紙芝居をしただけなのに   作:何処にでもある

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 プロフィール1
 彼女は自身の出自、作品、スキルの都合上ナーサリー・ライムとは切っても切れない関係性にある。
 無辜の怪物により自分の作品に覆われた彼女は、ある意味「ナーサリー・ライムから分離した童話」でもあり、「ナーサリー・ライムは彼女の持つ力の其の物」でもあるからだ。
 その為彼女が召喚された場合、自動的に童話の守護者であるナーサリー・ライムも連鎖召喚される。
 まるでお姫様を護る騎士のように、或いはお使いに行く我が子を背後から見守る母親か……またはストーカーの如く、彼女の影にはナーサリー・ライムが潜んでいる。

「ストーカーだなんてレディに対して失礼ね! うっかりさんで無防備な友達を心配してるだけよ!」




春先の夜蝶

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 誰しも一度は夢を見たことはあるだろうが、果たしてその内の何人が明晰夢を体験した事があるだろう。

 俺は生前その手の体験はついぞしたことが無かったが、どうやら英霊の身は簡単にその手の経験を積めるようであった。

 

「ここが夢の中かぁ。テンション上げたかったなぁ〜」

 

「…………」

 

「あ、子供が歩いてる、君、良かったら私が導いてあげよう」

 

「……おかあさん?」

「最近、母親と間違えられ易いね? 違うよ、私はただの水先案内人さ」

 

 そういえば英霊(サーヴァント)はマスターとの魔力パスを通じてお互いの人生を垣間見るらしい。

 その場合俺は現代で過ごしてた時の様子を見られるのだろうか。それとも俺の作品の出来事を夢の中で経験するのだろうか。

 普通なら紙芝居してる時とかなんだろうが、俺の人生ってそこらの英霊と比べると超絶つまらないからな。蛮族に紙芝居してるだけだし。場合によってはあり得そうだから困る。

 適当な創作が実体験だと勘違いされるのは何かと面倒だ。実力を誤認するキッカケになるからな。

 

「ところで此処はどこなんだい? 随分といい感じの街並みだったじゃないか。どこもかしこも大炎上してるのを除けばだが」

「………ふゆき」

「そっかあ」

 

 うーんまさか冬木じゃないよな、冬木はもっと赤髪の男の子や殺し屋やマキリの旦那がいるものだが……赤髪の子は居るから冬木かもなぁ。ふゆきって言ってるし冬木だよなぁ。なんでぇ?

 ……あ、いやそうか。

 

「そうか、ここはマキリ君の記憶か。にしてはロンドンから遥か未来で、第四次の終わり際という何かしらの作為を感じる場面だが……」

「………マキリ…?」

「悪い人の名前さ。覚えていたら何か役に立つかもね。例えば…1人の女の子を助けたい時とか」

 

 確かに俺のマスターはマキリの旦那だからな。その記憶。覗けるのは問題ない。

 問題なのは、マキリの旦那は死んでるし、ここは未来の景色だし、聖杯から泥が溢れてる最中って点だが。

 もしかして今の俺は未来の大聖杯と契約してたり? それなら全部説明付くんだけど、そうだとしたら一番最悪な事実だな。

 

「…………」

「おっと…君、もう少しの辛抱だ。地獄はもう直ぐ終わって、君のこれからの物語が始まる」

 

 だって俺、かれこれ15分は小さな士郎の手を繋いで歩いてるし。気まずさに話しかけても反応しないし。

 切嗣さーん! この子引き取ってくれー! なんで触れられてるかも分からないんだー!

 原作崩壊させる気は俺にはないぞー! 早くー!

 

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

「おや、衛宮切嗣(迎えの人)じゃないか。あ、子供が気絶した。なら私は退散しよう。

 

 はぁ…ノリで案内人なんて名乗るものじゃないな」

 

 つい心配のあまり士郎の地獄体験ツアーに参加してしまったが、結局マキリと大聖杯のどっちの記憶かは分からず仕舞いだったな。

 なんかリアルだったし、多分ちょっとだけ現界してたか? 士郎には夢と思ってくれたらありがたいが、多分覚えてるだろう。

 

 あの正義漢だ、悪い人として挙げたマキリの名前を忘れる筈が……ん?

 そういえば俺のいるのはFGOか。それだと確か冬木大爆発(こう)はならずにマリスビリーが勝利した筈。

 あれか、マリスビリーが勝利した特異点で上書きする前の冬木か?

