雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
秋晴れの澄み切った空の下、雄英高校の屋外特設ステージ周辺は、お祭り騒ぎの熱気と異様な緊張感に包まれていた。
あの戦闘訓練を経て、学内の男子生徒たちの間には
「至高のママたる光己派」
「キラーコンテンツたるギャル子派」
「実家のような安心感の普通女子派」
の3大派閥が乱立し、さらに過激な
「異端のスモールワン派」
が誕生していた。危うい均衡を保ったまま日々は過ぎ、ついに迎えた『雄英祭』。今まさに、その頂点を決めるミスコンが始まろうとしていた。
ステージ脇の賑やかな人込みのなかで、ギャル子と普通女子の二人は、集まってきた後輩たちに囲まれていた。
「先輩たちはミスコンには出ないんですか!?」
「そうですよ! ギャル子先輩も普通女子先輩も、今からでもエントリーしてください!」
無邪気な後輩たちの声に、ギャル子は笑う。
「アタシらが出たら他の子の引き立て役になっちゃうじゃん? 今日は大本命の応援に回るって決めてんの!」
「そうそう。私たちはただの付き添いだからね」
普通女子も少し気まずそうに身体を揺らしながら苦笑いした。そんな二人のやり取りの最中、大通りから地鳴りのような足音と、おどろおどろしい掛け声が近づいてきた。
「「「スモールワン! スモールワン! 異端の光を、今ここに――!!」」」
一年生たちが一斉に道を開ける。現れたのは、地下組織『性癖解放戦線』の漢たちと、狂信的なスモールワン派の女子比率多めの生徒たちだった。彼らはなんと、巨大な「輿(神輿)」を担ぎ上げていた。
その輿の頂点にちょこんと座っているのは、三年ビッグフォー(ビッグスリー+スモールワン)の一人でありながら、ジャージの胸元も身長も完全に成長の波に置き去りにされた少女――控えめ女子だった。
「よし、者ども! 今から聖母光己ママがステージに降臨される。私たちはその露払いとして、最前列を完璧に死守する!」
輿の上から、手をブンブンと振り回しながら堂々と発破をかける控えめ女子の姿。その様子をステージ脇から呆然と目撃していたギャル子は、遠い目をしてぽつりと呟いた。
「アイツは……遠いところに行っちまったんだな……」
その言葉に、隣にいた普通女子も深く深く同意するように小さく息を吐き出す。
「うん……もうみっちゃんも諦めてるもんね……」
二人の憐れみに満ちた視線など露知らず、担ぎ手たちの瞳には一片の迷いもなかった。
「先輩! 貴女こそが、持たざるものの希望!唯一無二の輝きを放つ異端の象徴です! さあ、ミスコンのステージ前へ!!」
圧倒的な熱量で輿がステージ最前列へと滑り込み、他派閥の連中と一触即発の睨み合いを形成する。全派閥の漢たちが固唾を呑んでステージを見つめるなか、爆音のファンファーレとともに、ついにミスコンの幕が上がった。
司会のアナウンスとともに、ステージ中央の幕が左右に開く。 そこに姿を現した光己のビジュアルを見た瞬間、屋外グラウンドの全生徒の呼吸が、同時に止まった。
そこにいたのは、いつもの魔改造されたギャル仕様のへそ出しミニスカセーラー服ではない。 超常黎明期――個性が発現する以前の遥か昔のフィクションに登場する、伝説の変身美少女アニメ『セーラー〇ーン』のコスチュームを完璧に再現した、永遠の17歳の姿だった。白を基調としたセーラーレオタード、胸元と腰の後ろで鮮やかに躍る巨大な真っ赤なリボン、そしてグラマラスすぎる太ももを包み込む真っ赤なロングブーツ。さらに、ジャージの戦闘訓練の時に彼らの脳を深く焼いた、あの美少女そのものの滑らかな「素足」が、レオタードのハイレグな衣装ラインによってこれ以上ないほど露骨に、生々しく露出していた。光己は小悪魔的なウィンクを飛ばし、豊満なプロポーションを妖艶に揺らしながら、必殺のボイスを屋外の空気に響かせる。
「あは♥ みんな、文化祭楽しんでるぅ? 愛と正義の、永遠の17歳ヒーロー♥ ミッキーが、月に代わってお仕置きしちゃうぞ♥」
