紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 宝具「████████」
 ランク█。欠損が多く使用不可。
 マキリに召喚された彼女は、構成要素をファム・ファタールに取り込まれた影響で宝具が使えない。
 しかし完全に消えた訳ではなく、僅かな輪郭を辿ればその片鱗は使えるだろう。

 たった一度だけ。その身が朽ちることを受け入れれば…の噺だが。




星を見る人

 

 

 

 ♢

 

 

 

 人類史にはその時代を象徴する転換点(ターニングポイント)がある。

 

 

炎上汚染都市「冬木」

それは、冬の市街で起きた聖杯戦争だったり。

 

 

邪竜百年戦争「オルレアン」

或いはその名を轟かせた聖女の処刑だったり。

 

 

永続狂気帝国「セプテム」

全てに通ずる帝国の洛陽の始まりであったり。

 

 

封鎖終局四海「オケアノス」

または、世界一周を成し遂げる冒険だったり。

 

 

 長い人類の歴史には数え切れない転換点があり、仮に時間旅行者が破綻させてしまえば人類の歩みは大きく変わり、歴史は崩壊し、焼却される。

 

 その大きな変化を齎された時代を「特異点」と呼ぶ。

 放っておけば人類が滅んでしまうような綻びだ。

 

 しかしそれを阻止する組織もある。

 それが僕たち「カルデア」。星見の名を冠し、時間を旅して歴史を修正し、人類の継続を保証する組織。

 

 

 僕…「藤丸立香」が奇妙な巡り合わせながらも、唯一のマスターとして所属する場所だ。

 

 

 

「今度の特異点はA.D.1888年、人理定礎A-。産業革命真っ只中のロンドンだ」

 

「歴史の転換点としてかなり分かりやすい時期だね。布織りを人の手から機械に譲り、それを契機に人力(マンパワー)工業化(オートメーション)に切り替えていく鋼の時代の黎明期だ。

 神秘が急激に薄れる時期であるとはいえ、これまでの特異点の傾向から英霊や魔獣との戦闘はあるだろう。場合によっては戦い以外の面で厄介な事態になると予想された。

 

 そ・こ・で! 天才ダヴィンチちゃんが新たな魔術礼装を「時計塔の制服風」に仕立ててみたよ!

 これまで通り、必要な時に使うといい」

 

 

 

「ここが新たな特異点……霧がとても濃いです、先輩!」

「ダヴィンチちゃん、Dr.ロマニ、聞こえる?……通信は無理みたい。この霧のせいかな」

「…結果が出ました! 近くに魔獣、及び強い魔術の気配はありません。代わりにこの霧に僅かながら魔力が確認出来ました。念の為霧祓いの魔術を使っておきますね、先輩」

「お願い。……なんとなく嫌な匂いも感じるし、この霧を吸ったら悪いことが起きそうだ」

「フォーウ!」

「あ、フォウさんにも掛けておきますね!」

 

 魔術礼装の反応良し、令呪の発動待機(セット・レディ)まで動作に問題なし、事前に待機させておいた霊子接続の動作(パーティ1・2・3・4)…良し、自己確認(メンタルチェック)身体確認(ボディチェック)、異常なし。うん、いつでも戦闘可能だね。

 

 特異点に降りたら恒例となってきたいつもの流れ(クリアリング)を終えつつ、いざという時の為にマシュの近くに寄る。

 周囲を見渡せば黒っぽくて濃い霧に覆われており、都市にしては不気味な程人の気配が薄い。

 だが完全に居ない訳ではない。誰も外に出ようとせず、息を潜めて家に籠っているようだった。微かなカーテンの揺れや物音がそれを静かに伝えている。

 

「でも、なにが異常なのかは分かり易いのかな。霧の都ロンドンとは聞いたけど、そこに魔力が混ざってるのは変……ということだよね、マシュ?」

 

「はい。昔のロンドンはsmoke fog(煙みたいな霧)と揶揄される程にスモッグに覆われていますが、それは科学の産物でありこのように魔力を宿しません。

 

 勿論霧は古来から「迷い」「覆い隠し」「見通せない」象徴として度々魔術にも利用されたりしてますが、工房でもないのに都市部で索敵範囲全域を覆う程の規模で使われることは、神代でもなければ基本的に無い……と、ダヴィンチちゃんが事前に説明してくれました!」

 

「流石ダヴィンチちゃん。先んじて相手がやりそうな手法を予測してる」

 

 万能の天才だからね! 名探偵にだってなれるのさ!

