英霊
別名、
聖杯や人類の危機でもないと呼び出される事はない。
幽霊というより精霊に近く、通常であれば今を生きる人々に憑依、力を貸して後押しする形で物事の解決が測られる。そんな彼らが直接現れる事態とは、それ即ち人類の滅亡に他ならない。
座
英霊が登録されている場所。時間の概念がなく、曖昧な所が多い。何かと玩具にされがち。
「今、この特異点は二つの可能性が重なってるの。コインの表と裏のように、お互いを補完し合ってね?」
彼女、イリヤの説明を纏めるとこうなる。
その間に所長が身元が不明なのに信用出来るかとツッコミを入れたりもしていたが、信用に値するか聞いてから考えて欲しいというイリヤの言葉で沈黙する場面もあった。
・この聖杯戦争はエインズワースの聖杯戦争とイリヤの世界の聖杯戦争が混ざった特異点である。
・特異点となった理由は街の炎上……ではなく、聖杯戦争の勝者の願いにより、お互いの世界線が合体しようとしているから。
・鏡面世界はその際に出来た物であり、お互いの情報の擦り合わせによる致命的な矛盾を解消する為に世界が隔離したもの。
「解決手段は2つあるわ。
1、全ての矛盾を解決して合体を終えさせる。
2、2つの大聖杯を破壊しこの合体を阻止する。
どっちを選んでも特異点は解決されるけど、やる事はかなーり変わるからよく考えて頂戴? あ、選ばないのは無しよ。私、この情報を得るためにかなり苦労したんだから!」
「頭の痛い話ね……ファーストオーダーで挑む内容じゃないわよ」
「……平行世界でそんなに矛盾することってあるの? 違う選択をしただけなのに?」
「合体ですから、矛盾するのが自然ではないですか? マスター」
「フクザツフォーウ」
[そうだね、藤丸もマシュの考えも正しい。普通なら抑止力が合体以前に似た様な流れの世界線は収束させるし、余りにも差異のある世界線の統合は矛盾するのは当然だ。
そうだな……イリヤスフィールさん、聖杯はどんな願いを叶えようとしてるんだい? こんな事になる願いなんて早々無いと思うんだけど]
説明を聞いてもピンと来てない私達を前に、イリヤはメガネをしてロマニ博士の質問に解答する。
「先に言うと、"願いは二つ"よ。あなた側は知らないけど、こっちの勝者の願いは「これを連れて元の世界へ帰らせて」、私の友達を誘拐しに来た
「二つ……待ちなさい、大聖杯を両方破壊するって…そういうことなの?」
「所長? そういうことって?」
「"2つの願いがブッキングした"のよ。それも一寸の狂いもない同時刻に。片方は私の友達を引き連れての帰還、もう片方は……又聞きだけど、「俺の妹はそのまま、幸せな世界に居させてくれ」……同一人物に対して持ち帰りと放置が重なった。競合する願いを前に大聖杯は一つの結論を出した」
「なにやら事故の予感がする…!」
「どっちも二つの勢力が争ってますって一目瞭然の願いね。大方その友達……仮名にMを割り当てるとして、Mは聖杯戦争に関わる重要な立ち位置で、そのお兄さんが争いに巻き込まれないよう前回の聖杯戦争で勝利し平行世界にMを放流。
それをよく思わない勢力……まぁエインズワースなんでしょうけど、態々別世界に行ってまで回収して……で、その間にまた勝利したお兄さんの願いと矛盾したと」
「今の説明でそこまで分かるなんて流石です、所長。ですが先輩が追い付けてないので、もう一回解説をお願いします」
「事故ってるのは分かりました」
要するに、「動かせ」と「動かすな」の命令を与えられて困った二つの大聖杯が、力を合わせて動かさないまま動かす為に世界を合体させようとしてるらしい。
成程、友人Mが幸せになる世界と居た元の世界を合体させれば全ての話にけりが付けられる。
「そんな訳あるかい! こんなの一休さんもビックリだよ!!」
「願いがタイミングが少しでも微差があれば先の方が優先されたんだけど……同時だからねぇ。こんな事になったの、多分あらゆる世界の中でここだけだと思う」
「多分じゃなくて絶対と言いなさい……なんでよりによって私達の世界で……」
カルメンの存在を知った今だから言えるが、多分この特異点の聖杯戦争でもカルメンは居たんだと思う。経緯は分からないけど、蒼い炎はカーマのものっぽいし、留まれと願った人物はM…美遊のお兄さん、つまり衛宮士郎さんだ。
