雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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ちょっと進んだ女

 指名手配ヴィランを鮮やかに社会的に抹殺したあの日から数日後。

 仮免許を所持している二年生とはいえ、路地裏での私的な個性行使について、光己たちは担任教師へ事の顛末を正式に報告していた。

 放課後の職員室。提出された調書の『直腸への特濃グリセリン注入による無力化』という、ヒーロー科の歴史上でも類を見ないほど凶悪な制圧方法の記述を前に、担任教師は頭を抱え、深すぎる溜息を吐いていた。

 

「……■■。お前の個性の仕様上、戦闘になってしまえばこうなるという事情は知っている。友人たちを救った結果も評価する」

 

 担任は一度言葉を切ると、書類から顔を上げ、一人の生徒の未来を本気で案じる教育者としての、ひどく真剣で優しい眼差しを光己へと向けた。

 

「だが、一度決めてしまえば、お前はこれからもずっとその戦い方を背負い続けることになる。色んな物のすべてを捨てて泥にまみれる戦術だ。……お前がいいなら、お前自身にその覚悟があるなら、俺はこれ以上何も言わん。だが、本当にいいんだな?」

 

 担任からの、自分の尊厳と覚悟を問う重い言葉。光己は凛とした真っ直ぐな瞳で担任を正面から見据えた。

 

「はい。リカバリーガールに正面突破を諦めろって言われた時、もう決めましたから。強い個性じゃなくたって、私は私の大切な人たちを絶対に守り抜くヒーローになります」

 

「……そうか。お前の覚悟、確かに受け取った。よく言ったな、■■」

 

 担任は静かに微笑み、彼女の決意を認めるように大きく頷いた。光己もまた、普通の女子高生としての照れ隠しから、少し気まずそうにポリポリと頬をかくのだった。

 しかし、この事件が一部は不確かなままクラスへ共有されたことで、雄英には予想だにしない巨大な余波が巻き起こることとなる。これまで光己が必死に隠し続けてきた『業務用・特級薄膜仕様の指サック(百個入り箱)』の存在が、ついに白日の下に晒されてしまったのだ。

 もはや隠蔽する必要がなくなった光己は、ここからある種の開き直りを見せることになる。

 放課後の教室、そんな光己の身を本気で案じていたのが、あの路地裏で共に戦った女子グループの三人だった。

 

「ねえみつき、あのヴィランの件でさ、クラスの男子どもが裏でコソコソあんたの噂話をしてるみたいなのよ」

 

「えっ!? 嘘、やっぱり引かれたり怯えられたりしてる!?」

 

 光己がガタッと肩を揺らして絶望の表情を浮かべると、ギャル子はフンと鼻を鳴らし、男前に胸を張って光己の手を握った。

 

「わかんないけど!あんたはアタシたちの命の恩人なんだから! もし、みつきのあの戦い方を知って、何かおかしな文句を言ってくる奴がいたら、アタシらがガツンと言ってやるから安心しなよ!」

 

「そうだよみっちゃん! みっちゃんを笑うような男子がいたら、私が容赦なく個性を叩き込んであげるからね!」

 

「ママのことを侮辱する不届き者は、私が一生呪っちゃうからね!」

 

 控えめ女子も静かに拳を握る。三人からのあまりにも熱く、そして力強い友情の言葉に、光己は目の奥をじわりと熱くさせた。

 

「みんな……ありがとね。本当に、あんたたちが友達でよかった……」

 

 光己が心からの感動に包まれた、まさにその翌日のことである。

 ヒーロー科の実技訓練当日。

 四対四の対抗戦を控えた訓練場に、ミニスカヘソ出し黒セーラー服に身を包んだ光己が姿を現した瞬間、その場の空気が一瞬で凍りついた。

 連続戦闘におけるリロード効率を極限まで追求した結果、光己は業務用指サックの連結シートを数メートルにわたって繋ぎ合わせ、ランボーのように身体の斜め前へと堂々とタスキ掛けにしていたのだ。

 ゴム製品自体は非常に軽量なのだが、彼女の尋常ではないグラマラスすぎるボディの立体感ゆえに、斜めに掛けられた弾帯が豊かな胸のふくらみを鮮やかに横切り、正面から見ると身体全体で巨大なある記号を描いているように見える。

 

「……おい、嘘だろ……。■■の身体、胸のところでちょうど、巨大な『%』の記号になってるぞ……」

 

 戦闘前の男子生徒たちの間で、ゴクリと息を呑む音が重なった。

 そんな騒然とする訓練場の中央で、拡声器を持った担任教師が、全員に向けてマイクの音を響かせた。

 

「実技の開始前に、今回限定の特殊ルールを通達する。■■の個性および戦闘スタイルはあまりにも特殊すぎる。よって、本日の対抗戦においては、■■に完全に背後を取られた時点で、肉体的な接触が発生していなくともその時点で終了とする。」

