プロフィール3
彼女にとっては預かり知らぬ話だが、この世界は彼女のお陰で剪定から免れた場面が複数回存在し──ある意味、現在進行形で救い続けている。
それは童話の教訓に共感した誰かの行いの変化だったり、魔術の力を求めた誰かによる時代の早回しであったり、本来会う筈のなかった者を出会わせたり、星が地表に居る生命諸共自殺するのを踏みとどまらせたり。
──枯れゆく神秘を完璧に保存する媒体が世に広まるキッカケを作った事であったり。
そんな彼女の行いこそがこの世界線が剪定から逃れる全ての変化の始点であり。
その全ての皺寄せが起きたのが、藤丸立香の
ファントムの鬼コーチからなんとか逃げ出した俺が宿に帰ると、なんとジャックが独り立ちをキメていた。さすが幽霊成長が早いぜ!
ちょっと悲しい気持ちが無くもないが、これで伸び伸びと黒幕代理ムーブが出来るという訳だ。
最大限手加減しつつ原作をなぞって行け。来い! 俺はちょっと殴られただけで死ぬぞ!
「世話になったね、ヴィヴィアン君。君のことはよく言っておくよ。これからはみんなの為に頑張って欲しい」
「!! 心遣いに感謝を」
よしよし、こんな心地の良い宿が誰にも知られてないなんてそんな不憫な話もないからな。
俺なりに口コミを広げるから、沢山来るだろう客を是非歓迎して頂きたいものだ。
……と、そうだ。これだけは言っておかないと。
「ああ、それと…藤丸立香を名乗る者が来たら出来るだけ手伝ってあげてくれ。あの子には今回も頑張って貰わないと行けないからさ」
「──承知いたしました。喜んで拝命いたしましょう」
「ホントに硬いなぁ君は! もっとリラックスしてもいいんだよ?」
彼か彼女かまだ分からないが、あの子がどん詰まると俺が何よりも困る事態になるからね。
とりあえずここに来てたら顔見せした方がいいか? 黒幕は早めに顔見せした方が話が早いだろ。
別に大聖杯を守る気なんて微塵もないけど、俺が知ってる話じゃソロモンのフリしたゲーティアが来るもんな。アレと泥を同時はきついだろ。
「後やるべきことは……あ、そうだ。
時間に余裕もあるし人を訪ねるとしよう。そろそろマキリ君がどうやって大聖杯を作ったか気になって来た」
まぁ特異点になって直ぐにカルデアが来る訳もなし。蟲は居てもオートマタや蒸気戦闘ロボすら歩いてないんだからまだまだ先だろ。
まだまだ時間はあるだろうと俺はパラケルススに会いに行く事にした。
物知りな魔術師で、目的も根源を目指しているという分かりやすい人だ。
丁度原作でも敵役だったし協力するには打ってつけだろう。
俺、敵側に呼ばれた上に泥に汚染された大聖杯がマスターの英霊だしな。
「さぁて、探し人はどこに居るのかな? こんな時頼もしい案内人の一人でもいれば助かったのだが」
「あ、今呼びました?」
お、なんか見た事ある気がしなくもない奴が霧の向こうから来た。
誰だっけ。こんな特徴的な人先ず忘れる訳ないと思うんだけど。
「おぉ、悪魔らしい……というより道化師みたいだね!
上っ面の平和が好きそうで、面白い主人なら忠義を示してやってもいいとか考えそうな顔だ!」
「イヒヒヒヒ!──あの、分かってやってる口でらっしゃる?」
「なんのことだい? 顔を見て何となくそんな奴な気がしただけさ」
「なんて事だ! 確実にわたくしを一度知った上でサッパリ忘れておられる! これでも記憶に残る悪魔であると自負していたのですが、自信を無くしそうです!」
「中身は分かってるよ? 享楽と愉悦と契約遵守を並べれば大体形容出来るタイプの英霊だろ?」
「フフフフフ!!……なんかムカっ腹立って来ました。やだ、コレが恋!?」
「1万年早いぞ、
あー…誰だっけ。型月の英霊に居たのは間違いないんだけど、名前も思い出せない。
ストーリーじゃ何してた人だ…? 敵エネミーでよく見た顔ではあるんだけどな。
もう、思い出せそうで思い出せないから突然現れた驚きがどっか行っちまったよ。
「でも君に頼むのはなぁ。
「それはそう。何せわたくし、悪魔ですから!」
「威張ることじゃないし、厳密かつ直喩で喋る癖のない私が頼っていい相手でもない」
二人で駄弁りながら霧の中を歩く。いや、道化師の方は何故か逆さまになりながら空を歩いてる風に飛んでるけどね。
うーん、変なのに憑かれちゃったな。物理に訴えない辺りまだ会話を楽しんでるんだろうけど、話しててボロが出てもイヤだしなぁ。
うん、こうするとしようか。
「よし、こうしようじゃないか。丁度私も君の名前を忘れている事だし、君が案内を終えるのが早いか、私が思い出すのが早いか勝負しよう。負けた方が頼み事を一つ聞くってことで」