カルメンがあの家のペットとして過ごしていたというなら、私に渡した13の白いクラスカードみたいに、美遊の代わりとなる聖杯を用意してもおかしくはない。というより、やらないとそれはカルメンじゃないくらいだ。
「何がいけないか分かったけど……これ、私が選ぶの?」
「寧ろ今だからこそよ。これからあなたはマスターとして特異点を巡る事になる。今のうちに判断の仕方を身に付けなさい」
「先に言っておくけど、大聖杯を壊す方が簡単だよ。2グループに別れて同時に壊せば良いだけなんだから。……まぁ、私としては矛盾の解消でも良いんだけど」
「うーん…それなら……矛盾を解決する方でやりたいな」
……とまぁ。
今ならこの辺りまで分かるけど、当時の私にそんな事が分かる筈もなく。
二つの選択を前に、私は「願った思いを汲んであげたい」なんて理由で簡単な道を切り捨てた。
どっちが正しいか分からないなら、後に残るのは個人的な感情だったから。
きっと今なら残りの日時や周囲の脅威を聞いてから、もっと簡単なやり方を決めるだろう。
「そう、ならそうした理由を述べてみなさい」
「えっと……そっちならみんなで別れる事もないし、もしもの時になんとかなるかも知れないから?」
「……大目に見て妥協点。見た目よりは合理的なのは大変よろしい」
「わーい、所長に褒められた!」
「大袈裟ね」
後、私はそれっぽい理屈を捏ねるのが得意だとこの辺りで気付いた。
夏休みの宿題の言い訳以外で初めてまともに活用したと思う。
「──そうと決まれば
「コンプレックス…?」
「固有名詞があった方がやり易いでしょ? 基本的に鏡面世界がある場所に
世界の致命的な食い違いは霊地の詰まりにもなるらしい。
それは鏡面世界の発生条件と噛み合っていて、其々の矛盾に英霊が矛盾を抑える要石のように存在しているという。
つまりバーサーカーとライダーが居るこの森には二つの矛盾が存在していた。
「それってどうやって見つけるの? 私、この土地の事なんてどっちも知らないんだけど……」
「うーん……説明するより一目見た方が早いかな。案内してあげる。こっちにいらっしゃい?」
そうして連れてかれた先に有ったのは、"ノイズが走るお城"だった。
「これは……」
「"アインツベルンの城"よ。
「どんな矛盾なんだ…!」
「言っとくけど、矛盾の核はもっと酷いわ。ノイズの塊になってるから」
この時、お城の方から集団の敵が出てきた。ノイズ塗れの敵だった。
「おかおおかえええりせせなさななせせsss──」
「おおまおまおちちしいしししててててtttt──」
「うわっなにあれ!?」
「メイド……アインツベルンのホムンクルスよ。気を付けなさい、怪力だし、敵も味方も分からなくなってるから!」
「分かった!──らしいのでマシュ、キャスターさん、お願いします!」
私の掛け声に二人が頷く。
「マシュ・キリエライト、出撃します!」
「おう、今度はちゃんと指揮を執ってくれよ!」
「勿論です!」
途中ヤケに強い二人のホムンクルスに多少の苦戦をさせられたとはいえ、私達は道中の敵を倒しながら進んで行く事が出来たものの、その時にイリヤが悲しげな顔をしていて、聞いても答えは曖昧に返されるばかりだった。
「……私の知ってる二人じゃないから」
その時に気になった言葉はそのくらいで、ついでに質問したイリヤ個人に関する質問もはぐらされるばかり。
イリヤにも事情があるのだろうと先に進むと、神聖そうな場所で英霊を召喚しようとしている男女……らしき、真っ黒な人型の亀裂があった。まるで世界に空いた穴。イリヤ曰く、元々は衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンという人物であったらしい。
「これが矛盾の核だよ。二つの世界が混ざってワケが分からなくなったもの。触れればどんな矛盾か分かるけど……触る勇気はある?」
「怖い!」
あれは……本当にダメだった。見るだけなら兎も角、触ったらそのまま飲み込まれそうな虚無が広がっていた。
「だよねー。でも触らないと解決は出来ないよ。"話す権利"は"今を生きる人"にしか無いんだから」
