雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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編め必殺技

 「いずれは知られることだが、まだアイツらに知らせることもないだろう。お前だって心の準備が必要だろうしな」

 

 担任教師は、そう言って哀愁を帯びた目で光己を見つめていた。一見すれば、特殊すぎる個性を抱える生徒への、教師なりの不器用な恩情のようにも聞こえる。

 だが、その本質は違った。これは雄英高校教師陣が深夜の緊急職員会議で頭を抱えながら決定した最悪の事態への防衛策である。まだ精神的に未熟な15歳の少女が、自身の個性のエグさをクラスメイトに知られて孤立し、万が一にでも敵(ヴィラン)へ堕ちてしまったらどうなるか。その瞬間、日本全国の『後ろの尊厳』が手当たり次第に、無差別かつ超高圧で破壊し尽くされるかもしれないのだ。文字通りの隔離措置であった。

 ことの始まりは、ヒーロー科1年A組の全員に言い渡された『必殺技開発』の授業だった。

 本来であれば、生徒たちは体育館のような広大な演習場に集まり、互いに切磋琢磨しながら自らの個性を研ぎ澄ますはずだった。授業の冒頭、教壇に立った担任教師は、生徒たちに向けてヒーロー活動における必殺技の重要性を厳かに説いた。

 

 「必殺技……すなわち、自らの個性を戦闘に最適化させ、確実に勝利を掴むための切り札だ。ヒーローの個性は多種多様であり、その活かし方も一つではない。だがな、必殺技とは単に破壊力を競うものではないんだ。それは、自分の個性が持つ特性を限界まで理解し、それを最も効率よく社会を守るために昇華させた結果でなければならない。その意味において、必殺技とはヒーローの『覚悟』そのものだ」

 

 熱い言葉に、ヒーロー科の生徒たちは目を輝かせ、己の技を磨くために各々の訓練スペースへと散っていった。

 ――しかし、光己だけは違った。

 

 「■■。お前は私について来い」

 

 担任のその一言によって、光己だけがクラスメイトたちの喧騒から完全に隔離され、トレーニングの台所ランド(TDL)の最も奥深くへと連行されたのだった。

 

 「お前は現状でも一対一なら、プロヒーローすら恐れる必殺技を持っているからな。まあ、心配はしてないんだがな……」

 

 「別にー、ワンパンで沈められる一芸があるんだから、必殺技開発とかぶっちゃけ消化試合っしょ☆」

 

 隔離されたTDLの片隅で、光己はヘソ出しミニスカギャル仕様戦闘服着用時の『永遠の17歳』のギャルペルソナを起動させ、軽薄に笑った。

 真面目な光己はギャルの口調や所作の習得にも余念がない。クラスメイトのギャル子をはじめ、TV、各種動画やフィクションでも研究を怠らなかった。勿論、個性発動に必要なカロリーを摂取しつつである。端から見たら「なんか動画流しながらマンガ読んで、ポテチをコーラで流し込んでいる」ようにしか見えなかったが。

 

 「甘いわね! 一芸だけじゃヒーローは務まらないわ。現場では必ず、対多数の場面が出てくるのよ!」

 

 突如、演習場の物隠れから現れた補佐の女性ヒーローが、厳しい声で光己の余裕を叩き割った。

 

 「対多数、ねえ……。マジ受けるんですけど、ウチの指サック、一箱に100個も入ってるの知らない感じ?」

 

 「個数の問題じゃないわ! 同時に複数の敵に囲まれた時、あなたのその『無音の歩法』だけで全員の背後を同時に取れると言い切れるの!?」

 

 「あー、確かに。一人ずつケツ突っついてる間に、横から殴られたらウチのペラペラなフィジカルじゃ即死だし。超ダルいじゃん」

 

 光己は腰に手を当てて小さく息を吐くと、特級薄膜仕様の指サック(※見た目はコンドーム)が入った紙箱を、黒セーラーの超ミニスカートのポケットから取り出した。

 

 「じゃあさ、ウチが後ろに回り込むのを、もっとウルトラハイパー速くすれば良くない? ってことで、考えてきた新技あるんだよねー」

 