その瞬間、客席の前列を陣取っていた一年生たちの間で、言語を絶した狂気的な衝撃が走った。彼らが抱いていた「ギャル子派」としての熱情も、「普通女子派」としての信仰も、その破壊力の前に、より上位の性癖としての『上書き』が強制執行された。
「……おい、嘘だろ……。あの、年上のお姉さんが……明らかに無理をしてコスプレをしてるの……最高すぎないか……?」
「分かる、分かるぞ……! あの抜群のボディラインで、昔のフィクションのハイレグ衣装を着こなして、しかも大真面目に演じているあの倒錯感……! これこそ至高!!」
「お……お仕置き……!」
一人の男子生徒が恍惚とした表情で涙を流し、その場へ崩れ落ちる。それを引き金にするかのように、周囲の漢たちも涙を浮かべながら新しい世界の扉へと強制突入していった。全派閥の漢たちの「癖(へき)」がまとめて最新の狂気によって上書きされ、屋外ステージ前は恍惚とした絶叫と嗚咽で埋め尽くされた。圧倒的なビジュアルの暴力により、光己のミスコン三連覇がその瞬間に確定した。
興奮冷めやらぬミスコンの終了後、夕暮れに染まるステージの裏手。全派閥の漢たちの頂点に君臨し、地下組織を統率してきた『性癖解放戦線』の幹部の男子生徒が、輿から降りた控えめ女子の前に整列していた。控えめ女子は、夕日を背に浴びながら、真剣な眼差しで直立不動の彼らを見据えた。その姿は、まるで一つの時代を終わらせようとする偉大なリーダーのようだった。
「……お前たち、よくここまで私を担ぎ上げてくれた。位置を確保してくれたお陰でママの最高のステージが見られたよ。でもね、私たちの戦いはここまでだ。……最後に聞かせろ。お前らの本当の『夢』は何だ!」
控えめ女子の鋭い問いかけに、夕焼けに照らされた幹部3人は、涙をボロボロと流しながら、順番に魂の絶叫を響かせた。
幹部A「俺は……っ! 年上の、セーラー服の似合うお姉さんをお嫁さんにしたいです!」
幹部B「僕は……! 大人びたお姉さんに、ギャル口調で叱られる家庭を築きたいです!」
幹部C「俺だって……! 実家のような安心感のあるお姉さんが、『おかえりなさい』って言ってくれる未来を掴みたいですっ!」
それぞれの胸に宿る純粋で歪みない本音の叫びを聞き、控えめ女子は深く、深く頷いた。底知れぬ感動とともに、溢れ出る涙をジャージの袖で拭うこともせず、かつて名作フィクションで仲間との別れを告げたあの名言を、自らの言葉に変えて叫んだ。
「いいか、お前たち……! どんなにつらい泥の道を歩もうとも! お前らの胸のなかの、その歪んだ性癖(野望)の火を絶やすな!!」
控えめ女子は一息つくと、涙を流す彼らを真っ直ぐに見つめ、さらにオリジナルへ寄せた熱い言葉を重ねた。
「お前らがそれぞれ譲れない夢を叶えるために! ……今日をもって、性癖解放戦線を解散とする!!」
「「「うわぁぁぁあああああん!!!」」」
夕日に染まるグラウンドの裏手で、漢たちの号泣が響き渡る。
こうして、雄英高校の地下を揺るがした一大組織は、個々の胸に譲れない歪んだ夢を抱いたまま、美しくも狂気的な大団円を迎えるのだった。
だが、この日を境に、雄英の男子生徒たちの脳内には消えない楔が打ち込まれていた。光己の三連覇という圧倒的な偉業、そしてこの『性癖解放戦線』の解散は、終わりの始まりに過ぎなかった。
彼ら現雄英生男子の歪んだ信仰、そしてその凄まじい熱気の影響をダイレクトに受けた下の世代の少年たちまでもが、こぞって「年上のお姉さんヒーロー」に熱狂し始めるという、未曾有の現象を引き起こすことになる。
未婚の年上女性ヒーローたちのもとへ、全国から狂信的なアプローチが殺到。業界の歴史上、類を見ないほどの凄まじい「大モテ期」が唐突に到来し、世のベテラン女性ヒーローたちが「なぜか急に若い男の子たちからの支持が…!私の時代が来た…!」と喜ぶ未来が、やってくる。
男たちは癖を満たしてくれるものを目指し、年上女性を追い続ける。世はまさに、大お姉さん時代!
ありったけの!