金色の闇としての日常   作:夜未

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 始まりの日の改訂が完了しました。
 かなり、というか大分変わっています。ほぼ別物です。
 詳しくは活動報告にて。




金色の闇としての日常を

 ピザの宅配には、椎名が対応した。

 餓えた俺たちには当然ピザ一枚で足りることはなく、一人一枚(それでも現金は6:2:2)頼んでいたのだが、しばらくして、俺は違和感に気付いた。

 

「んー、どうした、綜。半分しか食べてないじゃないか」

 

 椎名がそう問いかけてくる。

 見れば、藤崎は既に食べ終えごろ寝しているし、椎名もほとんど食べ尽くしている。

 

「……た、食べきれない」

 

「は?」

 

「いや、もう、既に腹八分目状態なんだ。確実に食べきれない……」

 

 目の前にあるピザ(マルゲリータ)を見て、俺はそう言う。

 いつもなら余裕で食べきれていた。

 それどころか、その後にサイドメニューで頼んだポテトなどを齧りながら皆で駄弁っていただろう。

 しかし、今の俺はすでに八分目、というか、もう満腹だ。

 これ以上は食べきれない。

 

「金色の闇って、小食の設定だったっけ?」

 

「さぁ? でも、たいやきはかなりの量食べるぞー」

 

 椎名が問い、藤崎が答えた。

 くそ、こんなことならいつもと同じ大きいサイズを頼むんじゃなかった。

 少し小さめのものなら気持ちよく食べきれていたものを。

 

「まぁ、いいじゃん。白水さんの夜食にでも出してあげればいいさ」

 

「もうちょっとすれば来る頃だしなー。多分、日が変わるぐらいには来るんじゃない?」

 

「……そうするか」

 

 二人に言われ、俺はラップでピザを包んでゴミをまとめる。

 完全に白水さんが残飯処理班の立ち位置だったが、誰も気にする者はいなかった。

 

「そういえば」

 

 そのまま三人して炬燵に入り、思い思いに過ごそうとしたところで、俺はふとあることを思い出した。

 藤崎は既にラノベを読み始めているが、椎名がこちらを向いた。

 藤崎の自由さにはもう何も言えない。

 

「多分、俺、基礎的な身体能力も上がってる気がするんだよね」

 

「へぇ……」

 

 藤崎は完全に聞いていないが、椎名は反応を示した。

 藤崎のぶれなさは椎名以上かもしれない。

 

「なんというか、多分、体操選手染みたことは簡単に出来ると思う」

 

 本当の事だ。

 やろうと思えばだいたいのことは出来る、と思う。

 そもそもからして、この身体は戦闘に適したものになっているんだろう。

 というか、元はそういう設定だし。

 

「やっぱり、変身能力だけじゃないってことか……」

 

 椎名はある程度予測出来ていたようだ。

 まぁ、ほとんど変身能力のおまけみたいなものだろう。

 いや、だが、考えてみれば、基礎身体能力の向上ってかなり良くないか?

 日常生活を過ごす上なら下手すると能力以上に便利かもしれない。

 

「夜中にこんなこと頼むのもなんだけど、ちょっと見せてくれない? どの程度のことが出来るかってだけでいいから」

 

 椎名がそう言ってきたので、俺はわかったと了承を返し、立ち上がった。

 ……ちょっと待て。

 身体能力の高さを見せるってどうしろと言うんだ?

 ここが外なら良かったのかもしれないが、部屋の中だぞ?

 寒い上に万が一人の目がある外には行けない。

 

「どうした、綜?」

 

 椎名は早くやって見せてくれと目で語っている。

 いやいや、だから、何を?

 何を俺に求めてるんだ?

 見れば、藤崎も顔を上げてこちらを見ていた。

 そこは興味持つなよ。

 大人しくラノベ読んでればいいだろ。

 あ、読み終わったの?

 そうですか。

 

「あー、えー、」

 

 えーと、えーと。

 もう、バク転でいいか。

 多分、それっぽく見えるだろう。

 前の身体だと出来なかったことだし。

 俺は覚悟を決めると、手を挙げて宣言した。

 

「一番、金城綜こと金色の闇、いきます」

 

 立った二人の観衆を前にした新体操。

 とくと見るがいい、(ヤミの性能)を!