 

「どうあれ歴史、下手に変わってないと良いんだが……ん?」

 

 

 -=- ‭─‬ -=-=- _(ザッ ザザッ)

                  =-=-_ ‭─‬‭─=-(ザザッ ザッ)

 

 

 そうしてブラブラ歩いてると、ノイズが走ってから燃え方が違う冬木に変わった。

 

 ………あ、ははーんさてはアレだな? 今度は藤丸がレイシフトした方の特異点冬木だな?

 俺は賢いんだ。どうだ合ってるだろ。大聖杯は全てを見てたってわけだ。

 今のマスターが確定して最悪な気分だな!

 

「しまったな、歴史が変わる瞬間を目撃してしまったぞ?

 いや……正確には上書きされた瞬間かな? 我が大聖杯(マスター)もとんでもないものを見せてくれる。それともあれかな? カルデアにこの事実を伝えろとでも?

 

 うーん…態々教えたということは、全て知ってると言ったのがハッタリだとバレちゃったかな?

 ま、当然か。自分で言ってたからね。私の影響が及んだ範囲を知らないということは、私の作品に溢れた時代は全て未知のもの。私の作品が世に広まってないパターンは知り得ても、特異点は守備範囲外と予想したのだろう?

 

 大聖杯、君に意識があるならの話だが」

 

 さぁてなにも意図が分かんないぞぉ? 取り敢えず観客(オーディエンス)に大聖杯が居るから演技は継続した方がいいな。全く、士郎が居なきゃ素で喋って危うく本性がバレるとこだった。

 

「というかアレだね、マキリ君も随分ととんでもない品物を引っ張ってきたね! 特異点の全てが始まる根幹と根源が分かっちゃったじゃないか。君達、私を悩ませて楽しいのかい?」

 

 一人芝居は寂しいなぁ! でも見栄を張らなきゃ何されるか分からないからなぁ!

 怖いよぉ! 泥に取り込まれるの怖いよぉ! なんとか大聖杯のある場所まで来たけどシャドウサーヴァントどこに行ったのぉ!? 今どの時期!?

 

 

「あれ、いつもと違って藤丸達が居ない?」

 

 

 キュッ!(マリスビリーに出逢った衝撃で絶命)

 ミュッ!(よく見たらオルガマリーだったので復活)

 

 そうかい、藤丸が去ってオルガマリーの影が死に戻ってる時期かい!

 なんてとこに送り込んでる大聖杯!!! この、アンリマユ!原初の悪魔!マリスビリー!

 これで話せるとしたらどんな仕組みなんだぁ!? 俺、変えたくないぜ、未来!

 

「それで、あなたは誰ですか? 言葉は通じる? 敵? 味方? イレギュラーなのは確かなようだけど、情報は落としてくれる感じ?」

 

 ……よし、いっそ俺がいつかの過去の記録の再現みたいに振る舞うか。そっちの方が丸いだろ。

 このオルガマリーは所詮地面に染み付いた影。俺に触れはしまい。適当なことをほざくとしよう。

 

「……なるほど、最大の味方が敵だったってオチか。

 だがカルデアにはどう伝えたものかな。剪定に選ばれず、尚且つ汎人類史として選ばれる可能性を増やすなら未来の帳尻合わせは必須事項だが……ふむ」

 

「あのー聞こえてますかー? 絶対何か大事な事知ってますよねー? ちょっとー?」

 

「それと、ここに焼き付いてる地縛霊の彼女には何も伝えない方が丸いかな? 霊感が死んでる私が知覚出来るかは兎も角、折角ロンドンまで特異点攻略の足を進めたんだ。最も可能性を拾える正念場、目標としては可能な限りのサーヴァントの縁、それから……」

 

「ねぇその地縛霊って私よね? え、ちょっと、もしかしてコレ過去の記録? マジで何者?

