金色の闇としての日常   作:夜未

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 とりあえず改訂完了。

 この物語のテーマは退廃です。
 主な変更点は活動報告にまとめておきます。
 よろしくお願いします。


始まりの日
目覚める金色


 

 

   全ては高校二年の春休み初日に起きたことだった。

 

 ずっと変わらない日常を夢見て、ずっと変わらないことを願って、そして、ずっと変わらないのだろうと思って、ずっと変わらないと、そう言われた。

 変わっていくのは世界だけで、いつまでも、俺は……私は、変わらない。

 

 

  ※  ※

 

 

 その日もいつものように携帯の機能として付いている目覚まし時計が耳元で鳴り響き、俺は心地よい無の世界から引きずり出される。

 気持ちの良い、永遠に燻っていたい状態からの無理な覚醒がとても煩わしいのだが、そうも言ってられない。

 しかし、意識が肉体に宿ろうとも、俺はもう少しこのまま浸っていたいという思いから逃れられない。

 体を包む感触を感じることがとても嫌だと思う。

 まぁ、端的に言えば、それはただ目が覚めただけとも言うのかもしれない。

 

(とりあえず、学校だし、起きるか……)

 

 そんなことを、これまたいつも通りに思い、現在進行でアラームの鳴り響いている携帯へと手を伸ばした。

 金色の糸が絡んだ小さく綺麗な手が伸びていく。

 携帯に触れる前に、身体と思考が止まった。

 

(…………は?)

 

 理解不能の事象を確認!

 エマージェンシーコール発令! 

 俺の灰色の脳細胞が瞬間的に眠気を振り切り覚醒へと促される。

 一気に起床しようと体を少し乗り出して

 

(さむっ!?)

 

 その気持ちが断たれる。

 どうやら季節が春でも寒いものはまだ寒いということを忘れていたようだ。

 問題を先送りにして、まずはもう一度しっかり布団へくるまり、暖を取ることにする。 

 しかし、そこでちょっとした異常に気付いた。

 ……あれ?

 

(俺、ちゃんと服着てたよな? というよりも……)

 

 いつもよりも大幅に布団へ触れる肌面積が小さく、背中に大量の糸のようなものがあることが感じられる。

 意味がわからない。

 

(マジでどういうことだ?)

 

 当然のことだが、俺は自らを糸で縛り上げてから眠る趣味などない。 

 つーか、それはどんな趣味だ。

 いや、世界は広いのでもしかするとそんな趣味を持つ人の一人や二人はいるのかもしれないけれど。

 ここで先送りにしようとした問題に関係があることに思い至った。

 

(腕にかかっていた金色の糸、背中に大量にあるその糸の感触……)

 

 不意に思いついた予測。

 仰向けで見慣れた天井を向いていただけだった顔を横へと向ける。

 金色の糸は俺の恐らく頭部から流れていた。

 というかそれは俺の髪の毛だった。

 混乱に陥る寸前で冷静になれと言い聞かせる。

 

(ふー、落ち着いて考えろ? つまり、俺が長髪で髪が金髪ならこれらの事象は全て有り得るものとして解決されるはずだろ)

 

 そういった予想から解決を図ろうと、自分の頭へと手を伸ばす。

 その伸ばした自分の手に再度驚愕。

 小さく、きめ細かい肌の小さな手がある。

 

(わ、忘れてた……。そういえば手も小さくなってたじゃんか)

 

 高校生男子として並程度の手の大きさだったものが、一夜にして女子中学生のような手になるわけがない。

 いや、女子中学生の手がこんなのか俺は知らないけどね!

 ただの知ったかからくる予測です、あくまで。

 

(てか、俺、そもそも長髪じゃねーし。金に染めてもねーよ)

 

 俺はしっかりと混乱していたようだ。

 一体自身の身に何が起こっているのか? 