 部屋の中でバッと後ろ向きに飛び上がる。

 実は跳躍力も上がっているため、天井にぶつからない様に注意もしている。

 視界がぐるりと一回転し、そのまま手を地に着けて、元の状態に戻る。

 着地の足音は完全に殺したため、無音だった。

 会心の出来だ。

 どやっ。

 

「え、それだけ?」

 

「え?」

 

 自信満々で観衆兼審査員の二人を見る。

 藤崎がまるで期待外れだとでもいう様に言う。

 いや、着地の衝撃を完全に殺したんだぞ。

 どう考えてもすごいだろう。

 俺が沈黙していると

 

「あー、その、綜、他になんかない?」

 

 椎名までそんなことを言ってきた。

 コイツら、どうすれば満足なんだ。

 わかったよ、やればいいんだろうやれば。

 

「そんな拗ねないでさ」

 

「拗ねてません」

 

 くそ、見てろよ、今度こそ、あっと言わせてやる。

 バク転に捻りを加えてみよう。

 四回転、いや、今の俺なら五回転はかたい筈だ。

 ……すごいこと=バク転って今更だがすごい安直な気もしてきたが、全力で目を逸らすことにした。

 ここまで来たからにはちょっとした意地です。

 俺は再度深呼吸し、また手を挙げる。

 

「二番、金色の闇、行きます」

 

「どうでもいいけどなんでそんな宣言してるの?」

 

 ツッコミを無視し、俺は捻りを加えたバク転を開始する。

 しかし、脚が地から離れた瞬間、ピンポーン、と音が鳴った。

 そして、ガチャガチャとドアの鍵が開く音がして、

 

「ごめん、遅くなった。スゴいことってなに?」

 

 回転する視界の中、丁度俺の着地点付近に長身体躯の男、白水さんが現れていた。

 

「ちょ、あぶなっ!」

 

 さすがの(ヤミ)とはいえど、空中で移動する術はない。

 どうしてそうタイミングが悪いんだお前は。

 主人公属性か? 主人公なのか白水さん。

 いや知ってたけど。

 

「え、ちょ、は?」

 

 戸惑いながらも白水さんは自らへと飛来する金髪美少女()に対応しようと動き出していた。

 この辺の対応が如何にも出来る男って感じだ。

 素早い動きで前へ出ると、身体を横に向け、両手を俺の方に伸ばす。

 しかしながら、俺の身体は今、縦にも横にも回転していた。

 戸惑いから愚かにも空中でバランスを崩してしまった俺は、衝撃に備えて、目を閉じる。

 だが、

 

「ふぅーー」

 

 思っていたような落下の衝撃は来なかった。

 ふわりと、衝撃を吸収したかのような勢いと、膝の裏と頭に感じる感触。

 なにが起きたんだ。

 つーか、なにをしたんだ白水さん。

 俺が瞑っていた目を開けると、そこには白水さんの顔があった。

 普通に驚く。

 

「おわっ!」

 

「わ、危ないって!」

 

 うるさいよ。

 なにが悲しくて男にお姫様抱っこされなきゃいけないんだ。

 俺はその場で暴れ、白水さんの抵抗むなしく地に転がった。

 背中から地へと落下し、腰を打ったが、そんなことよりすごく恥ずかしい。

 見れば、椎名も藤崎も爆笑している。

 くそ、なんでこんなことに。

 

「えーと、君、誰?」

 

「触んな!」

 

「えっ!?」

 

 とりあえず俺は、倒れた俺へとおずおずと問い掛けてきた白水さんが差し出してきた手を払い飛ばすのだった。

 

 

 ※  ※

 

 

「これは確かに、すごいこととしか言えないよね……。というか、現実って案外許容範囲広いんだなぁ。初めて知ったよ、おれ」

 

 全員で炬燵を囲み、白水さんへとさっさと説明をしてやる。

 現実の許容範囲の広さを語るなら今四人の美女・美少女と半同棲中のお前は何だと言うのだ白水さん。

 空想の存在ですか?