「キヒヒヒヒ!!! 貴女様にガン有利なルールで笑っちゃいますねぇ!」
「まさか! 思い出せる気がしないからこうしてるだけだ」
「それはそれでわたくしのメンタルにダイレクト!」
という訳で案内人を確保した。
勝負の結果は俺の負けだったが、その後彼は自らメフィストフェレスと名乗った。
相当俺が分からなかったのがイヤだったのだろう。長い名前なので以後メフィと呼ぶ事にした。
女の子っぽいとか文句を言ってたが、どうせ今回限りの付き合いだ。また会う方が稀だろうし気を回す必要はないだろう。
「さて、パラケルススが工房に選んだのがここか。
時計塔の跡地とはね。実に大胆不敵な選択だ」
道中でホムンクルスとかの敵が居ない辺り、まだ場所を決めたばかりといった所か。
……ん? そういえば原作で敵対したのって確か魔術王の干渉が有ったからだっけ。
いや……あー……そこら辺うろ覚えなんだよなぁ……うーん……マジで十年単位で昔の記憶だからなぁ。
「……そうだ、思い出した」
「今日は来客が多いですね。カルデアのマスター達に加え、まさか「真理の姫君」が訪れるとは。
ようこそ、まだ何もない工房ですが、あなたの様な頼もしい仲間が居てくださるなら歓迎です」
やっべそうだそうだ。魔霧計画がなんだったか正直今の今まで具体的な内容を忘れてたんだけど、そういえばマキリの旦那以外って魔神柱が召喚したんだっけ? 大聖杯が似たようなの散布してるから思い出すの後回しにちゃってたよ。
バベッジが霧の拡散と戦闘機兵で、パラケルススが霧の触媒だったか。
致死性の霧でロンドンを人間ぶっ殺しゾーンに変えて、産業革命を破綻させて特異点にしてやろうって計画だったか。
よし、それなら質問する時はパラケルススが見えてるっぽい姫君とやらみたく……ん?
「ごめんなさい。会って早々不躾な質問になるけれど、一つ聞かせて貰える?
貴方は抑止力に召喚されたサーヴァントなのよね?」
「
どうでしょう。この時代のお方か英霊かは存じ上げませんが、私の工房の制作に協力してくれると嬉しいのですが」
………ええと、パラケルススは抑止力側で、つまり魔神柱は魔霧計画で特異点を作ろうとしていないってことか?
なんか魔神柱は魔霧計画の為に動いてる前提でやってたけど、もしや俺余計なことしてたりする?
「……そう。それはとっても困っちゃう答えね。
英霊同士仲良く出来ると思ってたのだけれど」
「困る?……失礼、此方も質問を。
──"貴女は誰に召喚された?"」
いやぁ……やらかしたか? やらかしてるよな……やっちまったな。
失敗したなぁ、ロンドンじゃ魔神柱も動いてるって事に全然頭が回って無かった。
そういえばそうだよな。マキリの旦那は俺を大聖杯に突っ込もうとしてたけど、あの霧や泥でロンドンを滅ぼそうなんて言って無かった。
なんかマキリの旦那が死んだから原作知識で補おうとしたけど、そもそも魔霧計画は魔神柱も協力して初めて成立した物。
「………あっはは」
マキリの旦那が単独で動いてて、大聖杯なんてものがある時点で魔神柱が別枠で動ける余地があるのを失念してた。
やべぇわ。つまり今のロンドンには俺がばら撒いた霧に隠れて魔神柱の未知なる策が眠ってる。
不覚にも俺はこの特異点を二重構造の仕組みを作り出してしまったって訳だ。もしかして霧を出した日に出て来た光の輪って俺関係なかったりする?
「"マキリ・ゾォルゲン"」
ブブブブブブ────
「なっ──!?」
そんなことを考えながら話半分にパラケルススの質問に答えると、名前に反応したのか大量の透明な刻印蟲が俺の背後からパラケルススを襲い始めた。
「えっちょ、止まれ止まっそうだ扉!」
え、なんで? 俺攻撃しないのは何故に?
そんな感じに頭が真っ白になりつつ、取り敢えずこれ以上の侵入を防ぐ為に扉を閉めた。
背後から火や土や風の魔術が飛び交っているが、これはもう仕方ない。最悪俺は死んでもいい事にする。戦犯よりパラケルススの方がまだ生きる価値あるわ。
「クッ……"真なるエーテルを導かん……我が妄念、我が想いの形……"」
出た! パラケルススさんの宝具だ! 具体的には忘れたけど全体攻撃だった筈!
やっちまってくだせぇ旦那!
「──"繰り返すページのさざなみ、押し返す草のしおり"」
不思議だな。後ろからナーサリー・ライムの声が聞こえる。
でもまさかパラケルススを攻撃するなんてないよな、振り返ったら今まさに宝具を使おうとしてるけどまさか俺を守る為にパラケルスス倒すとか言うんじゃないよな。なんで居るのか全然分かんないけど兎に角止めるしかねぇ!
