紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 中立/中庸(善→中庸)
 マキリ・ゾォルゲンに召喚された彼女は、マスターの影響を受け本来より自分勝手な振る舞いが面に出易くなっている。
 他人でなく自分の為に歌った側面、暇つぶしに自分の芸を遠慮なく使う側面、責任感があるようでちゃらんぽらんな楽観視を行う側面……。
 人は産まれてから死ぬまでに様々な振る舞いをするものだが、彼女の変質は人生のこういう場面の状態で固定されるものだ。
 これは時に属した在り方から外れた行いもする「英霊」というよりも、決められた動作を行う機械に近い。
 そのせいか、この彼女は(わらべ)であった時の振る舞いをする瞬間が多い。




ハッピーキャンディ

 

 

「お母さん! 道を作ったよ! 褒めて褒めて!」

「よしよしえらいねぇ、ありがとうジャック。よく出来ました」

「えへへ〜」

 

 なんで紙芝居でもないのに俺、母役やってんだろ。

 おかしいな、七匹の仔羊の母みたいな声色を変えられないや。

 元に戻したら殺されそうだなあ。なんとか自立してくれないかなぁ。

 

「でもねジャック…頑張ってくれたのはうれしいけど、お母さんお礼を返したくても返せなくてねぇ…あったかいシャワーの一つでもさせてあげたかったんだけど、ここ泥と霧しかないから…」

「大丈夫だよお母さん! わたし、お母さんと一緒にいるだけで"しあわせ"だもん!」

「そうかい…ごめんねぇ、もう少しわがままを言わせてやりたかったんだが…」

 

 うーん、三年くらい育てたらワンチャンありそう!

 あの特徴的な紫色の菱形の入れ墨もないし、今のジャックが英霊じゃないのは確実だよな。

 心がリセットされる英霊じゃないんだし、満足するまで愛してるフリをしてやれば問題は無さそうに見える。

 

 問題はジャックが霧が外に出る道を整えちゃったから、そんなに時間が残されてないってことだ。

 俺は本体が男だからかジャックも解体してこないが、もしこれが原因で別れる事になったら悪霊に戻りそうな気配を感じる。

 

 なんというか、ジャックちゃんなのは間違いないんだけど……俺が作った作品のジャックみたいな面も見せてくるんだよね。

 習合ってやつかな? それとも俺というサーヴァントの特性か。同一視出来そうな相手には自分の作品の役を被せてる節があるんだよ。いや……被ろうとしてるのか?

 

 なんか、俺が被せてるって言うより……。

 

「すぅ…すぅ…すぅ…」

「ジャックはいい子だ、ねんねしな〜…。

 

 世界が…"人類史がそう見ようとしてる"気がするなぁ」

 

 この世界って人の集合無意識的サムシングの抑止力があるからな。

 なんだろう…文化的認識(ミーム)汚染って言うの? 野獣と先輩を並べたら多くの人が同じものを想像するように、俺の作品という色眼鏡が世界に被さってる気がしてくるんだよな。ジャックちゃん見てると。

 

 なまじっか人理版図(テクスチャ)なんてものがあるから面倒なんだよな。

 マキリの旦那は文化って言ってたし、「これは」「こう振る舞う」っていう定型というか…お約束みたいなのが俺の周りで起きてそうなんだよね。

 

 つまり……。

 

「弱い代わりに自分の作品の流れを押し付けるキャスター……言葉にしてみたら作家系なら誰でも出来そうだね。それなら出来ておかしくないか」

 

 なんか結論を言葉にしてみたら自分だけじゃない気がしてきた。

 なんだ、つまり英霊ならままあることか。未だ宝具一つ使える気がしないけど、一応ジャックに解体されずに寝かしつける関係になれたんだ。なんかあるだろ、これまでの結果的に。

 

 じゃないと紙芝居してただけの奴がここまで上手く立ち回れないに決まってる。

 

「すぅ…すぅ…」

「こうしてみるとただの子供にしか見えないんだけどなぁ」

 

 出てきた時は解体されると思ったけど、冷静になってみれば全裸だし何も持ってなかったからな。

 慌てて服と牛乳を買ってきて飲ませたけど、今になってみればそのまま置いて行っても良かった気がしなくもない。

 英霊でも悪霊もどっちも幽霊だ。成仏させるのが正解だった気がする。でもやり方分からんしこれで良かった気もする。少なくとも泥がじわじわ出てる場所で寝かすのはアウト…。

