縁召喚
英霊を召喚する際に、触媒として聖遺物を使わずに召喚すること。ランダムガチャであり、自分を触媒とする相性召喚でもある。
この藤丸立香の場合、特異点で出会った英霊が主な対象となる。
その中でも特に自我が消えようと力を貸してやりたいという英霊のみがクラスカードとして召喚される。ゲーム的に言うならば現地戦のみで絆レベル6以上になれば確定召喚。
クラスカードの仕様と相まって、召喚できる対象が少ない変わりに確定召喚出来るのが彼女の縁召喚。
冬木の場合、深く関わったイリヤと数多の可能性の中で切嗣と共に駆けたアルトリアが対象となった。
I「どうか私が選べなかった選択の先に、未来と希望がありますように」
A「例え存在しない歩みだったとしても、あなたは
特異点を解決出来ないままに終わった冬木だが、これは後々準備を整えてから突入するという事で大人達の間で話は纏った。
双子の大聖杯を破壊するには、イリヤの協力がないなら当分は無理だと結論が出たからだ。
「………」
「マスター、まだ部屋から出られそうにありませんか?……食事は扉の横に置いておきます。食べ終わったら出しておいてくださいね」
「フォーウ…」
冬木を脱してから3日間だけ、私は自分の部屋に閉じ籠っていた。
自分の手で英霊を……実質的に人を殺したトラウマに参っていたのは勿論だが、あれで終わりじゃないという現実に打ちのめされ、今更になって特異点での恐怖体験に震えていたのが原因だった。
では、逆を言えば3日で立ち直ったという話なのかという質問には……この音で返答するとしよう。
ウーー! ウーー! ウーー!
「ヒッ…!」
[全員メインルームに集まってくれ。特異点の観測が一時的にだが安定した。ミーティングをやるから……マスターとマシュは必ず参加するように]
「……りねんは、まもら…ないと…」
何故イリヤに手を掛ける事になったかと言えば、自分がカルデアの理念を破ったから。
トラウマで動けないなら、もっと深いトラウマで動けばいい。
所長の教えはキッチリと私を動かすに足る経験として刻まれていた。
ヒュー…。
「……大丈夫、ただの風切り音。シャッターの向こうの通路の壁が壊れてるだけ……寒いなぁ」
冬木に訪れた時の緊急アラームと共に、私は幻聴から急かされるように……些細な音にも過剰に反応しながらも、メインルームに向かった。
「……あ! 先輩! 出て来れたんですね!」
「おはよう、マシュ。毎日ご飯を持ってきてくれてありがと。ちゃんと参加するから、安心して」
我ながらこの時の
お陰でギリギリ特異点突入可能の判断が下ったのだから、挨拶とは大事だ。
「今回の特異点はA.D.1431のオルレアン、百年戦争が起きた時代で聖女ジャンヌ・ダルクが処刑された年でもある。特異点全体の反応から幻想種、竜種の反応も出てきた。前回と違って戦闘面の判断が強く求められる。念の為コチラで幻想種との戦闘シミュレーションを用意したから、特異点に入る前にこれをクリアして欲しい」
「分かりました」
「……気休めになるか分からないけど、特異点で死んでも実際の死ぬ訳じゃない。何より、ああいうパターンは早々起きないと思う。だから」
「ちょいちょ〜い。ロマン〜? 気難しい話はプレッシャーだぜ〜? ここはダヴィンチちゃんに任せてみなさい」
「……あなたは?」
「レオナルド・ダヴィンチ。気軽にダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ!
