紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 青髭
 ジャンヌ・ダルクの処刑で闇堕ちした騎士の末路。
 「決してこの部屋を見てはいけない」という御話の西洋版。ある意味恩返しの鶴の親戚かも知れない。
 無辜の人々……特に女子供を監禁しては拷問したり儀式をしたりした。
 反英霊だしすごい魔導書を持っている。

 反英霊
 普通の英霊ではない。怪物、仇なす者として人類史に名を刻んだ者。本人が本位か不本意か関わらず、魔に属する物としての振る舞いをするよう定められている。
 ……とはいえ、大抵は元からそうであった者が半数を占めているのだが。




浅瀬の狂気

 

 

「なるほど……私はジャンヌ・ダルクで、あなた達は騎士団「カルデア」という者達なのですね」

 

「ええと……はい、それでいいです」

 

 記憶の確認を行うこと数十分。

 私達はジャンヌにある程度の常識と私達の存在を認知させるのに成功した。

 多少認知が歪められているのか、はたまた本人の知識が足りないのか……一部の説明は曲解されて伝わる事になったが、概ね本来の形通りに伝えることは出来た。

 

「事情は分かりました。私は本来既に死んでいて、この若き身は本来存在しなかったものである。私にその自覚は一向に芽生えませんが……されど、若き私が知る筈のない知識は確かに、私の内側に潜んでいるようですね」

 

 ジャンヌは私達の説明を受け入れた。信じた理由は農村生まれの自分が生涯生きてても学ばないような戦場を渡り歩いた知識があるから。

 

「記憶…というより、記録という感じなんですね」

「いえ、記憶ではあります。ですが経験として身に付いてる訳ではない…感じでしょうか。どこか他人事で、思い出しても記憶の私と同じ感想にならない。未来の夢を見ている気分です」

「なるほど……」

 

 英霊はどんな側面であれ、自らの逸話をある程度保持しているものらしい。

 それは幼体……リリィの状態の彼女も同様であり、しかし実際に体験したという感覚ではないと言う。

 それ自体はリリィという召喚形態特有の現象だ。しかしこの彼女には、本来のジャンヌ・ダルクが決して持ち得ない力を有していた。

 

「それじゃあ、ジャンヌちゃんが良ければ一緒に聖杯を探しに行こっか」

「あ、それなら……少し待っててください」

「?」

 

「ふぅ‭─‬‭─"集え、我が██の名の元に"‼︎」

 

 竜種……ワイバーンの召喚である。

 これは明らかに聖女、ジャンヌ・ダルクの如何なる逸話にも載ってない力だった。

 それがリリィにも関わらず持っているとなれば……それは、彼女をこうした誰かの仕業に他ならない。

 

「……これは?」

 

「不思議とできる気がしまして……兎も角、足は用意しました!

 さぁ、行きましょう、皆さん! 聖杯探索です!」

 

 ともあれ、そんな事情に彼女の意思が介在してないのは明らかだった。

 出なければこんな気軽な理由で竜を召喚する筈もないのだから。

 

「実は結構ワクワクしてたりする?」

「……あはは、ダメでしたか?」

「いや‭─‬‭─最高だね。一度竜には乗ってみたかったんだ」

 

「マジかよ…」

「マジの竜騎士じゃねぇか」

「馬と同じ乗り方で行けるか?」

「先ほどの騎乗を踏まえれば、翼より前に乗ると安定しますよ! 案外安定してるのでどっしり構えればいけます!」

「……マシュさん、アンタ漢だよ」

「……!?」

 

 伊達に飛び上がる竜に掴み、空からシールドバニッシュで纏めて落としただけはあり、マシュの指導により私達は竜に乗ることが出来た。漢扱いされた事にマシュが納得いってないようだったが、それは兎も角。

 

「取り敢えず首都に行こう。あらゆる情報が集まる場所と言えば、やっぱりそこが1番だ」

 

「それならこっちだぜ! 俺らについてきな!」

 

