雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

29 / 30
拙作をご覧頂きありがとうございます。27話にわりと最低な改変を加えました。

怪我一つない綺麗な体のまま、精神を根こそぎ破壊された仲間たちの惨状を見て、デモ隊のリーダー格の男が、せめてもの意地を見せようと顔を跳ね上げた。

「う、うるせえ……! 個性の自由な発揮こそが正義だ……! 小娘風情が、俺たちの邪魔を――」

のあとです。ご覧になってない方、よろしければご覧ください。


メリれ!クリスマス!

 十二月二十五日。爆豪光己の自宅の部屋は、色鮮やかなオーナメントと、どこからか漂う犯罪的に香ばしい匂いに包まれていた。

 世間はクリスマス。光己の家に集まった女子生徒たちだけの秘密のクリスマスパーティーが開催されている。全員がミニスカートのサンタコスチュームに身を包む中、ひと際そのグラマラスすぎるプロポーションで衣装をパツパツに張り裂けそうにさせているのが、雄英高校ヒーロー科一年の光己だった。

 

「はい、お待たせ! 熱いうちにガッツリ食べちゃってね!」

 

 光己が台所から両手に抱えて運んできたのは、およそ女子高生の手作りとは思えない、絵画のように美しい料理の数々だった。

 

「うわあああ!何これ、すごすぎる!」

 

「ちょっと光己、あんたこれマジで一人で作ったの!?」

 

「すっごい……! これぞ聖母の、ママの慈愛の結晶……!」

 

 テーブルに並べられた四品の料理を前に、女子たちが一斉に歓声を上げる。

 一品目は『丸ごと一羽のローストチキン・特製ハーブグリル』。黄金色に焼き上がった皮からは肉汁が噴き出し、完璧な照りを放っている。

 二品目は『特製デミグラスソースの煮込みビーフシチュー』。ゴロゴロとした霜降り肉が、スプーンを入れるだけで解けるほどホロホロに煮込まれていた。

 三品目は『彩り野菜のゼリー寄せ・クリスマスリース仕立て』。食べるのが勿体ないほど透き通った芸術的な前菜。

 そして四品目は、デザートの『イチゴを贅沢に使った三段手作りブッシュ・ド・ノエル』。パティシエ顔負けの繊細なクリームのデコレーションが施されている。

 

「え? いや、これくらい普通じゃない? クリスマスだし、特別なことなんて何もしてないわよ。チキンもオーブンの火加減をちょっと調整しただけだし、シチューの隠し味にちょっと赤ワインとハチミツを入れたくらい。ほら、冷めないうちに早く食べちゃって!」

 

 エプロンを外しながら、何でもないことのように首を傾げる光己。そのあまりのハイスペックぶりに、ギャル子が即座に額に青筋を立ててツッコミを入れた。

 

「出たよ、ナチュラルボーン高スペック! これくらい普通じゃない? とか言って私らの女子力を公開処刑するの、マジで嫌味か!」

 

「みっちゃん、それは普通とは言わないよぉ。お肉が口の中でとろけてすっごく美味しい!」

 

「ああ……胃袋から全身がママの母性に満たされていくのを感じます……!」

 

「はいはい、お肉美味しいね。でもママって呼ぶのは本当にやめなさいって言ってるでしょ、私はまだ十五歳!」

 

 相変わらず尋常ではない熱量でうっとりとしている控えめ女子の口に、光己はチキンを引っこ抜いた骨をごそっと突っ込んで適当にあしらう。

 

「それにしてもさぁ、光己って料理はプロ級、顔は誰もが振り返る美少女、性格はガサツだけど面倒見が良くて最高。エロい身体してるし。これでもかってくらい完璧じゃん?」

 

「本当だよぉ。二学期の実技前にちょっとギャル仕様に魔改造されたけど、それでも隠しきれない清楚さと圧倒的なお姉さんオーラがあるよね」

 