「誰と話すのぉ!? 怖いよぉ! おっかないよぉ!」
「……マシュちゃ〜ん? 最悪あなたでも良いんだけどぉ…どうカナ?」
「マスターが嫌だと言うなら、はい……マシュ・キリエライト、頑張ります!」
「待ちなさい、私に頼る選択はないの?」
……所長が省かれていた辺り、この時のイリヤは既に所長が幽霊だと気付いていたのだろう。
指摘しないのは優しさからか。そうした方が有益だったからか……イリヤのことだしきっと前者だ。
「うっ……う〜っ…マシュにもしもが有った時より私の方がマシだぁ……」
「マスター!? いつの間にか亀裂のそばに!」
この時の私は、マシュが名乗りを挙げてみんなが話してる間に、私とマシュのどっちが死んだ時に後に繋がりそうか天秤に載せていた。マスターらしい判断というものに挑戦しての物だった。
よたよたと近付き、怖い怖いと思いながら触れた感触は今でも思い出せる。
「おあ────」
氷に触れたみたいな冷たさ。古びたフィルムを触ったようなプラスチックの感触。
人の……その土地の記憶に満たされた、情報の暴力。
衛宮切嗣達が聖杯戦争から逃げ出した記憶、参加した記憶、勝利した記憶、敗北した記憶、聖杯を破壊した記憶、願った記憶……幾つもの可能性が溢れていて、世界がどれが自分の物だったのか分からなくなるのも頷ける情報量。
それら全て以上の異常が。
「「「「「「「私がたくさんいる……」」」」」」」
"その全ての可能性に、私は同時に存在出来た事"。
レイシフト適性100%。
どの時代、どの土地、どの世界にも存在していたかも知れないという、何処にでもいる一般人である証左。語られる者の側に寄り添い、後に残る御話を遺す者。
そんな私の体質は、世界が見せた全ての可能性を完璧に知覚させた。全ての記録を体験し、全てのもしもを実体験する。
情報量にパンクする事もない。可能性の数だけ私達が居るんだから、受け止められる容量は幾らでもあった。代わりに全ての情報を私が持てた訳じゃないから、知ってるのはその可能性が相応しいかどうかだけだったけど。
「うん、分かった。この中に正解はない」
だからこそ、合体した時にどれが一番正しい道筋なのか分かった。
"どれを選んでも矛盾し歴史が詰まる"。だから"改めて正解を創る必要がある"。
「そもそも存在しない材料が多いんだ。本当に手元にあるのは二つの世界線。それ以外を先ずは省かないと……」
これは後に聞いた概念だが、この時の私は「人理再編」という物をしたらしい。
架空の歴史で正しい歴史を上書きする行為。本来ならカルデアの理念的に絶対に許されない行いであるそうだが、特異点内部で行って影響範囲が極々小さな物で済んだからセーフだったそうだ。
「よし、この流れなら矛盾は起きない! ええと、終わりたい時はどうすれば……おわぁ!?」
逆を言えば、このまま矛盾の解消で特異点を解決すれば問題になっていたということ。
察しの良い人は私が正しい歴史を守るカルデアの理念とは逆の行いをした時点で分かると思うが……。
「いてて……あ、戻って来れた! みんなー、終わった……よ…?」
「あはは……やっぱりそう簡単にはいかないよねー」
そこに有ったのはイリヤちゃんがクーフーリンに押さえつけられた上で杖先を向けられ、クラスカードを回収され、オルガマリーにガンドを向けられている所。
「──では藤丸立香、あなたを合格ではなく妥協点にした理由を述べましょう。
1つ、カルデアは新たな歴史を創る組織ではない。
2つ、矛盾を解消し新たな歴史を創ると告げた時点で、この者を敵と見抜けなかった。
3つ、私達の目的は特異点を修復し人理を守ること。それを履き違えたこと。
赤点でない事に感謝することね。年齢も考慮して、最後のマスターとしてこれから成長に励みなさい」
「……すみません、先輩。これも学びの為というオルガマリー所長の配慮なんです」
「えっ……えっ?」
この後、私はこの手でイリヤちゃんを殺す事になる。
理由はカルデアの理念に反した罪滅ぼしであり、人理を守る理念を胸に刻む為。
私を子供ではなく、人理を守る為のマスターに変える為。
「えっと……キャスター、離してあげてよ。イリヤちゃん、痛そうだよ」
「ダメだ。テメェはこれから