「全員安全運転で行きましょう! ここには竜騎士初心者(ドラグーンビギナー)しか居ませんから! ぶつかって落ちたら終わりですよー!」

 

「マシュ教官からのお達しだ! 全員低空飛行、低速で向かうぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

 そんな訳でのんびり飛行しつつ、道中ヒトデみたいな幻想種……海魔や空飛ぶ人喰い魚に襲われてる人を助けながらも、私達は特異点の首都…オルレアンに到着した。

 

「あれは……そんな…!」

「全員止まれ!……なるほど、陰気臭いと言われる訳だ」

 

 そこで繰り広げられていたのは‭─‬‭─民衆による、貴族の私刑。

 

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「首を刎ねろ! いいぞ、やっちまえ!」

「追え! 追え! そこに貴族がいるぞ!」

 

 この時代に存在する筈のない、フランス革命に近い状況……いや、その劣化か。

 300年は早い、破滅的な市民革命が起きていた。

 マシュは唖然とその様子を眺め、傭兵達はついにやったかとばかりにため息を吐く。

 

「‭─‬‭─そこまでです! 狂乱に流されるまま人を殺してはなりません!」

 

 そんな中で最初に動いたのがジャンヌだった。

 市民の血走った眼に、繰り返し同じ貴族を殺せと叫ぶエコーチェンバー。それによる狂乱と狂騒の熱が渦巻く渦中に、彼女はなんの躊躇もなく割り込んでみせた。

 

「ジャンヌさん!」

「全員着陸! ワイバーンで威圧しつつ、市民の鎮圧を!」

 

 遅れて私達も降り立ち、ジャンヌの補佐に回る。

 大抵の市民がワイバーンを見て逃げる中、その中でも立ち向かうような骨のある市民達の鎮圧作業を行った。

 

「ここは危険です! こちらに乗ってください!」

「待って頂戴! 捕まった家族がいるの!」

「‭─‬‭─2人、南の開けた森へ。他は私達に続け!」

 

 幾ら凶暴になってようと所詮は民間人。程なくして私達は全員を無力化し、逃げ惑っていた貴族を避難させ、追加に6人をリレーして都市の外へと運び出した。

 

「おい! 逃げるな! 貴族(クソども)を置いてけ!」

「竜よ……竜の魔物よぉぉ!!」

「魔女だ…あれは魔女だ!! 貴様は処刑台がお似合いだ、魔女め!」

「恐ろしい……なんと、恐ろしく、なんと悍ましいものか…!」

 

「「「「竜の魔女だ。竜の魔女が現れた!!!」」」」

 

「「「「神よ! どうか我らに悪しき魔女を祓う力を与えたまえ!!!」」」」

 

 以上、最後の瞬間まで立ち向かってきた民間人の発言である。人はあそこまで狂えるのだといっそ感心すらした……はい、嘘です。私はワイバーンの上で恐怖に足が竦んでました。うん、あの眼はかなり怖かった。

 

「……これからオルレアンの門は潜れなくなったなぁ」

「あそこにまた行く予定があるのですか? マスター。私は暫く夢に出そうです」

「大丈夫、私なんて生涯見る悪夢コレクションの一つになったから」

「……マスター、この特異点の攻略が終わったら飛び切りのオリエンテーションを行いましょう。悪夢も見れないくらいの楽しい記憶にするんです」

「はは、ジョークジョーク。結構平気だから安心して、マシュ」

 

 しかし何故私達は全員合わせて7人しか助けなかったか。単にそれだけしか生き残って無かったから。

 ……オルレアンでは、あちこちに見るも無惨な死体が転がっていた。

 何処か似た特徴を持つ惨殺死体。実は中にはまだ生きてる人もいたけれど、そういうのは大抵内臓が飛び出てたり、四肢が無かったりした。トリアージも真っ黒な、まだ生きてるだけの死体だった。

 中には酷い淫行の跡も有ったけど、そういうのは出来るだけジャンヌやマシュの眼が届かないよう迂回したり、視線を別の場所に逸らさせた。

 