 

 あ、そうだよここじゃなくて宿泊宿の一部屋でも借りれば良かったわ。

 

「しまったな、子供をこんな所に寝かすのは大変良ろしくない。折角手伝いたいという言葉に甘えて霧の道を作って貰ったのに……」

 

 上を見れば、そこは大聖杯から溢れた霧が緩やかに地面に染み込み、ジャック曰く地中を少しずつ登っていると言う。もう数日もすればロンドンのあらゆる場所から霧が滲み出し始めることだろう。

 

「でも…まさか魔術を使えるとは」

 

 なんとジャックちゃんは俺の要望に対し魔術で解決させた。

 どうやらこのジャックちゃんは暗黒霧都(ザ・ミスト)という宝具と似たようなことが出来るらしい。すごいねぇ。

 

「宝具…いや、その原型となる力かな。彼女は過去の残影たる英霊ではなく…語弊にはなるが、今を生きるただの幽霊だ。英霊がかつてのロンドンの霧を再現したならば、その前身は霧なら大体操れるのは当然とも言えるね。

 ましてや結界から始まる全前提条件を無から生み出すのではなく、全てが操り手を待つだけの状態……うん、ジャックはとっても偉いってことは分かるぞぉ」

 

「すぅ…すぅ……えへへ」

 

「うむ、寝顔も可愛い」

 

 スコップでじわじわ広がってる泥を足止めする為の()()を掘りつつその時のことを思い返した。

 

 ザクザク、ザクザク……。

 

 

 

 ♢♦︎

 

 

 

「ハハハ、どうすれば見逃してくれるかな?」

 

「む…わたしのお母さんは解体しないもん!」

 

他のお母様は解体する気なのかい?

 

「むー…それは あげあしとり、だよ!」

 

「ハハハ、つまり「わたしの」と言ったのは単なる指定じゃなく独占欲かい。

 出会って5秒だぜ? 赤子と母ならまだ着床したばかりくらい。

 カレカノなら眼と眼が合ったり16分割した瞬間。つまり言うのが早い。

 そういうのは10月10日は一緒に暮らしてから言うことさ、オマセさん」

 

「…うぅ、よくわかんなぁぁ!?」

「ほおれくるくる〜」

 

 わたしのお母さんは変な人だった。

 笑いながらいのちごいするし、かと思えば他の人の心配をするし。

 怒りたいのか、虐めたいのか、急に撫でてきたと思ったらわたしを持ち上げてくるくる回して、なんだか、お母さんから貰った(童話)の知恵を振り絞ってもよく分からない人だった。

 

「なにするの! お母さん!」

「ふふ、これはからかいさ、子供の(キッズ・オブ)ジャック。

 説教でも意地悪でもない。じゃれ「(あい)」と呼ぶ、ステキな愛の確かめ方さ」

 

 でも。

 

「あい?」

「文脈からして、ジャックが解体したいのは「愛されたい」、「愛したい」からだろう?

 だから解体なんかより、ずっとジャックの為になる「愛し方」と「愛され方」を教えてるのさ。

 お互いが好きなら自然とやってしまうもの。傷付けるより、ずっと楽しいし嬉しくなれるんだ」

 

 なんだか。

 

「へー」

「勿論そんなの建前で、私がやりたいからやってるだけなんだけどね!

 ……ま、その内分かることさ。こういうのは自然と親から子に継がれるものだからね」

 

 前のお母さんより、ずっとずっと、()()お母さんなのは、なんとなく分かって。

 これが()()()()ってことなんだと思ったら。

 

「‭─‬‭─そっか」

 

 わたしは()()()()()()()()()()()って。

 なんとなく、わかっちゃって。

 

 ぎゅう…。

 

「……怖かったね、ジャック。もう大丈夫さ」

「あ…ごめんなさい。腕、痛くない?」

「平気だよ。家族の痛みを分かち合えるなら、寧ろ嬉しいくらいさ」

 

 たとえ、わたしがいじわるしても。

 