「エロいは余計でしょ!でも、それを言うならギャル子だってメイクのセンス抜群でいつも可愛いし、普通女子だって聞き上手で一緒にいて一番落ち着くわよ。控えめ女子は…ちっちゃくて可愛いし。」

 

 光己が笑顔で素直に他の女子たちの美点を褒め返した、その瞬間だった。

 しんと、部屋の空気が冷たく静まり返る。ギャル子と普通女子が、手に持ったフォークを震わせながら、じっと光己を見つめた。

 

「……なのにさぁ……」

 

「……私たち……」

 

「……いないんだよねぇ……」

 

 三人の言葉が、見事な三重奏となって部屋に虚しく響き渡る。

 

「男(彼氏)が、一・人・も!」

 

「せっかくのクリスマスなのにねぇ……」

 

「な、何よ急に! まあ、私たちはヒーロー科だし、毎日の訓練とか勉強が忙しいから、そういうのは、その、時期尚早というか何というか……!」

 

 急激に重くなった女子会の空気に、光己はタジタジになりながら言い訳を探す。すると、隣に座っていた控えめ女子が、涙目を輝かせながら光己のサンタコスの袖をぎゅっと掴んだ。

 

「大丈夫、ママ! ママには私たちがいるから! 私、一生ママの子供として生きていくって決めてるから!」

 

「あんたはちょっと一回落ち着きなさい! はい、シチューおかわりね!」

 

 重すぎる愛をぶつけてくる控えめ女子を再びシチューの皿で適当にいなしながら、光己はふぅと息を吐く。そこで、ギャル子がニヤニヤとした笑みを浮かべながら身を乗り出してきた。

 

「ねえ、そんなことよりさ。光己ってぶっちゃけ、どんな男が好みなわけ? こんだけスペック高いんだから、相当理想高いんでしょ?」

 

「えっ!? 好みのタイプ!?」

 

 突然の恋バナらしい質問に、光己の頬がわずかに赤く染まる。彼女は視線を泳がせ、指先で髪の毛をくるくると弄びながら、記憶のどこかにある、あるいはこれから出会うはずの理想の姿を思い浮かべた。

 

「え、えーっと……そうね。あんまり口数が多くなくて、ちょっと不器用で、でも私のガサツなところも全部優しく受け止めてくれるような……。年下っていうよりは、ちょっとだけ年上のお兄さんみたいな雰囲気の人、かな……。普段は物静かだけど、いざって時に芯が強くて守ってくれるような、そういう落ち着いた人がいいなって……」

 

 思い浮かべているのは、未来の夫である勝氏の面影。しかし、今はまだ名前も知らない、どこかにいるはずの「お兄さん」を妄想して、光己は小さく身をよじる。

 その様子を見ていたギャル子が、ぽんと手を叩いて意地悪そうに目を細めた。

 

「あー! なるほどね! そういうことか!」

 

「な、何よ急に!」

 

「だってさぁ、あんたこの前の雄英祭のミスコンで、あんたの人妻みたいな身体のミニスカセーラーで優勝しちゃったでしょ? あのせいで今、学校のあんたの机の上が大変なことになってるの忘れたわけ? 巷の男性ヒーローたちの間で『年上女性ブーム』が猛烈に巻き起こったおかげで、未婚の二十代や三十代の先輩女性ヒーローたちからお見合いの申し込みが殺到して、あんたの机に『聖母への感謝状』とか、大量の貢ぎ物が連日届いてるじゃん」

 

「う、うう……。あれは全部あんたたちが裏で勝手に申し込んだからでしょ……!」

 

「つまりさ、世間的には上の世代の行き遅れ……コホン、お姉様方には、年下の男を充てがって多大な恩を売っておいて、自分はちゃっかり、理想の『落ち着いたお兄さん』を一本釣りで狙いに行く計画ってわけね? いや〜、あざといというか、腹黒いというか、策士だねぇ、光己ママは!」

 

「そんなんじゃないってば! 私はただ純粋に好みのタイプを言っただけよ!」

 