 光己は不敵に微笑むと、両手を力強く前方に突き出した。

 「見ててよ先生。名付けて――『ディザスターインパクト』(尊厳破壊災害)!」

 

 その瞬間、光己の指先から、文字通り濁流のような量のグリセリンが勢いよく一気に噴射された。超高純度かつ摩擦係数ゼロの保湿成分が、訓練場のコンクリートの床へと瞬く間に広がっていく。

 

 「いっくよー☆」

 

 光己は自身の個性を浴びた地面に足を踏み入れた。本来なら立っていることすら不可能な摩擦ゼロの世界。しかし、彼女は無音・ノーモーションで死角を奪う『暗殺歩法(ステルス・ステップ)』の技術を、極限までこの滑る床へと適応させていた。

 シュッ、と風を切り裂くような異音が響く。光己の身体は、まるで氷の上を滑る超高速の弾丸と化していた。摩擦による減速が一切存在しないため、その移動速度は常人の動体視力を完全に置き去りにする。

 滑るように、精度高く、そして目にも留まらぬ軌道を描きながら、光己は演習場に設置されたダミー人形たちの背後へ瞬時に回り込んでいく。

 

 トスッ! トスッ! トスッ! トスッ!

 

 肉体的な殴り合いは一切ない。ただ、サポートアイテム『ディープ・グライド・カスタム』を装着した指先が、ダミーの『直腸』へと目にも留まらぬ速さで、的確かつ無慈悲に突き刺さると、高圧のグリセリンを強制注入していく。一瞬にして、周囲のダミー人形すべてが、人間であれば精神的崩壊確定となってゆく。

 その光景を見ていた担任教師は、顔面を真っ青に染め上げ、ガタガタと膝を震わせた。

 

 (ディザスター……災害……。文字通りディザスター【災害】すぎるだろ……! なんだあの人道を踏みにじる超高速の大量テロは……! あんなものをもし実戦でヴィランの集団に解き放ってみろ、一帯が泣き叫ぶなんかお腹痛いときに神に祈ってる人の山で埋め尽くされるぞ……!)

 

 女性ヒーローもまた、目の前で行われたあまりにも無慈悲な高速尊厳破壊のデモンストレーションに戦慄し、息を荒くしながら光己に問いかけた。

 

 「……っ、個性の、発動限界は!? それだけの量を一度に撒いて、あなたの身体は持つの!?」

 

 「あはは、マジでそれ聞いちゃう? ウチの燃料タンク(胸と尻に装備)、伊達にドカ食いしてないからさー。まあ、あと1回くらいは余裕でイケるっしょ☆」

 

 光己は額の汗を拭いながら、ギャル口調でケラケラと笑って答えた。

 だが、その言葉とは裏腹に、彼女の肉体には劇的な変化が起きていた。

 大量の個性を一時に放出したことにより、合宿や夏休み中のドカ食いボディビルドで蓄えられていたはずの体内の脂肪が、凄まじい勢いで個性のグリセリンへと変換され、一気に消耗したのだ。つい先ほどまで戦闘服のセーラー服を弾き飛ばさんばかりにパツパツに張っていた豊満な胸や、隠蔽仕様の黒い超ミニスカートを押し広げていたグラマラスなお尻は、余分な脂肪が完全に削ぎ落とされ、耳郎響香ほどのスリムで引き締まったボディラインへと変貌を遂げていた。

 

 「ふぅ……。でも流石に、一気にスッキリしすぎて服の胸まわりがガバガバになっちゃったかも。マジウケる」

 

 生地に余裕ができて浮いてしまったセーラー服の胸元と、すっかり隙間ができた黒い超ミニスカートの布地を軽く整えながら、光己はふんわりと笑う。羞恥心を遮断するためのこの『ギャル仕様セーラー服』を身にまとっている間は、彼女の強固な防衛スイッチが作動し、絶対にこの軽薄なギャル口調が崩れることはない。その内面がどこまでも冷徹に、次のリロードと戦闘効率を計算し尽くしている尊厳の破壊者のそれであったとしても。

