雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
雄英体育祭を学校指定のジャージ姿による「生身のアサシン足運び」だけでベスト16まで駆け上がり、ヒーローネーム決定回において世界最強の権利保護集団を巻き込むリーガル・ハザードの末に『ミッキー』という名を文字データとしてのみ承認させた■■ 光己(みつき)。
そんな彼女がいよいよ迎えた6月中旬、ヒーロー科の一大カリキュラムである1週間の「職場体験(インターン)」の初日、みっちゃんはかつてないほどの緊張感と僅かな理不尽さを胸に、指定された事務所のドアを叩いていた。
そこは、王道のトップヒーローたちが構えるような、駅前のきらびやかな高層ビルなどでは断じてなかった。
歓楽街の路地裏、お世辞にも綺麗とは言えない雑居ビルの地下にひっそりと佇む、硝煙と搦め手の匂いが漂う薄暗い空間。
体育祭での彼女の一瞬の足運びに目をつけ、共有サーバーに登録されたあの最低な高圧ローション噴射籠手の図面を見て「実態を監視してやる」とアングラ系の規模を考えればそれなりにといった数の、しかしどれもが不穏なオファーを送ってきたプロヒーローの事務所であった。
「……失礼しまーす。雄英高校ヒーロー科1年の、■■ 光己です……」
「ああ、君が例の『ミッキー』か。……よく来たね」
薄暗い事務所の奥から出迎えたアングラ系のプロヒーローは、目の前に立つ15歳のみっちゃんの、まだ発育もお世辞にもよろしくない華奢で大人しい少女姿を見て、心底から困惑したように細い目をさらに細めた。
テレビ画面越しに観たあの生身の『暗殺歩法(ステルス・ステップ)』のキレは確かに本物であり、アングラ界隈の達人として鳥肌が立つほどの才能だった。
だが、そんな女子高生が、本当にあの共有サーバーを震撼させた非人道的な制圧兵器を動かすというのか。
プロヒーローは半信半疑のまま、彼女が持参したスーツケースから取り出した戦闘服(コスチューム)とサポートアイテムの現物を見て、その考えを即座に改めることとなった。
見た目こそ地味な黒を基調とした、どこにでもある一般人偽装用のセーラー服。
しかし、一度このコスチュームを身に纏い、恥ずかしさで精神が死なないための防衛スイッチを起動させた瞬間、少女の呼称は、ナレーションを含めたすべてにおいて
【ミッキー❤】
へと強制的に固定(システムロック)されることとなる。
ミッキー❤の両腕にガチリと構えられたのは、肘から手首にかけて物々しいドラム型タンクが鈍く光る黒い籠手『ディープ・グライド・カスタム』。
精度を極めたメカニカルな機構が鈍い光を放っている。
そして極めつけは、彼女がバッグから厳重に取り出した、オカモト工業から支給されたばかりの『業務用・特級薄膜仕様』の四角いゴム製品のパッケージであった。
「……おい、ミッキー。それ、マジで実戦で使うつもりなのかい?」
「が、学校から『身内への対人使用は完全禁止』ってガッチリと縛られてたので、今まで一度も使えなかったんです!私も同級生とかに使うのはちょっと…でも、大人のプロなら、実態くらいちゃんと見てくださいよ!」
ミッキー❤が涙目で不満げに訴える。
だが、プロヒーローとしての長年の経験が、彼女の両腕の駆動ピストンと極薄ゴムの組み合わせを見た瞬間、背筋に強烈な冷や汗を流させていた。
(待て……。あの生身で人の死角に音もなく滑り込むクソガキが、セーラー服で一般人の迷子を装い、この高圧ローション注入器を引っ提げて裏路地を徘徊するのか……? これ、マジで近寄ったら俺が衛生的にも尊厳的にも終わるやつだ……!)
アングラ系の達人ヒーローは、本能的な股間の防衛本能に従い、引き気味におそるおそるミッキー❤から2メートルほどの物理的距離(ディスタンス)を取るのだった。
「と、とにかく、実態を見せてもらう。まずはこのアングラ街の裏路地のパトロールだ。ついてきなさい」
「はーい……」
ミッキー❤はゴツい籠手だけがミスマッチした黒いロングスカートのセーラー服姿でパトロールへと出動した。
そして、パトロールを開始してわずか十数分後。
薄暗い路地裏の十字路において、運命の歯車は最悪の形で噛み合うことになる。
「おい、身ぐるみ置いていきな、お嬢ちゃん……!」
ゴミ箱の影からひょっこりと現れたのは、アングラ系のプロでも処理がそれなりに面倒な、裏社会に潜むガチの「男のヴィラン(悪党)」であった。
プロヒーローが瞬時に戦闘態勢に入ろうとした、まさにそのコンマ数秒前。
ミッキー❤の脳内で、あの恥ずかしさのメーターを強引に遮断すると同時に、『メスガキ』という言葉に対する羞恥心の一般常識まで完全に麻痺したドSなメスガキの人格が完全にオーバードライブを起こして駆動した。
ミッキー❤は黒いロングスカートを翻し、腰に手を当てて、男のヴィランを最悪に小馬鹿にしたような、ナメ腐った笑みを正面から浮かべてみせた。
「え〜?こんな薄暗い路地裏で、女の子一人脅すことしかできないの?おじさんってば、ざ〜こ❤よわよわだね〜❤」
常識のネジが麻痺した脳から放たれる、か細くも致命的な精神ハッキング。
15歳の華奢なクソガキに正面からナメ腐った態度を取られた男のヴィランは、前代未聞の屈辱に顔の血管をブチ切れさせた。
「このクソガキがァァァ!!! ぶち殺してやる!!!」
悪党は頭に血をのぼらせ、大振りの、あまりにも隙だらけな致命傷の一撃を正面へと放つ。
だが、それこそがミッキー❤のエゴに満ちたハメ殺し戦術の罠であった。
ミッキー❤は体育祭の生身のジャージ姿でも魅せた、あの一切の予備動作のない天才的な『暗殺歩法』を瞬時に起動。
大振りの攻撃によって生じた『知覚の隙』をミリ単位の体術で察知し、音もなく、残像すら残さずに、ヴィランの真後ろの完全な死角へと滑り込んだ。
ヘニョッ、ヌルッ……。
その真後ろに回り込んだコンマ数秒の暗闇の中で、彼女の指先には、オカモト工業の業務用極薄ゴムサックが最初から機構によって自動で装填されており、籠手の高圧ピストンがガチリと冷たい金属音を鳴らして固定された。
これまで一度も本物の敵に使われることのなかった、あの最悪の特級尊厳破壊技。
それが、裏社会のガチの悪党を最初の生贄として、ついに歴史的な初発動を迎える瞬間が、ついに訪れようとしていた。