それに私の顔、一度は見た事があるだろう? 藤丸君は思い出せるかな〜?」
「……モナリザ」
「大正解!! 正解した君にはぁ…これ! 特異点の攻略を手助けしてくれる素敵な
「……そうかも」
「うんうん、君は美的センスがあるらしい! ステキな服を着ると少しは勇気が持てるものなのさ!」
「……ふふ」
ダヴィンチちゃんとの出会いはここだった。
ロマニ博士に変わって私を慰めて、元気付けて、ステキな服をプレゼントしてくれた人。
この時の私がミーティング中の話を記憶するだけの精神的余裕を持てたのは、彼女の手腕によるお陰だ。
「……あ、あの!」
だから私はこんな質問をした。
みんなの目が集まっているなら、質問する良い機会だと思ったから。
「冬木のクラスカードを回収して戦力を高めたり出来ませんか?」
「あー…ごめんね、それは出来ない。冬木にまたレイシフトするにも観測が狂ってね……君にこれは言いたくないんだけど、どうやら矛盾を一つ解消した影響で特異点に至る経緯が変化しているっぽいんだ。あそこに再びレイシフト出来るようになるには……そうだな、安定するまで三ヶ月は掛かると思ってくれたまえ」
「そう……ですか……それなら、イリヤさんから渡された分はどうですか?」
言いづらそうにダヴィンチちゃんが告げる。この半年後というのがイリヤ試験という夏の魔物な訳だが、それは一旦置いておこう。
整合性を取る為に「イリヤの世界は架空であり、
けほん……この時ダヴィンチちゃんは私を余り傷付けたくなかったようだけど、次の一言で私はワクワクを取り戻す事になる。
「そっちに関しては解析の為に分解したよ。現物は……ごめんね、再構成までは無理だった。
だーけーど! 私の解析と君が
君もイリヤちゃんみたいに変身出来る! 楽しみにしてくれたまえ!」
「わあ、そうなんだ…!」
「ただ……変身も完全とは言えなくてね。令呪を全て使った上でのみ使えるものだ。よくよく考えて使ってくれたまえ」
「令呪は確か……えっと、どうしたら回復しますか?」
「カルデアに居るなら一日一画、特異点では霊地を確保すれば一日一画だ。ここぞという時に使うんだよ。いいかい? カードを三枚持って
「分かりました。お守り代わりに待ってますね。……あ、それから後で概念礼装の召喚を試させてください。部屋にいる間に一覧は見たのですが、カレイドスコープと黒の聖杯、それから死霊魔術と鋼の肉体が欲しいので」
「分かった、手配しておこう……無茶はしないでくれよ?」
「……場合によります」
そう、三身合体の登場である。
これから私の切り札として度々使用されるこの力は、この時漸く私の手元にやってきた。
それからマスターの仮面の原型が出来たのも、この瞬間だった気がする。
「……そうだ、状況を確認させて。マシュ、霊基強度は?」
「はい、この3日での個人訓練ですが、14まで。スキルの神秘は3になりました」
「40の6まで上げよう。ロマニ博士、ミーティングが終わったら戦闘シミュなんですよね? そこにキャスタークラスの種火と使えそうな素材を落とす相手を追加してください」
なに、キャスタークラスにした理由? シミュレータ内だと損傷倍率が三騎士より低く、大技を繰り出すまで時間を必要とするからだ。イヤな予感のままに自室に籠ってる間、資料を熟読してて良かったと心底思う。
「良いのかい? それだとクリアまでかなり消耗する。その状態で特異点に挑むのは難しいと思うけど」
「観測時期を逃せば特異点が難化する懸念は資料を見て理解しています。現地に行けばその間はずっと観測が安定する事も。初動の休息時間を増やせば問題はありません」
「……分かった。現場監督の意見としてその通り動いてみよう」
そこからはかなり忙しかった。適正の三倍の難易度をこなして、狙いの礼装を引いて、黒の聖杯は出て来なかったけど他は良い感じに出来て、その際に引けたイリヤとアルトリアのクラスカードを余力で強化して……。
「マシュのレベル45、スキル8…イリヤは21、アルトリアは40…うん、強化は十分かな。魔術礼装のアドバイス、ありがとうございます。ロマニ博士」
「
構わない、このくらい大した事ないよ。うん、僕が心配は杞憂になりそうだ。いってらっしゃい、藤丸ちゃん」
「ふぅ……はい。これなら大丈夫そうですね。では……行ってきます、ドクター」
「マシュも無事に帰ってくるんだよ。二人揃っての旅路なんだから」
「「はい!」」
マシュの頑張りもあり、私達はある程度の準備を終えてオルレアンに挑めた。
初期転移場所は田舎の片隅。
「「「GYUOーーー!!!!」」」
「──ワイバーンです! 兵士もいます! マスター、指揮を!」
「行くよマシュ! 一旦盾兵って呼ぶからね!
魔術礼装選択、赤ずきん。
──私が指揮長だ!! 全員私の指揮に従え!! 従えば竜が何匹居ようと、生きて帰してやる!」
選択、見た目の変更に向いた魔術礼装と堂々とした嘘。
「なんだ!?」
「どっかの偉い人か!?」
「なんでもいい、生きて帰れるなら誰でも従うぜ俺は!」
周囲、下級竜種…ワイバーンの群れ、全21体。
味方、マシュ+混乱気味の
魔術礼装スキル、
「前進しろ! 急停止! 目の前に堕ちてきた間抜けな竜の腹に斬りかかれ! "
結果、17体討伐、4体軽傷につき逃走。