 やがて必殺技開発の授業が終了し、隔離されていた台所ランドから光己が戻ると、演習場の出口には、彼女を待っていたクラスメイトの女子たちの姿があった。

 

 「あー! 光己、おかえりー! なんか一人だけ別の場所でやってたから寂しかったじゃん!」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、クラスのムードメーカーであるギャル子だった。

 

 「お疲れ様、みっちゃん。担任の先生に呼び出されて別メニューって、やっぱり何か特別な調整でもしてたの?」

 

 続いて普通女子が、不思議そうに首を傾げながら光己の顔を覗き込む。

 

 「あはは、ちょっとねー。先生がウチの特別な才能に惚れ込んじゃってさ、内密に特訓させてほしいって頼まれちゃって。マジ勘弁してほしいよねー☆」

 

 光己は、指先をひらひらと振って、戦闘服時のギャル口調で嘘を並べ立てた。まさか自分が『敵堕ちしたら世界が終わる医療テロリスト』として最警戒され、隔離されていたなどとは光己本人も知らない。

 その時、二人の後ろから、控えめ女子が心配そうに潤んだ瞳でトコトコと駆け寄ってきた。すでに光己を「ママ」として慕い、懐いている彼女は、スリムに削ぎ落とされた光己のボディラインを見るなり、自分のことのようにオロオロと手を泳がせた。

 

 「あ、あのね……ママ……っ! 体、だいじょーぶ……!? なんだか急に、すっごく細くなっちゃって……。セーラー服もブカブカだし、ママが倒れちゃったら私……!」

 

 「ちょ、ちょっと待って!? あんた相変わらずママって呼んでるのもアレだけど……っていうか本当だ、みっちゃん急に痩せすぎじゃない!? あんなボディラインがすっかり薄くなっちゃって、一体何があったのよ!?」

 

 普通女子が引き攣った顔で大声を上げ、光己の劇的な体型変化に狼狽する。ギャル子も

 

「え、何それウケる! 控えめ女子のママ大好きなところは相変わらずだけど、マジで胸もお尻も一瞬で引き締まりすぎっしょ! 光己、どうやったのー!?」

 

と驚きながらも笑っていた。

 光己は内心で

 

(あー、相変わらず懐かれまくってるわ。まあ素直に心配してくれてるのは可愛いんだけどね)

 

と冷静に状況を処理しながらも、黒セーラー服の呪縛によって完璧なギャルムーブを崩さずに答えた。

 

「ちょっと、みんな大袈裟すぎだってばー。ウチはいつでもみんなの永遠の17歳のお姉さんだからね☆ ……あ、そうだ」

 

 光己はぐーっと鳴りそうなお腹を押さえた。個性を大量放出して脂肪を劇的に消耗した現在の肉体は、急速な栄養補給を本能的に求めていた。ヒーローとしての次なる連続戦闘に耐えうる脂質タンクを、大至急で再構築しなければならない。

 

 「ウチさ、お腹空いたし、今日の授業でマジ消耗しちゃったからさ。放課後さ、みんなでマックいかない? ウチ、ポテトのLサイズとてりやきマックバーガー、あとナゲットもガッツリ食べたい気分なんだよねー☆」

 

 「賛成ー! ウチもマック超行きたかった!」

 

 ギャル子が真っ先に賛同し、普通女子も

 

「もう、しょうがないわね。でも本当にしっかり食べなきゃダメよ」

 

と心配そうに苦笑しながら頷く。

 

 「うんっ! ママが行くなら私も絶対行くー……っ! いっぱい食べて、元の元気なママに戻ってね!」

 

 控えめ女子の、無邪気に自分を慕って気遣ってくれる言葉を微笑ましく受け止めながら、光己は戦闘服に包まれたギャルペルソナのまま、指サックの在庫を確認した。

 

 (新技でカロリー即溶けとかマジ燃費悪すぎ。指サックより先にウチの命が尽きちゃうし、速攻でポテト3個分チャージしなきゃ☆)

 

 空腹の限界をギャルの軽いノリで受け流しながら、光己は次の放課後のフードファイトに向けて、ひとまずクラスメイトと共に更衣室へと向かうのだった。

 

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