「どうか倒さなむぐっ!?」
「だめよ、あたしの友達、あたしのママ/パパ。あたし/アリスの
あなたが死んで、くるくる回った扉の先は大釜よ? それだけは絶対防がないといけないの」
お互いの宝具が使われる刹那、ナーサリー・ライムはそんなことを言った。
……つまり俺が死んだら霊基は大聖杯の中にポトン! 何かしらやばいことが起きるってことか! ナーサリー・ライム! え、お前俺より賢くないか!?
そして宝具は開かれた。
「"
「"
お互いの力が干渉し合う。
五大属性を媒介に再現した真エーテルと、マスター次第で幾らでも姿を変える固有結界。
パラケルススは実に見事だった。その神秘は間違いなく神の時代をこの世に降ろし、無駄にある俺の服に宿った神秘を貫通し、蟲とまとめて俺をぶっ飛ばした。
ナーサリー・ライムはすごかった。俺が幼い頃に過ごしていたド田舎が再現されてて、超絶懐かしい光景を……壊れてたのか馬鹿みたいに下がりっぱなしでカンカン鳴り続ける電車の踏切をまた見れた。
問題は何故か結界内だと神エーテルの一撃が電車に置き変わってて、俺は蟲とまとめて轢かれたって事だ。へへ、余りの懐かしさに棒立ちしてたら轢かれちゃった。
「……ふふ、ままならないものだね」
「なんでサッサと退かなかったんです? 3分くらい余裕ありましたよねェ?
ネェどんな気持ち? ネェどんな気持ち?」
お、目の前に道化師の影。
「メフィ…そうか、かなり遠くまで弾き飛ばされちゃったな。どうやら結界内では私が怪我をしないらしい。代わりに凄く痛くて動けなくなるようだが」
「あ、お願い権使いますね」
「君に目の前で倒れてる人を助ける心がある訳無かったかぁ……」
色々俺の知覚外で物事が起きすぎだが、取り敢えず一連の様子をコッソリ見学してたらしいメフィはしばきたい。でも助ける義理はコイツにないしな……俺、名前覚えて無かったし。
「これ、飲んでくださいませ?」
「……所でメフィ、君を召喚したのは誰だい?」
目の前に真っ黒でどろっとした液体の入った小瓶をチラつかされたので、何となしにそんなことを聞いてみた。
そういやコイツ原作じゃ魔神柱に召喚されてたよな? まさか俺を毒殺しようとかしてない?
「さぁ? 誰だと思います?」
「
「いいからいいから! はい、なぁんでそれ持ってんの? なぁんでそれ持ってんの? はいイッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」
「アルハラぁ……」
この悪魔め……洒落になるかならないか半々のノリで進めて来やがる。
どうにか飲まずに済まないかな。暴力じゃ絶対勝てないんだけど、ペラ回しするにもあまり意味無さそうなんだよな……うーん…ええい、ままよ!! 最悪気合いで耐えるしかねぇ!
「ッ〜〜!! まっっっず!!!」
「わぁ〜〜すご〜い! わたくしは絶対やりたくない事しましたねぇ!」
「メフィ君がさせたんでしょうが…!」
うげぇ…ずっと口の中で苦味と酸味が暴れてるし。喉に粘っこく付いてるし!
何が起きるわ分かんなくて怖いなぁマジで!
「で、そろそろ何を飲ませたのか、誰に召喚されたか言いなさい。勿体振り過ぎてもネタが腐るだけだからね」
「フヒヒヒヒ!!! 言われてみればその通り!! では種明かしをば。
コチラ──全ての可能性が詰まった泥から加工された"
ふぅん……ふぅん?(自分のオルタ化をイメージ出来ない人)
「そして申し遅れましっった!! わたくしメフィストフェレス‼︎
大嘲の道化師、一応は貴女様の寓話に連なる者!
──魔神柱から、
ふぅん(状況がまだ呑み込めてない人)
うぅん?(これ絶対初手自殺させようとしたマキリの旦那の計画から外れた行動だと推察した人)
「ではお手を拝借しても? オヒメサマ?
市街で遊ぶのはもうおしまいです」
「……好きに攫いなさいな、道化のメフィ。あなたの連れた場所が、私の居場所よ」
「…イヒヒヒ!!」
……しばらく待っても黒化にしては中身が変化してない気がするな。
…いや、少し自我が薄らんでいるか?
まぁ、どっちにしろ俺には連れていかれる道しかない。
力無きは選ぶ権利なし。こうなったからには後はもうカルデアのマスター頼みにするとしよう。
所詮無力なのが俺だ。であれば、それ相応の振る舞いに殉じるとしよう。
哀れな子羊は、哀れまれる事しか出来ないのだから。
黒化/異霊
オルタナティブ。類似概念として黒化英霊とも。
本来の価値観、側面を否定する英霊の一側面。
彼女の場合は塗り重ねられた童話が内側に格納され、「人類を救済した偉業という王冠を押し付けられた誰か」として一定の容姿の指向性を持つ。
とはいえ女性に見えるだけというのは変わらず、本体の容姿に変化はない。
但し思考は本来の彼女の自己愛が消え、自らの運命に殉じるようになった。
そして雑魚なのは相変わらずである。