雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
――雄英高校、戦闘訓練場(グラウンド・β)。
そこには、三年の『ビッグフォー』という圧倒的なビジュアルの暴力を前に、完全に脳の処理が追いついていない一年生たちが体操着姿で整列していた。
今回における装いは、先ほどの教室での制服姿から一転、『ジャージ』に着替えていた。
だが、ジャージという機能的な服装になったことで、事態はさらに恐ろしい方向へと突き抜けていた。伸縮性のある生地が、光己の尋常ではないグラマラスすぎる抜群のボディラインにこれ以上ないほどぴったりと密着し、その完成形プロポーションの肉体美を露骨なまでに強調・証明してしまっている。
「……おい、なんだよあの先輩の身体……。ジャージだと、制服以上に凶悪だろ……」
「バカ、見惚れてるんじゃない! ヒーロー科のトップに君臨する三年生だぞ。生半可な気持ちで挑んだら痛い目を見るぞ……!」
ザワつく一年生たちの前で、光己はふぅと息を吐くと、おもむろにその場にしゃがみ込んだ。 自由自在に動くため、躊躇いもなく自らの運動靴を脱ぎ、続いて白い靴下をするりと脱ぎ捨てたのである。
光己は柔らかなトーンで、一年生たちに向けて言葉をかけた。
「普段はサポートアイテムを使っているんだけど、まぁ、君らは人数多いしね!」
そう言いながら、ジャージの裾から露わになったのは、個性『グリセリン』の副作用によって完全に老化を防がれ、17歳の美少女そのものの瑞々しさを保ったままの、白く滑らかな素足だった。
戦闘前に突然始まったその艶めかしい挙動に、一年生たちの視線が文字通り釘付けになる。機能的なジャージの質感と、剥き出しになった素足の圧倒的な生々しさ。そのビジュアルの破壊力に脳を直撃された男子生徒たちの間で、ゴクリと息を呑む音が重なった。それは恐怖や畏怖を通り越し、新しい世界の扉――歪んだフェティシズムが今まさに強制開放された瞬間だった。
「……おい, 嘘だろ……。あの先輩、裸足になったぞ……」
「ジャージに素足って、なんか…こう…過密すぎるだろ……! 脳が、脳が焼かれる……!」
顔を真っ赤にする一年生たちの前に、拡声器を持った担任教師が割って入った。
「静粛に! これから三年ヒーロー科のトップ、通称『ビッグフォー』との対抗戦を行う。だが、開始前に今回限定の特殊ルールを通達する」
担任教師は、裸足のまま佇む光己を指差しながら声を響かせた。
「三年の■■の個性および戦闘スタイルは、あまりにも特殊かつ、キミ達にとってのトラウマになりかねない。よって、本日の対抗戦においては、■■の個性(ローション注入)の直接使用を全面的に『禁止』とする!」
「「「えっ!?」」」
「■■に完全に背後を取られ、その至近距離から耳元に息を吹きかけられた時点で、その者は『即座に死亡(行動不能)』扱いとしてその場で戦闘終了とする! 背後を死守しろ! 以上だ! ――位置に付け!」
担任の「後ろを取られて耳に息を吹きかけられたら終わり」という不可解な宣告に、一年生たちは首を傾げた。
「な、なんだ? 個性禁止で、耳に息を吹きかけられたら負け?」
「なんだよそれ、めちゃくちゃハンデじゃん! だったら俺たち全員で囲んで一斉に遠距離から叩き込めば、いくらプロに近い三年生でも――」
「 随分となめてくれるじゃん♥一年坊主ども♥」
その瞬間、訓練場の中央に立つ光己の脳内で、羞恥心を完全に遮断した『ギャルペルソナ』が駆動した。
