紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 ペーパーフィールド
 美遊が用意した舞台。通称イリヤポイント。イリヤ度を贈呈される仕組みもあるが、それはあくまでオマケ。本来の使用用途はカルメンの舞台を開くためである。
 舞台が始まればイリヤ度がある人物は紙に変わり、登場人物に。どれだけ役が上手かったかで期間限定ではない素のポイントが増減する。
 燕青は地味に遠坂凛役で稼いでいた。




私が見たのは猫だった?(Was it a cat I saw?)

 

 

「だ、誰の事ですかカーマなんて……わ、私は何も知りませんけど〜……でもきっと綺麗な神なんでしょうねぇ。あー目に浮かぶなぁ、マスターをバシバシ魅了して堕落させてる愛の神が〜」

 

「カーマちゃん」

 

「………はい、なんですかマスター? 言っておきますが私、巻き込まれただけですから」

 

「手に令呪があるって事は参加者に夢幻召喚(インストール)されたのを乗っ取ってる感じ?」

 

「……はぁ…最初に気にするのが赤の他人ですか。お人よしなんだか女の子の扱いを知らないのか。きっとどっちもなんでしょうねぇ」

 

 女に女の恋愛的な扱いを求められても困るし、カーマは元々男神だ。ペーパーイリヤちゃんも言っていたが、どうやら本当にカーマはこの特異点に遊びに来ていたらしい。

 変化自在の肉体により大胆なアレンジを加えたイリヤの姿になっているカーマだったが、僕の反応が薄いとみるや大奥で見た小さなカーマになった。気怠げで、僕の知るカーマの姿だ。

 

「ここはなんですし、別の場所に行きましょうか。とんだ大馬鹿者の話をするのに、ここは遊びが有りませんし」

 

 そんな事を言って宿から出たカーマの後を追うと、温泉街から少し離れた場所でも一際寒い所に辿り着いた。森のように溶け残りの雪が散在し、夏に上書きされる前の冬木らしさが残っている。

 陰鬱で、寒々しい場所。多分、本来の冬木の空気。

 

「では改めて……そう、私こそが愛の神カーマにして魔王マーラ。

 そして先輩に恋する普通の女の子‭─‬‭─間桐桜です! またヨロシクお願いしますね、カルデアのマスターさん?」

 

「うん、宜しく。でも意外だね、試練も無しに仲間になってくれるなんて」

 

「あぁ、今回の私ってどっちかというとカーマより肉体寄りでして。本っ当にギリギリのギリですけど、間桐桜の恋を優先してるんです。勿論、マスターにイジワルしたい気持ちがない訳では有りませんが……ええ、ええ、神ではなく人として協力してあげますよ。

 それはそれとして、私を降ろすと肉体の精神が壊れる〜とかなんとか言ったソロモンははっ倒しに行きますが」

 

「待った、ソロモン居るの?」

 

「ええ、聖杯戦争の参加者として。ですがもう死にましたよ、マリスビリー共々、一体何がしたかったんだか……」

 

「そっか……時間差はあるけど、ここでも初代所長はカルデア創設に向けて乱入してたんだね」

 

 そうして褐色イリヤ(クロエというらしい)の姿に戻ったカーマが仲間になった。

 

「順調ですね、マスター!」

「そうね。順調すぎて違和感があるくらいに順調で、同時に空振りな予感も感じるわ」

 

 マシュの言う通り、順調だ。いつもならここで仲間にする為の手合わせの一つや二つ、もしくは妨害があるのだが……いっそ不自然なくらいに仲間が集まっていく。

 道中の敵も最初以外は全然出てこないし……なんというか、本当に戦うべき場所に辿り着けてないような、入り口で足踏みしている感覚にすらなって来る。

 

「……次は住宅街、明日は教会と…念の為お寺の方も調べよっか。調べ終わったら今日はホテルに泊まろう。宿代を置けば留守でもギリセーフな筈……それじゃ行こ、みんな」

 

 しかし他にやる事もない。カーマに何か知ってないか聞いても、目新しい事は衛宮士郎というカーマの身体となった人が好きな人の居場所くらい。

 元々カルメンの宝具で延命してた部分をカーマの体質で置換した事くらいであった。

 

「本当は先輩と温泉に行きたかったんですけどねぇ……もうカルデアのマスターが来ましたし、それなら解決に向けて動いた方が先輩も喜ぶでしょうし…はぁ、残念無念、行きたかったなぁ、お風呂」

 

「何故でしょうか、このカーマさんから凄まじく色気を感じます!」

 

「当然です。今の私は恋する乙女。暗殺者(アサシン)暗殺者(アサシン)でも恋の既成事実(アサシン)を喰らわせる最強無敵の桜ちゃんです。ちょっぴり仕事モード(恋愛成就)が入ってますので、そういう印象を受けるのでしょう」

 

「……その先輩もイリヤ大会参加者だよな。それで成り立つのか? 男女のまぐわいが」

 

「まぐ…!?」

 

 あ、マシュが赤面してる。そういう話で動揺しない程度には慣れた方が良いと思うんだけどなぁ。

 そんなマシュの様子も気にせず、燕青とカーマは下の話を順調に進行させていた。

 

