仮に彼女がカルデアに召喚されてた場合。
絆1「紙芝居でも観るかい?」
絆2「今日も紙芝居を観るかい?」
絆3「取り敢えず紙芝居でも観るかい?」
絆4「さぁて今日は……なに? 一緒に食事がいい? ほう、お子様ランチでも頼むのかい? え、大人扱いしろ? ハッ年齢差考えて言いなさいな」
絆5「言っておくが、私は紙芝居も子供扱いもやめないぞ。だってこう見えて私、君よりずっと年上だからね! じゃんじゃか頼るといい!
私の全力を以ってして、懸命に生きる君達の為になろう!……え? それはやめてほしい? やりすぎ?
……分かったよぉ。やり過ぎない程度に手伝うからさぁ。はは、約束だぜ?」
♢
「ぅぅ"……」
「はっ! ざっとこんなもんだな!」
「フランケンシュタインの怪物との戦闘に勝利しました! お見事です、マスター!」
「うん、ありがとマシュ。フラン……うん、フランさん、悪側面の暴走は収まりましか?」
「ぅぅ……ャァア…」
「多分お礼を言われてます! 先輩!」
「"私を落ち着かせてくれてありがとう"…だとよ」
「あ、モードレッドさんは言葉が分かるんですね!」
「まぁな」
痛み軋んだ木の板。黒くくすんだ白い壁。血濡れた手術台に、謎の機械。
ウエディングドレスを着た少女は金色の角に薄赤色の髪で、ほんの少しだけナーサリーみたいな緩やかな空気を宿している。多分、これは
纏われた電気、魔力の循環、狂気と愚直さが共謀した怪作に執念と後悔の日記が一つ。
ここにあるのはそのくらいだった。
「改めてご挨拶を。
ヘンリー・ジキル氏から、フランケンシュタイン博士の協力を仰ぐ為に来た遣いです。
そして、博士が死んだ事にお悔やみ申し上げます。えっと……父のことは残念でしたね」
「ウィィ…」
「"気にしないで。父上は望んで自分で死んだから……悲しいけど、仕方ない"。
……はっ⁉︎ これ自殺かよ! 随分派手に死んだもんだな!?」
僕は現実のロンドンで、フランケンシュタイン博士の怪物を仲間にした。
博士とは性別も違うし長いからフランさんと呼ぶけれど……元々は博士に知恵を借りようとしていたのだが、生憎博士は死んでしまったようで、代わりにフランが協力してくれる事になった。
「ァァ…? わた…し……は…ぅぃ…そのまま…フラン…で、いい」
「"あなた達は?"
オレはモードレッド、円卓の騎士って奴だ。よろしくな、フラン!」
……違和感。
「よろしくお願いします、フランさん!」
「うん、よろしくね」
元々フランケンシュタイン博士に持たせる予定だった霧祓いの礼装をフランに渡しつつ、彼女を見て抱いた違和感を言葉にしていく。
今は1888年。彼女はフランケンシュタイン博士の怪物で、この時代を生きている。
創作物がノンフィクションだったのはもう良くある事だとして……そうか、僕は時間を確認したいんだ。
「ロマニ博士、フランさんの話はいつ出版されたの?」
[調べるからちょっと待って……分かった、1818年。世に一番知られている改訂版は1831年だ。記録によればフランちゃんは立派なおばあちゃんだね]
「ぅう!?」
「"私はまだおばあちゃんじゃないよ!?" だとよ」
「結末は? なんとなく悲劇で終わったのは知ってるんだけど、詳しくは知らないから」
[ショッキングな話だけど……要約すれば、沢山の人を怪物らしく殺して、最後は創造者である博士を殺し自分も焼き殺した……って終わりだよ]
「……ウィィ」
「"私は絶対しないし、仮にやろうとしても出来ないよ。博士はここで死んでるから"」
つまりこの特異点の始まりは1888年じゃなくて、もっと過去まで遡る。
それでもここにカルデアスがこの時間にレイシフトさせたってことは、ここが決定的な
……それ以前は、カルデアスにとって観測の誤差の範疇に入る?
[そうだね。つまり史実とこの特異点は決定的に相違があるってことだ。僕たちの未来と枝分かれた世界線か、はたまたレフの奴が面倒なことを仕掛けたのかは分からないけどね]
「流石先輩! 鋭い洞察力です!」
「そうでもないよ。ダヴィンチちゃんとかはジキルさんが協力の依頼を出そうと言い出した辺りで分かってただろうし、僕は一番最初に言い出しただけだ」
[ふふ……召喚されてからは現代への適応や霊基の改造やカルデアの様々なシステムの学習に。グラウンドオーダーが始まってからはカルデアの運営に時間を取られて普通に知らなかったと言うのはダメな流れかな?]