ジャージに素足という姿であっても、戦闘のスイッチが入った今の彼女は完全なギャル口調である。肉食系の妖艶な眼差しを向け、ジャージの生地を限界まで押し広げる圧倒的なプロポーションを揺らしながら、小悪魔的な笑みを浮かべてステップを踏む。
「お望み通り、全員まとめてかかってきなよ! お姉さんの凄さ、身体に刻み込んであげるからさ♥」
「い、いくぞ! 囲めッ!!」
一年生が入り混じり、一斉に地面を蹴り、光己を包囲するように飛び出した。
だが、その突撃は、完璧な無意味へと帰すことになる。
光己の甘ったるい声が響いた直後、予備動作なし、かつ一切の風切り音や足音を置き去りにする隠密体術『暗殺歩法(ステルス・ステップ)』が発動した。
人間の視覚と意識の隙間を完全にすり抜け、光己の身体が正面から「掻き消える」。
「は!? 消え――」
「ふぇっ!? ひゃあッ!?」
次の瞬間には、突撃した女子生徒の真後ろ――完全な死角へと音もなく滑り込んでいた光己が、その可憐な耳元へと顔を寄せ、フゥ、と吐息を吹きかけた。
「う、後ろぉおおお!? いつ回られたんだよ!?」
フゥ、フゥ、と甘美な吐息が吹きかけられるたびに、一年生の男女が白目を剥きそうになりながら地面へとへたり込んでいく。 肉体的な殴り合いは一切発生していない。ただ、人間の知覚の盲点を突く歩法で、音もなく死角を奪われ、耳元に至近距離で息を吹きかけられて
と囁かれるビジュアルの暴力。
光己がその肉感的なプロポーションを妖艶に揺らしながら、あっという間に一年生全員の背後を制圧し終えたその時、担任教師が、全滅した生徒たちの凄惨な状況を見下ろしながら、呆れ果てた声で光己へと声をかけた。
「……おい。いくら訓練とはいえ、もう少し加減を覚えた方がいい」
担任から手加減を促された瞬間、光己の纏う空気が一変した。駆動していたギャルペルソナが解除され、普通の女子高生としての素の表情に戻る。光己は少し恥ずかしそうにポリポリと頬をかきながらも、担任教師に向けて小さく頷き、ぐっと親指を立ててみせた。その圧倒的な実力差を見せつけられ、地面に転がったままの一年生の男女が、一斉に上半身を起こして不満と疑問の声を上げる。
「強すぎっス先輩!!」
「ずるい! 私たちの動き、完全に読まれてました!」
「すり抜けるしワープみたいだし、なんなんですかあの機動力は!? どういう原理で移動してるんですか……!?」
質問攻めにする一年生たちに対し、中央に立つ光己は少し気まずそうに苦笑いをして、それから普通の女子高生らしい、等身大の真摯な口調で静かに語り出した。
「ワープっぽく見えたかもしれないけど、そんな大層なものじゃないよ。……これはね、私の『強いとは言えない個性』を、どうにかして活かせるように磨き上げた結果なの」
「強い個性じゃ……ない? 先輩の個性って、肌から保湿成分を分泌するだけの『グリセリン』ですよね……?」
一年生の一人が首を傾げると、光己は自らの剥き出しになった白く滑らかな足元を示しながら、身振り手振りを交えてそのロジックを説明し始めた。
「そうなの。私の身体能力自体は、みんなと何も変わらないただの一般女子高生並みなの。正面突破もパワー勝負も、最初から全部諦めてる。」
「裸足になったことに、意味が……?」
「私の個性で分泌されるのは、肌から出る超高純度・摩擦係数ゼロの保湿成分。つまり実質、超高性能のローションなんだよね。靴や靴下を履いたままだと、普段はサポートアイテム使ってるけどそれがなくても考え方、使い方次第ってこと。だから裸足になって、足の裏の皮膚から地面へ直接ローションを分泌させているの。これによって、足裏と床との摩擦抵抗を完全に『ゼロ』に調整して、スケートみたいに滑るように移動しているの。これが、グリセリンを使った摩擦係数ゼロの移動術」