 

 マシュに教えている最中のダヴィンチちゃんがそんなことを言う幻聴を聞きつつ、僕とマシュは一時の方針を決めた。

 ……と言っても、これまで攻略した3つの特異点と同じことをするだけなんだけど。

 

「聞き取り調査をしようか。それから、途中英霊(サーヴァント)反応があれば接触を図ろう」

「分かりました、先輩。周辺調査ですね」

 

 そして2人で霧に包まれたロンドンを探索し、道中遭遇した狂乱した蟲を倒してる際に遭遇したモードレッドが二つ返事で。

 

「ああいいぜ、仲間になってやる……イヤな奴の気配もするしな。

 っかし……アレが敵に居るにしては手ぬるくて不気味なんだよな」

 

「モードレッドさん、あれってなんですか?」

「名前を言ったら呪ってくるババア」

「そんなお方が!?」

 

 更には眉間に皺を寄せて何か悩んでは、乾いた笑いを見せるアンデルセンとシェイクスピアを仲間にして。

 

「……どう見る?」

「どうと言われても、なるようにしかなりますまい。いやしかし、随分と大それた者を呼んだものだ! サイン色紙でも用意しておきますかな? ざっと100枚ほど」

「何を言ってる? 千枚用意しても到底足りんわ!」

「おや、彼らのファンで?」

「当然だ……ハ! 嫌なものだな!

 (さも)しい子供の頃に読み耽り、青年の頃は飯の種に、晩年に至るまで共にした連中が敵になるのは!」

「ハハハ、それを言ったら吾輩もだ! 彼ら相手ならなにが来ようと一発で真名看破出来る自信がある!」

「気が合ったな、俺もだ!」

「「ワッハッハッハ!!!」」

 

「アンデルセンさん、シェイクスピアさん、彼らとは?」

「……会えば分かるぞ、無垢のフリをした少女よ」

「ネタバレ厳禁ですぞ! ささっ先ずは休める拠点を探しましょうや!」

「すごくお二人がニヤついています!悪い笑顔です!」

 

 すったもんだの末に、自分が暴れてたのを鎮圧したお礼だと、ジキルという人の家にやっかいになる事になった。

「お邪魔するわね」

「どうぞ。なんでも無い家だが、ゆっくりしていってくれ」

「お邪魔します、ジキルさん! アンティークで私は好きです!」

「大勢で押しかけてごめんなさい。数日で出て行きますから」

「構わない。悪い僕をなんとかしてくれたほんのお礼だからね」

 

 隅に埃が溜まった家、心配(こころくば)りが利いた調度品に反比例する乱雑に撒かれた紙。

 そして奥の扉からチラリと見える、神経質な程綺麗に隔離された薬剤の調合場……あの罪と罰のモデルとなった人物なだけはあるのだろう。優しく優秀な青年で、しかし悪の心と闘争しようとする闘争心が……悪に対する狂気に似た敵意がそこにあった。

 

「ふん、安酒しかないのか。シケてるな」

「まぁまぁ、ツマミになりそうなチーズとサラミがある。小休止としてはいい塩梅でしょう」

「テメェら…他人の家に上がって最初にやることがそれかよ…」

 

 それを横目にアンデルセンとシェイクスピアはキッチンを漁っていた。

 こんな陳腐なものは既に見飽きているとばかりの反応だ。

 

「逆に聞くが、これから素晴らしい体験を得られると分かっているのに祝杯を掲げない奴が居るか? いや、居ない!」

 

「それに食べながらの方がお互いの胸の裡も開けるというもの。

 ここにいるのはお互い出会ったばかりの旅人達!

 釜の飯を食べ仲を深めるなど、常套句過ぎて欠伸すら出てきますな!