 酷く気疲れする救助だったと今でも思う。

 

「ありがとうございます……このお礼、なにを払えばいいか…」

「構いません! 当然の事をした」

「はい!はい! ジャンヌちゃんはちょっと後ろにねー……失礼、後の話は私が行います」

 

 無償で立ち去ろうとしたジャンヌを脇に退かしつつ、傭兵達から貰った情報を深掘りする為に幾らか質問をした。勿論見た目は幻術で誤魔化しつつである。

 貴族は格下にはどんなに恩があろうと知らない顔をすると、資料で見ていた事による判断だった。

 

「原因は分かりませんが……3日前から市民が急に"ああ"なりまして……正気を失ってない兵士に守らせても2日目には……ヒッヒッヒッヒィ!」

 

「落ち着いて。ゆっくり深呼吸を。私の合図に合わせて」

 

 落ち着かせつつ、ゆっくりでも確実に聞き出した話をまとめるとこうなる。

 

 ・今回の革命は3日前に突如として起きた。

 ・最初は暴徒も少なかったものの、急速に病のように広がった。

 ・初日に顔を見た連中は、総じて「人が死なないギリギリまで痛めつける」能力を得ていた。

 ・彼らの狂気の矛先は貴族を、宗教家を、商人を殺す方向に定まってそう。

 ・他の街の様子は分からない。使者には早馬に乗せたが全員帰って来なかった。

 

 それから、この話を聞いて追加の指摘も傭兵からあった。

 

「ほーん、俺らの居ない間にそんな事がねぇ……言っとくと、前兆は1週間前から有ったぜ。俺らはそれに嫌気が刺したのも相待って占いに従った訳だからな。これが病だって言うなら、程度の差はあれ既に街中で広がってたよ」

 

「そ、それは本当なのか?」

 

「お貴族様、これはマジもマジだぜ。貴族の誰々が税を私腹を肥やす為に使ってる。あそこの神父はペテン師だからアイツの教えは間違ってる。あの商人の商品は詐欺だ……ある事ない事関係無かったね。兎に角悪口悪評悪意の言葉ばかり。居心地悪いったらありゃしなかったよ」

 

「……そうだったのか」

 

 項垂れる老人を尻目に、この時の私はこれからどうするかを考えていた。

 聖杯に繋がりそうな手掛かりは見つかった。他の都市も調べる必要はあるだろうが、概ね道中薙ぎ倒していた海魔や魚の主人が黒幕と考えていいだろう。

 

「……都市の件は残念だけど、もう終わった話だね。だからと言ってはなんだけどさ、これからの話をしたい。みんな、聞いてくれる?」

 

 手当たり次第探して見つけたら倒す。

 基本的な方針はこれでいい。しかし、何が目的でこんな事をしているかが見えて来なかった。

 

「この騒動の犯人を倒す。それが最終目標なのに異論は?」

 

 実に色々と話したものだが、結局目的が分かったのは次の次の街に降り立った時。

 

「……竜の魔女を見た?」

「そうなんだよ! マルセイユの方で白い角が生えた小娘が居たらしくてねぇ! 最近噂の竜の魔女なんじゃないかって、見つけ次第殺してやろうって話なのさ!‭─‬‭─あんたも、魔女狩りに協力しておくれよ?」

「ええと……ほら! 他にも竜の魔女が居るかも知れないし、私はそっちを探してみるよ!」

「……そりゃあいい考えだ! そうかそうか、他にも魔女が居るかもだ! 私は考え直したよ、みんな、視野を広く探してみようじゃないか!」

「あー……ではこの辺でー…」

 

 井戸端会議をしている奥様の集団からそんな噂を聞き、件の街を出向き。

 

