雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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女の敵は女

 放課後の教室。

 そこには、窓に映る自分の前で制服のスカートのウエストを引っ張りながら、ふんと胸を張っている光己の姿があった。

 ミスコン優勝以来、先輩女性ヒーローたちから連日届く多種多様な貢ぎ物。それを教室で遠慮なく消費し、さらに先週末には光己の我が儘に付き合って、四人でスイーツバイキングを限界まで堪能したツケを精算するため、光己は自身の個性『グリセリン』をいつもより多めに、全開でその日の実技授業で使用したばかりだった。

 

「よしっ、元通り! やっぱり私の個性、こういう時の燃費の悪さだけは本当に最高だわぁ」

 

 ニカッと笑い、一瞬で元の完璧なグラマラスボディへと戻ってみせる光己。

 しかし、そんな光己の隣では、ギャル子と普通女子の二人による、この世の終わりかのような怨嗟の声が響き渡ることになる。

 彼女たちのプロポーションは、雄英祭後のお供えのお裾分け、そしておひとり様を嫌った光己との暴飲暴食の糖分を消費する手段を持たないがゆえに、健康的に、そして極めて不名誉なほど「ムチムチ」と肉付きを良くしたままだったからだ。

 

「ズルっ!ちょっと待ってよみつき!! あんた個性多めに使って自分だけ速攻で痩せんのやめてよ!!」

 

「あはは……。ギャル子ちゃん、私はもう、スカートのチャックが半分しか上がらないよ……。みっちゃんズルいよ…一緒にバクバク食べてたのに、これじゃアタシたちだけただの食いしん坊じゃない……っ!」

 

 ギャル子が自分の胸元のパツパツさを引っ張りながら叫び、普通女子が涙目でチャックと格闘する。

 そんなお通夜のような空気のムチムチコンビの横で、自分の席の椅子の上で頭を抱え、小さな足でバタバタと地団駄を踏んで別の意味で悔しがっている女子がいた。

 控えめ女子である。

 彼女はともに食べ、光己の『ゼロカロリー理論』を信じ、バイキングでケーキを山積みにしていたにもかかわらず、なぜか一人だけ一切太ることなく、元のスレンダーな体型のままだった。

 

「なんで……なんでなのぉ……! 私はママの子供のはずなのに! ママがああやってグラマラスに美しくムチムチしてるんだから、私も同じバインバインのボディになるはずなのにぃ!!」

 

「いや、だからあんたは光己の子供じゃないし! 同い年のただの同級生だっての!」

 

 本気で悔し涙を流しながら子供っぽく地団駄を踏んで悔しがる控えめ女子に対し、ギャル子がすかさずキレのあるツッコミを叩き込む。しかし、ギャル子はすぐにニヤニヤとした最悪な悪戯っ子の笑みを浮かべると、控えめ女子の席の元へとじりじりと歩み寄り、その平坦な胸元を指差して煽り倒し始めた。

 

「っていうかさー? あんただけ一人だけペッタンコのままだよねー! ケーキあれだけ詰め込んで、まさか全部そのまま4次元にでも消えちゃったわけ? おかしいな〜? 光己ママの子供のはずなのに、なんで一ミクロンも増えてないんだろうね〜?」

 

「なっ……! ママっ!悪魔がっ、ギャル子ちゃんが私のことバカにしてくるー!!」

 

 ギャル子におちょくられ、控えめ女子は顔を真っ赤にしてキーキーと怒り狂う。そんな二人のやり取りの横で、普通女子はハッと何かに気づいたように動きを止め、隣のギャル子と顔を見合わせた。

 

 個性の無駄遣いで一瞬で痩せた光己。

 

 ケーキを無限に食べても元から一ミリも太らない控えめ女子。

 放課後の教室に取り残されたのは、衣装のチャックが上がらなくなったムチムチの二人だけ。

 