「摩擦ゼロの移動……! だから、一切の足音も風切り音も立てずに滑り込んでこられるのか……!」
足裏から直接床へと個性を作用させるという圧倒的な説得力を前に、一年生たちが息を呑む。光己はさらに真面目な顔になって言葉を続ける。
「でもね、ただ急いで動くだけじゃ、絶対にどこかでミスをしちゃうの。摩擦係数ゼロっていうのは、一歩間違えれば自分自身が盛大にスリップして自滅、即戦闘不能になる文字通りの諸刃の剣なんだよね。これを、一般人並みの身体能力だけで完璧に制御しなければならないから。この特性で上に行くには、少しの遅れや予備動作のブレすらも、絶対に無くさなきゃいけなかった」
「そんな過酷な条件、どうやって制御してるんですか……っ!?」
「予測だよ。周囲の誰よりも早く、次に敵がどう動くかを完璧に『予測』するの。何よりも予測が必要だった。精度をさらに高めてその予測を可能にするのは、経験に裏打ちされた戦闘直感だけ。私はこれまでの数え切れない失敗と経験則から、みんなの視線の揺らぎや重心の移動を瞬時に読み切って予測を立てているの。人間の目が捉えきれない知覚の隙間を、摩擦ゼロの超高速スライドで完璧にすりぬけている。それがみんなの死角を奪う技術の結晶なんだよ」
光己は真っ直ぐな瞳で、かつて命がけでやり遂げたことと対峙した日々に思いを馳せるように、一年生たちへと真摯に語りかけた。
「長くなっちゃったけど、これが手合わせの理由だよ。言葉よりも、私のこの動きと『経験』でみんなに伝えたかったの。実戦の現場において、私たちはただの『お客さん』として守られる存在じゃない。一人の独立したヒーローとして、プロと全くの同列として扱われるんだよね。それは、とても恐ろしいことだよ。時には人間の醜い部分や、社会的・精神的な死に立ち会うことだってある。けれど、恐ろしい思いも、辛い思いも、全てが学校の安全な授業じゃ手に入らない一線級の経験。私は現場で得たその経験を力に変えて、このトップを掴んだの。ので! 恐くてもやるべきだと思うよ、一年生!!」
「先輩……!!」
熱く、重みのあるその言葉に、一年生たちはブルブルと身を震わせながら深く納得し、大いなる感動に包まれていた。
話し方もプロっぽく、凄まじい経験と予測という確かな実力。努力でトップを掴んだ人なんだという事実。一年生たちは、畏敬の念を込めて光己を見つめ、完全にその実力を認めざるを得なかった。
――しかし。
光己の真摯な解説によって、先ほどまでの「恐怖」というストッパーが完全に外れた瞬間、一年生たちの脳裏には、先ほどからずっと網膜に焼き付いていた『ジャージの伸縮性を限界突破させている三年ビッグフォー(ビッグスリー+スモールワン)の肉体美の暴力』が、凄まじい濁流となって押し寄せてきた。
対抗戦の終了後、まばらな拍手が響く訓練場の片隅で、一人の男子生徒が生唾を飲みながら熱弁を振るい始めたことで、雄英ヒーロー科の歴史に残る最悪の論争の火蓋が切って落とされた。
「……おい、分かるだろ?あの中央で無双した■■先輩こそが『至高』だろ。ジャージへの虐待は言うまでもねぇが…あのジャージ姿に素足という凶悪なギャップ、そして耳元への吐息……俺はあの人妻型こそがこの世界の真理だと確信したね!」
「正気かお前! 確かに凄かったが、俺はあの横で『あはは』って笑いながら、むしろ見ろ!と言わんばかりにジャージの胸元をを張らせているギャル子先輩こそが『究極』だと言わざるを得ない! あの圧倒的な包容力にガツンと叱られたい!」