「‭─‬‭─居たぁ! ヘイ彼女! 私達の仲間になって欲しい!」

「えっ安珍様!?……安珍さ…ま?……すみません、安珍様ぁ……ですか?」

「私、藤丸立香! カルデアのマスターにしてこの特異点を攻略したい人! あなたは誰ですか!」

「あ、清姫です……では、安珍様じゃない…?……嘘…いや嘘じゃ……ううん? えっと、安珍様ではないんですよね?」

「うん。安珍って名前じゃなくて藤丸立香だよ。よろしくね、清姫!」

「うーん……うーーーん…!!?……分かりません! あなたが安珍様なのか、藤丸様なのか分かりません!」

「藤丸立香だよ!? 好きな童話は赤ずきん!」

 

「へぇ……マスターは赤ずきんが好きなんですね……メモっておきましょう」

 

 はぐれ英霊(サーヴァント)の清姫仲間に引き入れた時だった。

 何気にこれが初めてのバーサーカーとの会話だったが、初めての相手が清姫で良かったと心底思う。ここまで理性的なバーサーカーも早々居ないのだから。

 

「魂が"ちょっと"違うと言っているのです! そして私の脳も"割と"安珍様だと判じているのです! 0か1ではなく、8:2! 安珍様なのに、安珍様じゃない!‭─‬‭─あなたは、なんなんですか!!?」

 

「重ねて命ずる、私は藤丸立香だ」

 

「令呪を使うフリはしないでください! 絶妙に嘘っぽくて燃やしたくなります! あ〜…! コレじゃない…! コレじゃない感があるのに確かに安珍様なのがぁ〜…!!」

 

「私の中から何を見出したのか。コレが分からない」

 

「正直に言うと一目惚れした相手が私より幼子で、もっと成長していればと歯噛みする気分です。ああ、受肉さえしていれば光源氏と同じ事が出来たのに! あと3年…いや1年で理想の安珍様なのに…!」

 

「へい、私、女の子」

 

恋愛は男女だけの特権ではないのです! 今、それを悟りました!

 

「わあ」

 

 今にして思えばイリヤの手心に次いで年齢に助けられた場面だと思う。

 本来の彼女ってすごくいじらしい乙女だから、ここまで明け透けに語るのはかなりレアなケースだ。それだけ私の年齢が絶妙に惜しいってことなんだろうけど、これに助けられるのはなんだかもにょるから出来るだけやめて欲しかった。

 

「う〜〜〜!!! あと…! あともう少し…! う〜〜〜!!!! 見れば見るほど安珍様なのに…!……せめて私より背が高ければぁ…!!」

「今私の背が低いって言った? ふーん…12歳だからまだまだこれからだしぃ? これからナイスなバディになるしぃ? 悔しくないったらないよ」

 

 これを言った時、清姫の顔が窄んだ梅干しからヤケに清らかな笑顔に変わったのは今でも夢に見る。あの背筋のゾッとする感覚は忘れられそうにない。

 

同い年 あ‭─‬‭─今、何か新しい世界(レズ/ペド/擬似姉妹)の扉が開きそうな……」

「閉じよう。すぐ閉じよう。それ絶対開いていいものじゃないから」

 

「あのう……そろそろ契約をしませんか? 話が進まないので」

 

 そんなこんなでマシュの助け舟に感謝しつつ、私と清姫は無事に契約を結べた。

 

「……もう私の醜態を見た者全員、焼き尽くすしか‭─‬‭─‬!」

「抑えて清姫。誰だって本当に悔しい事があったらそうなるものだから」

‭─‬‭─嘘を付きましたね!? そんな事全然考えてないじゃないですか!!