「わ、私は時間が足りなかったのは仕方ないと思います!」
[因みに調べていた事から分かる通り、僕はいつの作品かは全然知らなかったよ。読んだことはあるけどね]
……うん、カルデアスの観測は魔術や世界の仕組みの領分だ。僕には理解できる領域にない。
だけど分かったことはある。昨日夢に見たバベッジさんは、きっとこの相違を踏まえたバベッジさんだ。
だから正気に戻せば情報が手に入るかも知れない。もしかすれば、この特異点の攻略の鍵が。
「帰ろう。それから……午後は時計塔に行ってみよう。朝にハイドさんが言った当ても外れた訳だし、カルデアに協力してくれる魔術師が居ないか調べないと」
一旦の方針に各々が賛同しつつ、絶望的だろうなと何となく僕は悟っていた。
だって昨日の夢で
時計塔が管理してるって話だけど、もしそうならあんな風に自由には動き回れない筈だ。
その辺りはまだ正しい理解が出来てる気はしないけど、アレはかなり乱暴で例外処理が起きたものなのは肌で感じる。
「うん、行く前にハイドさんが言ってた通りの壊滅っぷりだ」
「ダメだな…誰もいねぇ」
「これでは協力を仰げませんが……それにしても一体誰が?」
「ふん、態々俺を引き摺り出しておいて無駄骨か。まぁ、分かってる話だったがな」
ほぼ直感の領域だったけど、考えの結果が正しいのは行く前にハイドさんが保証してくれて、事実この眼で見た事で確証となった。
「……情報を探そう。ハイドさん曰く"
本当に瓦礫の山だった。
時計塔は崩れ、獣の爪跡や大規模な破壊跡、ぶくぶくと皮膚が泡立って死んだ魔術師の遺体に、稀に走るノイズから垣間見える幻想的な景色。
見えるのは……ライオンに蛇の尻尾、大きな鶏、虹色の竜、空を飛ぶ龍、ゾッとする美しさの女神の影、冥界の入り口……どれも見ない方が心の為になるものだ。
[すごいな……既に戦いは終わってるってのに、神秘の残滓だけで"世界の裏側を垣間見れる"なんて……これが時計塔の君主の実力ってことか。三流魔術師が群がって無いのが不思議なくらいだぜ]
カルデアの誰かの声を偶然マイクが拾ったのか、そんな言葉が聞こえた。
「……
なんでも、最近噂に聞く「
伝承科の君主で、名をブリシサン。カルデアにある記録によれば「既に根源に到達し帰還した」とまで言われている実力派の魔術師。ソロモンの弟子の一人にして「伝承」を授かり三千年を生きる者。
その傍流は表の社会で投資や印刷業界の有名な一族とも聞いた。
つまり家系が情報を拡げるのに適した形をしている。
「伝承……」
科目の役割も不透明で要領を得ず、生徒も最小である事から「教育科目」というより「少数精鋭の調査隊」という印象を受ける。
到底負ける見込みの見えないお人だが……特異点の首謀者はどうやってか、この者の持つ魔導書から一枚だけ盗む事に成功したらしい。
外様のハイドでも聞いたこの時代の魔術師界隈の、最先端の神話だ。
「その余波で時計塔は壊滅。時計塔が直るまで学校は別の場所にやって、その影響でここには地元の魔術師しか居ない……か」
曰く、20の固有結界を、神や幻想種が住まう世界を展げ、始まりの神秘を復活させた。
曰く、アバトンが如く無数の蟲が全て食い荒らした。
曰く、聖杯が現れ、絶えず苦しみの霧と飢えた蟲が湧き出ていた。
曰く、曰く、曰く……。
「話が眉唾かは分からないけど……全部本当だとすれば、多分襲撃時点で首謀者は特異点を作れるものを持って、その上でより大規模な特異点を作ろうとしていた……のかな」
聖杯なんてものがあれば特異点が作れるのは、これまでの旅路で散々理解させられている。
冬木の大聖杯。
青髭に竜の魔女の夢を見せたオルレアンの聖杯。
ドレイク船長がマゼラン船長と共にポセイドンの神骸を堕とす為に使った聖杯。
「聖杯は願い通り、どれもすごい結果を呼び出してた。
だけどそれに満足しなかった……もしかしてレフのせいかな」
おかしな話ではない。レフは自滅覚悟でセプテムで人類悪を呼び出した。
最終的にレフは逃げ仰せたけど、その後のオケアノスにもかなり干渉して、ギリシャ神話の神の真体? なんてものも使ってきた。
かなり錆び付いていたけどアレはかなり苦労したし、どっちも僕とマシュ、それからみんなが沢山頑張って何とか出来た。
「だから今度は童話魔術の原点の人を連れて来たって事なのかな……大変そうでやだな」
今は友好的だけど、それってナーサリーは敵ってことだよね?