「お前ら全員、全然分かってねえな!!」
さらに別の男子生徒が鋭い口調で怒号を浴びせる。
「ごちそうはたまにだからいいんだよ! あの、少し気まずそうにポリポリと頬をかいている■■先輩の横で、溢れんばかりのグラマラスボディを恥ずかしそうに隠そうとして隠せてない普通女子先輩こそが、実家のような安心感と背徳感を両立させている終着点だろ!!」
「いや、あんたたち全員、一回眼科に行った方がいいよ」
一年生の女子生徒が、冷ややかで呆れ果てた冷徹な声で言い放った。
彼女の指差す先には、謎に満ちた三年ビッグフォーの一角に君臨しながらも、ただ一人だけ身長もジャージの胸元も完全に成長がストップしており、周囲の圧倒的な肉体美の暴力の影に隠れるように佇んでいる控えめ女子の姿。一年生の間で、早くも影で『スモールワン』と称され始めている少女である。
「見なよ、あの『スモールワン』の儚さを。周りの三人がジャージの伸縮性をこれでもかと証明するカンスト級のプロポーションだからこそ、あの発育のよろしくない、一人だけ小学生が混ざっているかのような圧倒的妹ポジションが五臓六腑に染み渡るの。『異端』の輝きを放つ、控えめ女子先輩に決まってるでしょ!!」
「おい、お前女子なのにそっちの気があるのか、っていうか完全に異端枠じゃねえか!!」
全滅したはずの一年生たちが、今や男女の枠を超えてそれぞれの「派閥(宗教)」を掲げ、互いの胸ぐらを掴みかねない勢いで大激論を開始した。その歪んだ熱狂と論争の熱量は、のちの地下組織『性癖解放戦線』の巨大な苗床が、今まさにこの訓練場で完璧に耕されたことを証明していた。
そんな一年生たちの醜い醜聞と大激論の声を、ゆっくりと歩き出して並んでいたビッグフォーの面々は、バッチリと耳に届かせていた。
「怪我させるかと思ってハラハラしてたけど、でも、光己のあのコントロールのおかげで全員ケガなしで終わって、アタシ今、本当に凄ぇなって思った!」
「そうだね。私たちがお客さん気分でいた職場体験の時は、危ないことはさせないように周囲がハラハラしてた感じだったけど、私たちでもできたんだからあのコ達も大丈夫だよね」
「うんっ!ママは本当に凄いんだから。……ねえ、誰か面白い子いた!?」
「うーん……誰が面白い子は分からないけど。……面白いことにはなってるみたい『スモールワン』だの『異端派』だの言って、男の子も女の子も大騒ぎしてるよ? 」
「あはは! 確かに! あの呼び名といい異端扱いといい、マジで大正解って感じじゃん!」
「ちょっと、あのガキども何言ってるのよ!! 誰が異端よ! 誰が小学生よ!! アイツらぁ!! 思ってることが顔にも口にも出過ぎなんだよぉぉっ!!!!!」
ビキ、と青筋を立てた控えめ女子は、自分の小柄な体型を品評され、大論争を繰り広げている一年生たちの方向を振り返ると、繋いでいた手をブンブンと振り回しながら、訓練場が震えるほどの絶交の叫びを上げた。
「先輩に向かって異端だのスモールだの何よ! 私はママの次に偉いポジションなんだからね! 男も女もまとめて時津風部屋風にかわいがってやろうか……!」
二人に挟まれた控えめ女子は、小声でブツブツと呪詛を呟きながら、前を歩く光己の背中を追いかけてトテトテと歩いていく。
その背後では
「いや、至高はママ型だ!」
「究極のギャル子先輩だ!」
「普通女子先輩こそ実家!帰り着く場所!」
「いいやスモールワンの異端派だ!」
という一年生たちの声がグラウンドに虚しく響き渡っていた。
あとで光己の戦闘中のセリフはいじるかも。