「問題ありません。私はカーマ、恋も愛も専門分野。そして多少性癖が歪んで(メス堕ちして)もそれをヨシとする手抜きモード。ほら、なんの問題も有りませんね?」

「おおう……流石にそれは勘弁してやれ。少女が可哀想だ」

「何を言うかと言えば……最初から()頼りなら私も動きませんでしたが、この子は自力で頑張ろうとしてましたので。これでも善意なんですよ? ちょっとした手助けです」

「漬け物石並みにデカい余計な助けだなぁおい!?」

 

 ……懲りないなぁ。

 

「カーマちゃん、堕落させて破綻させて、自分が両方愛してやれば全部丸く収まるっていうのは、なんの解決にもならないよ。僕の眼が届く限り"めっ"だからね」

「……はぁい。分かりましたよ、カルデアのマスター? カーマちゃんは怒られたので大人しくするのでしたー」

 

 カーマはツマらなそうにしてたけど、それじゃあカーマも含めて誰も救われない。

 説得じゃなくて力業で目的を阻止したからか、カーマは未だ諦めきれて無いようだけど……恋愛なんてした事ない僕がなにを言っても響く訳ないからなぁ。その分やらかさない様にちゃんと見ておかないと。

 

 

 

「ハッハー‼︎ 金ェェ"!!! 賄賂に使う分が足りねぇんだヨォォ!!!(21)」

「「「「ヒーハー!!(25)」」」」

 

「通りすがりの海賊ゾンビ軍団とコロンブスです! あれで何故脱落してないのか分かりませんが、味方にはなりそうに見えません!」

「うわ、どこで見たか忘れたけどレジライの悪夢だ。お金が足りなくてそもそも出航すらできなかったレジライだっけ。なんでこんな所っと……みんな! 倒して悪夢から醒ましてあげて!」

「応!」

「はーい」

 

 そうやって住宅地を探してる最中に空き巣を敢行しているコロンブスを見かけたので倒しておいた。

 

「まさか俺がジパングに上陸しておいて商売の一つも出来ねぇとはな……カルデアの小娘、正気に戻した(代金)の忠告だ。気を付けた方がいいぜ、ここじゃ下手に神に祈れば俺みたいになる」

 

「……サーヴァント反応消失。コロンブス、撃破しました」

敬虔(けいけん)なコロンブスの側面で召喚されたのが仇になったか……」

 

 途中からゾンビがレジライを囲んで殴ったので思いの他楽に終わった。カーマに聞いても首を横に振るので、多分ゾンビとコロンブスは別の集団だったのだろう。

 それから、最後の忠告はしっかり覚えておこう。倒したのは僕達だけど、曲がりなりにも命を使った忠告な訳だし。

 

「っかし案外収穫ねぇなぁ。強盗しかいねぇじゃねぇか」

 

「あれはどっちかと言えば海賊じゃないの? 思ってるより収穫がないのは……そうね。未だ美遊ちゃんの新たな手掛かりは見つかってない訳だし」

 

「ここまで見つからないとやり方が間違っている気もします。どうでしょう、一通り探し終わったら美遊さんの自宅に行ってみるのは。何か手掛かりがある筈です」

 

「いいんじゃないですか? ついでに先輩も拾えば完璧ですね。なんなら、先輩の家に泊まれば良いんじゃないですか? あの人、そういうの断りそうにありませんし」

 

「それなら……カーマちゃんの意見を採用しよう。ホテルより、きっと知れることがあるよね」

 

 英霊が二人増えたのに何故か空振った気がするが、どうあれ今日はもう遅い。

 

「ごめんください、一晩泊まらせてもよろしいでしょうか?」

「桜に……その子達は?」

「くろまめが言ってたカルデアのマスターとそのサーヴァントですよ、先輩。子供の方がマスターです」

「なんだよそれ……兎に角、そういうことなら入ってくれ。何もない場所だが、休む事はできる」

「お邪魔します」

 

 その日は衛宮士郎という人の家に泊まって過ごすことになった。

 見た目も何もかもイリヤに似てないが、ポイント自体は50(+50/2d)ある人だ。

 不自然さに思わずカーマに目配せする。すると意図が伝わったからかは分からないが、カーマは理由を説明してくれた。

 

「あの人、美遊のお兄さんなんです。だから贔屓されてるんでしょうね。ま、それがなくても私が譲ったポイントがあるんですけど。こっちの方は人に分け与える事が出来ますから」

 

「美遊のお兄さん…ですか。それなら手掛かりがあるかも知れませんね!」

 

「どうぞご勝手に。分かるのは美遊ちゃんの人となりでしょうけど」

 

「十分だよ。それも知りたかったものの一つだから」

 

 燕青に曰く、イリヤ度は内面すらも評価対象であるらしい。

 それはつまり、知識や経験もまた彼女にとってはイリヤの一つなのだろう。

 であれば衛宮さんの評価が高いのは贔屓でもなんでもない、カルメンの語った美遊と過ごしたというイリヤの知識、それから物語では友人であるらしい美遊の知識……。

 

