陰の実力者になりたくて! 七陰編SS   作:〇彪

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ゼータの最初のキスはコーヒーのフレイバーがした

 獣人には恋愛はない。強いオスが好きで例外はなかった。

 強い種を残し、繁殖をするために弱いオスは淘汰されるからだ。

 

 なのでシャドウに救われ、圧倒的な力に見せられた瞬間、交尾だと思った。

 だが、エルフを見て思いとどまる。アレはプラトニックな存在、彼はそんなエルフを身近に置く。

 

「シャドウ様が表舞台で王女と付き合いました。」

 

 ベータから伝えられた時の彼女の表情は冷えていた。

 私もこの世の終わりかと思ったくらいだ。

 

 主様獲得レースにまさかのペリー来航だ。密かに王女をヤろうかと思ったが流石に主の表舞台に横槍するのは禁止。

 何か考えがあっての事なのだろう。

 

 だが、メスにはやらなければならない時がある───。

 

 

 ◆

 

 

 <5年前>

 

 彼に救われてから私は廃村の村で生活するようになった。

 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン。そして私。

 個室が与えられるなんて思ってもいなかった。

 

 主の姉のおさがりだと言う衣服を与えられる。

 

「おはよう。」

 

「おはよう、ゼータ。昨日はよく眠れた?」

 

「うん、今日はガンマなんだ。」

 

 ガンマがキッチンで料理を作る。

 これもシャドウが持って来たものだ。

 

「ええ、主様が旬な野菜を持って来てくれたの。もう少しで出来るわ。」

 

 ガンマが料理をしている横で、コップと水を用意する。

 

 ガンマを見ると、前髪や眉毛が整えられていた。

 鼻歌を歌いご機嫌なガンマは、焼いた野菜を鍋に投入する。

 焼かなくても作れるスープ料理にも関わらず、手間暇を加える。気合いを入れているのが分かる。

 そうか。今日は、シャドウが来る日だ。

 

 

 ◆

 

 

 私は人見知りだった。

 一人と話すとちゃんと話せるのだが、大勢で一緒にいると中々話せない。

 目立つのが苦手。アルファと対照的。

 なのでアルファも私とのコミュニケーションには困っていただろう。

 

 だから家族以外との初めての集団生活に慣れるのには時間がかかった。

 

 家事も他のメンバーより下手で、いつも落ち込んでいた。

 だが、シャドウの指導は楽しかった。

 

「シャドウ、魔力の使い方を教えてくれない?」

 

「いいよ。えっと、どこまで出来る?」

 

「全然分からないかな…。」

 

「じゃあ、魔力を感じるところからだね。スライムがあるとやりやすいから、ちょっと待ってて。」

 

 シャドウが我らの家の倉庫に行く。

 私はさり気なくシャドウの隣の席に移動。

 

「おっと…良いの?」

 

「横にいた方が分かりやすいから!」

 

「ん、まぁゼータが良いなら良いか。それでこれがスライムね………」

 

 シャドウが目の前でスライムをいじると、とたんに動き出すスライム。

 そんな、なんてことの無い二人の時間が私は大好きだった。

 私に一生懸命教えてくれるシャドウの横顔を眺める。

 

「僕の顔に何かついてる?」

 

「ううん、見てただけだよ。それにしても…分かり辛いなぁ。ちゃんと手取り足取り教えてよ。」

 

 そういって私はシャドウの手を取り、魔力操作を教えてもらう。

 

「ん~。手に力が入りすぎかな。僕がスライム操作してみるから、ゼータの魔力でそれを感じ取ってみて。」

 

「ん。分かった。感じ取ってみる。」

 

 シャドウの方を見てそういう。

 そして、私は彼の頬にキスをした。

 

 部族にいた時に、同年代の男の子にもしたことのないキスを彼に捧げる。

 この意味が何を成しているのか。彼に伝わると良いな。

 

 シャドウは驚いたような表情をし、微笑んでくれた。

 

「ありがとう。嬉しいよ。」

 

