雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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名前をキメてみようの会

 最初の自信作であった

 

『雑魚・雄・特・効メスガッキー』

を担任の先生にクソミソに論破され、みっちゃんは不満げに頬を膨らませながら、黒板消しでホワイトボードをごしごしと乱暴に消した。

 

(ちぇー、せっかくの自信作だったのに。男のヴィランの死角を突くっていうコンセプトをこれ以上ないくらい正確に表現した、女の子らしくて可愛い名前だったのにさ。大人の頭って固くて本当に嫌になっちゃうわ)

 

 完全に常識のネジが麻痺した脳内で、みっちゃんは不貞腐れながら次のネーミングを模索し始めた。

 本名の『光己』を完璧に隠匿しつつ、男のヴィランを100%油断させるための、とびきりあざとくて可愛いアイドル風の偽名。 戦術コンセプトである『メスガキ』という言葉の響きを、海外の人名っぽく可愛くデコレーションしようと脳内で連連ゲームを始めた彼女だったが、その思考は途中で奇妙な言葉へと行き着いた。 

 

『メッキー』 

 

(……いや、可愛くないし。なんか絶妙にパチモンっぽいし、センスが死んでるわ。却下却下!)

 

 自分の生み出したパチモンくささに猛烈なセルフツッコミを入れ、みっちゃんは盛大に頭を振った。

 だが、そのパチモン臭さを徹底的に嫌悪した結果、彼女の天才的(バグり中)な頭脳は、恐ろしいほどのキレ味でとんでもない暴挙へと辿り着いてしまったのだ。

 

(どうせ身元がバレなきゃいいんだから、中途半端な偽物にするくらいなら、いっそ本物を丸パクリしちゃえばいいじゃない!!)

 

 清々しいまでの開き直り。自分の構築した最強のパクリ(ロンダリング)に1ミリの迷いも疑いも抱くことなく、サラサラと一瞬の手つきでホワイトボードに文字を書き込むと、彼女はパッと元気よく掲げ直した。

 そこには、ハートマークに囲まれた可愛らしいピンク色の文字が踊っていた。 

 

『ミッキー❤』 

 

「お、おう……。さっきの物々しい雄特効だのメスガキだのという不審な名前に比べれば、響きはアイドルっぽくて格段に可愛いが……」

 

 先生もクラスメイトたちも、そのあまりにも可愛らしく、かつどこかで聞き覚えがありすぎるその4文字の響きに、脳の処理が一瞬だけフリーズした。だが、みっちゃんは周囲の困惑をあざとさへの絶賛だと盛大に大誤解し、さらにサービス精神を爆発させて、顔の横で両手を丸く形作り、裏声で高らかにあの声を響かせてしまった。

 

「え〜? こんな女の子一人捕まえられないなんて、ヴィランさんってば、ざ〜こ❤よわよわだね〜❤……ハハッ★」

 

「「「「「「ダメだアアアアアアアアアアア!!!!! 絶対にダメだソレはアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」」」 

 

 その瞬間、担任の先生と、クラスの全生徒たちが、教卓をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がり、血相を変えて一斉に命がけの総ツッコミを叩き込んだ。

 

「おい■■!!! 今すぐその両手を下ろしてホワイトボードを裏返せぇぇぇ!!!」

 

「アウトだよ! 完全にあの夢の国の黒いネズミを狙い撃ちにしてるじゃん!! あそこの法務部がどれだけ容赦ないか知っててやってるの!?」

 

「マジでヤバいって! あそこの権利センサーはヴィランの索敵個性より凶悪んだから! 雄英高校が巨額の賠償金で法的に消し去られたらどうすんのさ!!」

 

 世界最強の法務部。どんな凶悪なヴィランよりも恐ろしい、合法的に国家規模の組織すら更地にするリーガル・モンスターの影。

 その文字通り「触れてはいけないタブー」の領域にノーモーションで突っ込んだみっちゃんだが、彼女はホワイトボードを抱え込んだまま、涙目で激しく言い張った。

 

「違うの!!! これはあっちのネズミじゃなくて!!! 私のなかで『メスガキとしてヴィランを退治する』って感じのミッキーなの!!!」

 

「そんな最悪な感じのミッキーがあるかァァァ!!! 夢の国の法務部はお前の最低な内面の設定なんて1ミリも考慮してくれないから今すぐ消せ!!!」

 

 教室内は、実戦訓練など比較にならないほどの、未曾有の法的危機(リーガル・ハザード)のパニックと絶叫に包まれた。

 

「いいか■■、よく聞きなさい!」

 

 担任の先生が、まるで爆弾の信管を抜くような極限の緊張感を漂わせながら、声を震わせて説得を開始した。

 

「『ミッキー』という名前自体は、単なる愛称、あるいは海外の一般的な人名として、国際法の網の目をギリギリですりぬけることができる。だが、その頭の上に丸を二つ作るポーズと、裏声での『ハハッ★』という固有の音声ログがセットでメディアに流出した瞬間、それは単なる偶然ではなく意図的な商標権および著作権の侵害とみなされるんだ!」

 

「大人の世界の事情が細かすぎるわよーーー!!!」

 

 みっちゃんは理不尽な法律の壁の前に、教壇の上で激しく地団駄を踏んだ。

 

「わかったわよ! じゃあポーズはなし! 笑い方も普段の笑い方にする! それで申請通してよね!」

 

 こうして、雄英高校の歴史がひっくり返るような未曾有のリーガル・テロは、大人の必死な隠蔽とツッコミによって、文字データとしてのみ

 

『ミッキー』

 

と登録することで、ひとまずは未然に防がれたのである。

 しかし、この時みっちゃんが強行突破した『ミッキー』という4文字が――。

 のちに彼女が成人し、プロとして戦場に立ち、安定した立ち回りを披露することになった際。

 かつての彼女の姿を知るアングラ系の悪党や、一部の熱狂的なファンたちの脳裏を、言語を絶するほどの戦慄と、時空の歪みに伴う特大のバグで焼き尽くすことになる。

 時を経てなお、全人類の性癖と尊厳を文字通り根底から破壊し尽くすことになる『伝説の始まりの4文字』。 

 それが, このあまりにもくだらない大人の事情の押し問答の末に誕生した名前だとは、この時の教室の誰も、それこそ担任の先生すら予測すらしていなかった。

 名前の響きだけは無事に守り抜いた(書類は通った)みっちゃんは、手元のノートに描かれたフリフリの魔法少女衣装の残骸を眺めながら、次なる実戦に向けて、メスガキとしての精神攻撃のセリフをブツブツと虚しく練り直すのだった。

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