 特異点の攻略が進んでるって、もしかして藤丸の事よね? え、何があったか気になるんだけど」

 

 お、そうこうしている内に俺が薄くなってきた。そろそろ時間という訳だな。

 ふぅ……なんとか乗り越えたか。全く大聖杯がマスターだとおちおち眠る事もできやしない。

 

「……なんとかやってみるしかないね。はぁ、デイビットでも生きていればもっと簡単だったんだが」

 

 そしたらこんなに剪定に怯えずに済んだだろうに。きっと全てを最速最短で駆け抜けてくれるのにさ。いや、そしたらこれは人の旅では無くなり、抑止力がこの世界線(可能性のシミュレーション)を消すか。うん、なりそうでやだなぁ。

 はぁ…ままならないものだね。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「……僕だけ、召喚は無理、英霊不在」

 

 目覚め、見渡す。

 一寸先の見えない霧、冷えた空気、令呪のない右手、単独、直前の記憶の参照、詠唱から夢の中と仮定。

 身体能力低減、魔術礼装沈黙、戦闘不可、周辺警戒は……ここまで来たら無意味だろう。既に相手の掌の上だ。

 だけど唯一、真名だけは推察できる情報が出揃った。一応やれるだけやるべきだ。

 最後に宣言した宝具、あれに該当するような在り方の英霊(サーヴァント)は……。

 

「契約した英霊(サーヴァント)の記憶……って訳でもないね。

 夢に囚われた僕にどんな景色を見せてくれるの? 童話の守護者(ナーサリー・ライム)さん」

 

 在り方は全く知らないけど、ああいう名前っぽい宝具はそのままその英霊の名前だ。

 それだけは前に似たようなのを相手にしたから分かった。あとは勘でその役割を当てればいい。

 当たったら御の字のちょっとした賭けで、外れたら少しだけ道のりが険しくなるだけだと思った。

 

「‭─‬‭─すごいわ、流石は最後のマスターね。まだ舞台も決めてないのに正体を暴かれてしまったわ!」

 

 黒と紫のゴスロリ服、銀髪、紫の眼、球体関節、背丈は子供…いや、アリスの題名が載った大きな本。推定、見る相手の望んだ姿への変身能力。子供の姿はどこかで契約したマスターである可能性大。僕からは二重に見える。

 所作は淑女。目線は深く心の裡を見据えている。理解、幼年期の思い出が彼女の振る舞いを決めている。つまり隠す必要はない。それは話す気のある人の証だから。

 

「……あなたってとっても視線が忙しないのね。感情よりも事実を見ているわ」

 

「そうする必要がある旅だったってだけだよ、ナーサリー・ライムさん」

 

 うん、本当にそうする必要があっただけなんだ。

 だから悲しむ必要だってない。僕はまだまだやるべき事が沢山あるから。

 

「そう……とっても悲しいわ。幼い子供(じぶん)を閉じ込めてしまうなんて。酷い大人がする事よ? あなたは誰かの理想を抱いて、焼けた靴で華麗に踊って辛くないの?」

 

 なるほど。子供達の理想の英雄、空想から飛び出た者、或いは子供に夢を見せる力の具現化。

 エミヤの固有結界かな、近いのは。うん、つまりいい人で、悪い人だ。

 契約した人次第でどうとでも振る舞いが変わってしまう在り方だから。

 

「あー…余りマシュを悪く言わないでね。僕に勇気を与えてくれる大切で、頼もしい後輩なんだ。

 それに楽しくなければ踊れないんだし、そう悪い話でもないと思う」

 

「自分に言い聞かせてるの? それともみんなに言い聞かせられたの?

 でも……ええ、これ以上哀れんでもあなたを傷付けるだけね」

 

 話が止まる。区切りが付けられる。

 空気が変わる。新しい事が起きる。

 息を深くする。力は漲らないけど、覚悟と諦めを半分ずつ用意出来た。

 それから、ナーサリー・ライムはポンポンと魔法みたいに周りを変えた。

 

「あたしはただの不思議な話(ナーサリー・ライム)! あなたに夢を見せるだけのお伽話!

 たったそれだけの御話(マザーグース)。気ままに愉快に騒ぎましょう!

 

 さぁさぁ、みんな準備して! 狂騒と饗宴の舞台が決まったわ!

 まさかり担いで叔母の家に、桜吹雪にきび団子、バターのお日様を食べる準備は宜しくて?

 

 本日の舞台は極東風味! オマケに消えゆく異聞の物語!

 だけど名前は落とさないように気をつけて? 本日の隣人さんは名無しの森よ!

 

 それでは夢の旅路へご招待!

