雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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爆豪勝己の籠手:ORIGIN

 リカバリーガールに「医療テロの才能」を見出され、隠密ヒーローから「知覚の暗殺歩法」を叩き込まれた翌週。

 ■■ 光己(みつき)は、紹介された雄英高校・サポート科の広大な開発工房の前に立っていた。

 工房内には激しい火花が飛び散り、機械の金属的な駆動音と、ツンと鼻を突くオイルの匂いが立ち込めている。その騒音の奥から、リカバリーガールに手配されたサポート科の熱血生徒が、怪しいゴーグルを火花でぎらつかせながら、ぶ厚いノートパソコンを抱えて現れた。

 

「待っていたよ、ヒーロー科の■■さん! リカバリーガール先生から話はすべて聞いている! 君の特殊すぎる戦術思想に合わせ、君の華奢な指をあらゆる衝撃から守り抜く『一撃必殺の制圧グローブ』の基本設計はすでに完了している!」

 

「あ、ありがとう……。なんか大ごとになってて、凄く申し訳ないんだけど……」

 

 みっちゃんは恥ずかしさで顔を赤くしながら、差し出されたホログラムの設計図を恐る恐る覗き込んだ。そこには、人間の手の骨格に合わせた複雑なサーボモーターや、鈍く光る特殊チタン合金のフレームが緻密に描かれていた。一見すると、最先端のパワーアシストガントレットだ。

 

「凄い……めちゃくちゃメカメカしくて強そう。これなら、ヴィランの硬いコスチュームや、プロテクターの上から殴り合っても指が折れたりしないね!」

 

「殴り合う? ははは、何を言っているんだい■■さん」

 

 サポート科の生徒はフッと不敵な笑みを浮かべ、設計図の「人差し指と中指」の部分、そして【両腕の肘から手首にかけて配置された、不自然に巨大なドラム型のタンク構造】をトントンと指差した。

 

「君の身体能力はあくまで常人。正面からの打撃など、君の細い手首が先に砕ける。だからこの合金フレームは『殴るため』のものではない。突いた瞬間の凄まじい反動(リアクションフォース)を、手首から肘へとすべて受け流し、君の指先を完全に保護するための『支持構造(ステー)』さ!」

 

「支持……構造?」

 

「そう! 摩擦係数ゼロになった君の指先を、いかなる強固な防護服の隙間にも、肉体の抵抗に弾かれることなく超高速で『滑り込ませる』ための流体力学デザイン! そして、この両腕のゴツいドラムタンクが何だか解るかい?」

 

「え? ……わかんない。重そうだけど」

 

「これはね、君が肌から分泌する『超高純度グリセリン』を、戦闘中に自動で吸引・貯留しておくための内蔵型ストックタンクさ! 君の個性はパニックになるとドバッと出る性質がある。それを無駄なくこの両腕に溜め込み、指を奥まで突き刺したその瞬間に、タンク内の潤滑液を高圧ピストンで一気に深部へ強制噴射する!!」

 

 サポート科の生徒は、大真面目な、非の打ち所がない技術者の顔で熱弁を振るう。

 みっちゃんはゴクリと唾を飲み込んだ。工房の熱気のせいだけではない、脇から冷たい汗が吹き出してくる。

 

「要するに……これって……」

 

「そうだ! 君がどんなに強固な装甲を持ったヴィランに出会おうとも、確実に、音もなく、その背後から『最悪の一撃(カンチョー)』を深々と叩き込むためだけの、尊厳破壊特化型ガントレット『ディープ・グライド・プロトタイプ』さ!!」

 

「やっぱりカンチョー専用の手袋じゃんーーー!!! 機能美の方向性が最悪だよ!!」

 

 みっちゃんの絶叫が開発工房に虚しく響き渡る。

 

 だが、この時みっちゃんが装着した【両腕に巨大な分泌物貯留タンクを構えた、あまりにも不骨でマッシブなシルエット】は――のちに彼女の血を引く息子、爆豪勝己が雄英高校に入学した際、自身の『ニトロの汗』を溜めて大爆発を起こすために装備する【グレネード型の籠手】と、シルエットレベルで驚くほど酷似していた。

 

 のちにプロデビュー直後にチャート4位に爆発的な勢いで登り詰めながらも、その凶暴な口の悪さが災いして15位まで急降下(4↘15)することになる爆豪勝己。その彼が装備する、誰もが憧れる最高にカッコいいミリタリーコスチュームのルーツが、まさか「母親が女子高生時代にケツを突いて個性を高圧注入するためだけに作られたバイオ籠手」だとは、現代の誰も知る由はない。

 

 しかし、どれだけ恥ずかしくても、実戦訓練の手を緩めるわけにはいかなかった。みっちゃんは涙目でその物々しい黒いグローブを装着し、用意された木製のダミー人形に向かって、特訓で磨き上げた「暗殺歩法」を開始した。

 

「よし、テストだ! 行くぞ■■さん!」

 

 サポート科の生徒の合図とともに、みっちゃんは静かに構えを解いた。

 教えてもらった通り、無駄な予備動作(ノーモーション)を徹底的に削ぎ落とす。自身の呼吸を工房の機械音と同調させ、周囲の景色に溶け込むように、一歩、足を踏み出した。

 次の瞬間、みっちゃんの姿が前方から掻き消える。

 音もなく、風も起こさず、まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、みっちゃんはダミー人形の真後ろへと滑り込んでいた。

 

(狙うは……お尻のバツマーク……ッ!)

