語り部:E-
物語の口承に関したスキル。
通常召喚された場合「言文一致」のスキルと複合する筈のスキル。
マキリ・ゾォルゲンはかつて"実在した"ブリテン島の神秘を呼び覚ます呼び水として彼女を召喚した為にランクがAから低下した。それにより本来の「物語の具現化」が機能不全を起こしている。
神代から童話が語り継がれたという事実、歴史に名を残さぬような無辜の民が長年受け継いだきた事実が彼女に注がれスキルとなった。
小鳥は立ち去り、花は枯れ、人々は腰を傘の手持ちみたいにお辞儀して、火より産まれた霧は人々にごほごほと咳をさせる。
そんな鬱々した鼠色の景色の横を、活気に満ちた紳士が灰を蒸して車を走らせてる街はなーんだ?
「正解は1888年のロンドン! 産業革命真っ只中、テンション上がるなぁ!」
「……知ってるのに初めて見たみたいに振る舞うんだな」
「知識と経験は違うからね」
なんとかマキリの旦那が令呪を使う流れから脱却した俺は今、あの魔霧に満ち満ちた地下空間から抜け出し
マキリの旦那も一緒だよ! なんで? 俺なんか放っておいて特異点創りに行けよ、第一部の流れが壊れちゃったら大変な事になるだろ!
でも仕方ないか。
「それにあそこに居たらこれっぽっちも心が休まらないから」
下は
既に黴が生え始めている旦那でも休みたい時はあるんだろう。
根源には辿り着けず、何も得ず、しまいにゃしまいにゃ馬鹿息子、雁夜という名のバカ息子。
人生空虚じゃありゃせんか? 人生ゴミ箱に入れちゃいませんか?
「さて……マスター。そろそろ聞いてみたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんだ? お前が知らなくて私が知ってることは無いだろう」
「そうでもないよ。私は私が及ぼした全てを知らないからね」
「ほう…預言よりも予知に近いのか。分かった、一度お互いについて話し合おう」
「流石マスター、話が早くて助かるよ」
「だが、その前にマスターはやめてくれ。痕跡は残したくない」
「ならマキリ君と呼んでもいいかい?」
「………構わない」
まだ捨てたくないに決まってるよなぁ? そりゃあ散歩の一つだってするだろう。
細部は異なれど型月はコミカライズとかあるもの。俺は異分子だとしてもマキリの変化は異常ではない。
それはそれとしてこの人すごい話が分かるな。最初は令呪でオルタ化させようとした癖に今は俺の話を聞く体勢になってる。
何回か公演を開いたら俺の紙芝居を盗もうと画策してきた蛮族共と大違いだ。俺、いますごく文明人ってやつと会話してる実感がある!
まあなんで最初の計画を中止したのかは分からないけどな。色々話したけど、結局俺の顔を見て止めるのを決めた感じがするし。
だけどそれは重要じゃあ無いんだよ。俺が本当にいの一番で聞きたいのはだね。
ロンドン橋を渡って到着した広場の中央にある、ずっと昔から此処にある面をした錆びつき苔むした、蝶の羽を持つ王様の銅像の事なんだ。
「それで、
「なにって、「虫の王様」という童話に出てくる「オベイロン」だが? 小人や妖精の王様として登場する話もあるが、紀元前でもこのくらいなら誰でも知ってるだろう」
「んー知らないなあ。知ってるけどそうじゃないんだよなあ」
どう見てもFGOのオベロンの銅像があるってことなんだよ。
いや、覚えはあるよ? 色んな話を作る時に型月のデザインとか使ったし。
でもそれが像になるのは違うじゃん。異聞帯の奴がここにあるのは絶対違うじゃん!
「……そんなに人気なのかい?」
「人気という次元じゃないな。文化だ。こういう古くからの存在する噺は数多くあって、これを扱う
その力の名を「グリム」。根源に続く大路の一つとして、時計塔では多くの魔術師が研究している魔術体系だ」
「oh…」
なにそれ知らん…怖…ただの紙芝居がなんで根源の道になるのさ。
それに俺のやったことって魔法や魔術というより科学だよ? 普通そんな神秘が宿る道理ある?