 故に効果的だ」

 

「…ッチ、口が達者な野郎どもだ……いざという時は聞く耳は捨てるか」

 

 実に悪い大人達だった。一理ある言葉で相手を言いくるめ、無断でキッチンを漁った事実を誤魔化していた。

 しかし朝からずっと動いて腹が空いていたのも事実なので、僕はジキルさんに一言謝ってから彼らの用意した食事を堪能する事にした。

 

 ピッピー。

[‭─‬‭─‬あ! やっと繋がった! 藤丸、マシュ、余裕があればそっちで何があったか教えて貰えるかい?]

「ドクター! 通信が復活したんですね!」

「‭─‬‭─ごくん。はぐれサーヴァントのモードレッドさん、アンデルセンさん、シェイクスピアさんを仲間にして、みんなで現地協力者のジキルさんの家に居ます。安全地帯に居るので順に説明しますね」

 

 周りに霧がないジキルの家に暫く居たからか食事中にカルデアの通信が復活した。

 それからお互いの簡単な自己紹介もして、カルデアの調査によって判明したこの特異点の状況を説明する流れになった。

 

[先ず、この特異点に蔓延する霧はただの公害というだけじゃなく、魔力や、僅かながら神性が付与されていた。通信を妨害したのはコレだろう。今霧について分かってるのはそれだけかな]

 

「それなら失礼、霧について付け加えたい事がある。これは単なる毒じゃなくて、長い事吸っていると悪に堕ちてしまう性質がある。ハイド(悪い僕)はこれのせいで制御から外れ、暴れてしまったんだ」

 

[ほほう、生半可な魔術じゃ気休め程度なタイプだ。

 それならマシュには効かないだろうけど、他の英霊を連れて行くならかなり高度な霧祓いの礼装を使わないと暴走する危険があるね。急拵えになるが2つは用意出来る。上手く使ってくれ]

 

「連れて行くならモードレッドの奴を連れて行け。片方はマスターに使うとして、それが一番効率がいい」

「テメェらは行く気ないのかよ」

「作家に戦闘をさせるな。秒で死ぬぞ」

 

 そうしてモードレッドとアンデルセンが話してる内に、僕の中からちょっとした疑問が湧いてきた。

 

「フォウさんはなんとも無い?」

「フォウフォーウ!」

「一見元気そうだけど…ジキルは外に出てどれくらいでハイドになったの?」

 

「約3時間。それと、連続じゃなく累計かな。

 君達に止めてもらったのは二回目のハイド化の時だけど、段々ハイド(悪い心)が暴走する感じなんだ。一気に決壊するんじゃなくて、触れたら触れた分だけ暴れる力は強くなる。だけど、一通り暴れれば最初の状態に回帰するんだ。

 だからさっきシェイクスピア達が無断でお酒を持ち出したのもコレのせいだと思う。暴れてリセットされない限り、大きくなった悪は決して落ち着くことはない」

 

「それなら……ダヴィンチちゃん、ロマニ博士、これは僕の…素人の意見なんだけどさ」

 

 既にフォウも僕も3時間以上外を探索していた。

 なので僕への影響は契約を結んでいるマシュ……に力を貸しているギャラハッドの力で無力化されていると仮説を立ててみた。

 それが合ってるかどうかダヴィンチちゃんに聞いてみれば、合ってるだろうと言う。

 

 天才のお墨付きだ。なら、礼装はどちらもサーヴァントに持たせるべきだろう。

 フォウは…不思議生物だから効かなかったか、戦闘以外ではマシュの盾の中で大人しくしていたからかな。うん、カルデアに帰ったら念入りにお風呂に浸けなければ。

 

「次の話に移ろう。

 この中で特異点の黒幕に繋がる情報が分かってる人は言って欲しい。

 ほら、会った時みんな何か気付いてる仕草をしてたよね?」

 

 先ず、モードレッドが悩みつつも最初に発言した。

 

「オレのは多分黒幕じゃねぇ。気配は感じるが、アレが敵なら今頃こうやって落ち着いて休めるなんてあり得ねぇ。精々が厄介な障害になる程度だと思う」

 

「あの! 考えてみたのですが、モードレッドさんが言う厄介な相手とはアーサー王伝説における魔女として有名な……」

 

「その気配がするだけだ。悪い、一回本人に会わないとこれ以上は分からん」

 

 モルガンという神代の魔術師がいるかも知れない。

 モードレッドの話はそういうものだった。

 シェイクスピアが続けて言う。

 

 