「醜態を隠す為に全部燃やすのは隠蔽の嘘じゃないの?」

「……っっっ!!!!」

 

 夜頃に正気?を取り戻した清姫が一瞬敵対仕掛けたりもしたけど、ちょっと質問しただけでなんとも言えない顔になって推し黙ったのもいい思い出だ。あれは本当に笑ってるのか怒ってるのか、それとも無表情なのか絶妙な顔だった。

 

「うーん……それにしてもどこに居るんだろうなぁ」

[仲間は増えども元凶は発見できず……そんな藤丸ちゃんに朗報だ。ジャンヌちゃんの霊基解析と霊脈の流れからはぐれ英霊(サーヴァント)が召喚されそうな場所の計算が終わったよ]

「私の観測だけでも忙しい中ありがとうございます」

[なーに、このくらいならお安いご用さ! それじゃあ結果を教えていくね]

 

 そういえば、この時の私はジャンヌと出会った時にカルデアの方にこんな事を頼んでいたりする。

 受肉してる英霊だ。聖杯が宿ってるかも知れないし、はぐれ英霊(サーヴァント)を仲間にするのも大事な仕事。

 それにこんな事をしてる相手だ。霊地となる場所に拠点を構えている可能性がある以上、試して損はないだろうという判断だ。

 ……本格的に攻略を始めた分、やれる事を全部やろうとする時期だった。

 

[ジャンヌちゃん自体は"白"。特異点の核となる聖杯を宿しては居なかった。化けてるとか、全体に分散して誤魔化してるという線もないよ。そもそも魔力回路が少なく、炉心の類いも見受けられない。彼女は生前有してなかった竜の召喚ができるけど、これは「起源を由来とする力」というのが1番可能性の高い答えだ]

 

「起源…ですか?」

 

[その人が始まった際に与えられた要素さ。あらゆる存在の方向付け。それを自覚し正しく運用すれば封印指定にまで……要するに、すごく強くなれたりする]

 

 なんとなく、ダヴィンチちゃんの起源は「万能」で、私は「平凡」なのかなと感じる説明だった。

 

「それが目覚めてると? 「竜」が起源って事ですか?」

 

[いや、使う魔術に強く出てはいるが、彼女の起源自体はそうじゃないだろうね。そもそも起源に気付かず生涯を終える場合が殆どだ。簡単に分かるものでもない。だけど‭─‬‭─竜を召喚したのはこれに関係している。あくまでも可能性だけどね、一個人の消費魔力に対して下級竜種(ワイバーン)を十数体召喚は明らかに釣り合いが取れてないんだ]

 

「起源……はい、分かりました。では霊地の方を」

 

[そっちは地図に目印を付けておいたよ! 長押しで地名も出るから、君の判断で行ってくれ。それにはぐれ英霊(サーヴァント)が移動してる可能性も考慮するんだよ。大抵、人なら街の方へ向かうものだからね]

 

「ありがとうございます、助かりました。アドバイスの方も参考にしておきます」

 

[うん、また明日ね。お休み、藤丸ちゃん]

 

「はい、お休みなさい」

 

 通信を終えた私は、それから暫くの間焚き火の炎を何も考えずに眺めていた。

 深い理由はない。強いて言えば通信が終わった頃には傭兵達に……清姫も騒いだ疲れか眠っていて、マシュと二人きりだったから、少し気まずかったんだと思う。

 だからか赤ずきんのコスプレみたいな魔術礼装のスキルを弄り回しつつ、私は焚き火とマシュを交互に見ていた。

 

「……マスター」

 

 話を切り出したのはマシュからだった。

 

「どうしたの、マシュ」

「マスターは何故部屋から出たのですか? あんな事があって……みんな、マスターが来るとは思ってませんでした。マスターさえ部屋から出なければ、この特異点の攻略はもう少し後になった筈です。それを望まない筈がないと……私もそう思ってたんです」

 

 話題は私がマスターとして部屋から出て、ミーティングに来た事だった。

 誤魔化すか、正直に言うか。悩んだ理由は私の心情からではなく、それに聞くマシュがどう思うかで悩んだ。

 

「……そうだなあ」

 

 マシュの言葉は最もだ。

 まだ冬木の特異点……特異点Fから脱出してから3日しか経ってない。

 時間が傷を癒すには短いし、ここで挑むは性急だと、きっと所長は言うだろう。

 実際そうだ。この時らカルデアの職員も、ダヴィンチちゃんも、ロマニ博士も、マシュも、私も、全員が急な事態で気が動転していて、全員がまともな判断を下さる状態では無かった。

