雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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彼は何故立ち続けたか

 演習場に隣接する女子更衣室の中は、普段通りの騒がしさと、ある一種の奇妙な緊張感に包まれていた。

 

「ちょっと待って、やっぱりこれ、どう見てもおかしいってば!」

 

 ギャル子が自分のロッカーの前で、制服に着替えながら大声をあげる。その視線の先にいるのは、さきほどまでの爆乳爆尻ボディから一転して、耳郎響香さながらの超スリム体型へと変貌を遂げた光己だった。

 

「あー……。まあ、個性の燃費が極端すぎるというか、一気に放出しちゃったからね。水分が抜けたようなものだから、本当に気にしないで」

 

 コスチュームを脱いだ光己は、ギャルのペルソナを解除し、普通の女子高生らしい口調でぶかぶかになった黒セーラー服の襟元を苦笑いしながらつまむ。

 

「いや、それって自由自在に脂肪の量をコントロールできるってことでしょ!? 世の中のダイエットを頑張る女性を全員敵に回しそうな、とんでもない個性だよね……」(お肌も)

 

「みっちゃん、本当に大丈夫なの……? 急にそんなに痩せちゃうなんて……」

 

 普通女子が心配そうに眉をひそめ、光己の細くなった二の腕を恐る恐る指先でつんつんと突いた。

 

「大丈夫、大丈夫。病気とかじゃないからね。ちょっと今、猛烈にお腹が空いているだけだから」

 

 光己はなだめるように笑う。しかし、その脳内では、冷徹極まりないガチの戦闘脳が冷や汗を流しながら高速回転していた。

 

(あー…個性の『グリセリン』を広範囲に一気放出したせいで、体内の備蓄燃料が完全にカラッポだわ。今すぐドカ食いしてリロードしないと、次の実技訓練で動けなくなる……!)

 

 そんな光己の前に、控えめ女子が両手をわなわなと震わせながら詰め寄ってきた。

 

「みっちゃん?あれ?私のママは?……マ、ママ……っ!? ママァ――!! ウーウーウー――!!」

 

 グラマラス体型から以前のスリム体型へと突如戻った光己の姿を前に、控えめ女子の脳内は完全に大混乱に陥っていた。潤んだ瞳を泳がせ、悲痛な叫びを上げながら激しく困惑している。

 

「あの子、完全にまたヤバくなってるよぉ!」

 

普通女子が、突然絶叫し始めた控えめ女子の姿に、恐怖で頭を抱えて取り乱した。

 

「ほら光己、こいつの脳みそが完全にバグり始めてるからさ! このままここにいたら本格的に壊れちゃうし、さっさとマック行ってバーガー食べようよ!」

 

ギャル子が話を切り替えると、光己は待ってましたとばかりに目を輝かせた。

 

「うん、行こう。私も超マック行きたかったんだよね。今日はとにかく大量に食べないと、本当に倒れちゃうから」

 

------------------------------

 

 放課後のファーストフード店は、近領の高校生たちでごった返していた。

その喧騒の中でも、窓際の四人掛けテーブル席は一際異彩を放つ空間と化していた。

 

「お待たせ。私の注文した分、やっと全部できたよ」

 

両手に抱えきれないほどのトレイを乗せて、光己が席に戻ってきた。

 

「ちょっと……それ、一人分じゃないよね……?」

 

 普通女子が、テーブルの上に次々と並べられていく茶色い物体の山を見て、戦慄のあまり声を震わせる。

 トレイの上に鎮座していたのは、山積みにされたフレンチフライポテトのLサイズが4個、超重量級の厚切りビーフバーガーが3個、さらにチキンナゲットの15ピースパックが2箱。そして仕上げと言わんばかりに、Lサイズの炭酸ドリンクが2本、ストローを突き立てられた状態でそびえ立っていた。

 

「うん、今日はちょっとだけ、ね。じゃあ、いただきまーす」

 

 光己は背筋をぴっと伸ばし、どこかお嬢様を思わせるような美しい所作で、バーガーを両手で優雅に持ち上げた。

 しかし、その口元へと運ばれるスピードは、常人の常識を遥かに逸脱していた。

 