「今度、大人のキスをしたいな。あるじ」

 

「ははは、大人になったらね。」

 

 獣族はそういった知識が早い。

 部族の年上の獣人から聞いていた。15歳くらいになると、交尾しながら唇を求めあうのだと。

 

 私はそれから度々シャドウとぴったりふとももをくっつけ、魔力操作の指導を受けた。

 

 

 ◆

 

 

 指導を開始して3回目くらいからだ。

 アルファが指導に加わった。

 

「私も魔力操作がまだまだだから、教えてくれないかしら?」

 ちなみにベータとガンマは陰の叡智を元に紙に色々書き出していたし、デルタは刈り。イプシロンはデルタのお守りだ。

 いつもはどちらかのお守をしながら諜報活動をしていたアルファが[[rb:新入り > ゼータ]]の指導に加わって来る。

 

「アルファに教える事…?なんかあったかな?アレはまだ早いし…。」

 

「スライムスーツは問題ないのだけど、鋭利な刃物が出せないの。コツを教えてくれる?」

 

「やれやれ、第一席様ともあろうお方が…あるじの足元にも及ばないなんて…」

 

「なっ!!!ゼ、ゼータ、あなた中々言うわね…。そ…そうね。シャドウの役に立てる様頑張らないと。」

 

 言い返してこない。これなのだ。これだから妖精は。

 デルタなら100%言い返してくる。目の前の正妻面をした家族は…強い!!

 

「ふふふ。精進するんだ、二人とも…。それで、アルファ、どこの部分が分からないのかな?」

 

「まずは貴方がお手本を見せてくれる?こうやって…」

 ソっとシャドウの手を取るアルファ。

 それを見て私の胸がチクっとする。あるじが…アルファを見ている。

 二人の距離が、こんなに近いのに離れた気がしてしまう。

 

 私の頭は真っ白になった。

 

 <現代>

 

 当時の事を思い出す。

 アレ以来、アルファと同じ七陰になり、構成員も700名以上に増えた。

 ガーデン内外含めた自身の目的を叶えるための派閥も持っている。

 

 一度仕事でミスをし拠点を離れ、しばらくシャドウに会えない日々が続いた。

 

 移ろいやすい性格の金豹族の私が、今でもシャドウを想っていた。

 

 あるじとは久しぶりに会った。

 組織の長と、幹部としての会話をする。

 

「あっちの方の進展が…」

 

 単独行動が好きな私だが誰かに相談する事を考える。

 ……いや無理だった。ウィクトーリアとか、ナンバーズとか。シャドウの事になると大体ヤンデレだ。

 

 最近はミドガルに戻ったからか、シャドウへの報告担当になる事も増えた。

 隠密行動をメインにしている私だ、常にシャドウを見ている事も出来る。

 大体気付かれて終わるのだが。

 

 告白はまだ出来ていない。

 教団も殲滅できていないし、まだ早いのかもしれない。

 あるじの事だ。明確に断る事はしないだろう。

 なにより、メスから求めるのだ。オスが交尾を嫌いな訳はない。

 

 私は獣人だが、物分かりの良い人間。

 力が全ての世界で生きてはいない。

 複雑な人間関係も分かるし、順序を踏む必要も分かる。

 

 ───だが、やはり。メスにはやらなければならない時があるのだ。

 

 

 ◆

 

 

「ウィクトーリア。」

 

「はっ!ゼータ様。」

 

「何も聞かずに、今からイータの元へ行ってあるものを受け取ってきて欲しい。」

 

「イータ様の…?新しい陰の叡智ですか?」

 

「そうだ。『カタマルリップ』という物だ。」

 

「『カ、カタマルリップ』?」

 

「あぁ…」

 

 意味深に呟く。

 

「それはどういう…」

 

「急げっ!!!」

 

「はっ!!」

 

 よし。まずは第一関門はクリアだ。あの[[rb:狂信者 > 頭おかしいヤツ]]は同じ志を持った仲間ではあるが、彼女がいたら私の目的は達せないだろう。

 