 カルデアの復旧と並行しながらの特異点攻略。無謀と、自殺と言われたら事実だろう。ここで挑むべきでは無かったと、きっと敵であるレフですら指摘するに違いない。

 

「すごく子供っぽいこと言うけど、いい?」

「はい、構いません」

 

 私は一般人だ。ここに来てからは特にそう思う。

 だから怖いものは怖いし、トラウマに駆り立てられたら脚を速めたくなる。何も知らないし、無知の愚行を行いもする。

 所長の言葉に急かされたから。マシュだけで挑んで死んだらイヤだから。それしかないから。

 

「自分なら出来るって、期待したから」

 

 "それを理由にするのは簡単だ"。

 だからこそ、自分が動く理由を他人に委ねるのは癪で、なんとなくイヤだった。

 つまりは、意地だ。

 

「あはは……子供っぽい意地っ張りでしょ? もっとマシュに先輩らしい姿を見せたいとか、みんなを不安にさせたくないとか、そんな良い人になれたら良かったんだけどね」

 

 部屋から出る最後の後押しをしたのはトラウマだ。それは間違いない事実で、誤魔化す気もない。

 だけど部屋に居る間……私が恐怖に纏わり憑かれながらも資料を見たり、マスターとしての振る舞いを勉強したのは、コッチの比重が大きい。

 

「……うん、やっぱり無理かな。私はそこまで振り切れそうにないや」

 

 知らない大人と関わる勇気は正直ない。

 だけど何もしないなんてしたくない。

 恐怖に突き動かされるのは癪に障る。

 自分がどれだけすごい立場に居るのか未だに実感が沸かない。

 

「だから、明日の自分に期待した。

 昨日の自分に期待されたから、背伸びして頑張った」

 

 結局私に出来る事ってこのくらいだよね。

 なら、やる事に迷う必要なんて無いんじゃないの?

 

「特異点を攻略出来る自信なんてないよ。でも、ここで出来たらコレからも出来るって思えそうじゃない?

 だから来たんだよ。自分の心の強さも傷も全部歩く為の力にしようって決めたから。だから私はここにいる」

 

 閉じこもっていれば、もっと準備して来れたのだろう。

 子供らしく振る舞えば、実力不足として行かされなかったのだろう。

 イヤだと言えば、それだけでこの作戦は保留されて、今もカルデアに居たに違いない。

 

「……なはぁ。ごめんねぇ、先輩らしくなくてさ。今の私は、私の期待に応えるのが精一杯。マシュの期待は、これから少しずつ背負うってことで……どう?」

 

 だけど私は、ここで焚き火をマシュやジャンヌ達と囲んでいる。

 結果は雄弁だが、同時に気恥ずかしさもある。結局は幼稚な心が招いた結果だ。

 それが良い結果を招いたとしても、未熟である事実は変わらないのだ。

 

「‭─‬‭─いえ、充分です。先輩は、ちゃんと先輩です」

「そう? それなら嬉しいけどさ……妥協させたみたいでごめんねぇ?」

「えっ? いえ! そんなことは!」

 

 事実、この時にマシュに少し妥協させてしまった。今も未熟であるし、マシュの期待に応えるのは未だ遠いものだ。

 

 この時のどの辺りが未熟か。そうだな……具体的に述べるならば。

 

「おぉ‭─‬‭─あなたはもしや、ジャンヌでは?」

「‭─‬‭─っ⁉︎」

「探しましたよ、ジャンヌ。さぁ‭─‬‭─共に新たな復讐(救済)を果たしましょう」

 

「ッマスター!?」

「ますたぁ!!」

「立香ちゃん!!」

「「「団長っ!!」」」

 