 

 恥ずかしさを怒りに変え、チタン合金で補強された二本の指先を、ダミー人形の背面へと突き刺す。

 

――ガシィィィン!!!

 

 重厚な金属音が響くと同時に、両腕のドラムタンクからグリセリンが吸い上げられ、内蔵ピストンが「プシューッ!」と凄まじい音を立てて高圧駆動した。もしこれが実戦なら、超高純度グリセリンが相手の最深部へとマッハの速度で強制注入され、その場で世界が終わっていたであろう破壊力だ。

 

「素晴らしい! 完璧だ! 人形のフレームに一切の歪みを出さずに、推進力だけが中心点へ突き抜けた! これならどれだけ骨格の硬い硬化系の個性持ちが相手でも、肉体を貫通して中身(直腸)を捉えられるぞ!」

 

サポート科の生徒が狂喜乱舞しながらデータを計測する。みっちゃんも、グローブから伝わる圧倒的な手応えに、息を荒くしながら自身の拳を見つめた。

 

「凄い……。指が、全然痛くない。これなら、私でも戦える……!」

 

 常人である自分が、この理不尽な超人社会で生き残るための、確かな武器。恥ずかしさは限界突破しているが、自分の選択が間違っていなかったという実感が、みっちゃんの胸を満たしていった。

 ――だが、その感動は、わずか数秒後に打ち砕かれることになる。

 

「よし、制圧完了だ。それじゃあ■■さん、次のダミー人形で第二波のテストを行うから、そのまま位置についてくれ」

 

「うん、わかった。……って、ちょっと待って」

 

 次の人形へ向かおうとしたみっちゃんが、ふと、自分のグローブの指先を見てピキリと硬直した。

 チタン合金でコーティングされた漆黒の指先。そこには、ダミー人形の表面に塗られていた潤滑油や、木屑がベッタリと付着していた。

 みっちゃんは、その汚れをじっと見つめ、脳内で「実戦の絵面」をシミュレーションした。

 

 ――実戦での攻撃対象は、ヴィランのお尻(直腸)。

 

 ――解剖学的に、極めて不潔な場所。

 

 ――そして、このグローブは、両腕のタンクと一体化した固定装備。

 

 ――つまり、1人目のヴィランを制圧したあと、その指先には……。

 

「……ねえ」

 

「なんだい、■■さん?」

 

「これ、1人目のヴィランをこれで倒したあとさ……そのままのグローブで、2人目のヴィランに突撃するの?」

 

「もちろんだよ! このチタンフレームの耐久性なら、連続で50人は余裕で貫通できる計算さ!」

 

「そういう耐久性の話をしてるんじゃないわよバカじゃないのーーー!!!」

 

 みっちゃんは道場が震えるほどの叫び声をあげ、サポート科の生徒の胸ぐら(ゴーグル)を掴んで前後に激しく揺さぶった。

 

「衛生面を考えなさいよ衛生面を!! 敵の、その、最深部の粘膜に直接触れるのよ!? 1人目を突いたあとの、あの……その、ヌルヌルで汚れた指先のままで、別のヴィランのケツに使い回すとか、人道的にも衛生の概念前にも絶対にありえないからね! 装備しっぱなしなんて最悪のバイオハザードでしょーが!! 何より、そんなの私が精神的に耐えられないってのーーー!!!」

 

「あ……」

 

 サポート科の生徒の動きがピタリと止まった。ゴーグルの奥の目が、点になる。

戦闘スペックや攻撃力、タンク容量の計算ばかりに脳の容量を割いていた天才メカニックの頭に、生まれて初めて「うぶな女子高生のメンタル」と「衛生」という概念が同時に突き刺さった瞬間だった。

 

「なるほど……盲点だった……! 敵の直腸粘膜に直接触れる以上、感染症のリスクや、純粋な不潔さは完全に排除しなければならない。ヒーローが現場で病原体を媒介するなど、あってはならないな……!」

 

「気づくのが遅いわよ!! ヒーローとしての最低限の品厳が崩壊するでしょ!!」

 

「しかし困ったな……。このディープ・グライドは、高圧ピストンと合金フレームをミリ単位で噛み合わせた精密機械だ。1回使うごとにグローブ丸ごと破棄してたら、被覆控除なんていくらあっても足りないな……」

 

サポート科の生徒は頭を抱え、ノートパソコンのキーボードを激しく叩きながら唸り始めた。

戦闘力は最強。しかし、運用面において「不潔すぎて乙女が死ぬ」という最悪のバグ。

 

「う、嘘でしょ……じゃあ私のこの恥ずかしい訓練は、ただの使い捨てられないバイオ手袋のせいでボツになるの……!?」

 

 ガタガタと崩れ落ち、床に両手をついて絶望するみっちゃん。

そんな2人の様子を、工房の片隅にあるパイプ椅子に腰掛け、医療アドバイザー兼監修として最初から訓練の進捗を見守っていたリカバリーガールが、フッと不敵な笑みを浮かべて飴玉を口に放り込んだ。

 

「おいおい、そんなことで諦めるんじゃないよ、若者たち。学校の予算と技術だけで無理ならねぇ……世の中には、それを専門に扱っている『大人のプロフェッショナル』がいるのさ」

 

「え……? リカバリー先生、プロフェッショナルって……?」

 

涙目で顔をあげるみっちゃんに、リカバリーガールは白衣のポケットから、とある「民間企業」への紹介状をひらひらと見せつけるのだった。

 

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