雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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名前をつけてみようの会

 先日行われた雄英体育祭において、学校指定のジャージ姿でボロボロになりながらベスト16まで這い上がり、その生身の天才的な足運びによって、半引退状態のグラントリノを本能的にスルーさせた■■ 光己(みつき)。

 しかし、その一瞬の天才性に目をつけたアングラ系の物好きなプロたちが、サポート科の共有サーバーに登録されたあの『最低なカンチョー図面データ』を目撃したことで、みっちゃんの元には、その界隈の規模を考えればそれなりにといった数の、しかしどれもが「実態を監視してやる」という不穏な意図に満ちたスカウト指名が届くことになった。

 そんな、まだ実戦で一度も技を使っていないのに『概念の恐怖』だけでプロたちを震え上がらせている彼女に、ヒーロー科のカリキュラムは次なる大きな一大イベントを用意していた。

 教室の黒板の前に立つのは、当時の1年A組の担任を務める、威厳に満ちたベテランのプロヒーロー教員であった。

 先生がピシッと指示棒で黒板を叩くと、教室内の生徒たちの間に、これまでにないほど華やかで、かつ緊張感のあるざわめきが広がった。

 

「さあみんな! 今日は待ちに待った『ヒーローネーム』の決定回だ! 先日の体育祭の結果を受けて、お前たちには多くの指名や職場体験のオファーが届いている。これから行くプロの事務所でも名乗ることになる、一生を共にすることになるかもしれない名前だ。気合を入れてホワイトボードに書きなさい!」

 

 先生の重厚な声が響き渡る。

 生徒たちは皆、目を輝かせながら手元のホワイトボードに向かい、自身の個性や理想のヒーロー像を体現する名前を真剣に悩み始めていた。

 だが、教室の片隅に座るみっちゃんだけは、手元に配られたペンを握りしめながら、冷や汗を滝のように流して猛烈に頭を抱えていたのである。

 

(名前……ヒーローネームだって……!? 冗談じゃないわよ、私の本名は『■■』。もしここで本名をもじった名前にしちゃったら、戦場やプロデビューの時に『あいつ、あの業務用100個入り指サックでヴィランのケツ掘るのが個性の■■じゃん』って一発で身元が割れて私のライフが完全に爆死するわ!!)

 

 極限の社会的恐怖。それが、みっちゃんの「生き残るためのビジネスブリっ子(偽装)」の防衛本能を、この教室内でも限界突破で覚醒させた。

 身元を完璧に隠匿し、かつ前々回の実戦訓練で目覚めたあの黒セーラー服用の防衛スイッチ――恥ずかしさで精神が死なないために、脳内で『完全に別人になりきる』というシステムが、この瞬間に過剰駆動を起こしたのである。

 だが、その防衛本能の副作用はあまりにも深刻だった。

 恥ずかしさを強引にシャットアウトしすぎた結果、みっちゃんの脳内では、普通の15歳の女の子なら口にするだけでも顔面が沸騰するような特定の破廉恥ワード――『メスガキ』という言葉に対する羞恥心や一般常識の感覚が、完全に麻痺してしまっていたのだ。

 本人は至って大真面目に、

 

「男のヴィランを正面から効率よく煽り倒し、確実に死角を晒させるための、とびきりクリーンで女の子らしくて可愛いアイドルヒーローとしてのコンセプト」

 

を構築しているつもりだったのである。

 みっちゃんの脳内で、持ち前の圧倒的な器用さと天性のセンスが、恐ろしいほどのキレ味で誤作動した。

 自分の生み出した最強の名前(バグ)に1ミリの迷いも疑いも抱くことなく、サラサラと一瞬の手つきでホワイトボードに文字を書き込むと、彼女はクラスの一番バッターとして、教壇の前へと自信満方に歩み出たのである。

 

「はーい! じゃあ私から発表しちゃいまーす!」

 

 更衣室での虚無を乗り越え、『ガラスの仮面』の憑依システムによって常識のネジが完全に消し飛んだメスガキオーラを全身から発しながら、みっちゃんはドヤ顔でホワイトボードを掲げてみせた。

 そこには、力強い楷書体の漢字とカタカナが並んでいた。

 

『雑・魚・雄・特・効メスガッキー』 

 

「却下だ却下ァァァ!!! 『雄特効』って何だよ! 完全に男のヴィランだけを狙い撃ちにする前提のネーミングじゃねえか!! しかも後ろのカタカナは、世の中のすべてのガッキーに全力で謝れ!!!」

 

 担任の先生が、教卓を激しく叩き割りそうな勢いで立ち上がり、ホワイトボードを指差して大激怒のツッコミを叩き込んだ。

 のちに、彼女の息子である爆豪勝己が、雄英高校の教室の黒板の前で自信満方に

 

『大・爆・殺・神ダイナマイト』

 

という、これと同じ文脈の最悪に物々しいネーミングを掲げて即却下されることになるのだが――。

 やれば何でも一瞬で完璧にこなしてしまう天才児の、あの壊滅的なネーミングセンスのルーツが、間違いなくみっちゃんからの遺伝そのものであることを、この時の誰も知る由はなかった。

 

「なによ先生! 『雑魚雄特効』だよ!? 男のヴィランを正面から煽り散らかして死角を奪うんだから、コンセプト的にも完璧でしょ! メスガキの要素も入ってて、女の子らしくて可愛いじゃん!」

 

「ヒーローの名前の頭に『雄特効』なんていやらしい言葉をセットにするんじゃない! 後ろのカタカナも教育に悪すぎるだろ! 意地を張らずに書き直しだ!」

 

 先生にクソミソに論破され、みっちゃんは一般常識が麻痺した脳で不満げに頬を膨らませながら、黒板消しでホワイトボードをごしごしと乱暴に消すのだった。

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