雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
色んな意味で濃密すぎた雄英高校での1年目が終わり、春休みを挟んで2年生に進級した爆豪光己は、個別形式試験を経て無事に仮免許を手に入れた。
そしてインターンが始まり、彼女が向かったのは、1年生の職場体験でもお世話になったアングラ系プロヒーローの事務所である。薄暗い雑居ビルの階段を上り、少し建付けの悪いドアを勢いよく押し開けた。
「お久しぶりです! お変わりないようで!」
入室と同時に、光己は元気よくお辞儀をして挨拶を放った。
デスクで書類をめくっていたアングラヒーローは、その声に顔を上げた瞬間、持っていたペンをポロリと床に落とした。完全に死んだ魚のようだった彼の目が、驚愕で限界まで見開かれている。
「お、おう……お前は…随分変わったな……」
「え? そうですか?」
「そうですかじゃねえよ。なんだその……いや、去年の職場体験の時は、もっとこう……全体的にスレンダーというか、普通の女子高生らしい体型だったろ。おいおい、何がどうなったらそんなになるんだよ……」
アングラヒーローは頭を抱えながら、あからさまに動揺した様子で視線を泳がせた。
光己の肉体は、夏休みに個性の出力を維持するために敢行した狂気のドカ食いと、その後の継続的な肉体改造を経て、すでに完成形のドチャエロ人妻ボディへと進化を遂げていた。ブレザーの胸元は弾けんばかりに膨らみ、スカートはパツパツに張っている。すべては潤沢な分泌量を維持するためのものなのだが、事情を知らない大人から見ればあまりにも刺激が強すぎた。
「成長期ですから。」
光己が微笑んでいると、背後のドアが勢いよく開いた。
「おはようございます!」
入ってきたのは、去年の職場体験の時には見かけなかった若い男性のサイドキックだった。彼は部屋に入るなり、デスクの前に立つ光己を見て文字通り硬直した。
「社長っ、誰っすか! あの美人!」
「よく見ろ。雄英の制服だろうが。今日からインターン生を預かると言っておいたはずだ」
社長に呆れたように言われ、サイドキックの青年は
「えっ、雄英ヒーロー科の生徒……!?」
と目を丸くした。アングラ気質なこの事務所に、これほど華のある美少女がやってくるとは予想もしていなかったのだろう。
しかし次の瞬間、彼の視線は、光己の顔から徐々に下へと移動していった。ブレザーをパツパツに張らせている豊かな胸元、そして健康的な肉感を主張している太もも。サイドキックの目は、吸い寄せられるようにその圧倒的な肉体美へと注がれていく。
「……あの、先輩」
「ん、あ、はいっ!?」
光己は物静かに、凄みのある笑顔を浮かべて彼を見つめた。
「女性って、男性のそーゆー視線に、とっても敏感なんですよねぇ……」
「ヒッ……!!」
サイドキックの青年は、光己の笑顔の奥にある威圧感を本能で察知したのか、音を立てて飛び退いた。彼は何故か妙な危機感を覚え、おののきながら心の中で狂ったように葛藤し始める。
(いや、でもお前、あんなの絶対に見ちゃうだろー! なんだあのやべぇプロポーションは! いや……。いやいや待て、落ち着け俺! 相手はまだ雄英の生徒、未成年だぞ! 手を出すなんて男として、プロとして絶対にあり得ない! 俺はプロヒーローだ、強く生きろ……!)