彼女のポリシーのおかげで助かってる面はあるけど、敵になったらと思うとどうしようもない気がする。
うーん……考えても仕方ないから今は放っておこう。
いざという時は奥の手を使うってことで。出来れば現地の英霊のみんなとマシュだけで解決したいけど……それは時と場合による。仕方ない時は仕方ない。
そんな事を考えていると、夜も
そろそろ帰ろうかと考えていると、ノイズの狭間からポロリと剣が落ちてくる。
「あ、黄昏の儀式剣だ。ラッキー貰ってい」
──空気が揺らいだ。
キィ────ィィ。
「おかaさnはどこ?」
挙句、手にした剣で背後からの襲撃者から初撃を剣を背中に回して防ぐ。
幸運だった。完全に一撃を貰う流れが決まっていた。防げたのはカルデアの制服を着ていたからで、礼装として緊急回避の発動がギリギリ間に合って、剣を持っていたからだ。
「やってて良かった反射訓練!」
「先輩! "
「マスターになにしやがんだテメェ!」
剣が壊れると同時に敢えて吹き飛ばされて距離を取る。
間にマシュが入り、遅れてモードレッドが闇夜の襲撃者と切り結ぶ。
「俺にしては出血大サービスの特急脱稿だ! 有り難く受け取れ!
"
そしてアンデルセンは既に執筆を書き終えていた。
モードレッドとマシュに魔術の後押しがかかり場が整う。
襲撃、周囲に他の気配なし、英霊の気配、シャドウじゃない、僕への攻撃からしてアサシン、ハサンではない、ロンドン、ナイフ、夜と霧。
つまり真名は多分ジャックザリッパー!
弱点不明。けれどその強みは正体不明であること!
ここで僕が決めべきなのはこのまま戦うか、それとも撒いて逃げるか。
逃げたら誰か分からなくなるかも知れない。そもそも撒けるか分からない。
だったらここで倒す。それしか…ない!
「……解taいすruよ」
マシュの
再び使うまでの間、ふらりとジャックが何処かに消えた。
「ッ! マスター!」
マシュの悲鳴、走ってきてる、だけど間に合わない。
襲う方向、何処から、奇襲なら後ろの次は真上──っ!
「い"っ──けど分かった! "君は霧祓いの礼装持ちの近くに転移出来ない"!」
腕に浅い切り傷を負いつつ、
これは初撃ではなく二度目、運命染みた攻撃の必中は乗っていない。
相手がアサシンなら一撃目だけ特別な力が乗るのは想定していた。
9割勝てる賭けだった。ハサンではない非正規のアサシンならそうなると考えた。
そして勝った。
これは礼装でも幸運でもなく、今まで歩んだ特異点の経験だった。
そしてこの弱点看破も勘じゃなかった。襲われる直前、霧の中から出てくるのを目撃したから。
「oかaさん」
「マシュ! 僕を盾の内側に! モードレッド、マシュ、宝具準備!
モードレッド、準備しつつアンデルセンを守って! アンデルセン、恐れず攻撃して!」
「はい!」
「おう!」
「やってみよう!」
そして他にも理解した。ジャックはあれで理性がある。狂いながら最低限の知性があるんだ。
霧の転移に取れる対象は僕とマシュ。1/4で僕を偶然選んだとは考えない。
最初は例え確率論が通じても、理性がないなら目の前にマシュが居ればそっちに行くのが自然だ。
そもそもマシュは英霊の力として攻撃の手を集める能力がある。なのにその効果が切れてから転移したとなれば、それは理性のある証拠。
ならばマシュに僕を護らせつつ、モードレッドとアンデルセンのコンビで倒す。
「……じゃmaしなiで」
──という方針だと相手に思わせる。印象付ける。
理性があるなら、相手に指示の意図を誤認させる必要があった。
「──"
本当の意図は、マスターとサーヴァントとの契約のパスを通じて伝えてある。
「二人とも! 今だ!」
ジャックが転移するタイミング、アンデルセンの宝具で加速した
だからこの即席の作戦に二人は間に合った。
「
「
放たれる。マシュを巻き添えに、僕を巻き添えに、モードレッドの叛逆の一撃が下される。
築き上げる。マシュを護り、僕を護り、広がる叛逆の一撃を纏め、敵に向かわせる道として。
「ッ!?」
これは僕がこれまで散々受けた仕打ちだが、宝具を放つ準備もなく重たい攻撃を喰うと大体致命傷になる。
あらゆる戦いの王道は短期決戦だ。殆どの英霊がそういう作りになっているから。