「うぐ……ねぇ、イリヤちゃんは本当に敵なの? 私達を助けてくれたじゃん! それに、選択だって大聖杯を破壊するように誘導してて……!」
私の質問にマシュは眼を逸らし、オルガマリー所長は眼を閉じた。
クーフーリンは我関せずで……イリヤちゃんは曖昧に笑っていた。
「たはは……ごめんね、私は世界より、私の友達を優先した。例え焼却で消えるものだとしても、あの子が幸せに生きる世界を求めた」
「………そんな」
「ごめんね、情けない先輩魔法少女で。悪にも成りきれないし、立香ちゃんには迷惑かけっぱなしだし、取り込んだクロエにも申し訳立たないし……ホント、全部中途半端に終わっちゃった」
私の手が震えて、息が浅くなった。
なんとなくこの先に何が起きるか悟ったから。
「あなたとはもっと別の場所で会って、友達になりたかった。
キャスター…いや、クーフーリン、離してくれない? 大丈夫。別に逃げたり、立香ちゃんを殺したい訳じゃないから」
「……おう、いいぜ」
「ちょっと!」
「大丈夫だ。コイツはそんな嘘をつける奴じゃねぇ。相手の顔見て話したいだけだ」
「それがダメだと…! ああもう……! 変なことをしたら直ぐにガンドだから!」
拘束が解かれる。イリヤちゃんが解放される。
真正面で向き合う。そこで初めて、私は彼女が英霊であると悟った。
切嗣達と共に駆けた幾つもの聖杯戦争の可能性から、唯一残留した経験によるものだった。
「ごめんね、騙してて」
「いいよ、許すよ。だから敵じゃないって言ってよ」
「ううん、それは言えない。私の心に嘘をつきたくないから」
「……なんで、私なの? みんな幸せな歴史じゃダメなの?」
僅かな沈黙。お城の青く冷たい空気が、澱みのように私に纏わりついていた。
「あなたは最後のマスターで、新たな歴史の観測者になれたから。選ばれた理由はそれだけ。
みんな幸せじゃないとダメなのは……うん、そうだよ。成功し過ぎても、失敗し過ぎても、それは失敗した歴史。特異点になるには十分な、悪だから」
魔法のステッキから見捨てられたと彼女は言っていた。
それはつまり、そうされるだけの悪に堕ちた事を意味している。
だからこそ無茶を重ねる必要が出て魔力回路がズタズタになり、それでもカードを使って特異点を駆け回り……最後の最後、私が余りに幼かったから、彼女は本気で友達を助ける事を諦めた。
幾多の矛盾による人理の自己防衛。黒く堕ちようと人理の守護者であった英霊達。
それらを前に決して膝を屈しなかった彼女は……今にも泣きそうな私と眼を合わせる為に、その膝を地面に付けた。
「……そっか」
だから彼女は負けて、私が勝った。
実力もなにも関係ない、イリヤちゃんが善き人だったから到達した結末。
イリヤちゃんから渡された短剣を、私は構えた。
「イリヤちゃん───ここまでありがとう」
それが彼女と私の出会いと別れ。
この後の霊地での召喚で彼女のクラスカードを引くに至るまでの因縁であり。
「俺はここでお別れだ。じゃあな、臆病なマスターさんよ」
「……うん、またね! クーフーリン!」
途中でアーチャーとクーフーリンが相打ちしつつ。
「いや…イヤ!
私、まだ────」
「所長!」
冬木の大聖杯を前に、レフの行いで所長がカルデアスに落ち、そのままカルデアに帰還するまでの中で
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(冬木特異点)
みんなの為でなく、衛宮美遊の為に世界を敵にすると決めた元魔法少女。彼女を阻止しようとしたクロエを取り込んだ事により、その言葉にはクロエやいつかの聖杯戦争にバーサーカーを連れて参加したイリヤが混ざっている。
藤丸立香と会う頃には様々な経緯を経て弱体化しており、最期はただの人間の一刺しで終わった。
オルガマリー所長
カルデアスを統括する所長。責任感があり、カルデアの始動にメンタルがカリカリしていた。
藤丸立香に対しては意思伝達のミスとして後々日本に送り返す予定だった。
彼女が最後のマスターとなり内心嘆き散らしたかった。
今回は藤丸立香を育てるようと魔術師としての側面が強く出ている。
最後に実は幽霊になって特異点にレイシフトしていたと判明しDIE。