 私の背後から現れたジル・ド・レェに気付けず、まんまと誘拐された事が挙げられるだろう。

 何故かジルの登場と共に貴族達以外の全員が一斉に起きたのは、今になって思えば不思議なものだが……それだけ皆の警戒心が高かったのだろう。寝ずの番を決めてなかった私の不手際である。

 

「ジル! 何故あなたが‭─‬‭─‬!?」

 

「………()()()()()()()()()。私とジャンヌの復讐(救済)の邪魔をすると言うのであれば‭─‬‭─‭─‬ここで死になさい、英霊(にせもの)風情(ふぜい)が」

 

「私の事が分からないのですか……!? ッ海魔が!」

 

 ともあれ、私はまんまとジル……この特異点の元凶に誘拐される事となる。

 拐われた理由を先に言うならマシュと話す前に私が魔術礼装の幻術を弄り、ジャンヌが大人になった姿はこんなのかなーと、何かに役立つかと思い見た目を組み立てていたのが原因なのだが……。

 

「あのッ! 私はジャンヌじゃありません! ほら、見た目も!」

 

「‭─‬‭─ジャンヌ、無事に"やり直せた"のですね。

 

 おお、神よ、我が願いを叶えてくだった事に感謝を!

 我らの悲劇の乙女に!! 新たな旅路の機会と!!! 愚者共に贖罪の機会与えた慈悲に感謝をッッ!!!!

 

「……あぁ」

 

 容姿は単なる一つの要因でしかなかった。

 幻術を解除するタイミングが悪かったのもある。

 最初にジャンヌの姿を幻視して、後から本当の姿を晒して……。

 

「そういう願いだったんだ」

 

 それは狂った者にとって、"聖杯にジャンヌの偉業のやり直しを願った"者にとっては、生まれ変わったジャンヌを自分が見つけたという証拠にしかならない。

 そうして確信してしまえば、近くに幼いジャンヌが居ても無駄だ。

 

「聖杯は理想通りに。されど本人は妥協が故に気付かず……か」

 

 ジルは蘇生ではなく生まれ変わりを願った。ジャンヌが復讐を願わないと考えながらも共に復讐する事を夢見て、ジャンヌではないジャンヌ‭─‬‭─即ち生まれ変わりを願った。

 それは間違いなく妥協だったが、彼の理性が僅かに狂気に打ち勝った証左である。

 

「さぁジャンヌ、無辜の民を助けましょう。あなたの素晴らしさを世に知らしめて、そして全ての醜悪さを燃やし尽くすのです。あなたの第一の騎士、このジル・ド・レェが共に参りましょう」

 

 しかし聖杯は彼の奥底の願いも汲み取り蘇生に高い形にした。

 同じ道を進んだ時に復讐を選ぶジャンヌ。受肉した贋作英霊。その幼体。

 本人が捨てた理想であるが故に、本人は決して彼女が本物であると受け入れない。

 少しだけ悪に堕ちきれなかった彼にとって、それを受け入れれば完全な悪になってしまうから。

 

「言葉は……届かないよね。新しいジャンヌの英雄譚の悪役になろうとする人が、この程度で止める道理がない」

 

 だからこれはすれ違いの物語(うんめい)だ。

 

 狂気に堕ちきれなかった騎士(ちち)と、狂気的な理想を具現化した魔女(むすめ)

 

 100年経っても終わることのない、魔に堕ちた騎士と竜の聖女の戦争。

 

 

 邪竜百年戦争「オルレアン」の始まりである。

 

 






 ジル・ド・レェ
 後に青髭となる騎士。ジャンヌの騎士の一人であり、騎士としての彼は英霊の中では凡庸な能力しかない。
 聖女の火刑に発狂しカルトに傾倒。そこに本物の魔導書「螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」を手に出来た事でキャスターの霊基を獲得した。
 ……が、このジルはまだ魔導書を手にして数日しか経ってないジル。未だ騎士の精神や神への祈りが消え切っておらず、そのせいで自分が聖杯に願った内容を誤解し、そのせいで藤丸立香をジャンヌと勘違いしてしまっている。

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