雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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決着

 「ディープ・グライド……」

 

 メスガキの人格を憑依させ、常識のネジが麻痺したミッキー❤であったが、彼女が何かを引き絞るような予備動作を行うことは一切なかった。

 両腕に物々しいタンクをガチリと構えた彼女の指先――オカモト工業の極薄ゴムサックに包まれた籠手の先端が、ヴィランの無防備な最深部へとピタッと触れた、まさにその瞬間。

 サポート科の変態的な技術力が詰め込まれた高感度センサーが標的を完全ロックオンし、素のみっちゃんの迷いなど置き去りにするように、一切の容泄なく機構が自動で作動(オート・ファイア)した。

 

 ――バシュウウウウウウウウウウウッ!!!

 

 静かな路地裏に、およそヒーローの戦闘中とは思えない、液体が肉体の最深部へと超高圧でぶち込まれる最悪の破裂音が轟いた。

 

「アッ―――――――――――――――!!!!?????」

 

 ヴィランの口から、この世のすべての苦痛と、人類が絶対に発してはならない破廉恥な絶決が裏返った悲鳴となって飛び出した。

 直腸へとダイレクトに注入された、逃げ場のない大量の超高濃度グリセリン。

 その肉体的、そして精神的な衝撃は、裏社会を這いずり回ってきた百戦錬磨の悪党の脳を一瞬で更地にするのに十分すぎた。

 悪党は白目を剥き、その場に崩れ落ちるようにして膝を突いた。

 

「あ、が……あ、あァ……ッ!!」

 肉体の防衛決壊メーターが限界を突破し、最深部から溢れ出ようとする液体とお漏らしの恐怖。

 彼はガタガタと全身を小刻みに震わせ、本能的に自身の臀部を両手で必死に押さえつけながら、涙と鼻水をボロボロと流してその場にうずくまることしかできなかった。

 それは、悪党としてのプライド、人としての尊厳、解き放たれた純然たる精神的死亡の瞬間であった。

 警察の到着を待つ間、敵にとっては永遠とも思えるほどの時間ののち、ついに彼の肛門は完全に決壊した。

 耐え難い肉体の限界を迎えたはずのその瞬間、裏社会の悪党の脳裏を過ったのは、不思議なほどの全能感であったという。

 守るべきすべての羞恥心を失い、すべてから解き放たれ、衣服の隙間から汚物を滴らせながら、男は魂が肉体の檻から「解放」されたかのような、驚くほど静かで穏やかな、まるで悟りを開いた仏のような表情を浮かべた。

 彼はそのまま、通報を受けて現場に到着した警察官たちへと大人しく連行されていった。

 だが、生まれたての子鹿のように震えながら解脱したような笑みを浮かべる大人の男を引き渡された警察側からは、

 

「……おい雄英、いくらヴィラン相手とはいえこれは人道的にどうなんだ」

 

と、なんとも言えない、引くような、嫌な顔をプロとミッキー❤に向けてされるのだった。

 

「あっ!そうだ、一応初使用だし確認しとかなきゃ!」

 

 ミッキー❤が籠手の排気レバーを親指で跳ね上げると、プシューッという高圧の排気音と共に、汚れた極薄ゴム製品が前方へと勢いよく自動射出(オートパージ)された。

 それと同時に、ドラムタンクから次弾のパッケージが吸い込まれ、ヘニョッ、カチリ、と静かに次なるゴムサックが指先に自動装填(オートリロード)される。

 業務用パッケージのゴミを丁寧に回収しながら、ミッキー❤はメスガキのあざとい笑顔を浮かべた。

 

「えへへ❤ オートリロード大成功だゾ★」

 

 ――その一連のコンマ数秒の光景を、背後で完璧に目撃していたアングラ系のプロヒーローの衝撃は、言語を絶するものであった。

 真相を一切知らないまま、共有サーバーの図面データ(概念)だけで「危険な兵器だ」と警戒してはいた。 

 だが、実際に本物のヴィランが、あの華奢なセーラー服の少女の手によって、一瞬で人間としてのすべての尊厳を抉り取られて廃人にされる凄惨な現場(医療テロ)を目の当たりにして、プロとしての理性が完全に大破してしまったのだ。

 

(おいおいおいおい嘘だろ……!!! あんなのヒーローの制圧技じゃねえ……!!! ただの最悪なハメ殺しの医療テロじゃねえかァァァ!!!)

