雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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爆豪ママの個性…………閃いた!


尊厳破壊を免れた男

 

 特殊最高警備監獄タルタロス、のさらに外周に位置する、ごく一般的な敵(ヴィラン)用の集団懲役刑務所。

 その薄暗い雑居房の床に、男たちは所在なさげに腰を下ろしていた。窓の鉄格子から差し込む夕日は頼りなく、部屋全体に湿っぽく沈鬱な空気が漂っている。

 新入りとしてこの房に放り込まれたヘドロヴィランは、どろどろとした自身の流動体の一端を冷たいコンクリートの壁に預け、深くため息をついた。自由を奪われ、配給される飯の不味さに絶望する毎日。そんな彼の様子を、房の先輩たちは退屈しのぎの玩具を見つけたかのような目で見つめていた。

 

ヴィランA:

「おいおい、見ろよ。あの平和の象徴オールマイトに直接お縄を頂戴したっていう、噂の『大型新人』の入房だ。一体何やって捕まったんだよ? 聞けば平和の象徴に一撃で粉砕されたらしいじゃねえか。泥の個性なんていう便利なもんがありながら、どんだけヘマしたんだよ」

 

 房の古参であるヴィランAが、新入りを小馬鹿にするような下卑た笑みを浮かべて問いかけてくる。ヘドロヴィランは不快そうに顔の形をドロリと歪め、忌々しそうに床へ唾を吐き捨てた。

 

ヘドロヴィラン:

「……うるせえよ。俺だって、あんな規格外の化け物と正面から戦う気なんてハナからなかったんだ。最初は、路地裏で見つけた『やたら目つきの悪い、爆破の個性のガキ』を乗っ取ろうとしたんだよ。最高の隠れ蓑であり、最高の『器』を手に入れたと思って、あの瞬間は完全に俺の勝ちだと思ってた。……だけどよ、よりによって、あのタイミングでオールマイトが地下水道から飛び出してきやがったんだよ……」

 

ヴィランB:

「ハハハッ! そいつはとんだ災難だったな! 狙った獲物のすぐ後ろに平和の象徴がスタンバイしてたってわけか。そりゃあお前、最高に運が悪ぃよ!!」

 

 向かい側に座っていたヴィランBが、自身の膝を叩いてゲラゲラと笑う。監獄の自由のない生活の鬱憤を晴らすには、他人の不運話ほど良い娯楽はなかった。他のヴィランたちも、ヘドロヴィランのあまりの引きの悪さにクスクスと笑い声を漏らす。

 男たちの下品な笑い声が狭い雑居房に響く中、ヘドロヴィランは何も言い返さず、房の隅に置かれていた備え付けの雑記帳の切れ端と、支給された安いプラスチック製のボールペンを手に取った。言葉で言い返すよりも、あの時に味わった圧倒的な怒りと屈辱、そしてあのクソガキの顔をどこかにぶつけたかったのだ。

カリカリ、カリカリと、静かな房内にペン先の走る音だけが響き始める。

 ヘドロヴィランは無言のまま、凄まじい集中力で紙に向き合っていた。驚くべきことに、その泥のような指先から生み出される線は極めて繊細で、正確だった。彼には、裏社会の誰も知られていない『無駄に高い画力』という隠れた特技があったのだ。

 ペンのインクがかすれるほどの勢いで、紙の上に濃淡と陰影が刻まれていく。あの時、泥の隙間から命乞いをするでもなく、ただただ狂暴に自分を睨みつけてきた少年の目元。世界中のすべてを拒絶し、爆破の火花を散らしていたあの凶悪な表情が、恐ろしいほどのリアルさで白紙の上に再現されていった。

 描いているうちに当時の恐怖と怒りが蘇り、ヘドロヴィランの呼吸が荒くなる。やがて、渾身の力を込めた最後の1線が引き終えられた。

 

ヴィランA:

「おいお前……無駄に絵が上手いな。美大にでも行ってりゃ、こんな薄汚ぇムショに入らんで済んだんじゃねえの? ……で、その神作画で描かれたガキが、お前が乗っ取ろうとして失敗したっていうガキか?」

 

 ヴィランAが感心したように身を乗り出し、ヘドロヴィランの手元から完成した似顔絵をひったくった。そして、何気なく隣にいるヴィランBへとその紙を手渡す。

だが、その紙を受け取り、少年の顔を正面から見た瞬間――先ほどまでゲラゲラと下品に笑っていたヴィランBの表情が、凍りついたようにピキリと固まった。

 

ヴィランB:

「おいおい……多少、いやかなり目つきは悪いが……コイツの顔、まさか……」

 

 ヴィランBの手が、目に見えてガタガタと震え始める。そのあまりの豹変ぶりに、ヘドロヴィランは泥の眉をひそめた。

 

ヘドロヴィラン:

「あァ? 何をそんなにビビってんだよ。ただの生意気な一般人のガキだろ。そのガキがどうしたってんだよ?」

 

 ヴィランBは引きつった顔のまま、自身の股間を本能的に強く押さえ、まるで怪談の怪異にでも直面したかのような、芯から怯えきった声で絶叫した。

 

ヴィランB:

「知らないのか!? 16年前まで、裏社会のすべての悪党のケツを未曾有の恐怖に陥れていた、あの……伝説の18禁ヒーロー『ミッキー』の生き写しだぞコイツは!!」

 

ヘドロヴィラン:

「じゅう、じゅうはちきん……? 何だそりゃ、エロいのか?」

 

ヴィランB:

「エロいわけねぇだろ!! むしろ裏社会の歴史上、最悪の拷問だ!! あいつが路地裏の闇から現れる時の、あのあざといブリっ子声が今でも耳から離ねぇ……! 『もう大丈夫❤なぜって?永遠の17歳の私が来たからだゾ❤』って、オールマイトを最悪な形でパロディした、あの絶望のセリフがよォオオ!!」

 

 ヴィランBは頭を抱え、床にうずくまってガタガタと震え続ける。その声に同調するように、奥に座っていた別の古参ヴィランCも、青ざめた顔で自身の過去の古傷をさするのだった。

 ムショの天井に、かつて一世を風靡した悪党たちの、血を吐くような大懺悔と恐怖の絶叫が響き渡る。

 彼女の活動期間があまりにも短く、さらにその制圧内容が教育に悪すぎるため、現代のトップヒーローや、重度のヒーローオタクである緑谷出久すら決して辿り着けない「歴史の闇」に葬られた存在。それこそが、爆豪勝己の実母、爆豪光己(ミッキー)であった。

 平和の象徴であるオールマイトにワンパンで気絶させられ、無傷でここに連行されたヘドロヴィランは、実は人道的な救われ方をした、幸福な男だったのだ。

 

(画面が暗転し、重々しい文字が浮かび上がる)

――これは、誰も知らない歴史の闇。

 

あるいは、人々の記憶から忘れ去られかけていた、

 

(ビジュアル的に最低の)ヒーローの物語だ。

 

(第1話・完)

 

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