雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
ウーウーと赤色灯が回る裏路地。メインストリートの喧騒が、防音壁を越えて地響きのように伝わってくる。
「個性の自由な発揮を!」
「我らに異能の解放を!」
デストロの思想に染まった何百人もの暴徒。プラカードを掲げ、警察の防衛線を今にも食い破らんとする凶悪な集団が、目の前の大通りを埋め尽くしていた。
光己、アングラヒーローと、そのサイドキックの三人だけが、特殊任務として暴徒の本陣の真横――薄暗い路地裏に潜伏している。防弾ベストを叩く遠くの怒号に、現場の空気は完全に破綻していた。
「俺たちの個性ははっきり言って直接戦闘、しかも対多数には不向きだが……今一番現場に近くて、なおかつ『鎮圧向き』の個性は俺たちだからな」
アングラヒーローは通信機のノイズを拾いながら、忌々しげに顔をしかめた。
「暴徒とはいえ、ヴィランではないからな。人権団体からの抗議をかわすための、公安からのご指名だそうだ。クソったれ!」
初めて目にする大規模な暴動の熱気と暴力性に、隣にいるサイドキックの青年は完全に呑まれていた。膝の震えを隠すように両手で武器を握り締め、ガタガタと小刻みに震えながら待機している。
その隣に並ぶ光己もまた、同じように呼吸を荒くしていた。いくら戦闘直感やスペックに優れていようと、中身はまだ十六歳の女子高生だ。地響きのような大合唱の恐怖に肉体が本能的な拒絶反応を起こし、指先が強張る。
「長くヒーローやってりゃ、嫌でも一度や二度はこんな場面に出くわすさ。慣れろ。……作戦を伝えるぞ」
アングラヒーローは二人の肩を軽く叩き、大通りを指差した。
「警察の煙幕弾の投下に合わせる。合図が出たら、ミッキーが個性の『グリセリン』を使って足元に大量のローションを撒くんだ。暴徒どもの足元が滑っている間に、俺とそこのサイドキックが突っ込んで、デモ隊のリーダーや主立った連中を直接捕縛する。いけるな?」
「は、はい!」
「了解☆ ミッキーにお任せあれってね!」
光己は、羞恥心とともに恐怖を遮断してギャル口調を張り上げた。
直後、メインストリートへ向けて警察側から数十発の煙幕弾が放たれた。シュウウウと白い煙が爆発的に広がり、暴徒たちの視界を完全に奪い去る。
「合図だ、行け!」
飛び出した光己は、大通りの最前線へと滑り込んだ。摂取した脂質と糖分を限界まで燃焼させ、肌から超高純度・摩擦係数ゼロの保湿成分を怒涛の勢いで分泌する。両手から解き放たれた無色透明の超高性能ローションは、煙幕の奥で大通りのアスファルトを一瞬にしてローションの海へと変えていった。
「うわっ!? なんだこれ、滑る――」
「足元がっ、立っていられねえ!」
何百人もの暴徒たちが、摩擦係数を失った地面に足をとられて次々と転倒していく。作戦は完璧だった。その隙を突き、アングラヒーローとサイドキックの二人が煙幕の中へと猛然と突っ込み、プラカードを掲げていた主謀者たちへ肉薄していく。
しかし、戦場は生き物だった。
煙幕の濃淡が揺らいだ一瞬、転倒を免れていた大柄な暴徒の一人が、捕縛作業に追われていたサイドキックの死角へと躍り出た。その手には、強固な鉄パイプが握られている。
「ヒーロー風情が、調子に乗るなァ!」
「え――」
完全に意識の盲点を突かれたサイドキックは、振り返ることすらできない。鉄パイプがその脳裏へ向けて振り下ろされようとした瞬間。
考えるより先に、光己の体が動いていた。
光己は予備動作なしの『暗殺歩法』を発動し、一切の足音も風切り音も立てず、音を置き去りにして暴徒の真後ろへと滑り込んだ。
振り下ろされる鉄パイプの軌道の内側、標的の完全な死角へと肉薄する。
「もう大丈夫♥ なぜって? 永遠の17歳の私が来たからだゾ☆」
極限の恐怖の中で響いた甘ったるいギャル声に、暴徒の男が驚愕して目を見開く。
光己は腰を深く落とし、オカモト工業と雄英の技術が詰まった籠手『ディープ・グライド・カスタム』の指先を、男の最深部、お尻の直腸へと寸分の狂いもなく突き刺した。さらにそのまま、密集する周囲の暴徒たちの死角へとも音もなく滑走し、連動する高圧ピストンのスイッチを次々と押し込む。
「ミッキー・ディザスター・インパクト☆★」
ガチッ! ガチガチガチッ!