 

(今日の相手の攻撃の隙や動きの癖を冷徹にハッキングし、一寸の狂いもなく最適解の死角へ回り込んだあの戦闘読解……!!! しかも今の、触れた瞬間に一切の猶予なく牙を剥く自動感知システムと、アサルトライフルさながらの無駄のないオートパージは何なんだよ……!!! 全部この、相手のケツを掘るためだけに全力投入してやがる……!!! どんな狂気的な才能と装備の無駄遣いだ!!!) 

 

 アングラ系ヒーローは、恐怖のあまりガタガタと全身の骨が鳴るほどに震え、顔面を土気色に染めながら、本能的に自身の臀部を強く押さえて2メートル後方へと敗走した。

 まだ15歳の、うぶなはずのヒーローの卵。

 しかし、今の彼の目には、その黒いロングスカートのセーラー服姿が、裏社会のどんな巨悪ヴィランよりも恐ろしい『災厄のプリンセス』にしか見えなかった。

 

「ミ、ミッキー……。君、その技、本当にこれまで一度も使ったことがなかったのかい……?」

 

「はい! 初めての実戦でしたけど、なんか私器用らしくてそのせいで最初から異様に手慣れて動かせちゃいました! なんなんですかね…この悲しい才能……」

 

 ミッキー❤は素の人格に戻って、自分の血筋(才能マン母)に涙を流しながらブツブツと虚しく呟いた。

 だが、その完璧すぎる手際の良さを聞いたプロヒーローは、

 

(嘘をつけぇぇぇ!!! 初めての奴がそんなプロフェッショナルな動きで相手の挙動を読み切り、戦闘機の火器管制システムみたいな滑らかさでオートリロードできるわけがあるかァァァ!!! 普段からどれだけ経験積んでるんだこのクソガキはァァァ!!!)

 

 と、さらなる最悪な大誤解を深め、二度とミッキー❤に背中を晒さないことを誓うのだった。

 のちに、この「相手のわずかな予備動作や視線の揺らぎから攻撃の軌道を完全に見切り、敵の『知覚の隙』を突いて完璧なカウンターを合わせる」という、ミッキー❤の卓越した洞察力と戦闘直感は、息子である爆豪勝己へと引き継がれ、彼が対デク戦をはじめとする数々の死線において、相手の動きや癖を読み切って迎撃を行うあの天才的な『相手の動きを読む力』へと昇華されることになる。

 だが、その最高に格好いい戦闘読解力のルーツが、まさか「母親が職場体験の裏路地で、ヴィランを精神的にも肉体的にも崩壊させるため、その死角を確実に仕留めるために磨き上げた執念の結実」だとは、現代の誰も知る由はない。

 自分の知らないところで本物のヴィラン、そしてインターン先のプロまで恐怖に陥れてしてしまった初日の大事件。

 そのあまりにも非人道的な尊厳破壊の噂は、不確かな状態ではあるものの、またたく間に近隣の裏社会へと広がりを見せることとなった。

 恐怖に慄いた裏路地の悪党どもが挙って巣窟へと引きこもった結果、彼女の残りのインターン期間中は、拍子抜けするほどに至極平和な時間が流れるのだった。

 尚、ミッキー❤の初めてのお相手となったあのヴィランは、刑務所へ入った後、後から投獄されてきた悪党たちの間で噂が広がり、あまりにも不名誉な格付けのあだ名をつけられることとなった。

 それがよほど精神に堪えたのか、彼は出所後、二度と裏社会へ戻ることはなく清らかなカタギとして生き直したという――。

 これが、のちに裏の社会を震え上がらせ、全人類の性癖を根底から尊厳破壊し尽くすことになる、災厄のプリンセス『ミッキー』の、伝説の始まりであった。

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