「そういえばくろまめって? そんな事知ってる人って何者?」

「カルメンの事ですよ。小鳥の身体に受肉したカルメン。衛宮先輩は飼い主です」

「あー…ペーパーイリヤ?」

「あはは…言う必要がないかな〜なんて……ええと、ごめんなさい」

「いいよ、忘れてたのなら仕方ないよね」

 

 鳥となったカルメンを飼ってるなら、美遊が聞いた噺を聞いていてもおかしくない。

 ペーパーイリヤちゃんは最初以外(だんま)りだし、言いたくない事が…或いはカルメンのフリをする為に口を閉じているのだろう。どっちにしろ今は様子見だ。本物だった時だけ叱ればいい。

 

 ……と、色々と考えていたんだけど。

 

「色々あるんだろうけど、せっかく来たんだ。じゃんじゃん食べていってくれ!」

「「「「いただきまーす!」」」」

 

 美味しいご飯が並んでるので一旦考えるのは明日に回すこととする。

 ペーパーだけは紙の身体なので食べなかったが、衛宮の手料理はどれも凝っていてとても美味しかった。

 

「衛宮さん、美遊ちゃんってどんな子なんですか? イリヤ検定をさせてくる事しかまだ分かってなくて…」

「俺の大事な妹だ。真面目過ぎる所はあるが、優しい良い子だよ」

「へぇ、こんな事をしそうには思えない子ですね」

「ん、まぁな……ま、色々有ったんだ。こんな事をしても仕方ないって思える事がさ」

 

「聖杯戦争ですか」

「……ああ。俺が守り切れていれば、美遊にこんな事をさせなくて済んだのに……」

「自分を責めても何も変わりませんよ、衛宮さん。それに、聖杯戦争を破綻させるだけならもっと手段が有った筈。多分美遊ちゃんは楽しんでやってると思います。こんな事〜なんて言うと、美遊ちゃん、怒っちゃうと思いますよ?」

 

「……くく、そうかもな。藤丸ちゃんの言う通りだ。生真面目なアイツがこんな事をするなんて、楽しんでやってる以外ないよな」

 

 食べてる最中にそんな会話も有ったが、閑話休題。

 僕がお風呂に入っている最中に衛宮が入って来るトラブルが有ったりもしたが、その晩は楽しく過ごす事ができた。

 

 後は寝る前に…。

 

「カーマちゃん」

「ピュー…なんの事ですか〜?」

「衛宮さんがお風呂に入ったの間桐さんのせいでしょ」

「ギクッ…しょ、証拠はあるんですか!?」

「起きたのが恋のトラブルで、カーマちゃんが間桐さん寄りの思考だから」

「……マセガキめぇ」

「間桐さん、好きな人が他の人に好感を持つのに慌てるのは別に良いですけど、流石に年齢差は考慮してください」

「あ、はい。すみませんでした……ああ! 謝る気無かったのに! この口が勝手に!」

 

「それと燕青さん」

「なんだ? 俺は何もしてねぇぞ」

「僕がお風呂に入ってる時に僕の姿になっておいてそれは無いかな。食いしん坊と思われても心外だし、やるなら自分の顔でね」

「すまん! アイツの料理が美味くてつい! 小さい方が摘み食いし易くてな!」

「あの人は小さな悪行なら咎めたりしないよ。日常の延長線だもん。新宿は確かにアレだったけど、悪から逃れようとして余計な罪を重ねないようにね」

「……そうだな! 今度からそうするわ!」

 

 小さな暴走の予兆を摘んでその日は終わり……。

 

[ピンポンパンポーン。みんな元気にイリヤ出来ましたか? 赤点の引き上げのお知らせをします]

 

 美遊の声、市内放送、市役所……いや、遠隔干渉の線が濃厚。

 足切りラインの上昇、これまでは五点ずつの引き上げ。今回は……。

 

[この放送が終わり次第、"30"になります。足りない方は残念でした。残った方々は、引き続きイリヤをやっていきましょう。お休みなさい]

 

「上がった」

 

 イリヤ試験が始まって3日目。

 何か変わるなら昨日か今日変わるのが王道の流れとも言えるが、どうやら今日であったらしい。

 上がり幅が5から10へ。このまま100まで進むなら後3日は僕のポイントは余裕があるけど、そうなる保証はこの放送で消えた。明日が今日と同じ保証は消えたのだ。

 

[どうする? 藤丸ちゃん]

 

「……手分けといこう。衛宮さんやカーマちゃんは今日までイリヤポイントの法則性を掴む為に動いていたけど、それも今日まで。全員で動かなきゃ間に合わない前提でやろう」

 

 カルデアと相談を行い、そのように結論を出す。

 追い詰められてるのにどこか気が抜けるのが夏らしくもあり……このノリに乗り切れないからこんなに攻略に難儀してるのかと思うと、なんだか馬鹿らしい気分になる。

 

 どうあれ、全部まとめて明日やろう。

 そうして布団に飛び込む様にして倒れた僕は、気疲れしていたのか程なくして深い眠りについたのだった。

 

 

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