「結論から申し上げれば、この特異点は童話(グリム)劇場(テクスチャ)が歩いているのですよ、皆々様」

 

 

 最初に、掴みの言葉で興味を惹きつけて。

 

寓話(グリム)の…人理版図(テクスチャ)ですか?」

「おい、ネタバラシする気か?」

「まさか! 物語を楽しむ為の前提は知った方が面白いと考えたまで! 今の吾輩は劇場に入る際に渡されるパンフレットに過ぎませんからなぁ!」

「パンフレットにしては自己主張が激しいな」

「そうよ、私にそれは余計なものよ、叔父様」

 芝居がかった口調、身振り手振り、横からの合いの手。

 態とらしく、彼なりの興奮と善意を動機に言葉が廻る。

 

[あり得ない!

 確かに人理版図(テクスチャ)は神代には神話の数だけ有り、英霊でも宝具次第では塗り替えられるもの! とはいえ普段は…特にこの時代ではあくまで人々の集団認識から成り立つ領域だ!

 英霊の宝具や神々の権能を使ったなら兎も角、それが()()()()()なんて、まるで人理版図(テクスチャ)其の物が生きているみたいな……待った、童話(グリム)だって?]

 

 されど、ロマニ博士がその結論を否定……しようとして、一つの心当たりに辿り着いたみたいだった。

 震える声、小さく呟かれる理論、何も知らない僕からしたらまた強敵かぁ…と不安になる反応。

 

[……困ったな、あり得ない話じゃない。だけど正気かい? それが意味するのは……]

 

「察しのいい観客もおりますが、引き続き前提情報をば…ごほん!」

 

 シェイクスピアが改めて言葉を、知識を問うた。

 

「最初に、「未典寓話(グリム・レリック)」というものをご存知ですかな?」

 

 知らない話だった。

 

「僕は知らないなぁ」

「西洋に存在する、いつから存在したのかも分からない寓話集の事です、マスター。

 別名「渦への道標(ポイント・ロア)」とも呼ばれていて、魔術的にもかなり価値があります」

「へー、西洋の昔話なんだね」

 

「昔話とはまた違うな、()()()()()()だ。あちこちに散見こそしてるが、見分けだって簡単につく」

 

 マシュが概要を解説し、アンデルセンが続きを代わる。

 

「史実では古来から続く西洋の口伝の一部扱いだが、魔術を少しでも齧っていればコレが何千年も前から話の形が変わってない事に気がつくだろう。

 全く、二次創作やアレンジを加えてもパクリと見做されず別作品扱いとは……人間共に根付いた原理主義もここまで来れば賞賛ものだな!」

 

「それの何が変なの? 原作と二次創作が別物扱いなのは普通なんじゃ?」

 

 普通の疑問を呟けば、意外にもモードレッドが答えた。

 

「その普通はテメェらの時代のもんだよ。オレの時代じゃ吟遊詩人が客の目を集める為に本来の話から盛ったり削ったり、一ヶ月も経てば10人の若者の喧嘩が戦士百人の戦争になるし、元の話を誰も覚えてないなんざよくある話だ」

 

「言い加えるならば、古来において創作とは為政者の都合で変わるもの。マスターの時代まで続いた話ならば、大抵コンプラや黒塗りだかで加工されてから読者の目に届く」

 

「つまり元々の話が昔から、ずっと大切にされてきたってこと?」

 

 昔の話がずっとずっと、何千年も元の形を保って伝えられる。

 素敵な話だし、つまりそれだけ面白い作品集ってことなのかな。

 

「それでは金目的の俗人が自分が作者だと主張せず、現代の価値観に合わせて作中の時代が変えられない理由にはなりませんな、マスター。

 何より‭─‬‭─それだけ古来の作品に、()()()()()()()が登場する筈もない」

 

「……昔話なんだよね?」

 

「ええ、()()()()ですな」

 

 段々、奇妙な感覚に襲われる。

 昔話なら存在する筈のない単語が聞こえたのもそうだが、その時代の価値観に話を合わせないのも変に思えてきた。

 なにより……。

 

「……待って、どれだけ昔の話なの?」

 

 

