雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
「誰だァァァお前ぇェェェ!!!」
それは、九月の新学期初日、雄英高校ヒーロー科一年生の教室に響き渡った、クラス全員による魂の絶叫であった。
事の起こりは、ほんの数分前に遡る。
家族や近所からは「夏休みに入った途端にストッパーが外れて、週五でビュッフェを食べ歩き、深夜のコンビニでアイスやコーラをドカ買いしているハッピーなデブ活女子高生」にしか見えなかった、あの長い休みがようやく明けた。だが、その実態はすべて、『ディープ・グライド』の潤沢なタンク容量を満たし、継戦能力を向上させるための、血の滲むような細胞レベルの脂質貯蔵であったのだ。
いつものように賑やかな声が響く教室の扉が、ガラリと音を立てて開いた瞬間――室内のすべての雑音が、まるで音量をゼロに絞られたかのように完全に消滅した。
「……おはよ」
扉の前に立っていたのは、合宿の最終日までに
「なんか最近ちょっとふっくらしたっていうか、発育が良くなってない?」
と言われていた、あの小柄でささやかだった『みっちゃん』ではなかった。
きゅっと引き締まった芸術的な細い腰回り。それとはあまりにも対照的に、雄英高校の制服のブレザーを前方へと激しく押し広げ、ボタンがいつ引きちぎれて弾け飛んでもおかしくないほどの豊満なバスト。さらに、タイトな制服のスカートの生地をパツパツに張り裂けさせそうなほど、圧倒的な肉感を主張するムチムチのヒップライン。
夏休み中の大真面目な継続によって皮下脂肪の配置がミリ単位で最適化されたその姿は、原作読者にはあまりにもお馴染みの、あの『爆豪光己』の完璧なプロポーションそのものであった。
「……え?」
合宿中、唐揚げを山盛りの白米とともに詰め込む彼女をオロオロと本気で心配し、「ストレスか何か!?」と背中をさすってくれていた普通の女子口調の友人が、手に持っていた教科書を床にポロリと落とした。正気に戻った友人の瞳が、目の前の残酷な現実を前にして激しく激震する。
「ちょっと待って……! 最後に会ったときは、っていうか一学期はまだ『少し発育が良くなってきたかな?』くらいだったのに……一学期と比べて完全に別人じゃん!! バスの中で『みっちゃんはある意味肉食系女子だもんねー』って冗談で言ったけど、そっちの意味の肉食系美女ボディになって戻ってくるなんて聞いてないよぉぉぉ!!」
「いや、ノートの数式通りに代謝をオーバーフローさせ続けただけだけど」
「だからその計算の答えがその暴力的なグラマラスボディなのおかしいでしょ!! 私の純粋な心配を返しなさいよ!!」
普通の女子が裏切られた絶望で悲鳴を上げる中、今度はギャル子が光己の席へと猛ダッシュで詰め寄り、その机を両手でバンと叩いてブチ切れた。
「ちょっと光己!!! 夏休みに何があったのよ!? 骨格から大激変してるじゃない! 週五でバイキング行ってたのは知ってたけど、油物が全部そこに吸着したの!? 誰だよお前ぇぇぇ!!!」
「ただのグリセリンだよ、ギャル子。新代謝の移行が完全に完了して、個性の最大ストック量が増えただけ」
「増えたツケが全部その出るとこ出たムチムチボディに回ってるのよ!! 雄英の制服が完全に悲鳴をあげて目の毒すぎるわ!!」
教室内が「誰だお前!」の大パニックに包まれる中、バンバンと床を叩きながら、涙目でわめき散らしている女子生徒がもう一人いた。合宿最終日に「色々と控えめだったみっちゃんを返して」と泣いていた、あの心の拠り所を失った女子である。
彼女は自分のささやかな胸元と、光己の圧倒的なプロポーションを交互に見比べ、血の涙を流しながら叫んだ。
「嫌だぁぁぁ!!! 合宿の時はまだ『何がとは言わないけど控えめ』って濁せるレベルの裏切りだったのに、夏休み明けたら完全に次元の違う大裏切りじゃん!!! そんな二学期デビューなんてありえないじゃん!!!そんな体型の同級生なんか存在していいわけないじゃん!!!もう濁せるレベルを超えて純然たる暴力的格差だよぉぉぉ!!! あのみっちゃんを返してってばぁぁぁ!!!」(別の時代には八百万、芦戸、麗日、蛙吹、葉隠が存在するという…)
「うわ、だから揺らさないでよ。……ていうか、だから控えめって何が?」
大真面目に首を傾げる光己の無自覚なナイフが、泣き喚く女子生徒の心をさらに深く抉っていく。
そんな喧騒の中、教室内の一角で、一人だけ完全に「別の地獄」に突き落とされ、白目を剥いてガタガタと震えている男子生徒がいた。
彼の名は、クラスメイトの誰もが光己の裏の顔(医療テロ)を知らない中、唯一、彼女が雄英高校サポート科とサガミ工業の技術の結晶である籠手『ディープ・グライド』にゴム製品(超薄型フィンガーサック、パッケージ及び形状はコンドームにしか見えない)を「リロード」している異常な光景をうっかり目撃してしまっていた男である。
(……嘘だろ。おい、ウソだろおい……!)
男子生徒は、机を掴む両手を恐怖と歪んだ興奮でガタガタと震わせ、脳内で狂ったように絶叫していた。
夏休み中、彼はあの不気味すぎる「大真面目な顔でゴムサックを籠手にガチガチにリロードする■■」の光景が頭から離れず、重度の寝不足と性癖のバグにのたうち回っていたのだ。それなのに、新学期になって戻ってきた彼女は、あろうことか全男子の視線を釘付けにするような究極の肉感ボディへと超進化を遂げていた。
(裏であんな手慣れた手つきでゴムを扱って大真面目にしてる女子が、夏休み明けにこんな全男子を狂わせる人妻みたいな体になって戻ってくるなんて、どんな顔すればいいんだよ!!! 俺の脳と性癖をこれ以上どうするつもりだ!!! 同級生の女子が、この身体は反則だろぉぉぉ!!!)
かつて目撃した、真面目な女子が手慣れた手つきでゴム製品をあつかっていた記憶とその女子がパツパツの制服で人妻みたいな体型で夏休み明けに登校してきたという最悪のギャップの連撃。
男子生徒の脳のキャパシティは完全にオーバーフローし、彼は誰にも言えない秘密によって、光己による二度目の性癖完全崩壊を迎えて泡を吹きかけていた。
当の光己は、教室内を包むパニックや男子生徒の異変などどこ吹く風で、パツパツになったブレザーの袖を引っ張りながら、戦闘理論ノートの新たなページをめくっていた。
これで、常人並みのスペックしか持たない自分が生き残るための、第二段階はクリアだ。光己の瞳には、未来の爆豪勝己が戦闘中に見せるあの冷徹なまでの「ガチの戦闘脳」が、確かにギラリと宿っていた。