 顔を真っ赤にして否定する光己。その時、ローストチキンを美味しそうに咀嚼していた控えめ女子が、再びガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。

 

「やっぱりママは世界の救世主……! 学校に届くあの貢ぎ物の数々こそ、全女性ヒーローの希望の光となった証拠! ママ, 私を本当のママんちの子にしてー!!」

 

「だから話を聞きなさいって! あと学校の話をここで引っ張り出してややこしくするんじゃないわよ!」

 

 クリスマス会は、光己の怒声と女子たちの笑い声に包まれながら、夜まで賑やかに続いていった。そして夜も更けてパーティーは解散となり、女子たちはそれぞれの帰路についた。

 

 ――しかし、聖なる夜はそれだけで終わらない。

 

 深夜。誰もいないはずの、雄英高校の敷地内にある人目のつかない古い備品倉庫。薄暗い月明かりだけが差し込むその場所に、怪しげな影たちが次々と集まっていた。

 中央に置かれた折り畳み机の上には、一枚の布が掲げられている。そこには筆文字で、こう書き殴られていた。

 

 

『性癖解放戦線』

 

 

「……集まったか、同志諸君」

 

 深くフードを被り、変成器で声を変えた首領が闇の中から囁く。その姿は、倉庫の薄暗さに隠れていた。

 

「我々の目的はただ一つ。あの雄英祭の日、光己ママのギャル姿に、あるいはあの圧倒的な母性に脳を焼かれ、性癖を歪められた我ら哀れな生徒の尊厳を取り戻すことである……!」

 

「首領……! 俺たち、あの日からギャルと年上お姉さんしか愛せない身体になっちまったんだ……!」

 

「そうだ! 昼間も光己ママの姿を見るだけで、頭がおかしくなりそうになる……! この歪んだ衝動を、どこへぶつければいいんだ!」

 

 口々に不満と欲望を漏らす構成員たち。彼らは皆、学園祭のミスコンによって新たな世界の扉を開かれてしまった、哀れな雄英高校の男子生徒たちだった。

 首領が厳かに両手を広げる。

 

「落ち着きなさい、同志たちよ。今夜はクリスマス。我々が真に解放されるべき夜……。さあ、今こそ聖母への祈りを――」

 

 バンッ!!!

 

 激しい音を立てて、備品倉庫の古びた扉が勢いよく蹴り開けられた。

 逆光を背負って立ち塞がったのは、パーティーの解散後もせっかくだし…とそのまま、真っ赤なミニスカサンタコスチュームに身を包んだ光己だった。寒空の下、露出した太ももと引き締まったお腹が、月光に照らされて犯罪的な美しさを放っている。彼女が着ているのはヒーローコスではないため、その口調はいつもの普通の女子高生のものだった。

 

「ちょっと! あんたたち、こんな夜に人目につかない倉庫に集まって、一体何やってんのよ!!」

 

 仁王立ちになり、鋭い眼光で倉庫内を睨みつける光己。

 突然の「本物の聖母」の降臨、それも破壊力抜群のサンタコス姿に、構成員である男子生徒たちは一瞬で硬直した。あまりの眩しさと美しさに、何人かは白目を剥きかけている。

 

「サンタコスミッキー❤……!?」

 

「な、何って……その、俺たちは、性癖の解放を……」

 

「性癖解放戦線だか何だか知らないけどさぁ! こんなクリスマスに薄暗いとこに集まって怪しい儀式みたいなことやってる暇があるなら、もっと男らしくシャキッとしなさいよ! こんなことやってるくらいなら、さっさと街にでも出て、まともに出会いでも探してきなさい! ほら、さっさと解散! 帰った帰った!」

 

 パシパシと手を叩き、容赦ない正論と怒声を浴びせる光己。

 男子生徒たちは、光己の凄まじい剣幕に圧倒され、完全に気圧されてしまった。

 

「は、はい……すみません……」

 

「解散します……」

 

 彼らは肩を落とし、トボトボと力なく倉庫から私服のまま出ていく。しかし、その脳内は、光己の予想とは全く異なる狂喜乱舞の嵐が吹き荒れていた。

 

(……やべえ。最高のクリスマスプレゼントだ……)

 

(生足ミニスカサンタ姿の光己ママに、めちゃくちゃガチギレされた……)

 

(怒られてる時、ゾクゾクして心臓止まるかと思った……。女子に怒られるの、これ、もしかして新しい癖になっちゃうかも……!)