粘膜組織を一切傷つけない完璧な流体制御のもと、一瞬にして最深部へと強制注入される超高純度グリセリン。その速度、一撃あたりまさに驚異の200ml/s。
対多数用に解き放たれたその神速のパイルバンカーは、周囲の主立った暴徒たちの体内を一瞬にして『個性』グリセリンで満たしていった。
「あ、が……ぐぅぅっ!?」
「ひぎゃあああかっ!? は、腹がァァ!?」
直腸を一瞬で蹂躙された男たちは、鉄パイプを落としてその場に激しく悶絶した。
打撲傷や裂傷といった肉体的な怪我は一切ない。人道性は間違いなくA判定だ。しかし、彼らの脳内に直接送り込まれた「決壊の信号」は、個性の発動や起立することすら完全に不可能にする絶望的なものだった。
何十人もの主力メンバーが、一瞬にして白目を剥き、ケツを必死に抑えて地面に転がり、生まれたての小鹿のようにガタガタと震え出す。
煙幕が薄れ、静まり返った大通り。
腹痛と凄まじい便意の波に襲われ、涙と冷や汗を流しながらうずくまっている暴徒たちを見下ろし、ミッキーはふう、と小さく息を吐いた。その時だけは、演技を忘れた素のトーンの言葉が口から漏れ出る。
「個性を自由に使うっていうのは、こういうこと。相手の尊厳を、自分の都合でいくらでも踏みにじっていいということ。……それでもあなた達は、これを続けるんですか?」
怪我一つない綺麗な体のまま、精神を根こそぎ破壊された仲間たちの惨状を見て、デモ隊のリーダー格の男が、せめてもの意地を見せようと顔を跳ね上げた。
「う、うるせえ……! 個性の自由な発揮こそが正義だ……! 小娘風情が、俺たちの邪魔を――」
「個性を使っているアンタらが言うなぁぁっ!!」
理不尽な主張を繰り返す男に対し、光己は心の底からの怒りを込めて叫び声を叩きつけた。あまりの剣幕に、男が完全に気圧されたまさにその瞬間だった。
「あっ、やべ。これ、あ、アカン――」
「えっ」
男が途端にマヌケな声を漏らした直後。
ブリュリュリュリュッ!!!!
静寂に包まれた大通りに、あらゆるシリアスな空気を一瞬で粉砕する、あまりにも致命的で絶望的な大轟音が鳴り響いた。
「あ……」
リーダーの男は、完全に魂が抜けたような顔をしてそのまま力なく地面へと頽れた。全てが、終わったのだ。
そして次の瞬間、そのリーダーのあまりに凄惨な決壊を合図にするかのように、限界を迎えながらも必死に耐え忍んでいた周囲の暴徒たちへ、未曾有の連鎖反応が巻き起こった。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「嘘だろ、俺も……あ、ああああっ!!」
ブリュッ! ブリュリュッ! ブボボボボッ!!!!