ぶつぶつと小声で念仏のように呟きながら、必死に精神を落ち着けようとしている青年を、光己は冷ややかな敬語の裏で
(この体型になってからこんなのばっかり、男の人ってホント……)
と内心ため息をつきながら呆れ混じりに見守っていた。
そんな二人を見比べて、アングラヒーローは小さく息を吐き、真面目な顔をして言った。
「まあ、雑談はそこまでだ。ミッキー❤、前回はお客さんだったが、今回のお前さんは立場等にも学生以上プロ未満だ。覚えてもらうことは山程あるが、とりあえず、ソイツとパトロールに行ってこい」
「はい、承知いたしました。よろしくお願いいたします、先輩」
光己は丁寧に一礼すると、パトロールのために用意してきたヒーローコスチュームへと着替えた。ギャル子によって超ミニスカ、ヘソ出し、ルーズソックスのギャル仕様へと魔改造された極彩色の衣装を身に纏い、事務所を送り出された。
「ねえキミは、パトロールは以前にも社長としたんだろ? でもね、倒す、救けるだけがヒーローじゃないと僕は思っているんだよね」
アングラ街の薄暗い通りを並んで歩きながら、サイドキックの青年は先輩風を吹かせてミッキーに語りかけた。コスチュームを着用した瞬間から、光己は完全に最凶のぶりっ子ギャルペルソナへと豹変している。
「マジで〜!? 先輩めっちゃ良いこと言うじゃん、ウケる☆ 超ためになるお話あざっす! ミッキー、勉強になっちゃった〜☆ テンサゲな街はぶっちゃけ無理だしね!」
「お、おう、そうか……(なんだこの凄まじいキャラの変わりようは……)」
青年の背筋に冷や汗が流れる中、前方の路地でカランと軽い音が響いた。一人のガラの悪そうな男が、飲み干した空き缶を路肩へとポイ捨てしたのだ。
「これ、そこの君! ポイ捨ては犯罪だよ! ちゃんと拾いなさい!」
サイドキックがすかさず前に出て厳しく注意する。すると、男は不機嫌そうに顔を歪めて振り返り、胸ぐらを掴みかねない勢いで怒鳴り散らした。
「あぁん? なんだお前? ヒーローだからって偉そうに指図してんじゃねえよ、あ?」
「なっ、なんだと……!」
一触即発の空気が流れたその瞬間、光己が二人の間にひらひらと割って入った。
「ダメですよー、お兄さん☆ イケメンがこんなことしたら台なしじゃん! 綺麗な街の方がお兄さんのカッコよさが3割増しで激マブになるっしょ☆ ほら、ミッキーに免じて拾ってくれたら超ハッピーなんだけどな〜☆」
完璧なギャル笑顔とノリの良い口調、および目の前に迫る圧倒的なグラマラスボディ。そのビジュアルを至近距離で叩きつけられた男は、一瞬で顔を真っ赤にしてデレデレとだらしなく表情を緩めた。
「い、いや……俺も悪かったよ! すぐ拾うわ! アンタ見かけないヒーローだけど、新人かい? 応援するから頑張ってくれよな!」
男はそそくさと空き缶を拾い上げ、何度も振り返って手を振りながら去っていった。
横で見ていたサイドキックは、開いた口が塞がらない様子で光己を凝視した。武力に頼る面が多いヒーロー活動において、この容姿と圧倒的なギャル特有の距離感だけで荒くれ者を瞬時に懐柔した技術に、彼は心底から感心していた。
「……すごいね、ミッキー。これが君の『ヒーロー』の形なんだ。正直、見くびっていたよ」
「ウェーイ☆ 褒められて伸びるタイプだから、もっと言っていいよ先輩☆」
その後、目立ったトラブルもなくパトロールを終えた二人は、事務所へと帰還した。
「ただいま戻りましたー☆ 社長、パトロールお疲れっした!」
ドアを開けて元気よく声をかけると、アングラヒーローはデスクの上のテレビを険しい顔で見つめていた。
「おう! お帰り!」
「あー、それってデストロの思想に感化されてる人たちのデモっすか? この時期の風物詩みたいなもんっすよねー」
サイドキックがテレビの画面を覗き込みながら、いつもの気軽な調子で言った。画面の向こうでは、異能の自由行使を叫ぶ集団がプラカードを掲げて行進している。
「いや、今回はいつもより規模が大きい。こんなときは何か起こるもんだ」
アングラヒーローの呟きに、光己はコスチュームのまま、ぱっと目を輝かせて駆け寄った。
「マジ!? それってプロの勘ってやつ? ヤバ、社長超プロっぽい! マジ尊敬なんだけど☆」
「プロなんだよ。ついでにお前さんはその卵だ」
アングラヒーローが呆れたように苦笑しながらツッコミを入れた、まさにその瞬間だった。テレビの画面に映るデモ隊の列から、突然激しい爆発光が上がった。先頭の集団が雄叫びを上げ、周囲の建物のガラスを破壊し、警備の警察官たちへ襲いかかり始めたのだ。
「やっぱりな……。何も起きないで欲しかったが……」
アングラヒーローが苦渋をにじませて立ち上がった時、デスクの上の通信機が、耳をつんざくような激しい警告音を鳴り響かせた。ヒーロー公安委員会からの、最優先の緊急出動要請だった。
アングラヒーローが慌てて受話器を耳に当てる。
「デモの件だろ? ……何? ミッキーも連れてこい!? 馬鹿言うな、あいつはまだ学生のインターンだぞ! 現場は暴徒化して大混乱んだ、そんな危険な場所に――いや、わかっちゃいるが……!」
ヒーロー公安委員会からの命令に、プロの男は押し黙り、信じられないものを見る目で光己を振り返った。
仮免許を取得したばかりの女子高生が、表のプロさえ恐れる歴史の闇の大事件――未曾有の暴動へと、強制的に巻き込まれる瞬間だった。