスが、来る!!

 

「ここまでせがまれたら語らない訳にはいかないから‭─‬‭─カルデアのマスター、一緒に踊りましょう!! 普通の女の子なイリヤじゃない、こことは別の聖杯戦争で、聖杯の器になった女の子の話を!!!」

 

「████████████████!!!!!」

 

 ペーパーイリヤの後ろからペーパーヘラクレスが現れ、世界を揺らす咆哮をあげた。

 いや……それだけじゃ無い! イリヤの手甲には令呪がある! これはマスター戦だ!

 今の僕達には勝てない! 逃げよう!

 

「退きゃ」

"やっちゃえバーサーカー"

「"受け止めて! マシュ!"」

 

 逃げようとした瞬間、僕はオケアノスの記憶からここが逃げられない距離なのを思い出して令呪を使った。相手が令呪を使ったのもあるが、三画でなくなった以上、これで僕は夢幻召喚(インストール)を使えない。この特異点は純粋なマスターとしての能力だけで戦うことになる。

 だが使わない訳にもいかなかった。幾らペーパーでも相手はヘラクレス。12の試練、12の命を携えた大英雄だ。今後のことも見据えると戦うだけ不毛であり、撤退戦しか選択は無かった。

 

「‭─‬‭─‬ッ!?」

「█████!!!!」

 

 マシュが攻撃を弾き、追撃にシールドを相手に衝突させる。

 ……違和感。

 

「マシュ! マシュってそんなに力強かったけ!?」

「いえ! "軽いんです"! このペラペラヘラクレスさん、勢いがハリセンくらいしかありません!」

「くっ……!! 所詮ペーパーだったパターンか……!」

 

「驚かせてごめんね? クスクス、でも心外だなぁ。私が舞台の為ならみんなを本気で殺すって思ってるんだ。そんな訳ないのに……ねー、バーサーカー」

 

 僕達の反応に対しイリヤがクスクスと可笑しそうに笑い、機嫌の良さそうな声でバーサーカーに同意を求めた。

 確かに結果からみれば過剰反応なのは事実だが、それをイリヤに指摘されるのはすごい癪に感じるものだった。

 一回はっ倒していいかな。今なら許される気がする。あぁでも冷静になってみれば燕青や僕もペーパーになってるし、ペーパー同士だとヘラクレスの性能が発揮されそうだ。もこもこのマシュだからこうなのだろう。次元が違うという奴だ。

 

「それでカルデアのマスター? 上手く踊れる自信はまだお有り? それとも、また令呪を使っちゃう? 踏み込み過ぎた踊りは滑稽よ?」

 

「……やる。こうなったらとことん付き合ってやるんだから」

 

 それから暫くの間、私はイリヤの朗読に合わせてペーパーヘラクレスとマシュの戦闘を調整したり、自ら前に出てイリヤの兄役を務めたりした。

 これはこれで大変だったけど、なんだかんだ楽しめたのは事実なので許してあげる事にした。

 終わった頃には僕の数字も素で68、ボーナスを含めればかなりのものになってたし、聞いたお陰で新たな英霊と縁が出来たようにも感じられたからだ。案外溜まったし、内心までイリヤ染めにする必要はもうないと見ていいだろう。

 

「それと……ペーパーイリヤちゃんってもしかしてナーサリー・ライムだったりする?」

 

 韻の踏み方がヤケに聞き覚えがあったんだけど。

 そう訪ねてみたけど、ペーパーイリヤちゃんは既に水着のイリヤに戻ってなんでもない顔をしていた。誤魔化される流れだ。

 

「しらなーい。私はイリヤらしく振舞っただけだもーん」

「……まぁ、どっちにしろか。全部終わる前にはちゃんと教えてね」

「それは勿論。実のなってないドングリを数えるようなずるっこをする気はないわ」

 

 言い回しがナーサリー・ライムのそれであったが、僕は追及するのは留めておく事にした。

 彼女なら放っておいても僕らに害はないだろうし、もし本物だったとしても……あれ? 実はカルメンの方が僕らに被害が出てたりする? これ。

 

「それじゃあ次に行こう。ここからだと住宅地のスポットが近いし、宿になる空き家もついでに探したい。それと、思ったより生存者を見かけないのも気になる。細かいスポットも探した方がいいかもだ」

 

 野暮な考えを振り払い、再び移動して今度は温泉街。当然冬木には元々存在しない施設なので確定でスポットである。

 施設がシャドウサーヴァントの手により動いている辺り、美遊はエインズワースからクラスカードを奪い取ったのだろう。暴れれば囲まれて一溜りもあるまい。

 

「温泉ですね、マスター。ここで宿泊するのは"アリ"というものでは無いでしょうか。」

「寝相一つで知らない内に減点されたらイヤだし、演じながらリラックスするのは難しいかなー……なんて」

「あ…すみません。なぜかイリヤ指数を除外された私でもないと使うのは難しそうですね」

「気にしない、気にしない。マシュは悪くないよ。悪いのはイリヤー度を設けた美遊なんだから!」

「ありがとうございます、マスター。何故ビリヤードと掛けたかは分かりませんが、心遣いに感謝しますね」

 

 うるさいやい。目の前にビリヤードがあれば言いたくなるものなんだよ。

 そうして掛け合いをしていると、カランカランと音がした。

 今探索してる宿に誰か入って来た音だ。

 

「……行ってみよっか」

 

 今度は誰が居るのかと半分好奇心で入り口に向かうと……。

 

「すみませーん! 連れ込み有りで宿を一晩、お願いしまーす♡」

 

「こんな所で何してるのカーマ」

 

 其処には‭─‬‭─イリヤとはまた別の、褐色肌にピンクに寄った銀髪の、エミヤを思わせる衣装を来た子……の、脚元で燃える蒼い炎でカーマと分かる子が居た。

 

 






美遊「クロエもまたイリヤ」

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