誰も理解出来ないなら魔法だって? 俺の後を続く奴が居なかったらギリそうなるのか?
確かにちゃんと教えたりはしてなかったけど、それならこんなに俺の話が継がれてるの可笑しくない? なんでちょっと変わっても…いやよくぞここまで原型残ったなあ! そっちが奇跡だわ!
分かんねー。でも分かんないってことは一旦放置していいって事だな! よし!
「知らないという事はお前が人に与えたものか」
「そうなんだけど、そこは自分の関わる未来は見えないからそう推測したって前置きを置いた方が分かりやすいよ」
「通じるだろう」
「情緒が欲しいのさ。省いてばかりじゃ自分の心情まで省いてしまうからね」
「…そうか。いや、そうだったな、すまない」
「口うるさいって言ってもいいんだよ? 「良い人」に限らず、自分役で一役ばかり起用してちゃ窮屈だ」
「そういうものか」
「少なくとも、マキリ君にとってはそうなんだよ」
俺は別にマキリの旦那推しって訳じゃないんだけどさ。
でもここが型月の世界だって言うなら主従関係は大事だと思うんだよ。
マキリは確かにロンドンの特異点の発端になるような奴だけど、それを言ったらレフとゲーティアが大体悪いからな。
ま、泥を被りたくないから媚売ってるだけなんだけどね! 威厳が無いと何を言っても聞いて貰えなさそうだし、謎に多い変化のせいで慎重になってるんだ、これでも。
「なら、私からも一つ聞かせてくれ」
「いいよ、なんでもどうぞ」
ドンとこいや! 俺は原作知識の範囲なら大体答えられるぞ!
「お前の真名は"巡礼者ヨハンナ"か?」
ドンとくるな! 俺は考える必要のある事態が大きらいなんだ!
「んー…どんなヨハンナ?」
「存在しないと証明された女教皇と度々同一視される、「祈りの旅」に登場したヨハンナだ。
パイン材の十字架、灰かぶりの乙女、遥か先からの来訪者にして、神の試練に挑んだ巡礼者。
迷える死者は次々とその巡礼に参列し、試練の末に天国へと導いたという噺だ」
「それは…虫の王様みたいな寓話かい?」
「聖書の噺だ。時計塔では忘れた頃に実在の証拠が見つかる為、レイシフト適性の高いどこかのシスターの逸話とも、かつての埋葬機関の痕跡とも考えられている」
聖書さん? 旧約さん? モーセさん? キリストさん? メタトロンさん?
これは一体どういうことですか? なんで俺の紙芝居が聖書に加えられてるんですか?
どうして「太陽と北風」と「冥府に旅するタイプの話」と「シンデレラ」を混ぜた話がそんな出世を遂げてるんですか?
それでどうして女教皇のヨハンナと繋がっちゃったんですか?
可笑しいと思いませんか? 俺はとっても苦しんでます。男なのに女の姿が相手の目に映ってる事実が怖いです。
「未来を知っている。人の心を見通す、木製の十字架を持っている、実体化してもサーヴァントの気配を感じさせない。
どれも逸話と照らし合わせれば出来そうな描写がある。どうだ? 私としてはかなり自信があるのだが」
あーマキリの旦那様いけません! 答えを出す前にドヤるのはいけません!
俺が違うと言って恥をかかせたから泥√とかあり得るのであーいけません!いけません!
未来は原作知識だし人の心云々はただの予想だし十字架は現代から付けてるアクセだしサーヴァントの気配がないのは雑魚だからです! 恐らくは!