「……なら、お母さんはわたしが解体したいって言ったらどうするの?」

「ひうぅ…やめてくれぇ。私は冗談でもそんなこと言われると心がちっちゃくなっちゃうんだ…」

「……むう」

「はは、冗談。そんなこと言う気を無くすくらい遊ぶだけさ。私の家族になったからには、遊び疲れて寝ちゃわない覚悟は必要だぜ?」

「……ふふ、変なの!」

 

 こんなに、穏やかに包み込んでくれる。

 

「おかあさん」

 

 ……ぎゅ。

 

「……よしよし、落ち着いたらお洋服と…ミルクも買ってあげようね。

 もう、寂しい日は来ないだろうさ」

 

 

 ああ、わたし()()は。

 こんなにあったかいものを知らずに過ごして来たんだって思うと。

 

 これを独り占めに出来るんだって思うと。

 

「……えへへ」

 

 心が、ぐつぐつ、ぐつぐつって。

 ザラメが溶けるみたいに、頭がぐちゃぐちゃに「シアワセ(多幸感)」で、「シアワセ(優越感)」で、「シアワセ(充足感)」で、「シアワセ(飢餓感)」で、「シアワセ(罪悪感)」で、色んな味のお菓子が沢山入ったカボチャの幽霊(ジャック・オー・ランタン)みたいで。

 

「わたしの あかあさんだ」

 

 だから、わたし()()は、わたしの中で見るだけだよ? この席は1人だけなんだから。

 どれだけ欲しがってもだーめ。あーげない。全部わたしのお菓子(シアワセ)だもん。

 

「わたしだけの おかあさんだから」

 

 真っ白で、ふわふわで、細長い瞳で、クルクルした角の、わたしのおかあさんだもん。

 誰にも、絶対に、渡さないから。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ザクザク、ザクザク、ブゥン、ブゥン……。

 

「ふぅ……にしても! この泥はいつまで出てくる気なんだい!?」

 

 後は野となれ山となれ山となれ。しかし泥の沼地はご勘弁!

 絶対に触らないように気を遣うのってとっても大変ね!

 ハエでも繁殖し始めたのかブンブンなんか飛んでる音が聴こえるしさぁ!

 全ての悪には肥溜の醜()さでも混じ…あ、ごめん、言い過ぎた!

 

 ブゥン、ブゥン…。

 

「虫の姿も全然見えないしさぁ…! 決めた、掘り終わったら二度と近寄らないぞぉ!」

 

 流石にキリが無かったから、俺はトンカチを片手にジャックを連れて外に出た。

 スコップ、お前にはこの世全ての悪がこびり付いたから連れて行かない。脈打っててキモいから。

 じゃあな、この世全ての悪を相手に共に戦った相棒、お前の握り心地悪く無かったぜ。

 

「うーん、すっかりこの景色に慣れてしまったね」

 

 相変わらず煤汚れて灰色に染まった街だが、あの陰鬱な霧と泥の空間の後だと快晴の青空みたいに感じる。ふう、ロンドンは今日もいい天気だなあ! 何故かあんなに居た人が全然居ないけど!

 

 ブゥン、ブゥン…。

 

「良い天気だ、気のせいか燦々と輝く輪が見える。確か日暈(ハロ)だったかな」

 

 いや違うなぁ、日暈(ハロ)はもっとこう…虹色だったもんなぁ、ハハハ!

 

 ……ふぅ。

 

「特異点出来とるやんけ…」

 

 ブゥン、ブゥゥブブブブブ‭─‬‭─。

 

 教えてくれ、これ霧をロンドンに満たしたジャックちゃんが有能なの?

 それともあの洞窟を抜けてからも聴こえる虫の羽音がマズいやつなの?

 俺には何も見え‭─‬‭─あ、多分透明化した虫だ。太陽の下だと目を凝らせばなんか輪郭見えるわ。

 

 ュ‼︎(無数のチ○コ虫の輪郭が見えたこいつは全身に無数の矢を受けて立ったまま絶命した伝説の豪傑こと武蔵坊弁慶だね)

 

 マキリの旦那ァァァアア!!!!

 卑猥な蟲飛んでるぞマキリの旦那ァァ!!

 

「おかあさん?」

「ジャック!? ちょっと待っててくれ今安全な場所に」

「ふぅん…"邪魔"」

 

 ピギィィィィ!!!