 

 

 最初に丸太の小屋と浅い森。川の音と悪夢への覚悟。

 一つ、赤いずきんを被ったマシュ。

 二つ、トンチキへの諦めをマインドセット。

 三つ、まさかりを背負った見知らぬ金髪おかっぱ。

 四つ、おじいちゃん役と思わしき蒸気を蒸すロボ。

 五つ、おばあちゃん役と思わしき青い鎧の白髪少女。

 六つ、犬役…? と思わしき金髪の巨体の女。デカい。

 

 僕のを含めて合計七人。

 総じてトンチキ特異点の様相なり。

 

「ふぅ……初めまして。全員、夢の自覚が有ったら答えて下さい」

 

「えっと、これからおばあちゃんのお家に行くんですよね? 先輩」

「はいマシュアウト」

「ましゅ!?」

 

「熊と相撲取りに行こうぜマスター! 上手いやり方は俺っちが教えてやるからよ!」

「出来るかぁ! 多分坂田金時さんなんだろうけどアウト!」

「はぁ!?」

 

「シュー…犬の散歩に行くか?」

「花咲か爺さんかな? 蒸気からして蒸気機関の開発……うーん…ギリ…計算機ぃ…チャールズ・バベッジさん……? だと思いますけどアウト!」

「シュー……」

 

「僕の竜印のきび団子を与えよう!」

「すみません、一見ランスロットさんかなって思ったけど保留させて下さい。それと、多分正気ですよねあなた。竜印…見て分かる自意識の高さからして相当名のある……あ、そうかここはロンドン、確かダヴィンチちゃんの話によれば時計塔の下に……」

「わー!! わー!! な…ナンノコトカナ? 僕全く分かんないなぁ!!」

 

「……わん」

「降参します。多分ガウェインさんっぽい事しか分かりません。でも正気ですよね、きび団子渡すのでついて来てください」

「……くぅん」

 

 全員と会話し、ある程度正体に見当を付けた僕は額の汗を拭いつつ一息つけた。

 絶対六人全員押し寄せちゃダメな奴でしょ、どうしてこんな事しちゃったんだ。

 

「ふぅ…疲れたけどなんとか捌けたぞ。一体何が目的なんだナーサリー・ライムさんは」

観客参加の舞台(リフレッシュ)よ。其々の御話を終わらせれば夢から目醒めるわ。それじゃあゆっくりたのしんでらっしゃい?」

「あ、ちょっと!……言うだけ言って消えてしまった……役は英霊(サーヴァント)がやってるんだろうけど、なんで応じてるんだろうなぁ」

 

 その後、僕は8時間掛けて新たな英雄達と仲を深めつつ、夢から目醒めることが出来た。

 話が全部僕が知ってるのと違う流れだったのはどういうことだったんだろうね、分からないや。

 う〜ん……なんか頭がスッキリしてるのも腑に落ちない! 身体はちゃんと寝れてるみたいだし、不眠にして殺したい訳じゃないよね!? 何がしたいの!?

 

「へぇ、じゃあマシュもあの夢見たんだ」

「はい! 先輩と一緒に色んな「未典寓話(グリム・レリック)」の話を追体験する夢でした!」

「あれ「未典寓話(グリム・レリック)」の話なんだ…赤ずきんとかのパクリかと思った」

 

 マシュもどうやら同じ夢を見ていたようだ。

 するとつい口が出たのかアンデルセンが補足する。

 

「あれらは締め切りに追われた末に書いた未典寓話(グリム・レリック)のオマージュだ。最終的に俺の作品って事になったが、元はその夢の方が原典だ」

 

 それを聞いてそういえばと尋ねれば、他の英霊は僕らとはまた別の楽しくて愉快な夢を見たらしい。モードレッドはアーサー王に認められた夢を、ジキルは悪の心に勝った夢を、作家二人は仲良く子供になってナーサリー・ライムが紙芝居をしてるのを眺めていたらしい。楽しかったそうだ。

 最後はちょっと考える必要がありそうだが、この分だと今日の夜もありそうで気が滅入りそうだ。

 

「あぁでも……楽しかったよ。ナーサリー・ライムさん。

 いい作品だった、混沌が一気に来たからビックリしたけどね」

「まぁ、それなら今日もがんばるわ!」

 改めて反芻し、関わりを思い出し、多分そこに居るだろう彼女に向けて出した感想は、そんな物だった。

 だからと言って現実側の探索を疎かにする気はないが、夢の方も同時に調べていく事にしよう。

 

 どうにも、それが一番確実にこの特異点を理解する道であるようだったから。

 

 

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