「んむっ、んぐ……。ふぅ、ここのって無性に食べたくなるときあるよね。ポテトって縦長の紙容器に入っているからカロリーが上に逃げていっちゃうし、高熱の油で揚げてるから熱に弱いカロリーは全部溶けてゼロなんだよね。むしろ油でコーティングされてるから、実質ゼロカロリーというか、食べれば食べるほど健康になるレベルだし」

 

 光己は真顔で次々と狂気のゼロカロリー理論を大真面目に展開しながら、信じられないペースでドカ食いを進めていく。一口一口のサイズは非常に小さく、ソースを指先一つにすら付けない完璧に上品な食べ方なのだが、咀嚼を終えた瞬間に次のポテトが音もなく口内へと吸い込まれていく。一切の無駄な予備動作がないため、手元が全く止まることなく、凄まじい速度でトレイの上の食料が消え去っていくのだ。

 

「いや、食い方が綺麗すぎるのに減るスピードおかしいって! っていうか、その都合の良すぎるカロリーゼロ理論なに!? 上に逃げるわけないじゃん、紙箱の底にポテトぎっしり詰まってるからね!?」

 

ギャル子がハンバーガーを上品に齧りながら、鋭いツッコミとともにドン引きした目で光己の手元を見つめる。

 

「ママ……私の分のポテトあげる……! ママのためだからっ……! ママ、それだけで足りる? 足りなかったら私のナゲットも全部食べていいからね……!」

 

 控えめ女子は、自分のポテトを光己のトレイへとそっと差し出しながら、心配そうに潤んだ瞳で見つめている。

 

「んぐ……ぷはっ! ありがとう、嬉しいよ。これはね、体型を維持するための、私なりの特別なロードマップなんだよ。夜の自主訓練で油切れを起こしたら、本当に困っちゃうからね」

 

 光己は普通の女子高生として言い訳を並べ立てるが、その本音はやはり冷徹なガチの戦闘脳そのものだった。

 

(よし、脂質と糖分が急速に体内に染み渡っていくのが分かるわ。これで次回の『ディザスターインパクト』も通常ファイアも、問題なし……。指サックの予備パックもオカモト工業の業務用のやつをもう1箱注文しとかないとね!)

 

「……ねえ、みっちゃん。さっきから『油切れ』とか『自主訓練』とか言ってるけど、それって本当になんの訓練なの……?」

 

 普通女子が、ストローを咥えたまま怪訝そうな表情で尋ねてきた。

 そのとき、隣の席には偶然にも、あの放課後の道場で光己のゴム製品(指サックだがコンドームにしか見えない)の装填を目撃してしまった同級生の男子生徒が座っていた。

 

「えっ!? あ、いやだなあ、ただのボディメイクのお話だよ。ほらほら、みんなもナゲット食べなよ。マスタードソース、美味しいよ」

 

 光己が微笑みながら、艶やかな唇でドリンクのストローを吸い上げる。その信じられないほど扇情的な口元と、かつて目撃した『コンドーム(指サック)を涙ながらに装填していた姿』、そして夏休みを経て完全に爆発的な人妻ドスケベボディへと進化を遂げた肉体が、男子生徒の脳内で最悪かつ致命的な形で結びついてしまった。

 

(よ、夜の自主訓練……! あの凄まじい発育の肉体で、あのゴム製品を連続使用するような恐ろしいヤツを、今夜も一人で行うというのか……!? あの淫靡に動く口元で、一体どれほど過酷な夜の自主訓練をこなすつもりなんだ……ッ!!)

 

「うあ、あ、あああ……っ!」

 

 男子生徒は股間を両手で必死に押さえつけながら、顔を真っ赤にし、本気で怯えながら白目を剥いた。脳内の性癖が跡形もなく完全に破壊され、そのまま椅子から崩れ落ちるようにして泡を吹いて気絶した。

 

「ちょ、何あいつ急に倒れてんだけど!? ヤバすぎじゃん!」

 

ギャル子が悲鳴を上げる中、光己はポテトをさらに美しく口へと放り込む。今日も『いろんな意味でのテロリスト』の存在は、無自覚に一人の男子の性癖を粉砕(通算3度目、単独首位)しながら、完璧に隠蔽されているのだった。

 




ごめんな…見ろや君…
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