 

「「「は、ハイ……っ!!!」」」

 

 担任からの「後ろを取られたら終わり」という宣告に、生徒たちは戦う前から恐怖を感じていた。

 しかし、いざ実技の訓練が始まると、その恐怖は形となって現実のものとなる。

 あのグラマラスすぎる抜群のプロポーションを揺らし、妖艶な肉食系の眼差しを向けながら戦場を駆ける光己。ヒーローコスを着用している今の彼女の脳内は、羞恥心を完全に遮断した『ギャルペルソナ』が駆動している。

 光己は前方の男子生徒をロックオンすると、小悪魔的な笑みを浮かべて声を響かせた。

 

 あは みぃ〜つけた

 

 その直後、摩擦係数ゼロの無音の歩法が駆動。人間の視覚と知覚の盲点をすり抜けるようにして、光己の身体は音もなく滑るように前方から掻き消え、次の瞬間には男子生徒の真後ろ――完全な死角へと超高速で回り込んでいた。

 逃げ場を完全に封じられた男子の耳元へと顔を寄せ、特級薄膜仕様の指サックを装填した籠手を構えながら、甘ったるく狂気に満ちた声で囁く。

 

 はい おしまい

 

(おしまい❤ってなんだよぉぉぉっ! お前が終わらせたのは俺の性癖だよぉぉぉぉっ!!!)

 

 耳元で至近距離から響いたその捕食者のコンボに、男子生徒の脳内パニックは限界を超えた。接触は寸前で止められたものの、その圧倒的なビジュアルの暴力と、新しい世界の扉を強制開放された衝撃に脳を直撃された男子生徒は、全身の力が抜けたかのようにその場にへたり込み、ガタガタと震え出す。個性の発動どころか、一人の男として正気を一瞬で奪われ、頭の中が性癖のバグで満たされたまま、涙目で魂の絶叫を脳内で叫ぶのだった。

 ギャル子たちが「ガツンと言ってやらなきゃ!」と身構えていた男子生徒たちの反応は、彼女たちの予想を天元突破した、さらに歪んだ方向へと爆発することになる。

 

 光己の『特濃ローションによるお尻への医療テロ制圧』と、あの実技での「みぃ〜つけたっ♥」から繋がる恐怖の宣告。それらの噂は、学園内の男子たちの間で尾ひれをつけ、なぜか著しく尾籠で奇妙な方向へと伝播していった。

 あの肉食系の眼差しとゴム弾帯の「%」に脳を焼かれた男子生徒たちの歪んだ欲望が、ついに最悪な形で流行したのだ。

 

(……はぁ……。これが撒き散らしてるローションの疑似体験……!)

 

 街の片隅にある、美人女医のいる個人病院のベッド。

 学園の男子生徒たちはこぞってその個人病院の場所を特定し、連日のように「お腹が痛いです」と仮病を訴えては、ベッドの上に横たわっていた。

 だが、これは明らかな営業妨害を伴う迷惑行為である。そのため、病院への配慮とこの聖なる疑似体験ブームを長期にわたって平穏に維持するべく、『性癖解放戦線』の幹部たちによって、男子たちの通院回数や、前回の仮病からのインターバル期間がシフト表のごとく裏で厳しく管理・統制されていたのだった。

 

「おい、お前は今週すでに二回通院している。これ以上の連続突入は女医に怪しまれて出禁ルートだ。来週までおとなしくしとけ。」

「うう……。でもあのヌルヌルが恋しくて……」

 

 そんな厳格な統制のもと、美人女医の冷たい手によって、超音波エコーの冷たくてヌルヌルとしたジェルを、腹部へと塗ってもらう男子生徒たち。

 

 女医が不審な顔でエコーのプローブを動かし、ティッシュで腹部のジェルをごく事務的に拭き取りながら呟く。

 

「ん〜? 特に異常はないけどな〜? はい、おしまい。服着ちゃっていいですよ」

 

「は、はいぃ……ッ……!」

 

 お腹にジェルを広げられ、そしてトドメのように放たれたその「はい、おしまい」の言葉。

 男子生徒たちは、虚無の恍惚とした顔で白目を剥き、脳内で「%」の弾帯を巻いた光己からあの肉食系の眼差しで見つめられ、背後に回り込まれて

 

  はい おしまい

 

と囁かれる瞬間を最悪な形で妄想しながら、静かにその擬似的な尊厳破壊を全身で享受していた。

 聖なる夜にその存在が露わになった性癖解放戦線は、解散するどころか、超音波エコーのジェルという最悪の代替品を見つけ出し、徹底された組織管理のもとで、地下の密かな大ブームとして深く潜伏し続けるのだった。

 




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