雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
「ちょっと待ちなさいよぉぉぉーーーッ!!」
山奥にあるプッシーキャッツ所有の山荘の薄暗いラウンジに、地を揺るがすような絶叫が響き渡った。声を上げたのは、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのピクシーボブである。彼女はノートパソコンの画面を血走った眼で見つめながら、キーボードを激しく叩きつけている。
「どうしたのよピクシーボブ、そんなに血相変えて。またリアルで会うとこまで行かなかった?」
マンダレイが呆れたようにコーヒーをすすりながら声をかけると、ピクシーボブは涙目で振り返った。
「違うわよ! 違うのよマンダレイ! 私、見つけちゃったのよ! 私たちがなぜ未だに独身なのか、その歴史の闇に隠された『おかしな時代』の真実をねぇッ!!」
「何言ってるのよ、私たちはただ仕事が忙しくて婚活のタイミングを逃し続けてるだけでしょ……」
ラグドールものんきに肉球グローブを揺らしながら首を傾げる。しかし、ピクシーボブの執念は本物だった。彼女は画面を二人に向け、データベースの奥底からサルベージした、古い婚姻率の統計ファイルを提示した。
「いい? このグラフを見てちょうだい! 今から二十年以上前……私たちがまだ子供だった、あの数年間だけ、世の中の男たちの需要が異常なほど『年上女性・包容力・お姉さん』に狂っていた、謎の【大・年上ブーム】が存在したのよ!」
「あー……言われてみれば、あの頃って妙に女性ヒーローたちが次々とお見合いに成功して寿退職していった時期があったわね。私たちも『あ、これヒーローになったら将来モテモテじゃん!』って呑気に構えてた気がするわ」
マンダレイが昔を思い出して目を細める。ピクシーボブは
「そうなのよ!」
と机を叩いた。
「なのに、私たちが本当にその年齢に達した頃には、ブームは跡形もなく消え去って、男どもはまた普通の若い子に群がり始めた! なぜだと思う!? 調べ尽くしたわよ、当時のアングラな噂話を!」
「でも、その時代のヒーロー記録って、大人の事情とかで、特定の名前や映像が国レベルで完全に【封印】されてるんじゃなかったっけ? 検索してもエラーしか出ないわよ」
ラグドールの指摘に、ピクシーボブは不敵な笑みを浮かべた。
「そう、公式記録は綺麗さっぱり消されてるわ! 固有の音声ログをメディアに流したら大問題になる事情とか、関わった敵たちの尊厳が崩壊したせいで、徹底的に隠蔽されてる! でもね、当時のアングラファンが残した断片的な書き込みを集約したら、ひとつの名前にたどり着いたのよ……。その名は『ミッキー♥』!」
「な、何よその、世界最強の黒ネズミを丸パクリしたような、国際法の網をギリギリすり抜ける最悪のネーミングは……!?」
マンダレイが戦慄する。ピクシーボブは涙をボロボロと流しながら、机に突っ伏した。
「この封印されたヒーロー、現役時代は個性の若返り効果で『17歳の美少女』として活動してたらしいの! その圧倒的なドスケベ人妻ボディと、作られた『ぶりっ子ギャルな態度』で世の男どもの脳を完全にバグらせて、『年上のお姉さん最高おぉぉ!』っていう狂乱を人工的に巻き起こした張本人なのよ!」
「じゃ、じゃあ、当時のあの空前絶後の年上女性の年の差婚は、このミッキーがバラ撒いた影響だったってこと!?」
「そうなのよ! しかも一番許せないのはね!!」
ピクシーボブは怒りと嫉妬で顔を真っ赤にし、奥歯をギリギリと噛み締めながら叫んだ。
「このミッキー、男どもに『年上最高!』って刷り込みまくって、当時の女性たちを大救済した挙句、自分は若いうちに、しっかり『年上の旦那』を捕まえて結婚して、出産を機にプロを速攻で電撃引退してるのよぉぉぉーーーッ!!」
「ええぇぇぇーーーッ! 自分は年上が好きだったの!?」
「そうよ! 男どもには年上を押し付けておいて、自分は年上の包容力に甘えてさっさと勝ち抜けてるのよ! 悪魔か!? 悪魔の仕業なの!? おかげでブームを引き起こした本人が電撃引退して情報も封印されたから、男たちの勘違いが解けてブームが急速に沈静化! 私たちが本当の適齢期を迎えた頃には、焼け野原しか残ってなかったのよぉぉ!」
「なんてこと……なんてことなのミッキー……!亅
ラグドールも衝撃のあまりガタガタと震え出し、マンダレイは複雑な表情で天を仰いだ。現在、原作のヒーローたちは誰もその全貌を知らない。
しかし、独身を拗らせた現在のプッシーキャッツの面々だけが、その歴史の真実にたどり着き、理不尽な置き土産に対して、悔しがり、泣き出し、怒り狂うのだった。
なお、雄英高校に教師として赴任したミッドナイトも事実を知り、一時期荒れた。
ネタが出るときはスルッと数珠つなぎにでるんですが…少しお時間をいただきます。