 

「あぁ、一応既に僕から戸籍・国籍云々の話とかはしてある。身分証明がないとこの世の中キツイからね。保険だってタダで受けられるわけじゃない」

 

 椎名がやれやれとした調子で言った。

 ちなみにだが、藤崎は既にゲームに夢中だ。

 最近PSvi○aにご執心である様子。

 神狩りゲーでもしてるのかと思えば、違った。

 

「オレはさ、俺○2で爆死した大馬鹿野郎だけど、買ったからには、ちゃんとやってやりたいんだ……。苦しいからぶっ続けじゃなくて、ちょいちょい間を空けてにしてるけどね……」

 

 藤崎は遠い目をしてそんなことを語っている。

 もちろん、画面から目を離すことはしていない。

 ある意味、コイツのゲームへの執念はすごいと思う。

 そんな風に、俺が藤崎へと気を取られていると、椎名と白水さんが少し議論している。

 

「対処法、というか応急処置レベルだけど、現状それしかないか……。で、現段階では出来ないみたいだけど、現実的に可能?」

 

「本人のやる気にも関わってくると思うけど、僕は可能と見てる。楽観とかじゃなくて、実際に数時間見てきて、そう思ったよ。まぁ、一応最悪の事態にも備えとこうか」

 

「そうだね。おれも一応備えとく。まぁ、そっちみたいに何が出来る、とかの範囲は狭いかもだけど」

 

「まぁ、あくまで『最悪』だから。僕は大丈夫だとは思うけど、一応ね」

 

 どうやら俺についてのことのようだ。

 当事者を置き去りにして話が進んでいる気がするが、あまり難しいことを振られても俺にはイマイチよくわからない。

 でも、話の流れ的に、俺が元の姿に変われれば問題ないだろうということだった。

 

「…………」

 

 なんとなく、俺の、友人の姿形すらも変わっているのに、こいつ等はそんな俺をすぐに受け入れて、いつもの日常の風景の一部へと戻してくれているように感じる。

 そんなの、俺の勝手な思いすごしかもしれない。

 それでも、俺は、そんなこいつ等がいてくれて、良かったと思えた。

 絶対、口には出さないけどさ。

 ありがとう、だなんて、改めて言うのは、ちょっと恥ずかしい。

 だから

 

「久し振りに、スマブラしようぜ。六四の」

 

 

 ※  ※

 

 

「うわ、一つコントローラーのスティック壊れてんじゃんコレ」

「あぁ、それ敢えて買い換えてないんだよ。藤崎のハンデとして」

「えぇー、まぁ、オレは別にいいけど、悔しくないの?」

「いや全然?」

「まったく?」

「微塵も?」

「あぁ、はい……」

「強者は常に余裕を持つことを、傲○王さんから学ぶんだな」

「あそこまでいくとあれだけどなー」

「さて、と。うわ、やだ、ロクヨンのスマブラ起動画面すごい懐かしい……」

「やば、セーブデータ飛んでるよこれ」

「キャラ少ないなぁ……」

「藤崎ピンクの悪魔自重」

「スマブラをコンボゲーとして極めている、そんなお前には配管工さんをお勧めする」

 

 いつもの日常の夜が更けていく。

 漫画の様に金色に輝いているわけじゃない、良くて金メッキでしかないけれど、俺はこの日常を、どんな姿になろうとも楽しんでいこうと、そう思うのだった。

 

「うわ、ちょ、藤崎、くそ!」

「綜、おま、リアル妨害は外道だぞ!」 

「手も足も出してない!」

変身(トランス)能力をゲーム妨害に使うなんて、流石のティアーユさんも泣いてしまわれるんじゃないだろうか……」

「おれは案外笑うんじゃないかと思うよ……」

 

 

 




 なんだか、だいぶ雰囲気変わってしまったかもしれない。
 次回は未定です。
 たぶん、次回も完全に別物となっていくと思います。
 以前のものが好きだった人には申し訳ないとしか言えないですね……。

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