 起きて立ち上がり鏡を見れば全て解決しそうなことだが、自身の体温で温められた布団という楽園世界から出る勇気がない。 

 ついでに言えば、事実を受け止める勇気も出ない。

 もぞもぞと布団の中で動き回る。

 それほど大きなスペースでもないので、なんとか体が極寒世界、外気に触れないようにしながら。

 

(服の感触もおかしいぞ……)

 

 やはり違和感を感じる。それも物凄く激しく。

 しかし、布団から出る勇気も姿を確認する勇気も出ない。 

 ど、どうすれば…………。

 取り敢えず携帯の未だ喧しく鳴り響き続けているアラームを止めた。

 

 

  ※  ※

 

 

(腹、減ってきたな……)

 

 起床してから布団に包まれたままで一時間程が過ぎた。 

 初めは色々と焦っていたが、今が春休みだったと理解するとだんだんと落ち着いてきて思考停止をしていたようだ。

 焦る必要が無い、という時間無制限状態が効いた。

 そのままあわや二度寝して全てを夢幻世界に置き去りにしてやろうかとも考えるほどだ。 

 しかし、空腹を自覚するっことによって、俺は起床を余儀なくされていた。

 狭く古臭いアパートでの一人暮らしなので勝手に食べ物が出てくることはないのだ。

 誰か俺にご飯を作ってください。

 こんな時に白水さんが居れば……などという意味の無い思いを描いていると、なんというか、色々と萎えた。

 つまり、暖を取ることも俺自身の意味不明な状態もどうでもよくなったのだ。

 人間悩み過ぎると色々と丸投げしちゃうよね。

 

(いい加減起きるか)

 

 そんなことを思って布団から脚を出す。

 驚愕する。

 いや、何回驚いてんだよと思うかもしれないが、驚くものは驚くのだ。

 俺は素直な人間だった。

 そこにはまるで女子中学生のような綺麗な脚がある。

 どうやら夢幻世界へ置き去りにすることは出来なかったようだ。

 そもそも布団の中で既に体の違和感に慣れてきていることが根本的におかしい。

 

(夢でもなんでもなかったのか。だよなぁ。だって、身体が明らかにおかしいもんな……) 

 

 男子高校生のすね毛など全く見当たらない綺麗な脚だ。

 それに足のサイズ自体が違う。 

 そろそろ現実を直視しなければならない時が来たようだ。

 覚悟を決めて身体を起こすと、視界の横に見慣れてきた金色の糸が流れた。

 包まっていた布団から出て、立ち上がる。

 ちょっとした立ちくらみと、自身の視点の高さからくる違和感を伴う気持ち悪さが飛来してくる。

 無視した。

 諦めて受け入れて流すのは俺の得意分野なのだ!

 大多数の人間がそうだろうけれど。

 

(まず、確認だな)

 

 一つ、自分の中でそう思う。

 ちなみに声は出さない。

 なんとなく。

 本当になんとなくだぞ?

 実はもう色々と解っているとかそういうことではない。

 逸らせるものならば目は逸らしておくべきだ。

 日本人の固有スキルたる、ことなかれ精神を俺は極めている。

 よたよたと歩きながら、部屋に設置されている大型の鏡の前に歩いていく。

 目がしぱしぱするので、腕で拭った。

 まぁ、薄々はわかっていたけど。

 ただ、理解したくなかっただけなのだ。

 やっと鏡の前に立ち、自分の身体全てを見る。 

 

「なんで……」

 

 とうとう声が出てしまった。

 いや、俺、実は独り言はわりと多い方です。

 ちなみに家の中限定。

 さすがに外で独り言をぶつぶつ言うようなことはない。

 恥ずかしいし。

 部屋の中には鈴の音のような高く、鋭い声が響いた。

 そして、事実をしっかりと自分に認識させるために、言葉に出した。

 

「なんで、女になってんだよ……」

 

 鏡の中には引きつった顔の金髪美少女がいた。

 本当、意味がわからない。

 いや、そもそも、これに意味はあるの?

 

 

 

 




 雰囲気が変わってないといいなぁ……(遠い目

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