 

(いいもん見れた……。サンタコスミッキー❤も最高だ……!)

 

 解散していく男子たちの目は、むしろ新たな性癖をガッチリと植え付けられ、ギラギラとした輝きを放っていた。彼らの歪んだ戦線は、解散するどころか、さらに深く地下へと潜伏する決意を固めただけだった。

 男子たちが去り、静まり返った倉庫の中に、まだフードを被ったまま身を縮めている影が一つだけ残されていた。

 光己はフゥーッと深い溜息を吐くと、その影の前に歩み寄り、頭のフードを容赦なくひっぺがした。そこにいたのは、昼間あれほど光己を「ママ」と慕っていた控えめ女子だった。

 

「やっぱり、この怪しい集会の首謀者はアンタか!! もう! 何やってんのよ本当に!」

 

「あぅ……マ、ママ……」

 

 光己は腰に手を当て、頭痛を堪えるように眉間を押さえる。

 

「くだらないことやってないで、さっさと帰るよ! あんたの家から『娘がまだ家に帰ってきてない』って連絡が来て、ギャル子も普通女子も、みんな心配して探してるんだからね!」

 

「う、嘘……。みんなに迷惑かけちゃった……?」

 

 控えめ女子がガタガタと震え出すのを見て、光己はポケットからスマートフォンを取り出し、素早い手つきでギャル子と普通女子のグループチャットにメッセージを送った。

 

『ギャル子、普通女子、見つかったよ。学校にいたわ。心配かけてごめんね』

 

 送信を終えると、光己は呆れたように、しかしどこか優しい眼差しを控えめ女子に向けた。

 

「だって……ママがあまりにも冷たくあしらうから……。寂しくて、つい同じようにママへの歪んだ愛を持つ同志たちを集めて、心の隙間を埋めようと……うぅ……」

 

「はいはい、私のあしらい方が悪かったわね。弁明はそれくらいにしなさい」

 

 シクシクと泣き真似をする控えめ女子の頭を、光己はぽんぽんと乱暴に、だけど温かく撫でる。

 

「しょうがないなあ、もう。今日は夜遅いし、私の家に泊めてあげるから。その代わり、明日になったら、ちゃんとあいつらに謝りなさいよ。いいわね?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、控えめ女子の顔が一気に歓喜へと塗り替えられた。

 

「ま、ママァーーッ!! 一生ついていきます!!」

 

「声が大きい! ほら、行くよ。手ぇ繋いだげるから。」

 

「うんっ!」

 

 光己が差し出した手を、控えめ女子は小さなその両手でぎゅっと握り締める。二人のミニスカサンタは、寒空の下、仲良く手を繋いで夜の雄英高校の敷地を出て、光己の自宅へと歩き出した。  

 光己の温かい手の温もりに包まれながら、控えめ女子は感極まった様子で何度も光己の顔を見上げている。夜の街に、二人の足音が静かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光己の自宅へ向かう階段。光己と手を繋いで歩く控えめ女子は、繋いだ手の温もりを感じながら、フードの陰でフッと口元を歪めた。

 昼間の寂しさも、倉庫での涙も、すべてはこの瞬間のために用意されたただのスパイス。

 

(……計画通り……。これで今夜は、ママと同じベッドでお泊まり確定……。ママの匂いを合法的に一晩中独占できる……。ふふ、ふふふふふ……)

 

 暗がりの階段で、控えめ女子はサスペンス映画の黒幕のような、邪悪で、底知れない歪んだ笑みを静かに浮かべていたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。