一人が放出したことで周囲の精神的防壁が文字通りドミノ倒しのように完全瓦解し、そこかしこから絶望の悲鳴と、人類の歴史上類を見ない凄まじいシンフォニーが一斉に鳴り響く。
怪我人はいない、流血もない。しかし大通りは瞬く間に、社会的尊厳を根こそぎ失った男たちの慟哭と、言葉にできない悪臭が弾ける、文字通りの阿鼻叫喚の地獄絵図(汚物まみれ)と化した。
「ひ、ひぃぃ……! あ、悪魔だ……悪魔がそこにいる……っ!」
「狂ってる……! これ以上ここにいたら、人間としての尊厳が死ぬぞ……!!」
大通りのローションの上に広がっていく絶望の底から、まだ無事な暴徒たちが、この世の終わりを目撃したかのような血の気の引いた悲鳴を上げた。怪我をさせられる恐怖ではない。自分自身が「人間としての形を保ったまま魂を殺される」という、あらゆる暴力を超越した絶対的な絶望と悲壮感が、彼らの心を木っ端微塵に叩き折っていた。
そこへ、警察の治安維持部隊が慌てた様子で巨大な装甲放水車を数台、大通りへと滑り込ませてきた。本来であれば、デモ隊や暴徒を力ずくで押し戻し、退散させるための強力な高圧放水を行うはずの車両である。
しかし、運転席の警察官たちは、煙幕の向こうに広がっていた「すでに全員がケツを押さえて涙目でガタガタ震えている」という前代未聞の地獄絵図に完全に戦慄していた。
「な、なんだこれは……! 撃て! いや、暴徒にじゃない! 地面と奴らのケツに向けて、放水開始!!」
隊長の必死の絶叫とともに、放水車のノズルから凄まじい勢いの水流が勢いよく噴射された。
本来は鎮圧用のはずの放水が、今回は完全に、大通りを埋め尽くしたヌルヌルの超高性能ローションと、リーダーを筆頭に次々と連鎖決壊していった悲惨な汚物を一秒でも早く洗い流すための「お掃除用高圧洗浄」と化してしまったのだ。
「うわああああっ! 冷てぇ! いや、むしろありがてぇぇぇ!!」
「流してくれ! 俺の過ちと、すべてを洗い流してくれえええ!!」
強烈な水圧で路上の粘り気と尊厳の残骸をまとめて強制パージされながら、暴徒たちはまるで聖水でも浴びたかのように涙を流して絶叫していた。
誰からともなく、持っていたプラカードや武器を手放し、激しい水流に流されてカラカラと地面へ手放されていく。戦意など、最初から一滴も残っていなかった。何百人もの集団が、一人の女子高生に心を折られ、警察の優しい高圧洗浄にすがって震えるだけの塊と化した。
その光景の凄惨さに、ミッキーの個性の本質を初めて知ったサイドキックの青年は、完全に青ざめてケツをガードしながら硬直していた。そんな彼の肩に、アングラヒーローがポンと手を置く。
「な? お前も勉強になったろ? 人は見かけによらないってさ。……いや? この場合は『綺麗な薔薇には棘がある』、かな?」
アングラヒーローはプロとしての先輩の顔で苦笑しながらそう言い、色んな意味で近づきたくない暴徒たちの捕縛へと動き出した。
一方で、個性を大量発動した光己の肉体からは、摂取した脂質と糖分が一気に消費されていた。パトロールの時にはセーラー服のボタンを弾き飛ばさんばかりだった爆乳爆尻のドスケベ人妻ボディは、すっかり元のスレンダーな、耳郎響香のような体型へと戻っている。
「ミッキー、片付け手伝うよ……。もちろん、触らないように細心の注意を払うけど……」
個性の詳細と凄まじすぎる惨劇を知ってしまったサイドキックは、先ほどまでの下品な視線を完全に消し去り、怯えるようにして、どこか腫れ物に触るかのような事務所で見せたものとはまるで別物の態度で恐る恐る声をかけてきた。
そんな青年の変化を目の当たりにして、光己はコスチュームの仮面の下で
(ちょっと【ちょっとではない】ボリュームアップしてからこんなのばっかりだったけれど……中身を知ったら知ったでこれだもの。男の人って、ホント……)
と呆れ混じりにため息をつくのだった。
あまりに悲惨な尊厳破壊の結末。
この日、現場で直接お仕置きを喰らった主謀者たちだけでなく、地獄絵図を至近距離で目撃して逃げ出したすべてのデモ参加者たちもまた、あまりのトラウマにその日の出来事を誰一人として二度と語ることはなかった。口を開けば、あの悪夢のような音と、それを虚しく洗い流していた放水車の激しい水流の音が脳裏にリアルに蘇るからだ。
当然、彼らが「個性の自由行使」などという過激な思想を口にすることも二度となかった。あまりにも恐ろしすぎるテロ戦術の記憶は、ヒーロー史の最高機密として完全に封印され、のちの異能解放軍最高指導者であるリ・デストロすらも感知し得ない、歴史の闇へと消え去ったのである。
耳郎ちゃん=スレンダーの象徴みたいに何度も使ってる…
平和の象徴オールマイト像の胸元にI am not Hereってぶら下げられてたみたいに、耳郎ちゃん像の胸元にI am not(Flat)Here ってぶら下げたい…