雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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スタートライン

――雄英高校 春

 校歌の斉唱が終わり、三年生が順番に壇上へと上がっていく。パイプ椅子に座る下級生たちの視線は、ブレザーの胸元をパツパツに張らせた光己、ギャル子、普通女子へと完全に釘付けになっていた。

 卒業証書の授与が進み、ついに光己の名前が呼び上げられる。 名前を呼ばれた光己が壇上へ進み、卒業証書を受け取る。

 受け取った証書を片手に持ち、在校生席の下級生たちに向けてひらひらと優しく手を振ってみせた、その瞬間。

 

「「「おおおおおーーーーーーーーっっっ!!!!!」」」

 

 下級生たちの席のダムが決壊した。

 

「卒業しないでくれぇぇ!!」

 

「今日を限りにあの美しい制服姿が見られなくなるなんて!!」

 

「先輩方の存在そのものが俺たちの青春の全てだったんだァァァ!!」

 

 下級生たちは涙ながらに個性を暴走させ、体育館は一瞬にして入り乱れる大乱闘のへとなった。

 そこへ、文化祭で解散したはずのスモールワン派の連中が、輿を引っ提げて乱入してくる。彼らは壇上の脇にいた控えめ女子を、力ずくで輿の上へと担ぎ上げた。

 

「ちょっとおおう!? 何よコレは!! 解散したでしょ!? 式典の最中よ、降ろしなさいってば!! 厳粛な雰囲気が台無しじゃないの!!」

 

「先輩!! 俺たちがそれぞれ譲れない夢を叶えるために、この貴女を最後まで担ぎ続けると決めたんです!!」

 

 青筋を立てて抗議する控えめ女子と、それを涙ながらに担いで突き進む下級生。個性の爆風が吹き荒れる中、根津校長は

 

「うん、これを来年からの『ド派手な伝統』ということにしよう」

 

と笑顔で決断を下していた。

 

 ――同日、誰もいなくなった教室。

 

「はぁ……本当に最後までめちゃくちゃな学校だったよね。みんな、怪我とかなかった?」

 

「アタシは全然平気! むしろあの下級生どもの熱気、マジでウケるじゃん。でもさ、ついに卒業しちゃったね、アタシたち」

 

 ギャル子が寂しそうな笑みを浮かべて光己の手を握る。その横で、普通女子も穏やかに微笑んだ。

 

「そうだね。明日からはもう、ここに集まることもないんだもんね。……あ、そういえば、二人とも卒業後の進路、結局どこの事務所に行くか決まったの?」

 

「アタシはさ、繁華街中心に手広くやってる中堅の事務所にサイドキックで内定もらったよ!」

 

「私はその少し隣の、住宅街のパトロールが多い地域密着型の事務所に決まったんだ。みっちゃんは……やっぱり、あのインターン先でお世話になったプロのところに行くの?」

 

「うん。それまでのサイドキックが独立したらしくてさ。私はあのプロ事務所で、新しいサイドキックとしてスタートするよ。私の制圧方法はちょっと特殊だし、強い個性じゃなくたって、大切な人たちを守るヒーローになりたいからね」

 

 その時、ツカツカと小さな足音が近づいてきた。控えめ女子が、寂しそうな顔で光己のブレザーの裾をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で見上げてきた。

 

「……ママぁ、私を置いて勝手に進路の話を終わらせないでよぉ」

 

「あれ? そういえば、あんたの進路はどこになったの?」

 

「……決まってるよ。私はママと離れるのなんて絶対イヤだもん。だから、そのママのプロ事務所にすっごく近い、すぐ隣のブロックにある事務所にサイドキックとして就職を決めてきちゃった」

 

「えっ!? あんた、あそこの目と鼻の先についてくるの?」

 

「当然だよぉ。チームアップがあるかもしれないし、油断させるための『親子連れ』のセッティングが必要かもしれないでしょ。ママがパトロールに出たら、私がすぐ合流してママの子供の役を完璧に演じて、現場でたっくさんママに甘えまくるんだから」

 

「いや、パトロールの体をいいことに、あんたが合法的に甘えたいだけじゃないの……? っていうか、私のコスみて親だって思うやつがいるかっ!」

 

 「ギャル仕様だもんな! ……いや、でも光己のそのドスケベボディ見たら、ワンチャン親だって思うかも……」

 

「ちょっとギャル子ちゃん、それなら横にこのスモールワンが並んでたら?」

 

「コイツがママって言ってたら混乱して頭バグるからアリじゃね?」 

 

「もう、二人とも私のことオチに使うのやめてよぉ!」

 

 光己のツッコミから始まった、いつも通りの賑やかな掛け合いに、四人は顔を見合わせて大爆笑した。

 

 悪党たちが、色々と勘違いして自滅していく未来が目に見えるようだった。

 もう来ることのない校舎、それぞれの譲れない夢と歪まぬ信念を胸に抱き、四人はこれからのプロとしての未来へ向けて、確かに一歩を踏み出すのだった。

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