そして広範囲に広がるタイプの攻撃は、単体への損傷が単体宝具より低くなる。
だけどこうして逃げ出せない場所に追い込んで、火力を集める閉鎖空間があれば結構いい感じになる。
今回はジャック自身の転移で退路断ち、周りを護るマシュの盾という最も火力が吸い寄せられる場所にジャックを置いた。これで擬似的な閉鎖空間の完成、火力三倍だ。
「o……ka……san」
万事を尽くした。
お陰でジャックは虫の息となり、遂に耐え切れなくなったのか気絶した。
まだ生きている事に舌を巻きたくなるが、そういう相手は珍しい話でもない。
でも、マシュの盾に護られていた僕が軽く火傷する火力をまともに受けて無事だと、やっぱり驚きが勝る。
そしてジャックが戦闘に不慣れだった事に感謝したかった。
だって、僕の子供騙しの作戦を見破れて無かったし、こうしてアッサリと気絶してるから。
「どうする? 殺すか?」
モードレッドがジャックの首に魔剣クラレントを添えた。
赤い稲妻、苛立ち。僕が死に掛けた事に怒っていた。
不甲斐なくてなんだか悲しい。だけど今は気にしてられなかった。
ジャックの今後を決めなければ
「モードレッドさん、殺すのはダメ。霧のせいで暴走してたかもだし、先ずは話を聞いてからだ。
みんな大した怪我もしてないしさ、落ち着かせて事情を聴いてみよう」
「反対だ。マスターの命を明確に狙った敵に情けはいらねぇ」
「ならこう考えて欲しいな。特異点の首謀者に繋がる手がかりはまだ生かしたい。
ちょっと乱暴かもだけど、暴れない為の処置は勿論やった上で、話を聞くんだ」
「……了解。捕虜ってことだな。
じゃあ両腕は斬るぞ」
剣の向きが変わり、誰かが声を出す前にジャックの両腕はアッサリと離れ離れになった。
目覚めない。伊達に騎士をやってるだけはあるのか、痛みなく斬り取っていた。
絶句し、息を呑み、直ぐに態度に出さないように気を遣う。
マシュが思わず叫ぶ。
「モードレッドさん!」
「盾ヤロウ、コイツは英霊だ。腕を切った所で時間を使えば上辺は戻せる。弱体化は免れないが、今の俺らにとっちゃ大幅に魔力を削がれたくらいの話なんだよ」
「……しかし」
「ぐちゃぐちゃ言わせんな! ハイドの家は砦でも魔術師の工房でもねぇただの民家だ。魔術に疎いオレ達には、これが一番確実な
話はそこで決着が付き、それは丁度遠く離れていたアンデルセンが僕達の輪に入る頃だった。
「悪役を買って出るとは特勝な心掛けだな、ギザギザハートの小娘。
マスターを自分の宝具で焼いたのを気にしてるようだな?」
「テメェしばくぞ? あ"?」
「おっと藪蛇だったか! 俺はこの辺りで先に帰るとしよう。
まさかこの姿の奴に人を背負わせるつもりじゃないだろう? 赤の騎士よ」
「……チッ」
場の空気が緩む。アンデルセンなりの気遣いだった。モードレッドも、彼女なりの配慮だった。
本当なら僕が整える役目だったけど、生憎急な戦闘に脳を使って疲弊してた。
そうしてぼぅっとしていると、マシュが僕をおんぶして歩き始めた。
モードレッドはジャックの足を適当なロープで縛って、皮袋みたいに雑に背負っていた。
モードレッド……流石にもう少し丁寧に扱ってあげて?
「……一人で歩けるよ、マシュ」
「休んで良いんですよ、マスター。怪我もしてますし、それに今は夜です。
今はゆっくりしててくださいね」
段々瞼が重くなってきた。
マシュの背中にいるせいだろうか。安心感が眠気を誘う。
「ごめん、ちょっと……眠い」
「──はい。
お休みなさい、マスター」
情けないんだか、恥ずかしいんだか。
後輩にこんな風に甘える気は無かったが、身体は正直であるらしい。
ロンドンの霧濃い道を静かに街頭が照らしている中、僕は深い眠りに落ちていった……。
「
今度はちゃんと本物の花咲のおじい様を連れて来たの! ホント、呼ぶの大変だったんだから!
あ、バベッジ叔父様は
「こんばんは。
子供が大変な思いをしてるって聞いてねぇ。頑張って走って来たよ。
私に出来ることは些細だが、今日は好きなように過ごしなさい。私に出来る限りのことはしてあげるからねぇ」
「わん! わん!」
………ふぅ。
これ、忘れたままでいたかったなぁ……。
よし…僕なりに楽しもう。そっちの方が気が楽だ。