こうなったら複合サーヴァント説で行くか。
嘘を重ねちゃうけどもう今更だな。
元から雑魚なんだ、モリアーティみたいな混ざり物がある前提で行こうか。
♢
「──正しく、されど間違っていますね」
その答えに片眉が吊り上がる。
私としてかなり自信のある答えが間違っていると、思ってもみない答えが返って来た──事では無い。
その返答から彼女の緩やかな沈黙に満ちた雰囲気が厳かで、神聖な物に変わったからだ。
「自分のことは全て分かる訳ではありませんが、私は自分がただ一つの幻想のみで成り立っているとは考えていません」
「それは…バカな、そんなサーヴァントがあり得るのか?」
何が言いたいのか、その一言に眼の前の変化が合わさり、私の中に一つの答えを導き出した。
不確かな英霊、複数の幻想…即ち幻霊、噂の実体化…ロアの擁立。その大規模版。
私が構築した魔術理論の上には存在し、してはならないと切り捨てた理論だった。
「
どっちみち、予定していた召喚にはない事象…何故私はこんなことを…!」
実の所、私が組み立てた召喚で呼ばれた彼女は英霊というより、世界の裏側を表に引き摺り出す為の証明機と言う方が正しい。
戦闘能力を除外し、人理に属する戦う者ではなく、それに付随する
それは数多くの逸話と宝具を持った英霊を貶め上辺の神秘だけ都合良く扱う行為であり、レフに唆された私が、魔術師としての矜持すら投げ捨てて創り出した狂気の産物と言える。
そも、魔術師は根源に至る為に生きるが、その理由はこの世全てを理解せんとしたが為だ。
神秘を解明し、正しい魔術理論を秘匿し、その神秘に宿る現象を劣化させないよう、貶めないように気を遣いながら生涯を共にする。
探究者であり、保全家であり、なによりも学者なのだ。
神秘を壊さないよう丁寧に読み解き理解した中身こそ至上とする。
だからこそ他人の魔術の解析は御法度であるし、勝手にレッテルを押し付けズタズタにされた理論を本当の姿だと言う乱暴者は忌み嫌われるし、中身を理解せず扱う魔術使いを嫌う。
では彼女はどうか?
不必要な要素を削ぎ落とし、必要な要素を醜悪な程に詰め込み、歪ませ、その
その行いには、誇りとして存在すべき私の魔術が、一つも介在していないではないか。
「なんてことを……なんて…ことを……!」
気づき、築き、傷付く。
連鎖的な発想が、それにより組み立てられた理論が、私を蝕み始めた。
レフの
自分の魔術を捨てて根源を目指す魔術師失格の行為に走った。
中身を理解せず、都合良く彼女を利用しようとした。
そうして
未来に絶望し、過去を捨ててまで、それでやったことが、こんな事か?
つまり、私は彼女の召喚とも共に、魔術師としての道すらも──。
「マキリ君、ストップだ」
優しく握られた手が、私を現実に引き戻した。
先ほどの厳かで神聖な雰囲気ではない。緩やかな静寂を纏う彼女だった。
「罪は罪だろう。やりたくなかった筈の行いをしたのだろう。
でも、罰を与えるのはマキリ君自身であってはいけないよ。
それは神様に任せないといけないくらい、人の手に余るものだから」
何処までも優しい言葉だった。
蟲の怪物の手を躊躇なく握り、私を思い遣ったことを言う。
英霊としての彼女の大切な部分を弄んだ化け物を、切り捨てることなく…それどころか自分を責めるなと。
そんなこと、果たしてどれだけの英霊が同じことを為せるだろうか。いや、存在すまい。
「だからマキリ君、もう一回やり直してみよう。最初の自分に気づけたのなら、また歩んでみるんだ」
私すら、私の矜持を貶めた自分を許せないのだ。
それが他者の手によって行われたとすれば、殺さぬ道はない。
ない……筈なのに…。
「…どうして」
「ん?」
「どうして、こんな私に手を差し伸べる。私は、あなたの全てを…」
裁かれたかった。
彼女が聖人の要素も含んでいるのなら、彼女の判断は神の御意志と思える。
なにより、彼女の判断であるなら、私は自分がここで息絶えることに納得できた。
人として振る舞える内に、死んでしまいたかった。
「赦すよ」
けれど……与えられたのは、何処までも
首を絞める手は訪れず、泣く子を慰めるように頭を撫でられるだけだった。
しかしそれは。
「私は何処までもマキリ君に従うサーヴァントだから」
その言葉は。
《私は何処までも
その意思は。
「だから、最後までマキリ君を支えよう。君が1番と思える結末まで、付き従おう」
私が積み重ねた。
《だから、最後まで
私の罪
/罰だった。
だから悟った。
私がやるべきことは、私の過ちを証明し、消し去られる為の、悪に堕ちる事であったと。