 

「……わぁお」

 

 あ、あんなに沢山居た蟲が一瞬で死んだ! コワイ!

 いや…蟲はまだ生きている! ただ羽をもがれただけだ!

 ま…まさか…霧を操って蟲の一番脆い部位を壊したといいのか⁉︎

 

「どう? お母さん!」

「お母さんたまげちゃった。どうしよう、腰抜けて動けない」

「……はっ! 可愛いおかあさんだ!」

「ジャックや、今一体なんの気付きを得たんだい?」

 

 え、この一瞬で? 沢山居たよ? 沢山飛んでたよ? よく狙えたねぇ⁉︎

 これが英霊になれるあっち側…ってこと!? 俺の腕から飛び降りた後も平然とした顔で這いずる蟲を避けてスイスイ歩いてるし、やだこの子生まれきってのアサシンだわ!

 

「えっとぉ…これからお宿を探すんだよね、お母さん。なら、わたしが抱っこしてあげる!」

「ジャック〜お母さんの威厳を落とすのやめて〜。大人として子供にお姫様抱っこされるのは恥ずかしいやらむず痒いやらで複雑だから〜」

「let's go!」

「ジャックゥ〜…もう誰だいジャックに愉快さとノリを教えた人は!」

「おかあさん!」

 

 子供は大人の背中を見て育つって本当なんだな! 全くもって成長が早い!

 あー待って今走り出したら俺な"‭─‬‭─んてもう舌噛んだぜ痛くて涙が出てくらぁ。

 

「ほうひてひらゆきひめはひんだ……いふぁい…」

「わわ、おかあさん大丈夫⁉︎ 痛いとこ撫でる?」

「んん…ジャック、遠回しに指チュパかディープなキスの二択を迫るんじゃあない。もっと触れ合いたいのは分かったからそれはやめておむむむ!」

「あはは! おかあさん赤ちゃんみたい!」

 

 ライン越えたな? お仕置き開始だ‭─‬‭─‬!GO‭─‬‭─‬ッ!

 

「ジャック」

「あはは!……おかあさん?」

「バンザイ」

「?…ばんざー‭─‬‭─っあっはははははははやめっあはははは!!!」

「お母さんはオモチャじゃありまっせん!! 分かるまでこうだよ!」

「ごめ!あはは、ごめんなさあっははは‭─‬‭─はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「分かればよろしい。さて、そうしてる内に腰も治ったし、真面目に宿を探そう。

 タダでさえ土地勘のない奴らが2人なんだ。日が暮れない内になんとかせにゃならん」

 

 その後、俺たちはどうにか宿を一部屋だけ借りることが出来た。

 

「ほう‭─‬‭─宿ですか。

 構いません。私の宿はブリテ……ロンドン(いち)ですから。

 ええ、なんでしたら全ての部屋を借りても構いませんよ?」

 

(ひさし)を借りたい人に母屋(おもや)を取らせようとする人始めて見た!?」

 

「物事には時に円滑な流れを作る為の順序があります。

 はい、身も蓋もなく言えば賄賂です。お受け取りください」

 

「私は悪官でも強欲な門兵でも、ましてやただの商人でもないんだが……まぁ、好意と打算があるのは伝わったよ。君のお名前は?」

 

モルガンとお呼びください」

 

「はは、冗談が上手いなぁヴィヴィアン君は。あ、それともグレイ君と呼ぼうか?

 悪役を名乗るには善意が透けて見えるね。次からはもう少し悪ぶってみるといい」

 

「……私、そんなに良い人そうに見えましたか?」

 

「心を押し隠そうとしてたから。それ相応の理由があると悟れば気付くのは難しい話じゃないよ」

 

 なんか宿の女将がモルガンっぽい人だったが、まあ気のせいか。

 だってロンドンだもんな。ウェイバーもといエルメロイ2世の弟子、グレイのご先祖様が住んでてもおかしくはない。

 奇縁だとは思うが、こういう物語の後ろにこっそり隠れてる新要素を見つけるのは、前世で創作としてこの世界を知ってる者の役得でもあるんじゃないか?

 

 うん、良いものが見れた。

 きっと、明日はいい日になるだろうな。

 

 

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