 そして、第二関門。ここが山場だ…。

 

 

 ◆

 

 

「アルファ、失礼する」

 

「ゼータ、どうしたの?」

 

「最近あまり会話してないから、どうしてたかなと思ってね。」

 

「あなた、あまり報告に来ないからよ。久しぶりにゆっくり話しましょうか。」

 

 ダメだ!ゆっくりしている暇はない。

 コーヒーを入れようと立ち上がるアルファを見て焦る。

 

「いやぁ、私も次にする事があるんだ。これを渡しに来ただけだよ。」

 

 私はアルファにある物を差し出す。

 

「これは…?古代文字で書かれているようだけれど…?」

 

「北の大地で見つけたモノなんだ。イータの解析は必要だと思うけど、あるじの好きそうなものじゃない?」

 

 潜伏先で見つけた伝説の短剣と言われるものだ。

 ドラゴンが短剣に巻き付けられており、柄に古代文字で何かが彫られていた。

 文字がかすれて読めない。

 

「そうね。シャドウが好きそう…ありがとう。預かるわ。それで?魔剣士学園の件はどうなっているかしら?」

 

「ごめん!アルファ。報告の件はまた後でするから!」

 

「あっ!ゼータ…」

 

 私はアルファの部屋を後にする。

 

 あの古代文字の解析は時間がかかるだろう。

 イータは文字の解析まで行わない。中身の鉱物は機械で判定するだろうが、文字はアルファが取り組むだろう。

 

 敵に塩を送るのも癪だが、これで目的は達成した。

 正妻がごとくにおいに敏感なアルファにも気付かれていない。

 

 さぁ!行こう!!

 

 

 ◆

 

 私は私服でたまたまを装い、想い人のいる建物の庭で焚火をする。

 

 魔力を含ませながら彼に合図を送る。

 

「あるじ」

 

「ゼータ。君から誘ってくるなんて珍しいね。」

 

「あるじに…会いに来たんだ。」

 

「そうか…僕も会いたかったよ…。」

 

「やはり、あるじも…」

 

 隠密活動ではない。今日は柑橘系の香油を付けて来た。

 

「おや、良い匂いがするね」

 

「珍しいでしょ?活動中に見つけた村の、特産品なんだって…コーヒー、湧いた。飲むでしょ?」

 

「いいね。さすがゼータだ。」

 

 焚火で沸かせたコーヒーを、紙コップに注ぎ、あるじに手渡す。

 

「うまい。夜にカフェインはダメだと言うけど、どうしても飲みたくなっちゃうな…。」

 

「かふぇいん…そう、かふぇいんはダメだと言われている。」

 

「このコーヒーも特産品か何か?」

 

「そう、これは南の方で貰ってきた。ガンマにもまだ飲ませてない一品だよ」

 

 二人でコーヒーに舌鼓を打つ。

 

「ご馳走さま。ゼータはコーヒーを煎れるのが上手いね。」

 

「私もよく飲むから。主が喜んでくれて良かったよ。」

 

 中身が空の紙コップをシドから受け取り、焚火に投入する。

 いつもと変わらないやり取り。これじゃダメだ。

 あるじの前だとクールを気取ってしまう。好きな子に好意を気付かせたくないオスのようだ。

 

「なんか今日はいつもと雰囲気が違う…?」

 

「そうだよ。」

 

 ふっと、笑顔をあるじの方に向ける。

 どうだ!!悩殺必殺の笑み!!!