「待って……ギャル子ちゃん、アタシたち、最悪な事実に気づいちゃったかもしれない……」

 

「……うん。太らない2人とアタシら…こんなん戦争だよね……! 2対2の、全面戦争じゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 ギャル子が涙目で拳を握り、普通女子を巻き込んで太らない2人に向けて盛大に戦争を宣言する。しかし、必死に自分の身体を見つめていたギャル子が、急に何かを閃いたように狂った目を光己へと向けた。

 

「……あ、ねえみつき。あんたのアレでさ、アタシたちのお腹のなかのモンを全部…させてもらえれば……」

 

「ちょっとギャル子ちゃん、さすがにそれは恥ずかしいよぉ……!」

 

 女の子として完全に一線を越えすぎたギャル子の過激な減量提案に、普通女子が真っ赤になって涙を滲ませながら必死に止める。その悪ふざけを、光己は顔を引きつらせながら一刀両断に切り捨てた。

 

「ばっかじゃないのあんた!? 友だちに使えるわけないでしょ! バカなこと言ってないで、ダイエットメニュー組んであげるから頑張んなさいよ!」

 

 呆れ果ててピシャリと言い放つ光己。すると、それまで地団駄を踏んでいた控えめ女子が、ハッと顔を上げ、急に勝ち誇ったような生意気で子供っぽい笑みを浮かべた。彼女は椅子の上でふんぞり返ると、パツパツになっている二人を見下ろすようにしておっとりと言い放ったのだ。

 

「私とママは太らない連合だもんね。――そこのふくよかなお二人はおダイエット。頑張ってください! ね? ママ♥」

 

 その瞬間、ギャル子の顔からすべての感情が消え失せた。彼女は静かに拳を下ろすと、地の底から響くような極低音の声でポツリと呟いた。

 

「……演習場へ行こうぜ……。ひさしぶりに……きれちまったよ……」

 

 ギャル子のサラリーマン金太郎の如き静かな宣戦布告の横で、普通女子が満面の、しかし一切目が笑っていない完璧な笑顔を浮かべ、ゴゴゴと不穏な覇気を放ちながら控えめ女子を一歩一歩追い詰めていく。

 

「私たちのダイエットに、最後までしっかりと付き合ってね? ね、控えめ女子ちゃん?」

 

「ひゃあ……っ! マ、ママ助けてぇぇぇっ!!」

 

 引きつった悲鳴を上げて席を飛び出し、放課後の教室の机の間を必死に逃げ惑う控えめ女子。しかし、パツパツコンビの凄まじい肉の圧力と殺意を前に、彼女の非力な抵抗はあまりにも虚しかった。

 逃げ道を完全に塞がれた控えめ女子は、一瞬にしてギャル子と普通女子にガッチリと両脇を掴まれて身柄を拘束される。そのまま足をバタバタとさせて

 

「嫌だぁぁぁっ! 離してっ!助けてぇ!ママぁぁぁっ!!」

 

と涙目で絶叫する彼女を、二人はまるでお神輿でも担ぐかのように豪快に肩へと担ぎ上げ、そのまま教室のドアを蹴破るような勢いで、強制的に演習場へと連行していってしまったのだった。

 嵐が去ったかのように静まり返った放課後の教室。

 一瞬で痩せきった光己は一人、自分の席で優雅にお茶をすすりながら、廊下の奥へとズルズルと引きずられていく控えめ女子の後ろ姿を、他人事のように見送っていた。

 そして、遠ざかっていく三人のドタバタ劇に向けて、まるで部活動の恐ろしいシゴキを眺める大物OBのような佇まいで、ゆるく声をかけた。

 

「ほどほどにしときなさいよ〜。……うん、これもいい運動なのかな?」

 

 四人のバカバカしくも賑やかな放課後は、圧倒的肉体、ダイエット強者の光己の一人勝ちのもと、強制居残りトレーニングという形で幕を閉じるのだった。

 

 

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