「さぁな、俺は旧約聖書に噺が載ってるのを見つけた時点で考えるのをやめた」

「吾輩はどれだけ説明しても吾輩のアレンジではなく吾輩の作品扱いされた辺りで楽しむだけに留めることにしましたなぁ」

「どれも面白いけど、今の僕に似た子が主人公の作品があってね……薬を作るヒントにはなったけど、僕は彼みたいに悪とは分かり合えないかな……」

「マーリンのクソ野郎は「…さぁ? 僕のご先祖はその舞台を観たらしいね」って言ってたな」

「カルデアに保管されている最古の記録と史実を照らし合わせると1万年と2千年前…… 旧石器時代から中石器時代に移行する時期から続いているそうです!」

「子供に話せる噺がなんにも無かった頃ね!」

 

 うっみんな同時に言われると耳が……えっ1万年と2千年前!?

 

「……昔過ぎない!?」

 

[だから「渦」なんて言葉が呼び名に入ってるんだ……種族ではなく、文明を持った人の歴史が本格的に始まる最初も最初。神の時代が始まろうとする混沌の時代。

 どれだけ異常か分かるだろう? そんな昔の噺が価値観の擦り合わせすらなく今でも親しまれている。正直、これが世界の裏側に行ってないのが不思議なくらいさ]

 

[更に不思議なことに、この作品群は度々発掘や民間の倉庫から新しく発見されているんだ。古さとそこに宿る神秘はそのままに、発見された作品と同じくらいの文明に人類が到達した辺りで、発見されて以降一つの失伝もなくね。

 だからこそ「道標」なんだ。表では昔話の一つとして。裏では根源に辿り着く為の、かつての魔法使いが後続の為に遺した道標。過去から未来へ与えられた「課題(ポイント)」。

 面白いことに、時計塔では今も当の魔法使いは生きていると信じられてるんだぜ? その上君主(ロード)の1人が彼の弟子を自称してるんだから! あれはもう信仰の類いだよ]

 

 物語の中身の面白さもさる事ながら、魔術界隈でこれを知る者にはとても魅力的な作品集なのだろう。

 帰ったら一度観てみるのを心のノートに書き留めつつ、それが今回の特異点に関わる事実と向き合う事にした。

 

「つまり、今回の特異点はその作者が関わってるってこと?」

 

「ハハハ、殆ど解説を取られてしまいましたがその通り!

 彼もしくは彼女! 人なのか神なのか精霊なのか! その答えがこの地にある!

 

 ‭─‬‭─が、そんなことは些細なことだ」

 

 問題はそこにないと、シェイクスピアは嘲るように笑った。

 此処からが本番だと思わせるように。

 

「確かに書き手の方も気になりますが、やはり物書きにとって一番大事なのは「物語」だ。

 書き手がどんな聖人でも悪人でも、作品には何も関係ない。

 

 文字、絵、演劇、どんな手法だろうと観客を沸かせればそれが正しくなる。

 それこそ‭─‬‭─既に劇は始まっているとなれば、そこに役者(グリム)が居ないのはイチゴの無いショートケーキのようなもの。

 

 

 ‭─‬‭─‭─‬‭─さあさあ御託はここまで!これ以上待たせては噺を短くしたがる童話(やくしゃ)の方々が痺れを切らす!

 

 

 窓の揺れが収まった。コップの水が波立つのをやめた。

 壮大なシェイクスピアの振る舞いに反して、静かな空気が辺りに満ちた。

 何も変わってない。落ち着いた日常が僕の横に座った。

 

 

 非日常(とくいてん)では感じる筈のない緩やかな日常(あんしんかん)がそこに居た。

 

 

全員戦闘準備!

「はい!」

「おう!」

「なんだ!?」

「来たか」

「!?」

‭─‬‭─‭─‬‭─消えよ 消えよ 束の間の蝋燭よ!

 人生は影法師! 我々は哀れな役者であれば!

 

 

 窓から差した夕焼けが薄くなる。

 気付けば夜が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「哀れで可愛いトミーサム

 いろいろここまでご苦労さま

 でも ぼうけんはおしまいね?

 だってもうじき夢の中 夜のとばりは落ちきった

 アナタの心もポトンと落ちる

 

 さあ‭─‬‭─嘘みたいな噺にしてあげる

 ページを開いて 始めましょ!

 

 "誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)"を」

 

 

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