 

 ほー。と口にするあるじに近づいていく。

 

 目の前に彼がいる。

 彼の方が背が高い。

 視線が交差し、私はそっと下に目を逸らす。

 

 そして、おずおずと彼の手を握った。

 

「あるじ…昔の約束…覚えてる?」

 

 思い切って聞いた。

 私は覚えている。忘れた日など、ない。

 

 あるじの返答が怖い。だが、賽を投げてしまった───。

 

 

「────覚えているさ。」

 

「ほ、ほんと?じゃ、じゃあさ…ちょっとこっちに来てよ。」

 

 彼の手を引き、森の奥へ向かう。

 焚火の場所だと見られる可能性が1%でもあった。

 そう、交尾はひと気のない所でするのが望ましい。

 

 大きな木を見つけ、彼の背を付ける。

 

 彼の顔が見れない。

 

「5年ぶりだね…。やっと、大人のキスが出来るね。」

 

 目を閉じる。意を決して、シャドウにキスをする時だった───。

 それはやはり陰からやって来た。

 

「ゼータ様!!!」

 

 耳によく知るものの声が聞こえる。

 しかしもうキスをするのだ。よく知る者なのであれば、見られても問題はない。

 

 そうして、私は彼とキスをした…のだが?

 

「ガサッ」

 

「あ~~~~~っ!!!」

 

 ガサッ??

 ウィクトーリアの悲鳴も聞こえる。

 

 だが、いい。もういい。出すね。舌を、出す!!

 

 が、一向に出なかった。口が防がれている。

 

 ん~~!!と舌を出そうと踏ん張る私に彼の片手が背中に回される。

 

 力が抜けた。

 

 そして、プニ。と、唇と唇が触れ合う。

 

 

「あ…る…じ…」

 

 ほろ。と流れる涙。

 

 数秒後、シドに引き離される。

 

 目を開けると、優しい表情で見て来るシドがいた。

 

「ありがとう。嬉しいよ。」

 

 彼が私を受け入れてくれた。

 のだが…唇に何か塗られていた。

 

 塗られた何かは接着剤の様に固まっていたが、

 端からめくり、簡単に取れた。

 

「これは…カタマルリップ??」

 

 シドを見ると、左側の方を見ていた。

 そこには手を口に当てて、真っ赤なウィクトーリアがいた。

 

「…あれ?間に合っちゃった?」

 

 無言のシドとウィクトーリア…。

 

「あはは…てへ。」

 

「ゼ、ゼータ様!!!てへ、ではないです!!てへ!では!!」

 

「ははは、まぁ…しょうがないよね。」

 

「こればっかりは!!ダメです!!羨ましすぎる!!!シャドウ様!!私とも…その…きす…。」

 

「ウィクトーリア。」

 私はアレクシアとは別のペリーを大人しくさせる。

 

「…はっ!!」

 

「ウィクトーリア。今のはアルファには…。」

 

「言いませんよ!分かってますよ!それよりも…シャドウ様、後生の頼みですから、私とも…キ…」

 

「ウィクトーリア!」

 

「…はっ!!」

 

「見なかったことに…しない?」

 

 はっ!!いえ!!さすがにシャドウ様のキスシーンが目に焼き付いて…

 とボソボソと脳内に移動するウィクトーリア。

 

 よし、彼女は大丈夫だ。

 ペリーなのは変わらないが御した。

 と思い、シドを見る。

 

 あれ?なんか、拗ねてる?

 

「……ゼータ…なかった事にしたいの?」

 

「…あ、あるじっ!!」

 

 拗ねた声音の彼を見て、私の顔は真っ赤になる。

 ひぇえええ!と叫ぶウィクトーリアがいた。

 

 

 ◆

 

 

 ファーストキスはコーヒーの匂いがして、苦かった気がしたが、私にとっては、とっても甘くて切なかった。

 

 結局、私の作戦は、失敗に終わった。

 

 こんなまたとないチャンス、一度しか使えない。

 第三関門はまさかの第一関門と本人だったか…。

 だが良い。これは前進だ。

 

 シドに想いを伝えられ、幼少期の願いが叶えられた。

 

 私は彼に私は心酔していく。

 

 明日も明後日も、何年後も彼を想う。

 いつか彼と一緒になれる事を夢見ている。

 

 だから私は彼が他の女といると、嫉妬で狂いそうになる。

 

 だが、それは仕方ない事だ。

 

 私の想い人は、人類が求めてやまない、デウスデアなのだから。

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