味方負傷五名。死亡者無し。
「戦闘終了。理想的な指揮でした、マスター」
「……シミュレーションの精度が良かっただけだよ」
「すげぇ…俺たち全員生きてる…」
「キツイ……けど俺…竜殺しだ」
「決めた。あの竜が全部死ぬまで俺はアイツに着いていく」
指揮訓練の成果がしっかり出てる戦闘となった。
ほぼシミュレーション通りの状況だったのもあるが、かなり理想的に勝てたと思う。
おかげで現地の活動に必要な立場を手に入れられたのだから、真面目な特訓の成果と言えるだろう。
後、私は隠蔽を気にすることなく魔術を使える状況にかなり助けられてると思う。これは特異点ならではだろう。私は特異点以外で魔術を使ったことはないが、遠慮なく使えるのがかなりいい事なのは十分理解できていた。
「全員よく頑張ったね! それから騙してごめんなさい! 私は指揮長じゃなくて、最近ここに来た旅人の魔術師です! 別れる前に現状について教えて貰えたら嬉しく思います!」
「マスター、身の上を明かすのが早いかと!」
「……あれ?」
戦闘はいいんだけど、その後の対応は盛大に失敗した。
当時は若干情緒が不安定だったのもあるけど、それにしてもこの対応はナシよりのナシだった。
「……別に子供でもいいさ。俺達を助けた恩人に代わりないだろ?」
「そうだな、マイケルの言う通りだ。お前等もそうだよなぁ!」
「ああ、勿論! 実力第一!」
「速攻の新事実に追い付けてねぇけどそうだな!」
「みなさん……ありがとうございます!」
幸いだったのは、全員が善人だった事だろう。周囲に流された人も居たとはいえ、私は間違いなくこの判断に助けられた。
良い出会いで、間違いなく幸運に助けられたと思う。
「しかしなんでこんな所に? この田舎にどんな用事で……」
「あー…アンタ確かマシュって呼ばれてたよな?」
「はい」
「ならマシュさん、簡単な話だ。俺達傭兵は金がある所に流れる。そうじゃねぇ傭兵は野垂れ死ぬか賊になるからな。つまり此処には金になるものがあるって訳よ」
「俺達は全員が全身鎧を着た少数精鋭だ。アンタの立派な盾には負けるが、割と傭兵の中じゃお上品でね」
「金のついでに名誉も得られる仕事には目がないのさ。例えば──かの"ジャンヌダルクの復活"に1番で駆けつける、とかな?」
「道端で占い師が言ってたのよ! "かの処刑された乙女、黒き旗を持ちて生誕の地で蘇る。最初に聖女の元へ駆け付けた者、これ即ち生涯が幸運で満たされる"ってなぁ!」
「通り過ぎる連中が皆して占い師を耄碌だのなんだのバカにしてたけどな、明日も分からない身だと縁起ってのは大事だ。なにより俺達の幸せといったら金銀財宝! 金払いのいい奴が居るなら行かない訳ないわなぁ!」
「それに、幾ら都市とはいえあんな陰気臭い場所に居たら俺達まで腐っちまうよ」
がっはっはと笑い飛ばしているが、要するにワイバーンと出会ったのはこれが初めてであり、すわもうダメかと思った時に私たちが来たという流れらしい。
そりゃあ状況も相まって従う訳である。自分達が英雄譚の主人公になった気分で全力で挑んでいたらしい。
「だが、これからの俺達の長はお前だ。占い師の言葉を信じるかはお前次第。竜に会った手前、そう簡単には生涯の幸福は約束されそうにないと知れた……俺達はこう見えて結構怖気付いてるんだ。
だから────神が与えたこの試練に挑むか、俺達の代わりに決めてくれ。その選択の力になるとこの剣に誓おう」
「───勿論。汝らが私の剣となる限り、全員に幸福を齎す導き手になると約束しよう」
……という話だったので、私は試練に挑んでみることにした。
運命を感じたのもあるが、特異点という異常な状況にこの出会いだ。
人理の後押しを感じて下した判断だった。
「……おいおい、マジで居たよ」
「始まったな、俺らの運命」
「…!? マスター、英霊の気配を感じますが、このお方は"生身の人間です"!」
「受肉……聖杯の願い?……さっきの竜は、漏れ出た力って所かなぁ……こんにちは、聖女の君。我ら、君の元へ馳せ参じた傭兵団です。これからよろしくお願いしますね」
その結果は……すぐ見つけ出せた。
廃墟も同然の木の小屋の中、藁をベッドに眠る黒い鎧を着た女の子。
「……あなた達は誰ですか? 私は……誰なのでしょうか」
「……記憶喪失かぁ」
ジャンヌ・ダルク・オルタ──"リリィ"。
竜の魔女と後に呼ばれることになる、贋作の英霊──その不完全な受肉体。
誰かの願いで産まれた彼女は、なにも知らない無垢な瞳で私達を眺めていた。
聖女の処刑
主よ、この身を捧げます──ジャンヌ・ダルクの火だるま処刑のこと。
史実では腕力聖女、礼儀知らず、先手必勝(無法)と呼ばれた戦争の作法も知らない田舎娘。処刑は戦場を無秩序に破壊し回ったヤキが回った結果でもある。
しかし救国を成し遂げたの事実であり、天使の声を聞いて立ち上がったのも事実。彼女に狂う人が居たのも事実。
魔術や幻想など無い世界に置いてはただの気狂いだが、それらが存在する世界だと紛れもない聖女。天啓を聞き無知ながら人を救おうと立ち上がった、覚悟の決まってる乙女である。
カルデアはそんな処刑の1週間後にやって来た。
冬木と違い特異点の核となる聖杯は一つ。これを探して破壊すればいい。
故にカルデアの勝利条件は「聖杯を見つけ破壊する」ことである。